すまぬ
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第三章
「それは公一代の過ちです」
「だからだな」
「それがしはそれを何故されたかをです」
「吉田東洋のこと知っていよう」
容堂は右手に持つ盃を傾け酒を飲みつつ述べた。
「誰が殺したか」
「武市殿ですか」
「そして土佐勤王党の者達がな」
「証拠はありませぬが」
「だがそれは明白」
彼等が吉田東洋、容堂の右腕と言えた彼を暗殺したことはというのだ。
「それでだ」
「腹を切らせましたか」
「打ち首にした者もいた」
「そうですか」
「それでどうする」
今度は容堂が桂を見据えた、酔っているがその目の光は確かなものだった。
「天下が変われば今度はわしが首を取られるか」
「そのお覚悟があると」
「何を今更」
容堂はまた飲んだ、傍に控える小姓yが注いだ酒をそうしている。
「わしはそなた達志士に随分と嫌われている」
「だからでっちあげをしてもですか」
「そうではないか」
「それが出来ぬと言われていますが」
「今は幕府があるからな、だが天下が変われば」
この時はというのだ。
「どうか」
「それは」
「わからぬな、だが討ちたいなら討つのだ」
酒を飲みつつ言うのだった。
「あの者達の仇を取りたいならな」
「そうですか」
「嫌われているのはわかっておる」
今言った通りにというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「好きにせよ」
また言うのだった。
「それで気が済むのならな」
「罪をでっち上げてでも」
「わしがした様にな」
「証拠がなくともですな」
「そしてでっち上げてもな」
「それがしはそうしたことはしませぬが」
「ならそれでよいであろう、しかしわしにはあの者達を殺す理由があった」
確かなそれがというのだ。
「今言った通りな」
「吉田東洋殿のことで」
「左様、ただ郷士だから特に重く考えることなくな」
「殺したのは事実ですか」
「土佐では郷士はそんなものだ」
上士と郷士の区別が厳しい藩であることも話した。
「だからわしもな」
「気兼ねなくですか」
「殺した、それを怨むならな」
「天下が変われば」
「好きな様にせよ」
一行にというのだった。
「今すぐでもよい」
「そうですか」
「お主がここでわしを切ってもな、今のお主がわしを切っても何でもなかろう」
桂を見据えて言った。
「わしが切りかかったから返り討ちにしたとも言えばな」
「そうしたことはしませぬが」
「ならそれでよい、兎角わしにはあの者達を殺す理由があり」
「また彼等を軽く見ていた」
「このことで隠すことも偽ることもない」
こう言ってまた飲んだ、ここで桂は用を足しに一旦席を立った。そして戻って来るとだった。
容堂は酔い潰れていた、桂はその彼を見てあれだけ飲んでいれば当然のことと思った。だがここでだった。
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