奇才と天才は目を瞑る
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初めて会った日
エマと初めて会ったのは、エマの五歳の誕生日。
僕は十三歳になっていた。と言っても、誕生日会はしていなかったけれど、勝手に数えて、覚えていた。この僕がいる部屋は家の隅の方にあるけれど、それでも聞こえてくるほど大きな声で、エマの誕生日を祝っていた。
ーハッピーバースデーエマー
少しだけ、羨ましくなったのは事実だ。僕は八歳のあの日から、一日一回のご飯と、僕が騒がないためなのか、紙とペンを置いていく、その時しか、パパに会わなかったから。ママとは、あれから一度も顔を合わせてはいなかった。だから、忘れられたんだなと感じていた。僕は暇つぶしとでも言うのか、絵を描くのは少しだけ好きだったから、部屋中紙まみれになるくらい絵を描いていた。
誕生日会が終わり、あたりが静けさに包まれた頃、コッコッと、小さい音がして目を覚ます。
「幽霊さん、幽霊さん、こんにちは。」
エマの声だった。
「あのね、たまに音がするの。上の部屋から。幽霊さんが住んでるって、ママ言ってた。」
そっか、僕はこの家では幽霊さんなのか。今まで、エマと話してみたくて、二人が留守になった時、たまに音を出してみてた。それから、魔法でシャボン玉みたいなお魚を作ってみたり、気づいて、もらえないかなって。
初めてエマと話すんだ。少し言葉を考えた。
何から言おうって。けれど、結局気になっていたことを、一言言ってしまった。
「エマ、今は夜だから、こんばんはだよ。」
あ、と扉の向こうで声が聞こえる。
「幽霊さん、こんばんは!」
「こんばんは。」
それが僕らの、ファーストコンタクトだった。
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