私の 辛かった気持ちもわかってよー
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6-5
冬休みに入って直ぐ、クリスマスの日。夜に1組4人の予約のお客様があると言っていた。私は、朝から準備をして、そのまま午前中は練習で、帰って来て夜も厨房に入っていたのだが、夜6時ごろ来店されて、私はいつものようにウチのお店では先付からお出しするので、奥の厨房でその盛り付けから始めていた。
初めて来られた家族連れみたいで、ご両親と大学生らしい息子、娘らしい。
「テンマ ビールにしようか 瓶ビールを1本 グラスは3ツ 璃々香はどうする?」
私は一瞬 手が止まっていた。
「私 温かいお茶で」と、間違いない あの声 あの人だ。練習で会った時はそんなこと何にも言って無かった。のれんの隙間から覗いてみると、あのお兄ちゃんと言っていた人の隣に座って銀色に輝く髪留め、濃いロイヤルブルーのワンピースの端正な姿。間違いなかった。
なんでえー ウチの実家やってことわかっててきたのー 椀物を入れていたのだけど、手が止まっていて、健也さんから、「ホイ!」と、お尻をポンとされていた。
「テンマ そろそろ 就活なんだろ?」
「ええ 中には、早々と内々定をもらってるって奴もいるけど、僕は公務員志望だから試験は来年の夏頃かなー 市役所でも・・ 宮津辺りがいいなぁー 海も近いし、ゆったり過ごせそうだし」
「うーん 気楽なもんだなぁー 家を出るのかー お母さんが寂しがるぞー まぁ男だしな しょうがないか 璃々香はそのまま大学に進むんだろぅ?」
「ええ 私 子供達のスポーツ医学 勉強したいから 今のまま エスカレーターでと思ってるワ」
その後、バイトの静香さんが、日本酒の用意をしていた。
「そうか 璃々香の誕生日なんだから この後 プレゼントにネックレスでも 買いに行くか? それとも、ネックレスは彼氏からのものがいいか?」
「お父さん 私 彼氏居ません テニスが恋人」
「そりゃー 良かった! テニスは続けるのか?」
「もちろん 来年 最後のインターハイあるけど なんか 不完全燃焼で終わりそうだし 衣笠響さんに勝てるかどうかわかんないものー」
「この前 勝ったじゃあないか」
「あれは すばらしい相方が居たからよ 1年生なんだけどね 私が無理やりペァを組ませて・・ その子はね 打てば響くというか 私が無理言ってもね 必ず 応えてくれるの 普段 私 こんな性格でしょ 素直に言えなくて、冷たくなってしまってね 本人の眼の前では言えないんだけど すごーく 好きなの その子のこと こんな妹居たらいいなぁーって 言いたいのよ」
「あの魔球サーブの子のことか?」と、お兄さんも私のことだとわかってるんだ。
「そうよ 私 この半年しか組めなかったけど・・ もっととー 大学でも、一緒に組めないかなーなんて思ってしまうの」
「そうか 璃々香は春先には、コーチはあんまり教えてくれないし、先輩はヘタクソばっかりで、ましなのは織部さんしか居なくて もう辞めたいとか言ってたのになー 璃々香に火をつけてしまったのか?」
「そうねえー あの子 見たときから・・くすぶっていたのかもネ だから、音女に来たとわかってからー でも、お兄ちゃんもあの子のこと気になってるんでシヨ!」
「バカ からかうなよ ただ 璃々香の相棒だろうからー」
先輩 そんなにまで私のことを・・・やっぱり あの、和歌山での優しい先輩だったんだ。私 涙が出てきていたみたい。健也さんがティッシュの箱を渡してきてくれていた。すぐにでも、先輩のもとに駆け寄りたかったけど、次のお料理を盛り付けながら、先輩に美味しいお料理を食べてもらって喜んでもらおうと思っていた。
そして、健也さんが「親方が デザートを山葵に任したと言ってますよ」と
私は、白桃のシャーベツトを四角く平らにして、隅にフレツシュミルクでラインを引いて、その手前にブラックビートを皮をむいて、その横にミントを添えた。「わかってくれるカナー テニスを表現したかったんだけど・・」 親方はそれを見て、ムッとしてたみたいだけど、何にも言わないで、静香さんにお出しするように指示していた。
そのデザートを食べた後、璃々香さんは最後に
「聞いてたら 言いたいワ 私は、あなたとテニスしている時が一番楽しいのよって」
「とても 美味しかったです ありがとうございました」と、帰るときに言っている時、横から「デザートも楽しかったです」と璃々香さんが付け加えていた。
わかってくれたんだ。私のテニスコートのイメージ。みんなが帰った後、私は我慢出来なくて大泣きしてしまっていた。知ってたんだ、ウチの実家だってこと、そして、ウチが裏に居ることも・・。
璃々香先輩 私 ずーと 先輩の後ろ 追いかけて行きます と、誓っていた。
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