Fate/WizarDragonknight
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聖杯
「うっしゃあ! カチコミじゃああああ!」
ビーストがそう宣言して、教会の扉を蹴り開けた。
ダイスサーベルを片手に、大きくジャンプし、荒れ果てた教会に跳び入る。
あとから続いて、ウィザードやディケイドといった仲間たちも、教会内になだれ込んでいった。
「いない……」
ウィザードは、教会の中を見渡しながらそう呟く。
アマダムが召喚した悪の軍団とやらを全滅させたものの、その中にアマダムはいなかった。
もし彼が拠点に逃げ帰ったとすればここだろうかと考えてきてみたものの、アマダムの影は影も形もない。
「ハルト、本当にここなのか?」
「うん。間違いないよ」
ビーストの変身を解除しながら、コウスケは尋ねる。
同じく変身を解除しながら、ハルトは頷いた。
洗脳されたふりをしていたディケイドや、二人の処刑人がディエンドと戦った跡は、まだ残っている。ハルトが身を隠した座席も残っているし、二人の処刑人を吹き飛ばしたことで割れたステンドグラスも変わりない。
「アマダムどころか、キュゥべえたちもいないね……」
「逃げられたか?」
ディケイドがディケイドライバーを開いた。
左右に分かれ消えていく虚像。士は手にポケットを突っ込みながら、割れたガラス片を踏む。
その時。
「逃げた? 何を言っておる……」
どこからともなく、アマダムの声が響いた。
ハルトたちの間に緊張が走る。途端に、教会のドアが大きな音を立てて閉まった。
「嘘ッ!?」
「閉じ込められちゃったよ!」
響と友奈が慌ててドアを叩くものの、この中でトップレベルに力がある二人の拳でも、扉はびくともしない。
「じゃあ、腕だけ勇者パンチ!」
友奈は簡易的に右腕に勇者の力を発現、桃色の拳を放つ。だが、ボロボロの見た目であるにもかかわらず、微動だにしない。
「おい、これって罠じゃないか?」
真司が危惧したことは正しいと、全員が内心で考えたのだろう。
やがて、教会に更なる異変が発生する。
それは、銀のオーロラ。
「今度は何ッ!?」
響が扉から振り向きながら叫ぶ。
今までは処刑人の登場やムー大陸への移動など、局所的なところでしかお目にかからなかったそれは、ディケイドとアマダムが現れてから、頻繁に目にするようになった。
それは、あっという間に教会の空間を埋め尽くし、ハルトたちを別の場所へと移動させた。
「今度はどこだ?」
見渡す限り、暗い洞窟の中。
参加者が生きて居られるのだから、見滝原のどこかなのだろう。深く、暗い洞窟であるそこは、太陽の光さえも届かない。
だが、目が慣れてくれば、その場にあるものも大体把握できる。
この場所の空間、その大半を埋め尽くすのは、黒い、泥の塊だった。泥を細く高く固め上げ、その頂上部分では、泥が皿のように薄く広く広がっている。
そして、その頂点部分には、黒い太陽が闇の光で洞窟内を照らし出し、見るだけで不安に駆られていく。
「いらっしゃい、いらっしゃーい」
その声は、アマダム。
ハルトたちは全員身構える。
見れば、泥の物体の裏から、その姿が歩み出ていた。
「ようこそ、聖杯戦争の中枢部へ」
「中枢?」
士が首を傾げる。
「ここは教会ではなさそうだが?」
「のほほのほ~! あの教会は、あくまで参加者との接点用。見滝原のあちこちにあるのよーん」
いつのまにか扇子を手にしたアマダムは、小躍りしながらハルトたちを挑発する。
「本当はこっち。この大聖杯から、各教会へ魔力を伝えているの。だから言うなればここは、聖杯戦争の運営本部よ~」
「運営本部……大聖杯って……まさか……!」
そのキーワードを頼りに、ハルトは泥の塊を見つめる。
歪な形で、この空間の中心を陣取るそれ。優雅さなど欠片も感じさせないデザインだが、その天辺で暗い光を放つ球体は、どことなく神秘性さえも感じた。
「これが……聖杯……!?」
聖杯戦争そのもののきっかけ。
そして、全ての参加者が奪い合う、万能の願望器。命を奪い合い、多くの参加者がすでにその命を散らしている現状を引き起こした元凶。
だが、その姿はハルトが想像していたものとは大きく異なる。栄光を表わすように、金で作られた盃を想像していただけに、目の前の泥の塊が聖杯だとは受け入れがたかった。
「俺たちは……こんなものを巡って戦っていたというのか?」
ハルトは言葉を失う。
それは、ハルトだけではない。可奈美やコウスケも。そして、聖杯によってこの世界に連れて来られたサーヴァントである真司、友奈、響も同様であった。
「こんなものが本当に、どんな願いでも叶えてくれるの?」
その問いかけは、友奈の口から出てきていた。
アマダムは扇子を閉じる。口元だけ隠しても、いやらしい笑みははっきりと見えた。
「そうよ~。男は度胸、女は愛嬌。オカマは最強、聖杯は願望。結城友奈。あなたたちがこの世界にいる奇跡それ自体が証拠よ~ん」
「そんなド派手なアジトに、わざわざオレたちを連れてくるたぁ、どういう了見だ?」
コウスケが吠える。
「運営側だろうが何だろうが、参加者七人を一人で相手取るとかいう無茶を企んでるわけじゃねえだろ?」
「ご名答じゃよーん、ビースト」
アマダムはビーストを指した指を回す。
「私は~。聖杯戦争そのものから召喚されたルーラーのサーヴァント」
両腕を広げ、聖杯の直下で体を回転させた。
「つまーり! 聖杯に蓄積された英霊たちの分、パワーアッッッップもできるのーん!」
洞窟内に響く声。
やがて、聖杯の盃部分にある球体から、妖しい光が強くなっていく。
「こんな風にね!」
アマダムの号令とともに、聖杯から無数の触手が放たれる。
「!?」
ハルトはウィザーソードガンで迎撃。銀の銃弾で、触手を弾いていくが、泥は足元からも広がっていく。
「うそッ!?」
聖杯からあふれ出た泥は、触れてしまった者を離さない。
首や体を締め上げる痛みが、体を貫いていく。
「コイツ、オレたちから魔力を吸い取っていやがる!」
コウスケの叫び声で、ハルトは首を巻き付く触手を見落とす。
赤青緑黄。ウィザードの魔力を示す色が、それぞれ触手を通じて聖杯へ、そしてそれを通じてアマダムに注がれていく。
「斬れない……!」
「だとしても……ッ!」
「勇者は……根性……っ!」
可奈美、響、友奈もまたそれぞれ触手と格闘している。紅、黄、桃色のエネルギーがそれぞれ彼女たちからも奪われていく。
「だったら……ドラグレッダー!」
赤いエネルギーが奪い取られていく真司は、カードデッキからドラグレッダーのカードを取り出す。
すると、地下空間にどこからともなく赤い龍、ドラグレッダーが出現する。
ドラグレッダーは吠えながら聖杯の周囲を旋回し、その口から炎を吐き出す。
だが、泥の塊のように見える聖杯は、ドラグレッダーの炎を受け付けない。
「ドラグレッダー! みんなを助けてくれ!」
真司の命令に、ドラグレッダーは攻撃対象を変更する。尾にあるドラグセイバーを振るい、ハルトたちの首を絞め上げる触手を一気に切断する。
「ふむぅ……面倒じゃのう……ドラグレッダー」
アマダムはにやりと笑みを浮かべながら、その手をドラグレッダーへ向ける。
すると、参加者を束縛していた触手が一斉にドラグレッダーへ向けられる。
「ドラグレッダー!」
真司が叫ぶ。
ドラグレッダーの巨体が、黒い触手に次々と絡め捕られていく。そのまま地面に墜落したドラグレッダーは、苦しそうに声を呻いていた。
「「「変身!」」」
だが、ドラグレッダーが時間を稼いでくれた。
ハルト、コウスケ、真司の三人はそれぞれのアイテムを使い、変身。アマダムへ挑みかかっていく。
「ふん」
三人の攻撃に対し、アマダムは長いローブの袖を振り回して受け流していく。その間に、可奈美、響、友奈の三人は、聖杯本体へ挑みかかっていく。
写シ、唄、勇者服をそれぞれ纏い、同時に聖杯へ飛び上がった。
「太阿之剣!」
「我流・撃槍衝打ッ!」
「勇者パンチ!」
紅、黄、桃それぞれの攻撃が聖杯に命中する。
だが、巨大な聖杯には明らかに規模が足りない。その上、聖杯を覆う泥が衝撃を吸収し、聖杯はまったく傷ついた様子もない。
「効かない……!」
「無駄無駄無駄じゃ! 聖杯は、参加者に破壊することなどできんのじゃ!」
アマダムは大笑いする。
やがて、聖杯から伸びた触手は、アマダムに集中して注がれていった。
怪しい宗教団体のようなローブは、光を浴びるごとに、どんどん変わっていく。
やがて、アマダムのその姿は、中年男性のものから変貌していく。
灰色の、仮面を被った悪魔。胸や肩を灰色の骨格で覆っており、その肉体をより強固なものにしていった。
「前にも見たな……その姿は」
「さあ、聖杯の目の前で果てるのだ!」
士が鼻を鳴らす一方、怪人態のアマダムは、その手に光弾を発生させ、放った。
地下空間を埋め尽くしていく爆炎。
「くっ……迅位!」
だが、煙を横切り、まずアマダムへ攻撃を行ったのは、可奈美だった。
千鳥の素早い切っ先が、アマダムの体を切り裂こうとする。
だが、ウィザードたちの目にも止まらない速度にもかかわらず、それはアマダムの目に捉えられていた。
全てが避け切られ、逆に可奈美は胸にアマダムの蹴りを受けた。
「ぐっ……!」
蹴り飛ばされ、大きく後退される可奈美。
彼女が着地するのと同時に、今度はビーストと響が接敵した。
「うおらァ!」
ビーストがダイスサーベルで突くが、アマダムはそれを全て受け流していく。
すばしっこく動き回るが、アマダムの隣には、すでに響が回り込んでいた。
姿勢を引くし、その顎へ拳を殴り上げる。
「だりゃあああああああああッ!」
「見切れているわ!」
顎を引いてそれも交わしたアマダムは、ビーストの腕を掴み、そのまま響へ投げつける。
「うわっ!」
「ええッ!?」
「まとめてドーン!」
ビーストと響へ、手から発生した光弾を直接ぶつける。
爆発とともに吹き飛んだ二人と入れ替わり、ウィザード、龍騎、友奈が今度は接近戦を仕掛ける。
ウィザーソードガンとドラグセイバーを避け、正面から行く友奈の拳。
「読めているぞ!」
友奈の肘を殴打し、その拳は地面に墜落。
桃色の花びらが、暗い地面に咲く。ウィザードと龍騎は一時的に足を止め、足場の安定を優先せざるを得なかった。
そして、その隙にアマダムは腕を大きく横切らせる。
斬撃となったそれは、三人の体から火花を散らし、大きく吹き飛ばす。
「つ、強い……」
起き上がりながら、ウィザードは毒づく。
そして。
『ケータッチ 21』
「俺も行くか」
『W OOO フォーゼ ウィザード 鎧武 ドライブ ゴースト エグゼイド ビルド ジオウ ゼロワン』
ディケイドは、先刻とは異なるケータッチを取り出していた。
画面に大きく21と象られたそれに記された紋章を次々とタッチし、それをディケイドライバーの中心と入れ替えた。
『ファイナルカメンライド ディケイド コンプリート 21』
そうして、ディケイドは更なる姿に変身した。
コンプリートフォーム21。
先ほど使われたコンプリートフォーム以上のカードを背中のマントに貼り付けたその姿は、一度見たらもう忘れられないだろう。
『ファイナルアタックライド ディ ディ ディ ディエンド』
ディケイドは、いつの間にか手にしたディエンドライバーを向ける。
ディエンドのものと同じディメンションシュートが放たれた。
それはまず、アマダムへ放たれる。
だが、アマダムは両腕でディメンションシュートをガードし、やがて上方へ受け流す。聖杯へ注がれたディメンションシュートだが、次元を超える一撃でさえ、聖杯に有効打は与えられない。
『ファイナルアタックライド ディ ディ ディ ディケイド』
だが、ディケイドはすさかずそのカードを発動させた。
空中で浮かび上がったディケイドとアマダムの間に、発生する、無数のカードで作られたトンネル。そのエネルギーが全てディケイドの右足に集中し、アマダムへ向かっていく。
だが。
「ディケイド……お前の思い通りにはさせんぞ!」
アマダムが叫ぶ。
すると、聖杯はより多くの泥を放出する。
それは壁となり、アマダムの前に立つ。ディケイドの強化ディメンションキックを受け止めたそれは、逆にディケイドへ大きな波となり、その体を弾き飛ばした。
変身が解除された士は、ダメージとともに地面に転がった。
「ぎゃっはははーい! ざまみろ~! やり返しじゃ~い!」
怪人態のまま小躍りするアマダム。
「更~に? 聖杯のすぐ近くだと強化されたものだと、三人のサーヴァントへ同時にこんなこともできるのじゃ!」
アマダムはそう言って、右腕を掲げた。
すると、彼の右腕に無数に刻まれた令呪、そのうち三つが輝きだす。
「さあ! ライダー! ランサー! セイヴァーよ! 我が声に従え!」
すると、龍騎たちの体が大きく震えた。
「うっ……!」
「ぐッ……!」
「何これ……!?」
龍騎、響、友奈はそれぞれ頭を抑える。それぞれやがて体制を崩し、汗を吹き出しながら、駆け寄ってくるマスターを見上げる。
「真司! しっかりしろ! 真司!」
「どうしたの友奈ちゃん!」
「おい、何だってんだよ!? 響、皆まで聞いてやるからなんとか言えよ!」
ウィザード、可奈美、ビーストはそれぞれのサーヴァントを助け起こそうとする。
「「「うあああああああああああああああああっ!」」」
だが、サーヴァントたちは悲鳴を上げてのたうち回る。
やがて、大きく動きながら、マスターの元を離れ、聖杯に……アマダムに並んだ。
「まさか……これって」
「そう。ウィザード、お前にはもう見せただろう? ルーラーは統制者。全てのサーヴァントの令呪を持つのだ!」
「でも、さっき簡単に……」
「ディケイドなんて知らん知らん! あんなのはただの例外! こうなるのが正しいの!」
地団太を踏むアマダム。
そして。
「嘘……だろ」
「コウスケさん、まずいよわたし……ッ!」
「可奈美ちゃん、逃げて!」
震える手をしながら、彼らは自らのマスターに牙を向く。
そして。
龍騎はウィザードへ。
友奈は可奈美へ。
響はビーストへ。
サーヴァントたちは、それぞれのマスターへ、牙を向けた。
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