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イベリス

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第百一話 残暑を感じてその九

「実に惨たらしくです」
「やられてですね」
「最後は殺されます」
「物凄く理不尽ですよね」
「そして惚れたが悪いかと言って」
 この作品で最も印象的な台詞だと言われている。
「泥舟が沈み溺れ」
「叩かれながら死ぬんですよね」
「そして狸を殺した兎はです」 
 その純真無垢な美少女はというのだ。
「汗を拭いて汗かいちゃったで、です」
「終わりですね」
「狸に何をしてもです」
「火を点けて芥子を塗って」
「殺してもです」
「それで終わりですか」
「罪の意識なぞです」
 それこそというのだ。
「全くです」
「なくてですね」
「ただ自分を好きになって」
「言い寄られて嫌で」
「タイプでなかったので」
 自分の好きなというのだ。
「そうしました」
「無茶苦茶酷いですね」
「こうした失恋もありますし」
「狸から見れば失恋ですね」
「立派な」
「そうですよね」
 咲もそれはと頷いた。
「狸視点では」
「この場合狸は生きていたらです」 
 若しそうであったらというのだ。
「復讐鬼になってもです」
「おかしくなかったですか」
「そう思います」
「今お話している」
「原典では兎が復讐鬼ですが」
 そうなっているがというのだ。
「太宰の作品ではです」
「狸が生き残っていれば」
「そして失恋のことを言われると」
「周りにですね」
「そうなります」
 まさにというのだ。
「ですからまことにです」
「失恋のことは言わないことですね」
「あれだけ酷い目に遭うこともです」
「失恋はあるんですね」
「そこからさらにです」
「水に落ちた犬は叩けとか」
「そんな考えで、です」 
 それでというのだ。
「軽い気持ちで攻撃すれば」
「その人は復讐鬼になって」
「そしてです」 
 そのうえでというのだ。
「一生です」
「怨まれますね」
「本当にそうなるので」
「失恋のことは言わない」
「それは絶対で自分はです」
「失恋しても」
「それでもです」
 速水の言葉は真面目なものだった。 
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