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クリスマスイブストーリー②
クリスマスイブストーリー②
—— ペットランド、遊園地エリアのカフェ ——
「はい、お待ちくださいませ」
注文をしようと店員さんを呼び出すと、席にやってきたのはなぜか金髪のイケメンイタリア人だった。
「え!? デ、ディーノさん!?」
そのイケメンはどっからどう見ても、俺の兄貴分であるディーノさんだった。
しかし、その店員さんはニコリと笑顔を浮かべながらこう言った。
「ハハハ、すみませんお客様。私の名前は大馬恐竜おおまきょうりゅうですので人違いですよ?」
「え!? す、すみません!」
え? 人違い? 日本人?
いやいや、明らかに偽名だろ! 大馬恐竜って!
見た目も明らかに日本人じゃないし!
一度は引いたものの、どう考えてもおかしいので再度確認しようと思った俺は店員さんの方を見た。
「あの!」
「それでは、ごゆっくり」
——パチン☆
俺が話しかけるよりも先に、店員さんはウインクを女子陣にしてから席から離れて行った。
(……1人なのに、転ばない?)
『カッコイイ……』
イケメンのウインクに女子陣は顔を赤くしている。
(……どうしよう。あれは絶対ディーノさんだよなぁ。なんで高度育成高等学校に? そしてなぜペットランドで店員を?)
「……ごめん皆、俺ちょっとトイレに行ってくる」
「えっ!? あ、いやツっ君のほうがかっこいいよ!?」
『えっ!』
「え?」
席を立ちながらトイレに行こうとすると、なぜか軽井沢さん俺の事を褒め出した。
「あ、ご、ごめん! トイレね! いってらっしゃい!」
「う、うん。行ってくるね」
『……』
席を立ち、俺はトイレへと向かった。
—— 男子トイレ ——
トイレに入るフリをして声をかけようと思ったんだけど、ラッキーなことに店員は男子トイレに入って行った。
(お、ラッキー)
店員が入ってから少し待って、俺も男子トイレに入った。
(絶対にあれはディーノさんだったはずだ……わっ!)
トイレの中に入ると、入ってすぐの所で店員さんが立ち止まっていた。
「……」
俺が入ってきた事を察したのか、店員は俺の方に振り返った。
この顔……やっぱりディーノさんだよな。
「……ディーノさん、ですよね?」
「……」
店員さんは何も答えない。
このままごまかし続けるのか……と思ったら。
「……ククク。ハハハっw」
「!?」
「ハハハ、いや〜、悪かったなぁツナ」
店員さんは笑いながら謝ってきた。
ほら、やっぱりディーノさんだった。
「いや、別にいいですけど〜、っていうか! 何でここにいるんですか!?」
「ん? 今日だけの臨時バイトだぜ」
「バイト!? キャバッローネファミリーのボスが!? しかも日本の高校で!?」
「別に変じゃないだろ? お前だってイタリアンマフィアのボスじゃねぇか」
「いや、そうですけど!」
そう言われてしまうと……俺が言えたことではなかったか?
いや、でもディーノさんは関係者じゃないしな。
「俺はこの高校の生徒ですけど、ディーノさんは違うじゃないですか! 大人ですし!」
「冬休みの間だけは、部外者が入るのはOKらしいぞ」
「え! そうなの!?」
「ああ、学校の審査を通ればな。俺はボンゴレ関係者ってことで許可が下りた」
「あ、そうでしたか……」
ディーノさんは、俺に近づくと嬉しそうに肩をポンポンと叩いてきた。
「にしてもツナ。クリスマスイブに沢山の女の子達と遊ぶだなんて、お前もすみにおけねぇなぁ〜」
「あはは、いやいや、そんなんじゃないですよ。全員友達なんで」
「ほんとか〜?」
「はいっ!」
「マフィアなんだから、愛人くらい居てもおかしくねぇぞ〜」
「リボーンみたいなこと言わないでくださいよ〜」
……ディーノさんは愛人とかいないよな。
いや、うん、いるわけがないだろ!
考えたくないので、俺は話題を転換することにした。
「そ、それでディーノさん! 今日はなんでバイトなんてしてるんですか?」
「おう。今日はお前に会いにきたんだ」
「あ、俺にですか? ここまでは1人で?」
近くにキャバッローネファミリーの人達は見当たらないから、1人で来たのかと思ったんだけど……それだとディーノさんがきちんとウエイターの仕事をこなせてたのはおかしいんだよな。
「いや。ロマーリオと、他に2人部下を連れてきてる」
「あ、やっぱり。近くにいるんですか?」
「ああ。遊園地エリアにはマスコットキャラみたいなのが2体いるだろ? どっちも中身は俺の部下」
「あれキャバッローネファミリーの人だったの!?」
マスコットキャラらしき着ぐるみがいたとは思ったけど、まさか中身マフィアだとは思わないよ!
「……あれ、ロマーリオさんは?」
ロマーリオさんは眼鏡と口髭がトレードマークのブラジル人で、キャバッローネファミリー幹部の1人だ。
「ロマーリオはカフェの厨房にいるぜ。さっき持って行った飲み物はロマーリオが作ってんだ」
「そうだったの!?」
「おお。ロマーリオは料理も得意だからな」
(ロマーリオさん、上司想いで強くてしかも料理もできるとか最強すぎるだろ……)
狙撃の名人で料理名人か。高スペックだなぁ。
「……で? 俺になんの用があったんですか?」
「いやぁ、実はな。かわいい弟分に兄弟子として教育をしにきたんだ」
「え? 教育?」
教育って、一体なんだ?
ディーノさんってことはマフィア関係なんだろうけど。
首を傾げていると、ディーノさんは頭をポリポリと掻きながら話し始めた。
「そうだ。お前には、以前俺も挑戦したことのある試練を受けてもらうぜ?」
「! し、試練!?」
「そうだ。マフィアのボスとして必要な能力を育む、特別な試練だぜ」
ええ〜、いきなり試練に挑戦しろと言われましても!
「俺も昔にリボーンに受けさせられたんだぜ。俺の生徒は必ず超えないといけない試練だってな」
「うわぁ、リボーン発案ってことですか?」
「そうだな」
うわぁ〜、絶対大変な試練だろこれ。
ていうか特別試練って、俺は今冬休み中なんですけど!
……なんてことを言っても意味はない。リボーン発案ということは、生徒である俺に拒否権など存在しないのだから。
断れないのは分かったので、ディーノさんに詳しい話を聞くことにした。
「で、その試練とは?」
「おう。マフィアのボスに必要な資質……紳士力を鍛える試練だ」
「し、紳士力?」
「そうだ。いわゆるジェントルマンになろうってことだな。リボーン風に言うとダンディな男になれって感じか」
ああ、俺のダンディズムを見習えとか言ってた様な気もする。
……けど、紳士さなんてどうやって身につけるんだろう。というか必要なの?
その時、なぜかディーノさんが笑い出した。
「……ははっw 昔の俺と同じ顔してやがるw」
「えっ!?」
「紳士さなんて必要なのか、どうやって身に付けるんだよ……そんな感じのこと考えてたろ」
「ぐほっ!」
「はははw 図星みたいだなw」
考えていたことを完全に言い当てられてしまった。
さすがは兄貴分というところか。
ディーノさんは笑顔で俺の肩をポンポンと叩いた。
「まぁ今は分からなくてもいいさ。俺もそうだったけど、今となってはこの試練を受けておいてよかったって思ってるからな」
「は、はぁ……それで、詳しい内容は?」
「よし、では教えよう。お前がこれから受ける試練は……『ボンゴレ式紳士育成プログラム』という」
……まんまな名前だな。
そして不安しかない、ボンゴレ式って付いてる行事に今までロクなものなかったし!
「紳士育成プログラムは今日と明日……つまりはイブとクリスマスにかけて行われる」
「あの俺、今日と明日は予定が埋まってるんですけど……」
「分かってるさ、女子達との予定だろ? だからこそこのタイミングなんだ」
「?」
「女子との交流を通じて、お前に紳士さを身につけてもらうんだよ」
「交流を通じてって……どうやって?」
「まず、お前には明日の夜までこれを付けてもらう」
ディーノさんは、ポケットから何か薄いものを取り出した。
「ガーゼですか?」
「ああ。でもただのガーゼじゃないぜ。強目の電流を流す装置が付けられてるからな」
「電流!?」
「ああ。ツナ、お前にはこのガーゼを体に付けたままで2日間を過ごしてもらう」
「……それで、なぜ電流を流す装置が?」
「試練挑戦中は、お前の様子は常にリボーンに観察されてる。そして、お前が女子に対して非紳士的行動を取ってしまった時はリボーンが電流を流してくるんだ」
「最悪だぁ!」
なんだその試練は!
紳士として正しい行動をしなかったら電流ビリビリってこと!?
「あの、ちなみに電流ってのはどれくらいの威力が?」
「……う〜む」
「デ、ディーノさん?」
俺の質問を聞いて、ディーノさんは目を瞑って考え込んでしまった。
しばらくして答えが出たのか、ディーノさんはゆっくりと目を開けた。
「そうだな。γのファイナルショットくらいと考えてくれれば……」
「大技だなぁ! それ普通に受けたら死にません!?」
「まぁ大丈夫だ、今のツナなら受けても気絶すらしないらしい。すごい苦しいらしいけどな」
「それって地獄の苦しみってこと!?」
なんでクリスマスに苦しまないといけないんだよ!
(メリークルシミマスってことだぞ)
うるさいよリボーン!
モノローグに出てくるんじゃないよ!?
「まぁまぁ、とにかくこれを肩に貼っとけ。ここなら何回受けても死にはしないから」
「いや、だからそれが問題なんですよ」
「お前の言いたいことはわかるけど、俺達のかてきょーの命令だぜ? 聞いておいた方がいい」
「ううぅ……わかりましたよ」
ディーノさんからガーゼを受け取り、粘着できる部分を右肩に貼り付けた。
もうこれで、いつビリビリしてもおかしくないってわけか。
「……はぁ」
「頑張れツナ。俺もこっそり見守って、紳士的な行動を取る手助けをしてやるからよ」
「え、本当ですか?」
「おう、まかせとけ」
「それはありがたいです! よろしくお願いします!」
ディーノさんという味方がいるのは心強い、それでも憂鬱なことには変わりないけども。
「紳士育成プログラムは、お前が席に戻ったら始まる。席に着くその瞬間からリボーンに見られていると思って行動するんだぜ」
「は、はい。とにかく頑張ってみます!」
ディーノさんに頭を下げ、俺はトイレから出た。
(……席に着いた瞬間からスタートか。って言っても紳士的な行動とか分からないし、とりあえず皆を不快にさせないようにはしよう)
なんとなくで自分の行動方針を決め、俺は自分の席へと戻った。
「あ、おかえりなさいツナ君」
「う、うん。ただいま」
席に着くとひよりちゃんに声をかけられた。とりあえず笑顔で返事をしてみると、電流は流れなかった様だ。
ほうほう、やはり相手を不快にさせないようにしておけばいいのかもな。
そう思って少し安心してしまったのだが、紳士への道はそんな甘いものではないことをすぐに思い知らされることになった。
……それは、軽井沢さんとの会話中に起こった。
「ねぇツっ君、この後はどうする?」
「ん〜、とりあえずこのエリアを回ってみる?」
「そうね。他の皆にも確認とってくる」
「ありがとう、お願いしま……」
——ビリリッ!
「あぎゃっ!?」
『えっ?』
軽井沢さんが席を立ち上がろうとしたその時、俺の体に強い電流が流れた!
(痛ってぇ〜! え? 何今の? 今のがディーノさんの言ってた電流?)
すでに紳士育成プログラムはスタートしているので、きっとそうなのだろう。そしてすごく痛い!
「ツっ君? どうしたの?」
「具合悪いのですか?」
「もう少し休む?」
「ツナぴょん大丈夫?」
「ど、どこか痛いの?」
「あ、あはは……ごめんね。全然大丈夫だから」
心配してくる同じ席に座っていた女の子達。心配させない様にごまかしたけど、さっきのどこに非紳士的行動があったんだろうか。
俺は軽井沢さんが皆に伝言してくれるって言ってくれたからお願いしただけ……あ、もしかしてここか?
紳士なら、女の子を動かすんじゃないとかそういうこと?
(……た、確かめてみないと分からないな)
正直、何が正解かは分からないから、思いついたように修正していくしかない。
とりあえず俺も立ち上がり、軽井沢さんを座り直させた。
「軽井沢さん、俺が伝えてくるよ。君は座って休んでて?」
「う、うん。ありがとう。別に私でもいいのよ?」
「いやいや! ここは俺にやらせてくださいお願いします!」
「え! そんな頭を下げるようなことじゃ!」
綺麗なお辞儀をして軽井沢さんに休んでおくようにお願いする。
その甲斐あってか、軽井沢さんはあっさりと譲ってくれた。
「わ、わかった。じゃあツっ君にお願いするわよ」
「ありがとう! さっそく伝えてくる!」
『?』
軽井沢さん達の視線が何か怪訝だったけど、電流が流れなかった所を見るとこれで正解だったんだろうな。
俺は他の席に座っている皆に声をかけ、この後は遊園地エリアを回ることに決まった。
全員でお会計をする為にレジに行くと、ディーノさんがお会計をしてくれた。
「え〜と、全部で2,000ポイントですね。個別でお支払いされますか?」
「あ、はい。皆それでいい……」
「俺が払いまーすっ!」
『え?』
帆波ちゃんが皆を代表して取りまとめようとしていたが、俺は大声を張り上げてそれを阻止した。
個別の支払いを良しとしちゃうと、おそらく非紳士的な行動と判定されてしまうだろう。
だから何としてもここは俺1人で支払いをしなければならない!
たとえ皆に変な目で見られても!
まだ電流を受けて変な声を出すよりはましなはずだ!
しかし俺の行動が不可解だったのか、やっかいなことに鈴音さんが止めに入ってきた。
「綱吉君、ここは個別支払いの方が」
「いや〜! 俺が払いたいなぁ!」
「でも2,000ポイントよ?」
「全然余裕! だから払いたいなぁ!」
ポイントには余裕があるのは事実。
24億ポイントを貯めるなら節約しなければならないんだけど、これは必要経費だ!
しかしながら、Cクラスの事件の件で今日集まった女の子達にも大量のポイントが入っているのも事実。
なので女の子達にもポイントには余裕があるわけで……。
「そんな気を使わなくていいわ」
「うんうん、私もそう思う!」
「ツナ君にはいつも助けてもらってるし、今日くらい甘えていいんだよ?」
「そうそう。ツナぴょん1人で払うことないって」
「つ、綱吉君。私も払うよ?」
「そうだよ〜♪ 私も払うよ〜♡」
「ツっ君、私も払うわよ」
「私も払うよ、ツナ君」
「もちろん私もです」
「私も。申し訳ないし」
やっぱりだった。皆の優しさが染み渡るけれど、ここは折れてもらわないと困る。
なぜなら俺の命がかかってるからな!
「だめです! 俺が払います! はい、これ生徒会副会長命令!」
「損する事に権力を使うなんて……さすがツナ君♪」
「ツっ君……さすがだわ」
「あなたって変なところで強情よね」
(よし! 皆押され気味だ!)
これで押し切れるんじゃないかと思った。
だが、そう上手くいかないのが人生というものだ。ここで追加の邪魔が入ってしまう。
「なら綱吉、俺も半分出すぞ」
「清隆君、少し静かにしてて!」
「ええ……」
俺に怒られて「何で?」と言いたげな清隆君。
それは当然だろう、完全にとばっちりだもの。
必死の抵抗により、なんとか俺が支払うということでその場は収まった。(とばっちり被害者1名)
学生証端末で支払いを済ませてから皆とカフェを出ると、同じタイミングで近くの席に座っていた黒スーツの男も出てきた。
その男とふいに目が合うと、その男は表情変えずに何かをぼそっと呟いた。
「……最低ラインで通過か、まだまだガキだな」
「?」
何を言われたのかはよく分からないが、その男はスタスタと立ち去って行ってしまった。
(……あの人、どこかで見たことある気がするんだよなぁ)
頭の中で記憶を探っていると、ふいに桔梗ちゃんに声をかけられる。
「ツナ君? どうかした?」
「あ、ごめん。行こうか」
声をかけられたことで脳内世界から意識が戻り、俺は皆と共に歩き始めた。
—— 遊園地エリア、入り口 ——
カフェを出た後は、エリアの入り口にあるエリアマップを見ながらどう回っていくかを話し合うことにした。
「それで、どう回ろうか?」
「右回りで一周すればいいんじゃないか?」
遊園地エリアといえど、ペットランド という施設のワンエリアだ。全部回るのに2時間もかからないだろう。
「うん。じゃあ清隆君の言うように右回りで回って行こうか」
『は〜い』
全員の了承を得たので、早速右回りで遊園地を回って行こう。
〜メリーゴーランド〜
まず最初に見つかったのはメリーゴーランドだった。普通の遊園地と同じだが、ペットを乗せられるようにケージ付きのカゴが乗り物に取り付けられている。もちろん飼い主の責任でなら抱き抱えて乗ることも可能らしい。
乗り物の数はちょうど10台。どれか2つを2人乗りすれば全員乗ることができる。
「私とみーちゃんが2人乗りしますよ」
「そう? みーちゃんもいい?」
「うん。いいよ」
ひよりちゃんがみーちゃんと乗ると言ってくれたので、あとの1組2人乗りする人達を決めればいい。
と、いうわけで。あとは誰が2人乗りするかの話し合いになったのだが……。
「ジャンケン! ジャンケンで勝った人がツナ君と2人乗りね!」
『OK!』
なぜか俺が2人乗りすることは決定事項になっていた。
いや、まぁ別にいいんだけど、何か罰ゲームみたいになってない?
俺と2人乗りすることは罰ゲームに当たるんですか!?
——ポンっ。
「?」
1人で悲しくなっていると、清隆君が肩に手を置いてきた。
「綱吉、お前って本当に女子に対しては鈍感だよな」
「え? 急に何?」
「……何でもない」
なんか変なこと言ってきたなと思っていたら、ちょうどジャンケンが終了したところのようだ。
勝者は……木下さんだった。
「じゃあ、俺と木下さんが2人乗りね」
「う、うん。よろしく」
「うん。あ、じゃあ誰かナッツを……」
「ナッツは私が預かるわ」
「お、じゃあお願い」
ナッツを鈴音さんに預けた時、鈴音さんと木下さんがアイコンタクトのようなものを交わして頷きあっていたように見えた。何の合図かは分からないけど、鈴音さんと木下さんが仲良くしているようで嬉しいな。
「はーい、それではスタートしまーす」
皆が馬の形の乗り物に乗り込むと、スタッフさんがメリーゴーランドをスタートさせてくれた。
乗ってみて一つ失敗したと思ったことがある。何かというと、馬の形の乗り物なので2人乗りだとけっこう距離が近くなってしまうことだ。
(ああ。これは確かに罰ゲームになるかも?)
好きでもない男子と2人でメリーゴーランドに乗るとかきついよな。
木下さんも下を見て俯いてしまっている。
き、気まずい! すでに直径の3分の1を無言で回ってしまってるし!
どうにかしないければと焦る俺だったが、急に木下さんの方から口が開いてくれた。
「あ、あの沢田君」
「! う、うん?」
話しかけてはくれたが、木下さんはまだ若干俯き加減だ。
「……この間は、助けてくれて本当にありがとう。あと、同じクラスに受け入れてくれたこともありがとう」
「う、うん。全然気にしなくていいよ。俺も木下さんがクラスメイトになってくれて嬉しいから」
木下さんとひよりちゃんは3学期からD……いや新Cクラスの一員となる。
今回このペットランドに木下さんとひよりちゃんを呼んだのは、新学期前にクラスメイト達と交流する場を持たせたかったというところもあった。
ここまで見ていると、すでに大分今日のメンバー達とは打ちとけられているようでよかったと思っている。
「本当に感謝してる。だから私、これからは皆と一緒に頑張ろうと思ってる」
「そっか。俺も皆でAクラス目指して頑張りたいから嬉しいよ。今日のメンバーとはもう仲良くなれた?」
「あ、うん。皆優しくて私達の事をすんなり受け入れてくれたよ」
「でしょ? 俺のクラスメイト達は皆優しいからね〜」
俺がそう自信を持って言うと、木下さんはフフフと笑った。
「フフッっ」
「ん? どうかした?」
「ごめん、自分が褒められたわけじゃないのに、自分の事みたいに嬉しそうだったから。なんかかわいいなぁって」
「そう? あ〜、でもそうかもね。皆俺の自慢の仲間だしね」
「そっかぁ」
「うん。あ、もちろんこれからは木下さんとひよりちゃんもその一員だからね」
そう補足すると、木下さんは一瞬驚いたようだがすぐに優しく微笑んでくれた。
「フフ、うん。ありがとう」
(よし、俺と木下さんもだいぶ打ちとけてきたな! とりあえず今日の目標はの一つはクリアだな。今日以降も更に仲良くなれるように頑張ろう!)
今の会話と距離感にひとまず満足していた俺だったが、木下さんはさらに仲良くなろうとしてくれているようだ。
「……あの」
「?」
——キュ。
馬の乗り物には俺→木下さんの順で乗っているのだが、ふいに木下さんに服の背中部分を掴まれた。
「? 木下さん?」
「……」
木下さんは若干顔が赤いような気もする。顔が寒いのかな?
「あ、あの……沢田君」
「うん?」
「……その」
な、なんだ? 木下さんの顔がさらに赤くなってきてるぞ?
い、一体何を言われるの!?
どうしよう、変なことだったらまた電流を受ける事になりかねないぞ。
「さ、沢田君の……」
「……俺の?」
「……沢田君の事、名前で呼んでも、いい?」
「!」
なんだ、呼び方を変えたいって話だったのかぁ〜。
何を言われるのかってドギマギしちゃったよ。
「全然構わないよ」
「! 本当?」
「うん。あ、もしよかったら俺も名前で呼んでも良い?」
「ええっ!? う、うん。じゃあお互い名前呼びって事で!」
木下さん……改め美野里ちゃんは笑顔で嬉しそうにしている。
名前呼び一つでこんなに仲良くなれるものなのか。だったら獄寺君も今度あった時に隼人って呼んで……いや、やめとこう。
美野里ちゃんが笑顔のまま、メリーゴーランドは一周し終えた。
馬の乗り物から降りると、真っ先に鈴音さんの元へと駆け寄っていった。
「堀北さん、私」
「ほら、案外簡単だったでしょう?」
「うん!」
嬉しそうにしている美野里ちゃんに、鈴音さんは優しく微笑んでいた。
(よしよし、良い感じに美野里ちゃん達とクラスメイト達の距離が縮まっているな。結局メリーゴーランドでは電流を受けることもなかったし、よかったよかった)
今日の集まりを企画した甲斐があったなぁと感じていた俺だったが、この後にちょっと面倒な事態が起こる事になるとは……。
その面倒な事態とは、次のアトラクションに向かう途中で起こった。
最初に気づいたのは、波瑠加ちゃんと愛里ちゃんだ。
「メリーゴーランド乗ったの久しぶりだよ」
「私もだ〜。次は何のアトラクションに乗ろ……ん?」
「波瑠加ちゃんどうしたの?」
「……何だろうあれ。カンガルー?」
そう言って波瑠加ちゃんが指差した先に見えるのは、カンガルーらしき生き物と、1人の短髪の男性だった。
(このランドにはカンガルーがいるのか? ……というか、あの短髪の男性、どこかで見たことがある気が……え? まさか?)
「がうっ!」
「あ、ナッツ!」
カンガルーと一緒にいる男性について考えていると、突然鈴音さんに抱き抱えられていたナッツが飛び降り、そのままカンガルーと男性がいる方に走って行った。
(ナッツが駆け寄っていくということは……やっぱり?)
「俺、ナッツを追いかけてくる!」
「ツナ君!?」
「皆はゆっくり追ってきて!」
皆を残して1人で駆け出した俺。
なんでかというと、俺の予想が当たっているなら皆に聞かれる前に少しだけでも話を聞いておきたかったからだ。
「ナッツ!」
「がううう♪」
「ガァァァァ!」
「!」
ナッツに追いついた時、ナッツはカンガルーと向かい合っていた。やっぱりカンガルーだったようだ。
そのカンガルーは耳や前足に包帯を巻いており、額と左目に目立つ傷がついている。
(このカンガルーはやっぱり! ということは……)
カンガルーの姿を見て、やっぱり間違いないと確信した俺は、隣にいる短髪の男性の方に向き直った。
「……あの、なんでここにいるんですか?」
「ふっ! お前に会いに来たに決まっているだろうが! なぁ沢田!」
短髪の男性は豪快に笑いながら俺の背中をバシバシと叩いた。
「あはは……相変わらずですねぇ、お兄さん」
「当然だ! 俺の座右の銘は〝極限〟だからな!」
そう、この男性とカンガルーは俺の知り合い……いや仲間達だった。
ボンゴレⅩ世の晴の守護者である「笹川良平」と、その相棒の「漢我流かんがりゅう」だったんだ。
「この学校のセキュリティーがおかしくなったとかじゃないですよね? どうやって入ったんです?」
「正面突破だ!」
「え!? まさか無理やり!?」
「否! ボンゴレの力を借りて正々堂々と正門から入場したのだ」
「ああ、よかったです」
相変わらず極限なお兄さんに懐かしいような疲れるような複雑な気持ちを抱いていると、もう皆が追いついてきていたようだ。
「綱吉君、その人は知り合い?」
「わぁ〜、このカンガルーかっこいいねぇ!」
「包帯しているけど、怪我してるの?」
「あ〜、うん。そうなんだよ」
変に誤魔化すのもよくないので、ボンゴレ関係は抜きにした関係を話す事にした。
「俺の中学の先輩でさ。鈴音さんと桔梗ちゃんと愛里ちゃんは覚えてるかな、姉妹校に笹川京子ちゃんって子がいたでしょ? この人はその京子ちゃんのお兄さん。笹川良平さん」
「ええ!? 京子ちゃんのお兄さんなんですかぁ?」
「……そう言われると確かに、似てるかも?」
「俺は笹川良平! よろしくなお前達! 座右の銘は極限だ!」
『き、極限?』
「おう! ちなみにそいつの名は漢我流!」
極限なあいさつと、京子ちゃんのお兄さんということで皆が困惑している。
まぁ濃すぎていきなりは飲み込めないかもね。
でも変な人とは思われたくないので、好感度アップ間違いなしの情報も伝えておく事にしよう。
「ちなみにこの人、去年のボクシングのインターハイで全国優勝してるんだよ」
「えっ! すごっ!」
「ボクサーなんですか?」
「無論だ!」
「そんなボクサーさんがどうして高育に? ボクシング部と練習試合でもあるのですか?」
俺もそれが気になる。確かお兄さんは県外の強豪校に進学したはずだから、練習試合の可能性もあるな。
しかし、お兄さんが高度育成高等学校に来た理由は予想だにしない理由だった。
「いや、俺は沢田に会いに来たのだ!」
「それは嬉しいんですけど、何でです?」
「京子に沢田と会ったと自慢されてなぁ! くやしいから俺も沢田に会って自慢し返してやろうと思ってな!」
「そんな理由!?」
自慢し返したいからって……まぁ京子ちゃんに自慢されたんなら嬉しいんだけどさ。
(京子ちゃんって誰?)
(綱吉君の中学時代のお友達、今は姉妹校に行ってるんだよ)
(てか、なんかツっ君嬉しそうじゃない?)
(え? まさか?)
(いやいや。これ以上ライバルいらないから〜)
……? 何か冷ややかな視線を感じる?
「うむ。しかし、それだけではないぞ!」
「他にも何か?」
「そうだ! その為に沢田……これを着けろ!」
「えっ?」
お兄さんに何かを胸元に投げられた。
受け止めてから投げられたものを見てみると、それはボクシンググローブとフェイスガードだった。
「え? これは……」
「懐かしいだろう? 約3年前、お前と初めて話した時にもそれと同じ型を渡したからな!」
「それって、あのスパーリングの事ですか?」
確かお兄さんと初めて会った時、俺は自分のボクシング部入部を賭けてお兄さんとスパーリングをしたんだ。
……あの時と同じ型の道具を渡してくるということは……え?
「そうだ。さぁ沢田! 約3年越しの再戦と行こうではないかぁ!」
え? まさか?
「ええ? な、なんでですか?」
「俺達はお互いにあの時とは比べ物にならないくらいに強くなった! だが、ここいらで初心を思い出しておくのもいいだろう?」
「し、初心って! まさか!?」
え? まだ諦めてなかったの?
「そうだ! 初心に帰ってスパーリング! それで俺が勝ったら〜」
「か、勝ったら!?」
「お前にはボクシングを始めてもらう!」
「やっぱりか!」
……いや、マジでなんでだよ!?
読んでいただきありがとうございます♪
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