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体育祭当日① 〜迫り来る悪意〜

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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今回から体育祭当日のお話です!

体育祭当日① 〜迫り来る悪意〜

 

 ついに体育祭当日がやってきた。

 

 開祭の合図の花火が打ち上がると、高度育成高等学校の全校生徒一同が行進してグラウンドに入場する。

 

 各組の総指揮者が宣誓するだけの簡単な開会式が終わると、生徒達は各組に別れて待機用のテントへと戻って行った。

 

 ちなみに後進中にチラッと見えたのだが、グランドの周りに見物客が何人かいるようだ。

 

 生徒の保護者が来れるわけはないから、きっと敷地内で働く人達だろう。

 

 多分、っていうか間違いなく?

 

 だって1人だけ、マシュマロの袋を片手に観戦してる人がいるんだもん……

 

 いつもと違うのはそこだけじゃない。グラウンドの入り口付近に、20人くらい入れそうなコテージが作られている。

 

 クーラーやウォーターサーバー等が備え付けられているから、休憩スペースって所かな。

 

 そして赤組と白組のテントは、トラックを挟んだの外周に向かい合わせで設置されている。距離が遠いのは選手以外の接触を防ぐ為か?

 

 そして、テントに入ると堀北さんが口を開いた。

 

「随分本格的ね。結果判定用のカメラまで設置されてるわ」  

 

 そう言う堀北さんの視線を追うと、確かに100m走などで使うであろう場所にカメラが置かれている。

 

 おそらくプロの陸上選手とかが使うような高いやつに違いない。

 

「結果を正確に測定する為だろうな。どんなに僅差だとしても明確に優劣を付けるってことだ」

 

 堀北さんに続き、綾小路君も口を開いた。

 

 明確な優劣か……

 本当にほぼ実力が物を言う特別試験だな。

 

 体育祭の第一種目は全員参加の「100m走」。

 あと少しで1年から順に始まるんだけど、俺はその前にやっておきたい事があった。

 

「ねぇ、平田君」

「? 沢田君、どうかした?」

「あのさ、始まる前に皆で気合を入れない?」

「え、気合?」

「そうそう。体育祭を頑張るぞ〜みたいな掛け声とかでいいんだけど」

 

 この学校に限らず、体育祭では団結力が大事なはず。

 だから最初にクラスの団結を少しでも深めておきたい。

 

 意外とこういうのでテンションが上がる人も多いだろうしね。

 

「……うん、いいね! やろうか!」

 

 平田君は一瞬考えるとすぐに了承してくれた。

 そして、手を叩いてクラスメイト全員を集めた。

 

「皆。体育祭で勝つ為、そして団結力を深める為に掛け声をしよう!」

「掛け声? いいねそれ!」

 

 平田君が発言した効果か、クラスメイトの殆どがやる気になってくれたようだ。

 

「じゃあ沢田君、音頭を頼むよ!」

「え? 俺が?」

 

 こういう時は平田君がやるもんだと思ってたんだけどな。

 その方が皆もやる気になるかなって。

 

 平田君の方がいいんじゃないかと周りの反応を見てみると、意外にも受け入れられているようだ。

 

 皆は無言で俺を見て音頭を取るのを待ってくれている。

 

「……」

「ツナ! 早くやろうぜ! 100m走始まっちまうぞ?」

「そうだぜ沢田、ここは一つ景気いいのを頼んだ!」

 

 須藤君と池君からも促してもらえたので、俺は元気よく声を出した。

 

「皆! 今日は一致団結して頑張ろう! 大丈夫、俺達はいい結果を残せるよ! 赤組も勝つ! 皆で体育祭を乗り越えよう!」

『おーっ!』 

 

 Dクラスの皆で手を大空に向けて突き上げる。

 これが出来ただけでも、今日までの準備期間が報われる気がした。

 

 

 よし! 俺も死ぬ気で頑張るぞ!

 目標は最優秀生徒賞、そして赤組の勝利だ!

 

 

 —— 第一種目「100m走」 ——

 

 100m走等の個人競技は、1年から順々に参加表に記載した順番通りに次々とスタートしていく。

 

 1年男子→1年女子→2年男子という感じだ。

 休憩を挟んだ後からは3年からスタートに変わるらしいけど。

 

 走者全員がゴールしたらすぐに次の走者が出走するから、3学年の男女が30分くらいで走りきれるようだ。

 

 ちなみに、俺は1年男子の最後の組で走る事になっている。

 

「しゃあ! 100m走が始まるぜ! 1組目の俺がスタートダッシュを決めてやるから、お前らも続けよ!」

「ううう〜。早速拙者でござるか〜」

 

 1組目の走者は須藤君と博士だ。

 Dクラスでは、勝つ確率を上げるために遅い人と速い人で組み合わせている。

 

 100m走が始まり、さっそく須藤君達の出番が来た。

 

 須藤君を第1走者にしたのは相手の出鼻を挫く為。須藤君が1着でゴールし、その勢いに全員が乗るというシンプルイズベストな作戦だ。

 

 他の第1走者を見る限り走るのが得意な人は見当たらないけど、最初にコケると後に響いてしまう。

 

(須藤君! 頑張ってくれ! 俺は君の力を信じてる!)

 

 クラス的に見れば須藤君と他クラスのエース級とぶつかった方が助かるかもしれないけど、こればっかりは運だからな。  

 

 それに、最終走者もエース級が出てくる可能性は高いし、その時は俺が頑張ればいい話。

 

 とにかくまずは勢いを付ける事が大事だ。

 

「よっしゃあ! 行くぜ!」

 

 スタート位置でクラウチングスタートの構えになる須藤君。

 

 それだけで君は負けないって思えちゃうから、須藤君って本当に頼りになるよな。

 

 ——パアン!

 

 スターターピストルの音が鳴り響き、1組目の戦いがスタートする!

 

「おおおお!」

 

 いきなり後続を引き離した須藤君は、そのまま誰にも追いつかれる事なくゴールまで駆け抜けた。

 

 1組目は須藤君の圧勝で終わった。

 博士は最下位でのゴールだったのでトントンかもしれないけども。

 

 ——パアン!

 

 すぐに2組目がスタートした。1回目を鳴らしてからまだ20秒程度しかたってない。

 中学までの体育祭とは比べ物にならないくらい事務的だ。

 

 そして3組目が準備を始めたのだが、Dクラス男子の3組目の1人、高円寺君の姿が見えない。

 

 どうしたんだろうと思ってキョロキョロしていると、俺と同じ最終組の池君がコテージを指差した。

 

「おいおい、まさか本番もさぼりかよ!」

 

 池君の視線の先には、コテージの外壁にもたれかかる高円寺君の姿があった。

 

(……高円寺君。やっぱり参加してくれないかぁ)

 

 実は、今日までずっと高円寺君には本番は頑張ってほしいと頼んでいた。

 

 しかし「興味ないねぇ」「シーチキンボーイ。私に頼らずとも勝ってくれなければ困るねぇ」とか言われて断られていたんだ。

 

「……仕方ないね。高円寺君は不参加みたいだ」

「ちくしょ〜、なんであいつはいつもこうなんだ? せっかく一致団結して頑張ってんのによ!」

 

 ブーブー言う池君を宥めていると、ついに俺達の番が回ってきた。

 

「沢田! 頑張ろうぜ!」

「うん!」

 

 池君と拳を突き合わせ、スタート位置でクラウチングスタートの体勢を取る。

 

 ——パアン!

 

 スターターピストルの音が鳴り、俺は走り出した。

 スタートダッシュに成功してなんとか先頭に出る事に成功する。

 

(……よし、通常状態で勝てそうだな)

 

 長い1日を考え、なるべく気力を温存するために厳しい戦い以外では死ぬ気の炎エネルギーは使わないと決めていた。

 

 今回も全力で走れば通常状態で勝てそうなので、温存する事にしたわけだ。

 

 そして、無事に俺は1位を取る事が出来た。池君も4位を取れている。

 

「はぁ……はぁ……さすが沢田だぜ! ナイス1位!」

「ははは、池君も4位取れたじゃん? ナイスだよ」

 

 1年男子の全組が走り終えたので、男子はテントへと帰った。

 

 そして、テントに帰ってすぐに、須藤君がどこかに行ってしまう。

 

(……まさか?)

 

 嫌な予感がして慌てて後を追いかけると、案の定須藤君は高円寺君に突っかかっていた。

 

「高円寺! テメェは本番も不参加か!」

 

 須藤君は怒りを露わにして、恫喝するように高円寺君に大声を張り上げた。

 

「……美しい〜♪」

 

 一方で高円寺君は、手鏡で自分の顔を見るのに夢中で須藤君に気づいてもいなかった。

 

「テメェ……殴られねぇと分かんねぇのか!?」

「ちょっ! だめだよ須藤君!」

 

 須藤君の拳が振り上げられ、振り下ろされる寸前に止めに入る。

 振り上げた腕を掴んでいるので、殴る事も防げたようだ。

 

「止めんなよツナ! これはクラスにとって大問題だろ?、殴んねぇと理解できないんだよコイツは!」

「ふぅ〜。君は相変わらずむさ苦しいねぇ、レッドヘアー君。私は体調不良だから安静にしているだけだが?」

「嘘つけ! いいからちゃんと参加しやがれ!」

「君も彼女も、私の力に頼りすぎなんじゃないかな?」

「彼女? 誰のことだよ!」

「君が熱を上げているクールガールのことだよ。彼女にも今日まで毎日のように念を押されてねぇ」

「……堀北が?」

「まぁそれはシーチキンボーイも同じだけどねぇ」

 

 堀北さんも俺と同じような事をしていたらしい。

 お互いに成果は出なかったけども……

 

「さぁ、テントに戻るんだ。私は気分がすぐれない」

「! テメェ!」  

「須藤君! だからダメなんだって!」

 

 本日二度目の須藤君の暴走。

 今からこんなんじゃ、須藤君が競技に集中できなくなっちゃうよ!

 

「ほら、そろそろ次の競技が始まるよ! リーダーの君が不在だとクラスの士気も下がっちゃうよ」

 

 俺の説得が効いたのか、須藤君は舌打ちをしてから引き下がってくれた。

 

「……ちっ! わーったよ!」

 

 怒りは収まっていないのか、須藤君はドスドスと音を立てながら歩き始めた。

 

(せっかくいい感じにスタートが切れたのに……これではむしろマイナスになっちゃうぞ)

 

 そしてテントに戻った後、須藤君は並べられたパイプ椅子に乱暴に座った。

 

「あの野郎、マジで今度ぶっ飛ばしてやるぜ! 糞が!」

 

 行き場のない怒りを暴言と激しい貧乏ゆすりでごまかそうとする須藤君。

 

 そんな彼を見て、平田君が声をかけてきた。

 

「沢田君、須藤君はどうしたの?」

「高円寺君が今日も不参加でしょ? それに怒ってるんだよ」

「ああ、そういう事か……」

 

 平田君は悩ましげな顔で須藤君の背中を見つめた。

 

 イライラしている須藤君には近づけないのか、クラスの女子達は須藤君から距離を取っていく。暴力的な一面を知っているから当然っちゃ当然だ。怖いに決まってるもんな。

 

(……最初の掛け声が無駄になっちゃったな)

 

 テント内の殺伐とした様子を見ていてそう感じた。

 

 こうなってはしょうがない。どうにかして須藤君の機嫌を取るしかない。

 

 そう思っていた所、1年女子の最終組がスタート位置についた。

 

「……堀北見て落ち着くか」

 

 堀北さんを見て急に落ち着いた須藤君。

 ラッキーだけども、恋の力って恐ろしいなぁ。

 

 皆が堀北さんの走りに注目する中、後ろからゼェゼェ言う息遣いが聞こえてきた。

 振り返ってみると、息が苦しそうな佐倉さんが立っていた。

 

「さ、佐倉さん、頑張ったんだね」

「はぁ、はぁ……う、うん」  

 

 顔も少し赤い。きっと全力を尽くしたに違いない。

 

「さ、沢田君。見てくれてた?」

 

 目をキラキラさせながら俺を見上げる佐倉さん。

 なんというか破壊力が半端ない。女子ってずるいよね。

 

 でも俺は、残念ながらコテージに行ってたから、佐倉さんの頑張りを見ていなかった。しかし、見てないなんて言えないよなぁ。

 

「うん、頑張ってくれてありがとう! 次の出番までゆっくり休みなよ」

「! うん! えへへ……」

 

 佐倉さんがパイプ椅子に座って休み始めた後に綾小路君に聞いてみたら、佐倉さんは1人の女子に勝ったらしい。

 

(佐倉さん、お疲れ様!)

 

 その後、グラウンドの方に視線を戻すと、堀北さんがゴールする所だった。

 

「お〜っ! あぶねぇ〜!」

 

 須藤君が吠えた。

 堀北さんは1位でゴールできたらしい。

 

「でも2位の奴もすごかったな!」

「陸上部でもねぇのにな!」

「Cクラスって所がムカつくけどね!」

 

 どうやら堀北さんはCクラスの誰かと接戦したらしい。

 

 女子の100m走も終わり、戻って来た堀北さんに近づいて声をかける。

 

「白熱したみたいだね」

「ええ。思ったよりも伊吹さんが速かったから驚いたわ」  

 

 堀北さんと接戦したのは伊吹さんだったのか。

 確かにあの子は運動神経良さそうだったもんな。

 

 〜100m走、終了〜

 

 全学年の100m走が終了すると、点数の集計が始まった。  

 

 現在の点数は……赤組2,011点、白組1,891点。  

 

 赤組が若干優勢のようだ。

 

 まだまだ序盤だから、気を抜いてはいけないぞ!

 

 

 ——  第2種目「ハードル走」 ——

 

 2種目の競技はハードル走だ。

 

 走りながらいくつかのハードルを跳び超えてゴールすればいいわけだけど、ハードルを倒したりハードルに接触した場合はタイムのペナルティが付けられる。

 

 ハードルを倒した場合は0.5秒。ハードルに接触した場合は0.3秒がゴールしたタイムに加算されるらしい。

 

 10mごとに置かれた10個のハードルを、着実に飛び越えながらいかに速くゴールできるかを競う競技だ。

 

 この種目では須藤が最後の組、逆に俺が最初の組でスタートする事になっている。

 

「お前ら! 最下位取りやがったら、ビンタの刑だからな」  

「お前は龍園かよ! どんな恐怖政治だ!」

 

 テントの前方から皆にプレッシャーを掛ける須藤君。冗談だと思うけど、今その冗談は逆効果だ。

 

 止めたいけど、俺は最初の組なのでもうグラウンドに出ないと行けない。ちなみに、もう1人は最初の組は博士だ。

 

「博士、行くよ?」  

「せ、拙者は腹痛でござる! 欠席してもいいでござる?」  

 

 博士は脂汗をかいて震えている。でも本当に具合が悪いのではなく、ハードルを飛び越えるのが苦手だからだろう。

 

「博士、自分なりに頑張ればいいんだよ?」

「ううう〜、でも怖いでござる〜」

「無理はしなくていいから、その為に俺と同じ組にしたんだし」

「おい博士、全部のハードル倒していいから絶対に完走しろ」

 

 宥めようとしている俺の話に割り込み、須藤君は博士に恐怖で体を動かさせた。

 

「こ、こぷぉ!? わかりましたですぞ!」  

 

 普段ではあり得ない機敏さでグラウンドに向かう博士。

 俺も急いで追いかけた。

 

(ごめんね博士。最下位でもポイントは入るけど、失格だとポイントなしになる。だから須藤君も君に出て欲しかっただけだから)

 

 そして、1組目のハードル走の結果は俺が1位。博士が最下位という結果で終わった。

 今回は少しだけ死ぬ気の炎エネルギーをジャンプ力を上げるのに使わせてもらった。

 

 1年男子が終わり、次は1年女子がスタートする。1組目は堀北さんと佐倉さんだ。

 

 堀北さんはいつもの通りに凛としているけど、佐倉さんは緊張しているのか動きがぎこちなくなっている。

 

 そんな2人の様子をみていると、平田君が話しかけてきた。

 

「堀北さん、陸上部に2人も当たっちゃったみたいだね」

「え? そうなの?」

「うん。Cクラスから出てる2人は、どちらも陸上の選手なんだ」

「陸上部か……優秀な人達なの?」

 

 そう聞くと、平田君は頷いた。

 

「うん。矢島さんと木下さんって子なんだけど、2人共ハードル走の選手だったはずだよ」

「そうなんだ……」  

 

 一抹の不安を感じながら見守っていると、女子の1組目がスタートした。

 

 堀北さんはスタートから飛ばして1位に躍り出るが、ハードルを跳び始めた途端にCクラスの2人に追い抜かされる。

 

「くっ!」

 

 堀北さんも必死で喰らいつくが、やはり本職の本気には及ばずに3位という結果に終わってしまった。

 

「あ〜、惜しかったね」

「うん、激戦って感じだったね」

 

(陸上部、それも担当種目の2人を同じ組に持ってくるなんて……これは采配ミス、か?)

 

 違和感を覚えつつも、特に誰かに言うことはしなかった。

 

 

 

 —— 第3種目「棒倒し」 ——

 

 自陣営の棒を守りつつ、相手陣営の棒を倒せば勝ち。

 ……というシンプルな競技である棒倒し。

 

 本日最初の団体戦。試合のルールは2本先取した組の勝ちというもの。

 

 各組はオフェンスとディフェンスをクラスで分ける事になっていて、相手の組の同じポジションのクラスとの接触は禁止だ。

 

 そして団体戦なのでAとDの2クラスで1チームを組む。

 

 Dクラスからは須藤君、俺、山内君、池君、平田君が出場する事になっていた。

 

「絶対勝つぞテメェら!高円寺がいないからその分気合い入れろよ!」

 

 AD連合の皆の前に立ち、須藤君がそう吠えた。

 

 須藤君から目線を逸らして白組のBC連合を見てみると、1人だけガタイが良すぎる人を発見する。

 

「あいつ、アルベルトだっけ? あの体は反則だよなぁ」

 

 メンバーの1人である山内君が、Cクラスの山田アルベルト君を見てそう呟いた。

 

 日本人離れした肉体に黒い肌。

 どうやらハーフらしいけど、日本人の血が全く見当たらない。

 それくらい異彩を放つ存在だった。

 

 そして、その後ろには龍園君の姿も見える。

 

(……俺を潰すのなら、何か仕掛けてくるよな)

 

「あんなの相手にすんのかよ……」

 

 Aクラスの皆も、アルベルト君を見て少し腰が引けてしまっているようだ。

 

「作戦通り、1試合目のオフェンスは俺達Dクラスでやる! Aクラスは葛城を主体にディフェンスを頼む!」

『おお!』

 

 Aクラスからは須藤君に負けず劣らずの筋量を持つ葛城君も参加している。なので、オフェンスは勝気な須藤君中心に、ディフェンスは慎重な葛城君中心にと前もって決めていたのだ。

 

 ただ、2試合共それでは2試合目には攻略されるかもしれないという事で、2試合目は攻守を交代することにしている。

 

 須藤君の号令で全員が配置に付く。そしてBC連合も配置につくと、ついに棒倒しがスタートする。

 

 ——ピイッ! 

 

『おおおお!』

 

 試合開始のホイッスルが鳴り響き、両陣営からオフェンスが飛び出していく。 

 

「殺されたいヤツからかかってこいや!」

「物騒すぎるよ!?」

 

 恐ろしい事を叫びながら敵陣に突っ込んでいく須藤君に続き、俺も敵陣に突っ込む。

 

 まずは俺と須藤君で道を作り、できた道に他のDクラスメンバーが流れ込み一気に棒を倒す。そういう作戦だった。

 

 殴ったり等の露骨な暴力は禁止だけど、生徒同士で接触する競技である以上は掴み合いになっても仕方ない。

 

 1試合目、白組のディフェンスはBクラスだ。

 

 俺達の侵攻をBクラスの人達が待ち構えている。

 

「おらおらぁ!」

 

 持ち前の高身長とパワーを武器に白組の棒を囲んでいる人達を次々と退けていく。

 俺も負けじと棒周辺にいる人達を引き剥がして行った。

 

「須藤を止めるんだ!」  

 

 Bクラスの男子の1人がそう叫ぶと、数名のディフェンスが須藤君を取り囲み始める。

 

「くそ! しつこいんだよ!」

 

 須藤君が力任せにディフェンスを破っても、またすぐに取り囲まれてしまい中々動けない。さすがにこの人数では厳しいようだ。

 

「須藤君! 俺が行くよ!」

「! おお! 頼むぜツナ!」

 

 須藤君に大勢のディフェンスを割いてくれているおかげで、俺はほぼノーマークと言っていい。

 

「おおお!」

「! くっ! 誰か……」

 

 全力ダッシュで棒に向けて突っ込んでいく俺。それに気付いて、Bクラスの1人が他のディフェンスを呼び戻そうとするがもう遅い。

 

 棒の周りに少し残っていたディフェンスをタックルするように振り払い、勢いそのままに白組の棒を倒す事に成功した。

 

「よしっ!」

「おしっ! ナイスだぜツナ!」

「ナイスプレイ沢田君!」

 

 自陣に戻りながら須藤君と平田君とハイタッチを交わした。

 

「よしっ! 2試合目だ! しっかり守るぜ!」

『おおっ!』

 

 2試合目はDクラスがディフェンス。Bクラスがオフェンスだ。

 一方、白組は今度もBクラスがディフェンスで、Cクラスがオフェンスらしい。

 

 ——ピイッ!

 

「……行け」

「OK.BOSS」

 

 試合開始のホイッスルと共に、龍園君の号令によりCクラスが突撃してくる。  

 

 Cクラスのメンバーは全員が須藤君のようなガタイのいい人達ばかりだ。

 アルベルト君を先頭に突っ込んでくるその集団は、まるで群れでサバンナを走る象のように見える。

 

「来るぞ!」

「うん!」

 

 俺と須藤君で棒をがっしりと掴み、平田君達は棒を守る壁となる陣形を組んだ。

 

「……SHIT」

「うわあっ!」

 

 

 アルベルト君が突っ込んでくると、平田君達はあっという間に吹き飛んでしまった。

 

「皆!」

「ちっ! ツナ、気合入れんぞ!」

「う、うんっ!」

 

 棒をしっかり支えられるように下半身にしっかり力を込める。

 

「来いヤァ!」

「…… BAD BOY」

 

 敵陣ではAクラスの葛城君達も棒の近くまで位置まで進軍しているけど、俺達が倒されるより速く倒せるだろうか。

 

「ぐぉっ!?」  

 

 その時、須藤君の呻き声が聞こえてきた。

 どうやら誰かが須藤君に攻撃したらしい。

 

「誰だよ! 腹を殴りやがった奴は! ぐう!」

 

 一度だけではなく、何度も攻撃を受けているのか、短い呻き声が何度も聞こえてくる。

 

「うっ!」

 

 そしてその攻撃は俺にも波及してきた。

 

「ぐうっ!」

 

 幾度とない攻撃に、須藤君はついに膝を地面についてしまう。

 

 しかし、それでも攻撃が止む事はなく、須藤君の背中を踏みつける奴までいる始末。  

 

「がああっ!?」  

 

 とてもじゃないが事故では済ませられない、凶悪な一撃に須藤君が吠える。

 

「……ふん」

「り、龍園。テメェ……ぐああっ!」

 

 須藤君の背中を踏みつけているのは龍園君だった。

 

「ぐっ! す、須藤君!」

 

 骨を折るつもりのような躊躇いのない一撃を食らう須藤君。  

 

 く、くそ! 俺を狙い撃つんじゃないのか!?

 このままでは須藤君がひどい怪我を負ってしまうかもしれない!

 

「ぐっ! す、須藤君……」

「! こいつ、何で動けんだよ!」

 

 背中に攻撃を受けつつ、棒をしっかりと支えながら須藤君の元にゆっくりと移動する。

 そして、片手で棒を支えながら須藤君の腕を掴んだ。

 

 幸運な事に、全員が攻撃に夢中だからか棒を直接触ってくる人はいなかった。

 

「……す、須藤君」

「……ツ、ツナ。すまね……」

 

 ——ドンっ!

 

「……え?」

「……ごめん!」

 

 俺は須藤君を起こした後、そのままCクラスの奴らがいない位置へと突き飛ばした。

 

(須藤君を潰させるわけにはいかないんだ!)

 

「つ、ツナ!」

「大丈夫! ここは俺が抑えるから!」

「野郎……おい、さっさとパシリを潰せ」

「は、はいっ!」 

 

 須藤君がいなくなり、棒を守るのが俺1人になった事でCクラス全員の攻撃が俺に集中する。

 

「くそ! さっさと倒れろや!」

「しつけ〜んだよ」

「……CRAZY BOY!」

「ぐ、ぅぅぅぅ……」

 

 背中や下半身の筋肉全体に死ぬ気の炎エネルギーを纏纏わせる。

 かなりの気力を消費するが、この攻撃を耐えるにはこれしかない!

 

「く、くそっ! おいテメエら! ツナを助けんぞ!」

「う、うん!」

「お、おう!」

 

 須藤君達も、後ろからCクラスの奴らを引き剥がそうと頑張ってくれている。

 

「くっ! 早く倒れろ!」

「ぐうう……」

「……ちっ!」

 

 俺が中々倒れないので、龍園君は大きく舌打ちをした。

 そして、そのすぐ後。

 

「おおおお!」

「くっ!」

 

 ——バタン!

 

 BC連合の棒が葛城君の手で倒された!

 

『試合終了! 赤組の勝ち!』

 

 審判の先生によって赤組の勝利が告げられる。

 そして同時にCクラスからの攻撃もピタッと止んだ。

 

「はぁっ……」

「ツナ!」

 

 さすがにきつくて地面にへたり込むと、須藤君達が駆け寄ってきた。

 

 

「ツナ! 大丈夫か!?」

「う、うん。全然平気だよ」  

 

 死ぬ気の炎エネルギーを纏わせておいたおかげか、ひどいダメージは受けずに済んでいた。

 

「そうか。……くそ、あの野郎! 今度見かけたら殴り倒してやる!」

 

 そう言うと、須藤君は怒りに目をギラつかせて棒を蹴った。

 

「やめてよ須藤君。そんなことしたらCクラスの思う壺だよ」

「でもよお!」

 

 自分も痛めつけられた事よりも、俺を集中砲火をした事に対して激怒しているようだ。

 

「沢田君の言う通りだよ。相手の罠に乗っちゃいけない」

「ツナがこんなに痛めつけられてんだぞ!? お前は悔しくねぇのか平田!」

「もちろん悔しいよ! でも本人がやめてって言ってるんだし、沢田君の意思を汲むべきだよ!」

「ぐ……」

 

 平田君の説得が効いたのか、須藤君は怒りを剥き出しのまま荒々しくテントに帰っていった。

 

「ほら、立てるか沢田?」

「ありがとう、池君」

 

 俺も池君に引っ張ってもらって立ち上がり、池君の肩を借りながらテントへと戻った。

 

 そして、テントに着いた時に須藤君は……

 

「くそっ! くそっ!」

『……』

 

 パイプ椅子を蹴り飛ばしていて、周りのクラスメイトに怪訝な眼差しを向けられていた……

 



読んでいただき、ありがとうございます♪
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