仮面ライダーAP
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暗闘編 ヘレン・アーヴィングという女 後編
「ウグォアァアッ……! アノオンナ、アノオンナノセイデェッ……! コロス、コロスコロス、コロシテヤルゥウッ……!」
爆炎に焼かれた人工皮膚は醜く爛れ、内部の機械が幾つも露出している。機械と生身が歪に混じり合った人体模型のような、醜悪極まりない戦闘員の姿は、さながら生ける屍のようであった。山地のアジトが跡形もなく吹き飛ぶほどの爆炎を浴びて、なおも辛うじて生き延びていた個体が居たのである。
旧シェードの元被験者である「失敗作」の他、その技術を模倣・流用した各国政府製の「粗悪品」も含まれているノバシェードの構成員達だが――中にはごく稀に、高いポテンシャルを秘めた「突然変異体」が含まれているのだ。かつて組織を率いていた明智天峯、上杉蛮児、武田禍継の三巨頭がそうだったように。
自分達を破滅に追いやった真凛・S・スチュワートに対する限りない憎悪。その絶大な怨恨は、肉体を凌駕するほどの精神力を齎していたらしい。彼女に対する憎しみだけで動き、全ての理性をかなぐり捨てた正真正銘の「怪人」は、白目を剥いて全方位に殺意を向けている。
「コロス、コロ、ス、コロスゥウッ……!」
強烈な怨念を帯びた唸り声が、その迫力をさらに引き立てている。人外の怪物にしか出せない、悍ましい迫力。そんな圧倒的なプレッシャーが、対峙する警察官達を襲っていた。
「け、警部っ! あ、あの化け物……! 間違いありません、ノバシェードの改造人間ですっ! アーヴィング捜査官が言っていた通り、ここは奴らのアジトだったんですよぉっ!」
「ちっくしょうがぁ……! 心底気に食わねぇが……全部、特務捜査官殿の言う通りだったってことかよッ! 撃て撃てぇッ! 怪物相手に遠慮なんざ要らねえ、市民に被害が出る前に撃ち殺せぇッ!」
「こ、この、このぉっ! 俺らのそばに近寄るなァァーッ!」
その異様な姿に動揺する警察官達は、即座に発砲を開始していたのだが――改造人間としての耐久性は辛うじて健在だったのか。生き残りの戦闘員は斃れることなく、その身を引き摺るように警察官達に迫ろうとしていた。
「ひ、ひぃあぁあっ! 来るな、来るな来るなぁぁあっ!」
「コロ、スゥッ……! ヒトリデモ……ミチヅレニィッ……!?」
やがて、弾切れを起こした警察官の目前に死に損ないの戦闘員が迫る。乾いた銃声が響き渡り、戦闘員の頭に1発の銃弾が命中したのは、まさにその瞬間であった。
「……生憎だけど。死ぬのはあなた独りよ」
「と、特務捜査官殿っ……!」
真凛・S・スチュワートから受け継いだヘレンの愛銃――「ワルサーPPK」が火を噴き、急所の脳を撃ち抜いたのである。鋭く目を細め、両手持ちで拳銃を構えていた女傑の銃弾が、戦闘員の凶行を間一髪のところで阻止したのだ。発砲の反動で、彼女の爆乳と爆尻がどたぷんっと揺れ動く。
「ゴッ、ガァッ……!」
「た、助かった……!?」
銃口から放たれたACP弾が戦闘員の脳髄を貫いた瞬間、血飛沫が上がり身体が痙攣する。警察官の喉首に伸びていた戦闘員の両手は、そこでようやく止まるのだった。
「ゥオォッ、オォオッ……! コロス、トクムソウサカン……コロスゥウッ……!」
「……!? この男、まだっ……!?」
だが、それで終わりではなかった。経験が浅いヘレンの狙いでは1発で仕留め切れなかったのか、またしても死に損なった戦闘員はヘレンに狙いを定め、彼女ににじり寄ろうとする。
元特務捜査官の真凛に対する憎悪を原動力としているこの男は、現役捜査官であるヘレンにも執着していた。彼女に命を救われた警察官の言葉が、新たなピンチを呼び込んでしまったのである。
「あれでも死んでないのかよ!? 絶対頭をブチ抜いたはずなのにっ!」
「……くそったれがぁ! お前らボサっとすんな、とにかく撃ちまくれっ! 特務捜査官殿をこんなところで死なせたりなんかしたら、俺達の面目丸潰れだろうがぁっ!」
「う、うおぉおおっ!」
警部をはじめとする他の警察官達はヘレンを守ろうと発砲を再開するが、戦闘員はどれほど蜂の巣にされても止まる気配が無い。もはや、生ける屍そのものであった。
恐らく、このアジトの番人を任されていた耐久性特化型の個体だったのだろう。彼は刺し違える勢いで、ヘレンを縊り殺そうと両手を伸ばしていた。その暗澹とした殺気を浴びせられたヘレンは、拳銃を構えながらも僅かに後退る。じっとりとした汗が滲む彼女の肉体からは、濃厚な雌のフェロモンが溢れ出ていた。
(……本来なら、一旦ここは退くべき。だけど……!)
このタイプを確実に制圧するならば、一旦退いて体勢を立て直すのが定石。だが、周りの警察官達も実戦経験が少ない者ばかりだったのか、耐久性特化型のタフネスに腰を抜かし、逃げることも出来なくなっている。
(死なせはしないわ……! 誰一人、死なせないッ!)
ここで自分だけ逃げ出そうものなら、今度こそ警察官達の中から犠牲者が出てしまう。周囲を見渡し、そこまで思いを巡らせたヘレンの判断は迅速だった。
「……はあぁああッ!」
内部機械が露出している大腿部を撃ち抜き、体勢を崩した戦闘員が片膝を着く瞬間。勢いよく地を蹴り、敢えて自ら飛び込むように急接近したヘレンは――位置が低くなった戦闘員の顔面に、渾身のローリングソバットを叩き込むのだった。
地を蹴って跳ぶ瞬間、張りのある極上の爆乳と、妊娠・出産に適した安産型の巨尻がどたぷんっと豪快に弾む。その僅かな滞空時間の中で、一瞬だけ背を向けた時。戦闘員の眼前にぶるんっと突き出された無防備な桃尻が、彼の視線を誘っていたのだ。1秒にも満たない刹那。その微かな「隙」が、戦闘員の反応を遅らせたのである。
「ゴッ、ガァッ……!?」
「……悪いわね。『足が滑った』わ」
弾丸の如き疾さで振り抜かれたヘレンの長い脚がピンと伸び、その足裏が瞬く間に戦闘員の頭部に減り込む。あまりの衝撃に鈍い音が上がり、戦闘員の首があらぬ方向に折れ曲がる。
目の前に一瞬、これ見よがしに突き出された極上の巨尻。雄の本能を煽る安産型のラインを描き、たわわに弾むその膨らみと、そこから滲み出る淫らなフェロモン。そんな「絶景」と「匂い」に、僅かでも気を取られてしまった。それが、この戦闘員の「死因」となったのである。
くびれた細い腰を空中で捻りながら、鮮やかな弧を描いて振るわれた美脚。その白く優美な脚は華奢な印象とは裏腹に、かなりの破壊力を秘めていたらしい。瀕死の状態だったとは言え、ノバシェードの戦闘員である男の首すら一撃でへし折ったのだ。並の人間なら、間違いなく即死ものである。
そして、彼女の華麗な蹴りが命中した瞬間。濃厚な女のフェロモンを帯びた汗が輝き、ヘレンの柔肌から飛び散って行く。怜悧で鋭い顔付きに対して、その汗の香りはあまりに淫らだ。どんな高級娼婦でも敵わない絶対的な色香が、黒スーツに押し込められた極上の女体から滲み出ている。
「ォ、ゴッ……! コロ、シ……!」
優雅でありながらも凄まじい威力を秘めていた、ヘレンのローリングソバット。その反動で、彼女の豊穣な爆乳と安産型の巨尻がばるんっと弾む瞬間――戦闘員の身体は糸が切れた人形のように、力無く倒れ伏したのだった。確認するまでもない。この戦闘員の命はたった今、確実に刈り取られたのである。
蹴りを終えて華麗に着地した瞬間、再び爆乳と巨尻がぶるんっと上下に揺れ動く。普段なら周りの男達は、その果実の躍動に目を奪われているところなのだが。今回ばかりは皆、戦闘員の首をへし折った蹴りの威力に注目していた。
(……あなた仕込みのこの蹴りが、皆を救ってくれたわ。ありがとう、真凛)
例え改造人間だろうと、脳を潰せばそれ以上は何も出来ない。それがかつての師である真凛の教えだった。その教訓を見事に実戦で活かしたヘレンは、周囲の人間を死なせることなくこの戦闘員を黙らせてしまったのである。
白い柔肌にじっとりと染み込む甘い汗の香りが、彼女の豊満な肉体から漂っていた。ぷるぷると揺れる豊かな乳房と桃尻からは、特に甘く扇情的な匂いが滲み出ている。第一線の特務捜査官として鍛え上げられ、細く引き締まっている腰回りに対して、その膨らみはあまりに大きい。内側から押し上げられている黒スーツの繊維は限界まで張り詰めており、今にもはち切れそうになっている。
「す、すっげぇ……! なんつぅ威力の蹴りだよ……! アイツの首をへし折っちまうなんて……!」
「……あの姉ちゃんの方が、よっぽどバケモンじゃねぇか。へっ、心配して損したぜ」
そんな彼女がこの一瞬で見せ付けた、鮮やかな蹴り技と威力。そして臆することなく改造人間にも立ち向かう勇気に、周囲の警察官達は息を呑み、畏敬の眼差しを向けていた。当初はヘレンに対して懐疑的な視線を向けていた警部も、「仲間」の無事に安堵して頬を緩めている。
当初は彼女が現場に現れた時から、仕事終わりに連絡先を聞き出そうと狙っていた警部達だが、今となっては誰もそんなことは考えられなくなっていた。下手な真似をすればあの蹴りが飛んで来る。そのリスクを承知で強引に迫れる度胸など、並の人間にあるはずもない。
掌には到底収まり切らない豊穣な爆乳に、安産が確約されている極大の巨尻。雄の本能を挑発する妖艶な唇に、濡れそぼった蒼い瞳。そして雪のように白く、きめ細やかな柔肌。あの美貌と肉体を手に入れられる男が居るとしたら、心底羨ましい。妬ましい。それが警部達のシンプルな感想だった。
「……」
一方、警察官達を守るためとはいえ生き残りの戦闘員を殺害してしまったヘレンは、最適解とは言えない自身の行いを悔いている。自嘲の笑みを溢して俯く彼女の貌は、戦いを制した「勝者」のそれではなかった。
(咄嗟のこと、とはいえ……重要参考人を殺害してしまった。捜査官失格ね、私)
まともに対話が成り立つ状態ではなかったとはいえ、この件の重要参考人となり得る唯一の生き残りを始末してしまったのだ。これで完全に、真相を究明するための手掛かりを失ってしまった。
警察官達を守るための判断そのものに後悔は無い。だがそれでも、「もっと上手くやれたのではないか」という悔いが頭から離れないのだ。
(……これで一件落着。だけどやっぱり……あなたのようには行かないわね)
ふと、脳裏を過ぎるのは――かつての同僚にして親友、そして師匠のような存在だった先任捜査官。彼女ならば、もっと効率的に対処することが出来たのではないか。そう思わずにはいられなかった。
真凛が対策室を去ってから、約1ヶ月。ヘレンは彼女に代わってノバシェード関連の捜査に没頭し続けていたが、1日たりとも彼女を忘れたことは無かった。師匠であり、先輩であり、同僚であり、姉のような存在でもあった唯一無二の親友。そんなかけがえのない存在を、忘れられるはずがないのだ。
せめて彼女の分まで、特務捜査官としての務めを全うしたい。その思いを胸に事件を追う日々を過ごしているが、やはり「彼女が居れば」という気持ちを捨てることは出来ずにいる。
「……泣けるわ」
今回の耐久性特化型戦闘員も、彼女ならば死なない程度に手加減して無力化することも出来たのだろう。警察官達を守ろうとするあまり、本気の蹴りで首をへし折ってしまった時の嫌な感覚は、まだ片脚に残っている。ヘレンは独り、自分の非力さをぼやいていた。
(それでも……今は、失ったものを数える時間も惜しい。今はただ、前に進んで行くしかない。その分だけ、きっと救える命がある)
だが、その気持ちを抱えたままでも今は戦わねばならない。居なくなった人間にいつまでも縋っていては、成長など出来るはずもない。
何より、自信の無さを理由に足を止めていては、その間に人が死ぬ。それこそノバシェード対策室の特務捜査官として、あってはならない失態なのだ。
(……それで良いのよね? 真凛)
そんな師の教えを心の奥底で唱えつつ、ヘレンはゆっくりと顔を上げ――朝陽に彩られた森林地帯の景色を見つめる。決意に満ち、凛としている彼女の貌は、一人前の特務捜査官に相応しい気高さに溢れていた。
後書き
今回は暗躍編の後編で描かれた爆発オチの後、現地調査に来ていたヘレンを主人公とする後日談……的なおまけ回となりました。最後まで読んで頂きありがとうございました!٩( 'ω' )و
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