すまぬ

「これからもだ」
「多いですか」
「これからは我等が天下を動かす」
　志士だった者達がというのだ。
「その我等に嫌われているならな」
「大殿はですね」
「これからも嫌われ悪く言われる、だが」
「それでもですか」
「このことは人に伝えておく」
　自分の中に留めずにというのだ。
「容堂公にはこうした面もあるとな」
「天下に伝えてくれますか」
「悪名ばかり伝わってもよくないであろう」
　そう思うからだというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「伝えておこう」
「それではお願いします」
　小姓もそれならと応えた。
「大殿はこうした方で嫌われてもです」
「平然としておられるな」
「何とでも言えとです」
　その様にというのだ。
「されていますが」
「それでもな」
「こうしたお話も伝えてくれれば何よりです」
「それではな」
　桂は小姓に頷いて応え土佐藩の屋敷を後にした、そのうえで長州藩の屋敷に戻りこのことを話すとだった。
　誰もが驚いた、特に高杉は唖然となって言った。
「いや、あの御仁にそうした面があるとは」
「思わなかったな」
「もういつもふんぞり返っていて」
　そしてというのだ。
「人は上士だけで」
「それでだな」
「郷士なぞ虫けら同然と思い」
「幾ら殺しても何とも思わぬな」
「天下の敵と思っていましたが」
「そこまで嫌っていたな、君は」
「はい、しかし武市殿をそう思っていたとは」
　桂に驚きを隠さずに話した。
「いや全くです」
「意外だな」
「はい、武市殿を仇と思い切腹させても」
「極めて強引にな」
「その才と人柄は好まれていて」
「腹を切らせたことは悪いと思っているのだ」
「そうなのですね、人は色々な面それに考えがあるのですな」
　高杉は今度は唸って言った。
「僕もわかりました」
「僕もだ、人はわからぬ」
「全く以て」　
　高杉は考える顔のままだった、そしてだった。
　彼もまたこの話を人に伝えた、そうしてこの話は今も語り継がれている。幕末という舞台の中の一人の人物の話の一つである、少しでも多くの人が読んで頂ければ幸いである。


すまぬ　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２３・５・１５