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イベリス

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第百五話 何の為に学ぶかその八

「なんてって言える位の」
「小さなだな」
「ええ、まして何もしたことない様な人がね」
「偉いか」
「そんな筈ないから」 
 絶対にというのだ。
「そもそも神様を感じてね」
「そんなことが言えるかだな」
「というか宗教関係の場所にお世話になっても」
「信仰心ないと言っただろ」
「信仰心ないとね」
「神様を感じることもな」
 これもというのだ。
「もうな」
「ないのね」
「そうだ、だからな」
「そんな風にも思うのね」
「それで信仰心を持つにもな」
「それなりのものが必要なのね」
「そうなるな、努力しないと本当にな」
 父はまたこう言った。
「何にもなれなくて何かを手に入れることもな」
「出来ないのね」
「それで成長しないまま子供のままでな」
「歳ばかり重ねるのね」
「その人みたいにな、もう自分だけで」
 頭の中にあるのはというのだ。
「人の為に何かすることもな」
「なかったの」
「生きていて一回の献血さえな」
「献血って私したことあるわよ」
「お父さんもお母さんもだ」
 父は即座に答えた。
「あればな」
「いざって時輸血で助かる人いるしね」
「あれはちょっとしたことでもな」
「誰でも出来る様な」
「大切なことなんだ、けれどな」
「あの人はそれすらしたことがないのね」
「誰でも出来るって咲今言ったな」
「ええ」
 咲もその通りだと答えた。
「言ったわ、確かに」
「その通りだ、けれどな」
「その誰でも出来ることすらしなくて」
「多分考えもしなかったな」
「いいことなのに」
「もう自分しかないからな」
 自分の頭の中にはというのだ。
「誰かを助けるなんてな」
「夢にも思わなかったのね」
「それでお布施もしないでいたんだ」
「教会に行っても」
「それをするのが礼儀だがな」
「お世話になってるところだし」
「ああ、しかしそんなこともしなくてな」
 献血だけでなくというのだ。
「自分はたらふくご馳走になっていい煙草を買って吸っていたんだ」
「色々間違えてるわね」
「だからもう誰からもな」
「見捨てられたのね」
「それで今行方不明なのもな」
「当然の結果ね」
「お父さんはその人の話を聞いてわかったんだ」
 本気での言葉だった。
「生きていて何の努力もしてこないとな」
「そうなるって」
「ああ、よくな」
 咲に真剣でかつしみじみとした口調で話した。
「しかも怖くなったんだ」
「自分がそうなったらッて思って」
「それで努力しようとな」
「思ったのね」
「何でもな」
「凄い教訓ね」
 咲は父の話をここまで聞いてしみじみと思った。 
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