詭道贋作ガンダム・戦後の達人
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第1幕:帰って来てしまったエース
前書き
明時14年。
人類は、マンションとショッピングモールが融合した長方形人工衛星『アニアーラ』の量産化に成功した事を切っ掛けに、宇宙空間や地球外天体にすらビルの林を植えた。
だが、火星に居住区を建築する計画は、アニアーラ管理委員会の一部の重鎮達とそれに癒着する悪徳商人達によって見捨てられ、テロ活動の予防と言う名目による粛清が行われ様としていた。
しかし、管理委員会に属する将校達の中には火星のテロリスト扱いに疑問と猜疑心を抱き、密かに火星粛清に対抗すべく人型戦闘車輌『モビルフォース』を開発した。
そして、管理委員会は火星粛清賛成派と反対派の2つに分離。後に『半年戦争』と呼ばれる事になる大規模内乱へと発展した。
その後、半年戦争は火星粛清反対派の勝利に終わり、賛成派を指示していた重鎮や企業は次々と解雇・逮捕され、火星に居住区を建築する計画はテロリストの汚名を返上したのである。
それから10年後の明時24年。
アニアーラ№1994……の片隅。
そこには多くの物を失いホームレスへと堕ちた者達が棲み付いていた。
ある者は就活や就業で躓き、
ある者は親族か周辺の理不尽によって進路と貯金を失い、
ある者は犯した大罪によって信頼と居場所を失い、
ある者はあらゆるしがらみから逃げた。
そう言った者達は住む家を持たず、日雇い仕事や拾ったゴミを売ったりして生活費を稼ぐ日々が待っていた。
「けっ。あの工場、湿気てるぜ」
「あんなに働いてこれだけかよ?」
責任転換して駄々を捏ねるホームレス達を横目に、本来なら学校に通うべき年齢に見える女性ホームレスが呑気に笑った。
「私も人の事は言えないけど、高収入の仕事に恵まれてる人が、こーんな場所で寒がってる訳がないでしょ?」
それを聞いたホームレスの1人が激怒し、その少女の胸倉を掴んだ。
「言ってくれるじゃねぇか姉ちゃん!」
だが、少女も芯が強いのかまったく動じない。
「はっ。そこまで言うんだったら、もっとましな職場に就職しなよ。私も人の事は言えないけど」
少女に押し返されたホームレスが尻餅を搗きながら悔しそうに歯噛みする。
「人の気も知らないでぇー……」
しかし、少女に言い負かされたホームレスに反論の術は残っていなかった。
なぜなら、彼はネット動画の投稿に没頭していた学生だった。だが、膨大な閲覧数欲しさに店舗を1つ潰しかねない迷惑動画を投稿してしまい、それに激怒したネット利用者達の悪辣な批判によって家族離散へと追いやられたのである。
無論、これだけの信頼喪失を犯した罪人を温かく迎え入れる企業は少なく、結局、就職活動は未完に終わってホームレスの溜まり場に流れ着いたのである。
でも、元迷惑動画投稿者は自分の事を棚に上げながら少女を問い詰めた。
「そう言うお前はどうなんだよ」
対する少女はあっけらかんと答える。
「人間の死体、視た事ある?」
その途端、元迷惑動画投稿者はドン引きしてゆっくりと後退した。
「へっ……ネットでは強いがリアルには弱いか?ちゃんと運動してる?」
一部始終を観ていた別のホームレスが命令する。
「馬鹿な事をやってないで、この仕事が出来る奴を探してこい」
「どんな仕事だよ」
元迷惑動画投稿者は、仕事と聞いて内容を確認する。だが、
「モビルフォースを運転出来る方急募ぉー!?モビルフォースの意味を解ってるのかよ!」
その時、元迷惑動画投稿者と喧嘩していた少女が手を上げた。
「ソレ……私だ」
一同は固まった。
「……へ?」
アニアーラ№1970
ホームレス少女がモビルフォース運転手急募のバイトに向かうと、そこには戦争博物館開展を望む男性がいた。が、少女の幼い外見に気圧されていた。
「君……若いね?……何歳?」
が、少女は質問には答えない。
「その点は気になさらず。それより、運転するモビルフォースはどれです?」
館長は困惑しながら指示する。
「あー……取り敢えずぅ、これらの兵器を指定する展示場所へ運んで欲しんだけど……」
少女は不言実行とばかりにテキパキと兵器を展示場所へと運搬する。
「……完璧です」
だが、赤いモビルフォースの所で少女が突然止まってしまった。
「あぁ、この機体ね。10年前の半年戦争で活躍した『赤い鷹匠』が使用していたとされるモビルフォースらしいんだが―――」
そこから先の館長の言葉は、少女の耳には届かなかった。いや、例え届いたとしても少女の停止は続いていただろう。
そこへ、1人の青年がやって来て、
「親父!本気かよ!?」
彼は館長と違って戦争博物館開展に反対だった。
「私は本気だよ。半年戦争が終焉してから既に10年が経過し、惨劇の詳細を忘れた者が増えた。このまま美化され風化すれば、展示する予定の兵器の贖罪の場は失われる。そうなれば、また我々人々は半年戦争の様な惨劇を繰り返す事になる」
「俺はそんな事を言ってるんじゃない!展示する予定の兵器から活躍の場を奪った俺達の罪深さについて話してるんだよ!」
停止した少女が開展に反対する青年の言葉によって再び動き出した。
だが、青年はその事に気付かずに館長との口喧嘩に没頭する。
「綺麗事を言ってるのは親父の方だ!こんな所で誰とも戦う事無く晒し者だぞ?こいつらが可哀想だとおもわ、おわ!?」
その時、青年は少女の頭突きを喰らってしまう。
「あっ。すいません。ボーっと考え事をしておりました」
「何なんだこいつは?」
「私が急遽雇ったモビルフォースドライバーだよ」
が、青年は館長の説明を信じない。
「何を言っている。ちゃんとしたモビルフォースドライバーは、ちゃんと軍人として真面目に戦っているんだよ!」
その言葉にムッとした少女は、青年に対して意地悪な質問をした。
「もしも……人間がまだ生きている人間を食べてる場面に出くわしたら……貴方はどうします?」
青年は質問の内容を理解出来ずに困惑する。
「……それは……サバンナのライオンの話かい?」
呆れた少女は、小声で青年にこう述べた。
「剣も包丁も作り方は一緒です。問題は目的と使い方です」
そして、青年への興味を失った少女が館長に次の仕事を求めた。
一方の館長は、少女の質問の意図に気付いてしまったのか背筋が冷たかった。
「あ……あー……あの赤い鷹匠が使っていたモビルフォースを、そこのクズを使ってあそこまで運んで欲しいんだが」
(あの歳であの様な質問!?彼女はいったい何者なんだ!?)
その後、館長と口論となった青年が誰もいない戦争博物館を視て決心を新たにした。
「やはり……戦場から追い出されてこんな所で無理矢理寝かされて晒し者じゃあ……こいつらが可哀想だ!」
そして、青年はスマホを操作し……
次の日も、少女は戦争博物館に展示する予定の兵器を指定された場所に運ぶバイトで汗を流していた。
「すまないね。私の酔狂に就き合わせちゃって」
「良いんですよ。私は所詮、流れのホームレスですから。寧ろ、これだけで給料を貰える事が嬉しいんですよ」
館長は少女の過去を問い質そうと思うも、最初の1歩が踏み出せずに訊き出せないでいた。
しかも、逆に少女に質問されてしまった。
「昨日の彼、館長さんの息子ですよね?なのに何であんなにこの博物館に反対を?」
この質問に対してとても恥ずかしそうにする館長。
「気付いてましたか?まあ、一言で例えるなら……まだ若いんですよ」
「若い?」
「まだ夢を観たい時期なんでしょうね。戦争の悲惨さより撃墜王や兵器の魅力の方に目が行きがちなんです。だから」
そう言いながら展示する予定の兵器を見回しながらこう続ける。
「展示する予定の兵器には戦場で生き生きと戦って欲しいんでしょう」
すると、少女は少しだけ不機嫌になった。
「館長さん、私は貴方を少しだけ見損ないました」
「……はい?」
「展示する予定の兵器は多くの罪無き者達を沢山殺す力を秘めてるんです!こいつらにどれだけの魅力があろうともそれは事実なんです!戦争の惨劇を絶対に忘れてはならないと言う貴方の意思には賛同します。だからこそ!何事も始まってから反省したのでは遅いんです!」
少女に完全に気圧された館長はちょっと引いて黙り込んでしまう。
しかし、突然暴走族風の集団が博物館にやって来た。
そこで我に返った館長は、集団に対して冷静かつ穏和に対応しようとした。
「申し訳ございません。この博物館はまだ開展しておりませんので―――」
それに対する集団の答えは……悪質かつ邪悪な暴力だった。
「そりゃそうだ。展示する予定の兵器は全部俺達が使わせて貰うんだからよ!」
「は?何を仰って―――」
「あんたの息子さんが言ってたぜ。展示する予定の兵器が可哀想だってよ」
「せっかく戦う為に産まれて来たのに、戦場から追い出されて誰とも戦えぬまま晒し者にされるのが我慢ならないんだってよ」
「ちょっと待て!君らまさか!?」
「俺達が展示する予定の兵器を正しい使い方で使ってやる」
「その方が、展示する予定の兵器も大喜びだろぉー!」
その間も、館長の抵抗も虚しく暴走族は展示する予定の兵器達を次々と根こそぎ奪っていく。
「止めたまえ!君達はまだ若い!君達は展示する予定の兵器の大罪を背負いきれない!やめるんだ!」
が、館長は逆に殴られて銃を突き付けられる。
「あめぇよ。そう言うおっさんは踏んだ雑草にいちいち謝罪して回るのか?あ!?」
「そんな綺麗事を言えば敵さんが退いてくれるとでも思っているかよ?アホだぜこいつ!」
だがその時、少女は既に赤い鷹匠が使用していたモビルフォースの運転席に乗り込んでいた。
「そこの館長さんの言う通りだ……この私と同じ所まで堕ちたくなければ、ここで踏みとどまれ。始まってから反省しても……もう遅いんだから」
しかし、暴走族は少女の言葉に屈しない。
「落ちるだぁ?逆だよ!俺達はこれから展示する予定の兵器を使ってどんどん昇るんだよ!」
「と言うか、それも俺達の物だぜ。返せよドロボー」
「返す気が無いなら……身体で払って貰おうかぁー!」
暴走する暴走族に完全に呆れた少女は、今度こそ本当に彼らと戦う意思を固めた。
「……自力では踏みとどまれないか……なら……私が踏みとどまらせる!」
だが、少女が乗車しているモビルフォースには、1つだけ大きな問題が有った。
「駄目だ!その子は動かない!誰が運転しようとしても、全く動かなかったんだ!」
と思いきや、館長の悲痛な説明に反し、少女がある台詞を言うや否や、
「たんたん狸の金玉はー♪」
動かない筈のモビルフォースのメインカメラに輝きが戻った。
「動くじゃねぇか!何処が駄目だんだよ!?」
対する館長は別の意味で驚いた。
「あの赤い鷹匠が使用していたモビルフォースが……ガンダム・フェルシュング(Fälschung)が息を吹き返した」
その言葉に、暴走族のリーダーが少々ビビりながら少女を指差す。
「お……お前ぇー!?」
他のメンバーも『赤い鷹匠』と言う言葉を聞いた途端、別のモビルフォースを起動させてガンダム・フェルシュングに飛び掛かった。
だがしかし、少女は冷静だった。
ガンダム・フェルシュングの背中(両肩胛骨付近)に装備されている金属繊維製の4対8枚の主翼を射出し、切り離された翼がフェルシュングの周囲を何度か旋回した後、襲い掛かるモビルフォースに向かってすっ飛んで往く。
そして、敵モビルフォースの四肢を次々と溶斬する。
「何なんだ……こいつまさか!?」
どうにか8機の羽根型無人攻撃機による溶斬から逃れた機体がフェルシュングに向けて90mmビームサブマシンガンを発砲するが、フェルシュングの前方に集結した羽根型無人攻撃機の電磁波に跳ね返され、光の霧となりながら文字通り霧散する。
「何で貴様がこんな辺鄙な所にー!?」
フェルシュングに心を折られて士気を消失した暴走族は、博物館から盗んだ武器を持ったまま逃走しようとするが、フェルシュングが放った無人攻撃機に阻まれて逃げ場を失った。
「待ってくれ!俺達はもうあんたと戦わねぇ!」
だが、少女はその言葉を信じない。
「本当に戦う気が無いなら……罪を背負う気が無いなら……そんな物騒な兵器は、持ち歩かない!」
少女の本気を知った暴走族は、今度こそ武器を捨てて逃げた。
少女も流石に丸腰の敵を殺す程の鬼ではなく、無人攻撃機と化したフェルシュングの主翼を再び背中に装着する。
これを契機として、暴走族は敗走しバラバラに逃げた。
意外そうな顔をする館長を尻目に、少女はある人物の方を向く。
「気配が見えるよ?素人」
少女が発見したのは、昨日館長と口論したあの青年であった。
「……嘘だ……」
「嘘?あれで隠れた心算なの?」
「違う……」
「違う?じゃあ、何が嘘なの?」
困惑と混乱しながら青年が口にしたのは、フェルシュングを巧みに操る少女の名前であった。
「そんな筈は無い!何で赤い鷹匠と呼ばれる程のエースドライバーである筈の『ツルギ・マインドル』がこんな所でくすぶってるぅー!?」
混乱しながら少女と口論する青年の記憶にあるツルギ・マインドルは、火星粛清反対派最強のエースドライバーで高嶺の花とも言える軍の重鎮……だと思っていたのに……
だが、目の前にいる『赤い鷹匠ツルギ・マインドルの愛機である筈のガンダム・フェルシュングを運転する少女』が……名も無き流れのホームレスに墜ちたからだ。
それに対し、少女は青年の考えが見えているのか、90mmビームピストルを発砲して青年の頭頂部をかすめた。
「あと1m下だったら……私はあそこにいる館長に恨まれていただろうね?」
一方の青年は恐怖で完全に固まっている。それを観ている館長も不安で圧し潰されそうになっている。
が、少女は冷徹に言い分を続けた。
「アンタは、展示する予定の兵器から出番を奪う事を非道な事と言った。この子達が背負ってる罪や恨みの事まで考えずに」
青年は少女が間違った事を言っているのに気付いて慌てて反論しようとするが、
「それは違う!」
「いや……違わない。戦争に関わる者に与えられる選択肢は……たったの3つだ」
「3つ?」
「殺されるか―――」
「だからこそ!……だからこそ展示する予定の兵器の力が必要―――」
「最後まで聴け!素人風情が!」
少女の貫禄に圧し敗けて何も言えない。
「さて……どこまで話したっけな?……あぁ、戦争が選ぶ3択の話だったな。そう……戦争が選べる進路は3つ……殺されるか……失うか……恨まれるか」
「恨み……そんなの敗者の逆ギレによる―――」
「誰にも恨まれないまま生きていける人間が……この世にいると思うか?」
その言葉に、館長は少女が背負っている物の重さに心配になり背筋が凍る。
「特に私は……勝ち過ぎた」
その時、バラバラに逃げた筈の暴走族を全員逮捕した軍隊が博物館に雪崩れ込んで来た。
「この博物館から展示されている兵器を奪ったのは、これで全員か!?」
対して、館長が指差したのは……
「手引きしたのは彼です。今モビルフォースに乗っている女性は、彼が呼んだ窃盗団から展示品を護ろうと」
その途端、兵士達は青年の方を視る。
「その話、本当かね?」
予想外の展開に、反論や言い訳が捻り出せない青年。
「な!?」
兵士達は青年を連れて往こうとする。
「事情を聴きたい。御同行願えるか?」
青年はここでようやく犯人扱いした館長に文句を垂れた。
「そこまでかよ親父!?そこまでして展示する予定の兵器から出番を奪いたいのかよ!どう―――」
その途端、館長の平手打ちがとんだ。
「あ!?」
「馬鹿もん!ここに飾られている内はそこら辺の絵画や骨董と変わらんが、1度野に放てば、どれだけの数の人命を奪うか、本気で考えた事はあるのか!?」
最初は停めに入ろうとした兵士達だったが、館長の怒気に怯んで立ち止まってしまう。
「始まってから反省してももう遅い!正にあの子の言う通りだったな!?自分が犯した罪の重さ、牢屋でたっぷり思い知るんだな!この馬鹿息子が!」
その間、少女は何も言わずにフェルシュングの運転席に座るのみであった。
全てが終わって兵士達に連行される青年。
そんな青年の背中を寂しそうに観る館長。
「本当に……これで良かったんですか?」
少女の質問に対し、館長は犯した罪を視て蒼褪めているかの様であった。
「……ダメですね。実の息子にすら反戦や厭戦の大切さを伝えきれないんじゃ―――」
悪そうな顔をしながら少女は言葉を紡ぐ。
「私は確かに始まってからじゃ遅いと言いました。でも、だからと言って何も知らぬまま動くのも悪い事。やはりこの戦争博物館は必要不可欠ですよ」
「しかし―――」
少女は右人差し指で館長の口を抑えた。
「貴方は学んだ。ああ言う危険人物が1人でも残っている限り戦争は終わらない事を。なら、この博物館がそんな危険人物の心を正す場所に成れば良いんだよ。それが良い」
館長は、改めて少女の名を口にした。
「ツルギ・マインドルさん……で、宜しかったんですよね?」
少女は照れ臭そうに言う。
「名乗る心算はありませんでした。ただ火星を護りたかっただけで、殺した人間を踏み台にしながら出世する心算は……やめましょう。この先は、どう言おうが根も葉もない言い訳にしか聞こえませんし」
その途端、館長は叫んだ。
「今日の騒ぎから逃げる気か貴様!?」
「……へ?」
「元はと言えば、アニアーラ管理委員会が火星で半年も大規模な内乱に没頭したのが原因でしょうが!そのせいで、暴走族や暴力団によるスペースデブリ密漁はその数を増し、それに比例してモビルフォースを運転出来るヤンキーも増えてしまった!それなのに!それなのに……貴女は愛機から逃げてホームレスのフリをしながら罪から逃げている!」
「え!?この私が、罪から逃げた?」
「そう思われたくなかったら、せめてスペースデブリ密漁に没頭する暴走族や暴力団から、この戦争博物館を死守して魅せろよ!赤い鷹匠ツルギ・マインドル!」
それを聞いた少女は、苦笑しながら館長の方を向く。
「逃げるな……か。確かに、私は10年近くガンダム・フェルシュングから逃げてた。これに乗ったら、私はまた人を殺してしまうと言い訳しながら」
そして、少女は意を決して館長に懇願する。
「この博物館に、住み込みで働かせて下さい!お願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ツルギ・マインドル」
が、館長はここでとんでもない矛盾に気付いてしまう。
「ちょっと待て……半年戦争の終結は10年前ですよね?」
「そうですけど、それが何か?」
「ツルギ・マインドル、さん……貴女は実際何歳なんですか!?」
この質問に少女は困った。実は、10年前から齢を数えるのを辞めたからだ。
「あれ?私……何歳だっけ?」
「こっちが訊きたいですよツルギ・マインドルさん!」
こうして、厭戦感覚で戦争博物館を開展しようとする中年男性と、一見女子学生にしか見えない歴戦の勇士との凸凹コンビによる、予想不可能な珍道中物語が幕を開けたのであった。
本作オリジナル設定
●明時
元号の1つ。西暦の3つ後。
●アニアーラ
マンション、ショッピングモール、養殖場、菜園を完備した長方形人工衛星。
1機に8万人が暮らしており、明時24年現在、2024機が稼働している。
●半年戦争
明時14年に発生したアニアーラ管理委員会の大規模内乱。
元々は火星に居住区を建築する計画が赤字を計上し続ける事が発端で、アニアーラ管理委員会の強欲な一部の重鎮達やそれに癒着する悪徳商人達が火星移住計画を煙たがり、テロ撲滅の名目で計画の完全廃棄を目指したが、アニアーラ管理委員会傘下軍隊の一部の心有る将校達がこれに反発して火星粛清反対派を結成して廃棄計画の阻止に動いた。結果は、後にモビルフォースと呼ばれる事になる人型戦闘車輌の量産化に先に成功させた火星粛清反対派の勝利に終わり、火星移住計画はモビルフォース製造工場の城下町として扱われる事となった。
●モビルフォース
火星粛清反対派が開発・量産した人型戦闘車輌。
外見を人間に酷似させる事で、1対のマニピュレーターによる汎用性・多様性が高い戦闘を可能とし、火星粛清反対派の勝利に大きく貢献した。
半年戦争で規格外の戦果を発揮した事でアニアーラ管理委員会傘下軍隊の主力となり、半年戦争終結後も開発・改良は続けられる事になった。
●ツルギ・マインドル
性別:女性
年齢:23歳
身長:140㎝
体重:38.9㎏
体型:B83/W51/H73
愛機:ガンダム・フェルシュング
本作主人公。いつも女子小学生に間違えられる流れのホームレス。
歴戦の勇士であり、10年前の半年戦争の頃は火星粛清反対派最強のモビルフォースドライバー「赤い鷹匠」と呼ばれていた。
明るく陽気な人物のようでいて、心の中では戦争への強い憤りと自身の戦果への罪悪感を持つ。故に、話し方が説教臭くなる事もある。真面目で、困った人を見ると放っておけない性格で、よく酷い目に遭う。
イメージモデルは【まんゆうき 〜ばばあとあわれなげぼくたち〜】の『娘々』で、【るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】における『緋村剣心』に相当する人物。
●ガンダム・フェルシュング
型式番号:MF01TMO
頭頂高:18.1m
重量:44.9t
運転手段:マニュアルトランスミッション
武装:90mmビームピストル
ライオットシールド
頭部35㎜ビームバルカン×2
ヒートステッキ
ヒートウイングビット×8
クズワンをツルギ向けにチューニングした専用機。命名理由は「機動戦士ガンガルの贋作」。
一般的なクズワン同様、かなりの可動範囲と広い射角を有する臀部ジェットブースターによる奇天烈な飛行が可能。また、脳波で義肢や人工臓器を操る技術を応用する事で背中(両肩胛骨付近)に装備されている4対8枚の主翼を遠隔操作し、剣身を高熱化させての溶斬や電磁波バリアによる防御を行う。
【るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】における『飛天御剣流』に相当するモビルフォース。
●クズワン
型式番号:MF01
頭頂高:18m
重量:44.4t
武装:90mmビームサブマシンガン
ライオットシールド
頭部20㎜ビームバルカン×4
ヒートステッキ
火星粛清反対派が開発・量産した人型戦闘車輌で、世界初の量産型モビルフォース。
運転方法を可能な限り自動車に近付ける事で操作性を高め、臀部ジェットブースターの可動範囲と射角を広くした事で空中ドリフトや空中反復横跳びなどの奇天烈な飛行を可能にした。また、ジェットブースターを臀部に集中させる事で背部に輸送用コンテナやパラシュートザックを背負いながらの飛行も可能となった。運転方法はマニュアルトランスミッションとオートマチックトランスミッションの2種類あるが、どう言う訳かマニュアルトランスミッションタイプの方が高性能である。
イメージモデルはプレートアーマーと警察官。
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