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【眼帯】の錬成師

作者:パスコ
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第五話(ステータスプレート)

 
前書き
ステータスの表示がクラスメイトたちと異なるのは亜人種(怪人)の喰種(赫子)と平行世界の人間の魂の情報・能力が『ありふれた職業で世界最強』時空の人間に丸ごと宿ったのが原因です。固有技能(ユニークスキル)は天職と技能が融合した感じです。 

 
戦争参加の決意をした以上、ハジメ達は戦いの術を学ばなければならない。


いくら規格外の力を潜在的に持っていると言っても、元は平和主義にどっぷり浸かりきった日本の高校生だ。いきなり魔物や魔人と戦うなど不可能である。



 しかし、その辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。



 王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神――創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国ということだ。国の背後に教会があるのだからその繋がりの強さが分かるだろう。



 ハジメ達は聖教教会の正面門にやって来た。下山しハイリヒ王国に行くためだ。



 聖教教会は【神山】の頂上にあるらしく、凱旋門がいせんもんもかくやという荘厳そうごんな門を潜るとそこには雲海が広がっていた。



 高山特有の息苦しさなど感じていなかったので、高山にあるとは気がつかなかった。おそらく魔法で生活環境を整えているのだろう。



 ハジメ達は、太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見蕩れた。



 どこか自慢気なイシュタルに促されて先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。



 台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが何やら唱えだした。



「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」



 その途端、足元の魔法陣が燦然さんぜんと輝き出した。そして、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上へ向けて斜めに下っていく。



 どうやら、先ほどの〝詠唱〟で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。この台座は正しくロープウェイなのだろう。ある意味、初めて見る〝魔法〟に生徒達がキャッキャッと騒ぎ出す。雲海に突入する頃には大騒ぎだ。



 やがて、雲海を抜け地上が見えてきた。眼下には大きな町、否、国が見える。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。



 ハジメは、皮肉げに素晴らしい演出だと笑った。雲海を抜け天より降りたる〝神の使徒〟という構図そのままである。ハジメ達のことだけでなく、聖教信者が教会関係者を神聖視するのも無理はない。



 ハジメはなんとなしに戦前の日本を思い出した。政治と宗教が密接に結びついていた時代のことだ。それが後に様々な悲劇をもたらした。だが、この世界はもっと歪かもしれない。なにせ、この世界には異世界に干渉できるほどの力をもった超常の存在が実在しており、文字通り〝神の意思〟を中心に世界は回っているからだ。



 自分達の帰還の可能性と同じく、世界の行く末は神の胸三寸なのである。徐々に鮮明になってきた王都を見下ろしながら、ハジメは言い知れぬ不安が胸に渦巻くのを必死に押し殺した。そして、とにかくできることをやっていくしかないと拳を握り締め気合を入れ直すのだった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~





 王宮に着くと、ハジメ達は真っ直ぐに玉座の間に案内された。



 教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。ハジメ達が何者か、ある程度知っているようだ。



 ハジメは居心地が悪そうに、最後尾をこそこそと付いていった。



 美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。



 イシュタルは、それが当然というように悠々ゆうゆうと扉を通る。光輝等一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。



 扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢ごうしゃな椅子――玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって・・・・・・待っている。



 その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。



 玉座の手前に着くと、イシュタルはハジメ達をそこに止め置き、自分は国王の隣へと進んだ。



 そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら、教皇の方が立場は上のようだ。これで、国を動かすのが〝神〟であることが確定だな、とハジメは内心で溜息を吐く。



 そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。



 後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。ちなみに、途中、美少年の目が香織に吸い寄せられるようにチラチラ見ていたことから香織の魅力は異世界でも通用するようである。



 その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりしたが非常に美味だった。



 ランデル殿下がしきりに香織に話しかけていたのをクラスの男子がやきもきしながら見ているという状況もあった。



 ハジメとしては、もしや矛先が殿下に向くのではと、ちょっと期待したりした。といっても、十歳では無理だろうが……



 王宮では、ハジメ達の衣食住が保障されている旨と訓練における教官達の紹介もなされた。教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようだ。いずれ来る戦争に備え親睦を深めておけということだろう。



 晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。天蓋てんがい付きベッドに愕然がくぜんとしたのはハジメだけではないはずだ。ハジメは、豪奢な部屋にイマイチ落ち着かない気持ちになりながら、それでも怒涛の一日に張り詰めていたものが溶けていくのを感じ、ベッドにダイブすると共にその意識を落とした。





~~~~~~~~~~~~~~~~~





 翌日から早速訓練と座学が始まった。



 まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。



 騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思ったハジメだったが、対外的にも対内的にも〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。



 メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろう。もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないが……



「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」



 非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落ごうほうらいらくな性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだ。



 ハジメ達もその方が気楽で良かった。遥はるか年上の人達から慇懃いんぎんな態度を取られると居心地が悪くてしょうがないのだ。



「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」



 アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。



「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属けんぞく達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」



 なるほど、と頷き生徒達は、顔を顰しかめながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。ハジメも同じように血を擦りつけ表を見る。



 すると……



===============================


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1


天職:錬成師


筋力:10000


赫子:10000


体力:10000


耐性:10000


敏捷:10000


魔力:10


魔耐:10000


技能(スキル)

錬成[+理解][+分解][+再構築]・集中・渾身(フルパワー)・言語理解[+完全記憶][+言語読解(リードランゲージ)][+高水準言語][+低水準言語][+暗号理解][+暗号読解][+読心術][+心理把握][+速読][+瞬読][+先読][+投影][+心理掌握][+想像構成][+詠唱破棄][+術名破棄][+無拍子][+光速思考][+並列演算][+多重演算][+技能乗算]・胃酸強化[+捕食][+解析][+投影][+胃袋][+隔離][+自食][+再構成(リファイン)][+治癒][+再生][+迷宮創造][+試練][+昇華][+消化][+改変][+改善][+改悪]・気配操作[+気功操作][+気闘操作]・赫眼[+魔眼]・赫子操作[+赫子圧縮][+赫子放射][+遠隔操作][+精密操作][+超精密操作][+変幻自在][+赫子分離][+武態(クインケ)][+赫子融合]・超回復・超再生[+再生操作][+痛覚操作]・状態異常無効化・物理無効化・魔法無効化・超速魔力回復・怪力[+筋肉操作(レベルコントロール)][+抑制解除][+精密操作][+超精密操作][+変幻自在]・食物変換[+赫子変換][+体力変換][+精神変換][+魔力(チャクラ)変換][+身体強化][+治癒力変換][+生命力(テロメア)変換][+再生力変換]・巨人化・技能融合・格闘術・専科百般・兵器(クインケ)操術[+精密操作][+変幻自在][+達人操作]・暗器術・暗殺術・不屈・努力・限界突破[+最適化]・成長限界突破・無属性適性・叡智・月歩[+瞬動][+虚空瞬動][+豪脚]・瞬歩[+飛簾脚][+完現光][+響転]・舞空術・外科手術[+心霊医術]・気配遮断[+幻踏][+多重幻踏][+夢幻][+多重夢幻][+顕幻][+多重顕幻][+壊幻]・精神変換[+錬成力]・体力変換[+錬成力]・生命力変換[+錬成力]・魔力(チャクラ)変換[+錬成力]


固有技能(ユニークスキル)

赫者(サトリシモノ)[+鱗赫(りんかく)][+甲赫(こうかく)][+羽赫(うかく)][+尾赫(びかく)]・料理人(シェフ)合成者(キメラ)解析者(サトルモノ)研究者(キタエシモノ)錬金術師(アルケミスト)錬丹術師(アルケミスト)贋作者(フェイカー)冒険者(アドベンチャー)正喰者(リアルイーター)暗殺者(アサシン)完現術者(フルブリンガー)


覇気:

見聞色[+万能感知][+特定感知][+読心術][+遠見][+遠聴][+先読][+投影][+無拍子][+心眼(真)]・武装色[+金剛][+身体強化][+部分強化][+集中強化][+付与強化][+内部破壊]・覇王色[+威圧][+纏威][+武威]


技術(アーツ)

気功術・気闘術・気操術・鉄塊拳法・金剛拳法・神鉄塊拳法・魔闘術(ブラックアーツ)・解析魔術・強化魔術・変化魔術・投影魔術・憑依経験・錬金術・錬丹術・鍛冶・外科手術[+心霊手術]・隠形[+幻撃]・残像拳[+多重残像拳]



===============================



 表示された。



 まるでゲームのキャラにでもなったようだと感じながら、ハジメは自分のステータスを眺める。他の生徒達もマジマジと自分のステータスに注目している。



 メルド団長からステータスの説明がなされた。



「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」



 どうやらゲームのように敵を倒して経験値を獲得してレベルが上がるからステータスも上がる訳ではないらしい。



「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」



 メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。



「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」



 ハジメは自分のステータスを見る。確かに天職欄に【錬成師】とある。どうやら《錬成》というものに才能があるようだ。しかし、他にもたくさん技能があるし、これは当たりかな?と思った。末尾は技能だと聞いたけど。どういうわけか固有技能・覇気・技術という欄があるので不思議だったのだ。ステータスの数値に赫子とかあるけど。これは前世でいうところのRc細胞の数値だろうか?喰種の戦闘力を示すものだけど。これはハジメが普通ではない証拠かもしれない。



 ハジメ達は上位世界の人間だから、トータスの人達よりハイスペックなのはイシュタルから聞いていたこと。なら当然だろうと思いつつ、口の端がニヤついてしまうハジメ。自分に何かしらの才能があると言われれば、やはり嬉しいものだ。



 しかし、メルド団長の次の言葉を聞いて喜びも吹き飛び嫌な汗が噴き出る。



「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」



 この世界のレベル1の平均は10らしい。ハジメのステータスは見事に10000が綺麗に並んでいる。ハジメは嫌な汗を掻きながら内心首を捻った。



( あれぇ~? どう見ても平均の1000倍の数値なんですけど……!?チート過ぎるんじゃないの? 俺TUEEEEEじゃないか! これ多分地球で毎日エアファイトしまくったせいだよね? ……ほ、他の皆は? どうなっているのだろうか? )



 ハジメは、僅かな希望にすがりキョロキョロと周りを見る。皆、顔を輝かせハジメの様に冷や汗を流している者はいない。



 メルド団長の呼び掛けに、早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……



============================

天之河光輝 17歳 男 レベル:1 


天職:勇者


筋力:100


体力:100


耐性:100


敏捷:100


魔力:100


魔耐:100


技能:

全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解




==============================



 無職のレベルMAXくらいのステータスをレベル1から持っていて、技能の数は多いから人間側でいえば化物(チート)なんだろうけど。ハジメのステータスと比較すると、1/100の数値だし、技能の数もハジメよりも少なかった。天職とか【勇者】だけど彼の人間性と経験の浅さを考えると頼りなさ過ぎたので、人類は終わったかもしれないと内心絶望した。




「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」



 団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。



 ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外が〝派生技能〟だ。



 これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる〝壁を越える〟に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。



 光輝だけが特別かと思ったら他の連中も、光輝に及ばないながら十分チートだった。それにどいつもこいつも戦闘系天職ばかりなのだが……



 ハジメは自分のステータス欄にある【錬成師】を見つめる。響きから言ってどう頭を捻っても戦闘職のイメージが湧かない。技能も多数あるし、他の人にはない固有技能・覇気・技術なんてもののある。明らかに異常だった。


 だんだん乾いた笑みが零れ始めるハジメ。報告の順番が回ってきたのでメルド団長にプレートを見せた。



 今まで、現地人と比較すれば、規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の表情はホクホクしている。多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。



 その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。

そして、ジッと凝視した後、もの凄く驚愕した表情(エネル顔)でプレートをハジメに返した。



「ああああああああああああああああああああああああああ……、そ……、その、なんだ。れ、錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことなんだが……。鍛冶するときに便利だとか……、しかし、このステータスの数値と技能、あと固有技能・覇気・技術という欄、赫子というものは俺も初めて見るぞ……」



 驚愕しながらもなんとかハジメの天職を説明するメルド団長。



 その様子にハジメを目の敵かたきにしている男子達が食いつかないはずがない。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性が大きい。



 檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。



「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」



 檜山が、実にウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば、周りの生徒達――特に男子はニヤニヤと嗤わらっている。



「さぁ、やってみないと分からないかな」

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」



 メルド団長の表情から内容を察しているだろうに、おそらく非戦闘職というだけで驚愕した表情をあまりに低すぎるとか、お呼びでない無能だとか勝手に決めつけているのだろう。

わざわざ執拗しつように聞く檜山。本当に嫌な性格をしている。取り巻きの三人もはやし立てる。強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動だ。事実、香織や雫などは不快げに眉をひそめている。



 香織に惚れているくせに、なぜそれに気がつかないのか。そんなことを考えながら、ハジメは投げやり気味にプレートを渡す。



 ハジメのプレートの内容を見て、檜山は驚愕した。



「な、なんじゃこりゃ!!!!!?う、嘘だありえない!なんでキモオタで非戦闘職のこいつがこんなステータスしていやがるんだ!!!」

「勇者よりもステータスと技能が多いだと!!!」

「な、なんで、こんなキモオタが天之河よりも強いんだよ!」

「ば、化物だ!」

「異常だ!」

「尋常じゃない!」

「と、とんでもない怪物だ!」

「ど、どうしよう俺たち今まで南雲虐めきたんだぞ、仕返しされたらどうしよう……」




 次々と驚愕する、絶望する、恐れる生徒達にハジメは呆れる。



「こらー! 何を恐れているんですか! 仲間を化け物呼ばわりするなんて先生許しませんよ! ええ、先生は絶対許しません! 早くプレートを南雲君に返しなさい!」



 ちっこい体で精一杯怒りを表現する愛子先生。その姿に毒気を抜かれたのかプレートがハジメに恐る恐る返される。



 愛子先生はハジメに向き直ると励はげますように肩を叩いた。



「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスは低いですけど。南雲君を化け物だなんて思いませんからね!」



 そう言って「ほらっ」と愛子先生はハジメに自分のステータスを見せた。



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畑山愛子 25歳 女 レベル:1


天職:作農師


筋力:5


体力:10


耐性:10


敏捷:5


魔力:100


魔耐:10


技能:

土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解



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 ハジメは引きつった顔となった。



「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」とハジメをガクガク揺さぶる愛子先生。



 確かに全体のステータスは低いし、非戦系天職だろうことは一目でわかるのだが……魔力だけなら勇者に匹敵しており、技能数なら超えている。糧食問題は戦争には付きものだ。ハジメのようにいくらでも優秀な代わりのいる職業ではないのだ。つまり、愛子先生も十二分に怪物(チート)だった。もしも、ハジメのステータスに匹敵する植物系モンスターとかいればステータスとレベル差を無視してスキルだけで倒せてしまいそうだ。それを考えると召喚された神の使徒たちで大当たりなのはハジメと愛子の二人だろう。勇者の天之河の存在が霞んでしまうが。




「あらあら、愛ちゃんったら少しばかり空回りしちゃったわね……」

「な、南雲くん! 大丈夫!?」



 少し困った反応をするハジメを見て雫が苦笑いし、香織が心配そうに駆け寄る。愛子先生は「あれぇ~?」と首を傾げている。相変わらず一生懸命だが空回る愛子先生にほっこりするクラスメイト達。



 ハジメに対する嘲笑を止めるという目的自体は達成したものの、上げて落とす的な気遣いと、これからの前途多難さに、ハジメは乾いた笑みを浮かべるのだった。


( ああ……、平穏無事な日常もこれで終わりか、前世みたいに毎日が戦場となるのかな……? )





 
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