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伝説のバイク

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第一章

                伝説のバイク
 湘南の昔ながらの暴走族の間では一つの伝説があった、その伝説はかって湘南を掌握したチームのヘッドのバイクの存在だ。
 そのバイクは湘南の何処かに今も眠っているというのだ、その話を聞いてだ。
 まさに昔ながらのチームのヘッドである神奈川憲治リーゼントに面長の顔で細くした眉とソリコミが目立つ高校ではボンタンに長ランチームでは紫の特攻服の彼は言った。
「俺がだ」
「そのバイクに乗りますか」
「総長が」
「そうされますか」
「ああ、湘南のゾクならな」
 それならとチームのメンバーに話した。
「やっぱりな」
「そのバイクに乗る」
「湘南のゾクの頂点に立つなら」
「それならですね」
「そうだ、今は喧嘩チームもないがな」
 令和ではそもそも暴走族自体が湘南等以外では絶滅危惧種だと言われている。
「走りチームはあるしな」
「うちもですしね」
「いつも走ってますしね」
「休日の夜は」
「バイトして金貯めてな」
 そうしてバイクもガソリンも調達しているのだ、暴走族でも神奈川もメンバーも人の道を踏み外してはいないのだ。
「やってるな、そしてな」
「俺達は今走りの頂点です」
「総長はその俺達の中で一番速いです」
「それならですね」
「そのバイクを」
「ああ、手に入れてな」
 そうしてというのだ。
「乗ってみせるぜ」
「そうしますね」
「じゃあそのバイク探しましょう」
「そうしてそのバイクを手に入れて」
「乗って下さいね」
「そうするな」
 こう言ってだった。
 神奈川はメンバー達と共に高校生活と暴走族の活動の中で伝説のバイクの情報収集を行った、そしてだった。
 そのバイクの持ち主だった伝説の総長が今は川崎で暮らしていると聞いた、それでチームで川崎の彼の家に行くとだった。
 そこは道路沿いのラーメン屋だった、店は結構繁盛していてしかも奇麗だったが。
「ここですか?」
「ここにその伝説のヘッドがいるんですか?」
「あの、普通のラーメン屋なんですが」
「違うんじゃないですか?」
「いや、ここで間違いないらしい」
 神奈川はいぶかしむメンバーに答えた。
「この店にな」
「かつて湘南をシメていた総長がいるんですね」
「喧嘩は無配で走りも凄かった」
「その伝説の人が」
「そうらしいな、名前は長野一郎っていうらしいが」
 総長の名前も確認していた。
 それでだ、店のカウンターの中でラーメンを作っていた髪の毛がほぼない皺だらけの顔の太った優しい顔立ちの六十代位の男にその名前を尋ねると、こう言われた。
「俺だよ」
「えっ!?」
「だからそれ俺だよ」 
 老人は驚く神奈川達に自分を指差して答えた。
「それはな」
「いや、しかし」
「それ昭和の話だぞ」
 笑ってだ、男は神奈川達に話した。
「五十年位のな」
「それじゃあ」
「それからどれだけ経ってるんだ」 
 彼は笑ってこうも言った。
「四十年以上だろ」
「ま、まあそれは」
「俺の親父やお袋がまだほんの子供で」
「そんな頃で」
「ベイスターズもホエールズで」
「川崎球場もまだあった」
「そんな時代だぞ、俺もあの頃は紫のスーパーリーゼントにしてたけどな」
 その時の自分の髪型のことも話した。 
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