ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル
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第111話 やってきました砂の世界!四天王ゼブラという男!
前書き
砂塵の谷などの機器を狂わせる成分を含んだ砂塵などはオリジナル設定ですのでお願いします。ヤマタノサソリの捕獲レベルは原作の設定である28になっています。
side;イッセー
「はい、これで大丈夫ですよ」
「チッ、これじゃ飯にがっつけねえじゃねぇか」
「仕方ないだろう、他の人間を怖がらせないための苦肉の策だ」
俺達は現在スイートハウスに帰ってきて旅立つ準備をしている所だ。これから砂漠を超える事になるからな、食料や水はしっかりと用意しておかないと。
それでゼブラ兄を少しでも本人だと他の人たちに分からせないように特に目立つ頬の裂けをアーシアに治してもらった。これで多少はマシになったかな?
「皆さん、ご飯が出来ましたよー」
「オラぁ!待ってたぜ――――――ッ!!」
「ああ―――――――っ!?」
小猫ちゃんの言葉にゼブラ兄はテンションを上げて頬を裂いてしまった。
「こら、ゼブラ兄!折角アーシアが治してくれたのに何やってんだよ!」
「うるせぇ飯なんだ!テンションも上がるだろうが!」
「あっ、認めやがった!テンション上がったって事はやっぱり小猫ちゃんの飯が……」
「黙れイッセー!ぶっ殺すぞ!」
「やってみろこの野郎!」
俺は外に出てゼブラ兄と取っ組み合った。
「はぁ、さっきから喧嘩ばかりね……」
「イッセー君、本当にゼブラさんの事になると負けず嫌いになるのですね。でもそんなところも可愛いですわ♡」
リアスさんは呆れた表情になり朱乃は俺に可愛らしい笑みを見せてくれる。いや自分でも分かってるんだけどどうしてもゼブラ兄には負けたくないって思うんだよなぁ……
―――――――――
――――――
―――
「ふん、お前も強くなったなイッセー。まだ俺と殴り合いが出来る奴がいるなんて嬉しいぜ、退屈しねぇで済むからな」
「あんたこそあの処刑獣を食っていたとはな、通りで強くなってるはずだ」
食事を終えた俺はゼブラ兄と話をしている。なんとゼブラ兄はあの処刑獣を食っていたというんだ、そりゃ強くもなるわな。
「ただいまー」
「おう、帰ったかティナ。ゼブラ兄の出所はニュースになったみたいだな」
「うん、しっかり伝えておいたよ」
俺はティナの働いているテレビ局にゼブラ兄の出所の情報を渡すように頼んでおいた。機密事項だが既に情報は漏れていたし親父にも許可は貰ったからな、曖昧な情報より確定してる方が対策も取りやすいだろう。
因みにここ最近ティナは俺達と一緒に行動していて仕事は良いのか?……と思ってる人もいるかもしれないがそこは大丈夫らしい、これまでの俺達が捕獲してきた食材を独占してニュースにしていいと許可を出しているからな。
結構な人気があるらしいぞ。
「上司のあの悔しそうな顔ったら最高だったわ。今度皆の独占インタビューさせてよ」
「まあ考えておくよ」
ティナの言葉に俺はとりあえず頷いておいた。なんでも俺や皆は今結構話題になってるみたいだからインタビューがしたいらしい。
だが今はメロウコーラが先だ、これから過酷な旅が始まるんだからな。
「でも本当に凄いね、ゼブラさんの出所の情報が確定したら世界中大騒ぎだよ」
「ニュースは全部ゼブラ関連、株も大きく動いているな」
祐斗とアザゼルさんがネットを見ながらそんな感想を言う。二人の言う通りゼブラ兄の出所は世界中で取り上げられている、ゼブラ兄が何処に向かうのか予想するお天気予報ならぬ『ゼブラ予報』まであるくらいだ。
「そりゃ実際に26種類の生物を絶滅させたっていう実績があるからな。最早歩く核爆弾だな」
「そんな人を外に出して大丈夫なの?怖いよイッセー君……」
イリナは不安そうな顔をして俺に抱き着いてきた。
「大丈夫だよ、イリナ。ゼブラ兄は善人とは言えないが怒らせなきゃそんなに怖くないさ」
「ううっ……でもやっぱり怖いからギュってしてほしいな」
「甘えん坊だな、イリナは。ほらよ」
「えへへ~♡」
まあイリナが不安がるのも仕方ないよな。俺はイリナを強く抱きしめる、彼女は俺の胸に顔を埋めてグリグリと押し当ててきた。
(……あれ絶対ゼブラさんをダシにして甘えてるだけですね)
(イリナちゃん、怖いもの知らずですわね……)
小猫ちゃんと朱乃は何故か溜息を吐いていた。二人も不安なのか?
「おいイッセー、飯食ったら暴れたくなった。喧嘩しようぜ」
「嫌だよ、さっきしただろう?」
「はっ、やっぱり泣き虫は直ってねぇみてえだな。腰抜け」
「は?上等だ、表出ろ」
俺はプツンと来てゼブラ兄の喧嘩を買った。
「師匠、買い物は終わりましたよー。もう出発できます」
「おっそうか。ならサンドガーデンに向かうとするか」
「はい。でも旅立つ前にボロボロですけど大丈夫ですか?」
「アーシアに治してもらうよ」
その後食料を買ってきたルフェイを連れて俺達はサンドガーデンに向かう事になった。
「所でイッセー、どうやってサンドガーデンに向かうの?いつもみたいにジェット機を使うのかしら?」
「いやサンドガーデンは『砂塵の谷』っていう電子機器を狂わせる成分を含んだ砂塵の吹き出す谷に囲まれているんだ、航空機じゃ行き来できない」
リアスさんの質問に俺は航空機は使えないと答えた。
「じゃあどうやって向かうの?」
「本来は『リフトハウス』っていう片道一か月の専用の施設を使うんだがそれじゃ時間がかかり過ぎる。だからフロルの風で向かおうと思ってる」
「じゃあ既にマーキングをしているの?」
「いや本当はルフェイに頼んでひとっ飛びしてもらおうと思ったんだけど知り合いが丁度サンドガーデンに行くらしくてマーキングをやってくれるって言ってくれたから頼んだんだ」
「知り合いって誰なの?」
「俺達も知ってる人ですよ、まあ行けば分かりますよ」
その知り合いからは皆を驚かせたいから会うまで名前を言わないでくれと頼まれているから今は内緒だ。
「よし、それじゃ早速行くぞ!」
俺達はフロルの風を使いサンドガーデンに向かうのだった。
―――――――――
――――――
―――
「わぁ―――っ!辺り一面砂だらけですね!」
「ああ、ここが砂の楽園、サンドガーデンだ」
小猫ちゃんは辺り一面に広がる砂の大地に目を輝かせていた。
「砂の楽園?ここって観光地なのかい?イッセー君」
「ああ、この砂漠は米で出来た『米砂漠』、砂糖で出来た『黒糖砂漠』などの美味な砂のある『グルメ砂漠』や石炭やレアアースの取れる『資源砂漠』、ダイヤや砂金の取れる『ジュエル砂漠』があるんだ」
「えっ!ダイヤ!?イッセー!私そこに行きたいわ!」
「俺もレアアースが欲しいぞ、資源砂漠にはいくのか?」
「師匠!私も資源が欲しいです!」
「イッセー君!グルメ砂漠に行こうよー!」
「うわぁっ!みんな落ち着けぇ!?」
祐斗の質問を聞いた俺はこの砂漠の特徴を言うとリアスさんがジュエル砂漠に、アザゼル先生とルフェイが資源砂漠に、イリナがグルメ砂漠に行きたがった。
「行きたいなら連れて行ってやるが今はメロウコーラだ!だから落ち着けって!」
「おいイッセー、いつまでくだらねえ事やってんだ。俺は腹が減ったぞ」
「あ、ああ……悪い悪い」
ゼブラ兄が不機嫌そうにそう言う、これ以上怒らせたら面倒だし早く街に行かないとな。
「おい、小娘ども」
「は、はい!なんでしょうか!?」
するとゼブラ兄が俺ではなく皆に声をかけた。
「一つだけ教えといてやる、生き残りたかったら俺に適応しろよ」
「て、適応……?」
「そうだ、俺の事は環境とでも思いな。お前らが適応できなければ死ぬだけだ、いいな?」
「は、はい……」
ゼブラ兄の言葉に全員が冷や汗を流しながら頷いた。
……ったく、変な事を言うなよな。
「みんな気にするな、ゼブラ兄なんて美味い飯でも与えてればなんとかなるさ」
「イッセーてめぇ!本当に俺に全く適応しようとしねぇな!」
ゼブラ兄が怒るが俺は構わずに皆を連れて街に向かった。
「ここはサンドガーデンの入り口にある町だ。まあ玄関口だな」
「腹減ったな、ん?」
町に着くとやはりゼブラ兄は目立つのか俺達を見た人が目を飛び出すほど驚いていた。頬の傷をふさいでもバレるよな……
「おいてめぇ、なに見てんだ?」
「ひ、ひぃ……命だけは……!」
「助かりたいか?なら美味い砂料理を出す店を教えろ」
「は、はい……!」
近くにいた男性を早速脅しているゼブラ兄、仕方ないな、最悪俺が止めないと……
「……先輩、本当にゼブラさんを連れて行くんですか?」
「小猫ちゃん?」
すると近くにいた小猫ちゃんがゼブラについて話し始めた。この距離では普通にゼブラ兄に聞こえる、それでも彼女は怯えるそぶりを見せずに話を進めていく。
「私はこれでも料理人になるべく修行をしています、そして多くの食材にこれまで触れてきました。危険な食材や猛獣もあって時には命の危険にも脅かされましたがそれも自然の姿……私はそんな食材たちに色んな経験をさせてもらい成長できました。だからこそ食材には敬意をもって感謝しながら命を頂くべきだと思っています」
「……」
「でもゼブラさんは違います。自分勝手な感情で命を奪って挙句には絶滅させるなんて……しかも全然反省していないじゃないですか!また同じことを繰り返すかもしれません、そんな人を出所させたことは私は間違ってると思います」
小猫ちゃんは一切恐れることなくそう言い切った。
「……そうね、私もゼブラさんと一緒に行動するのは正直反対だわ。あの人はココさんやサニーさんとは違う、明確な犯罪者よ。眷属を危険にさらしそうな人物を信用は出来ないわ」
「僕も同じ意見だよ。イッセー君の判断を疑いたくないけどもしあの人が皆を殺そうとするなら僕は戦う覚悟だよ」
「わたくしもリアスや祐斗君と同意見ですわ。女王としてリアスを守らないといけない、だからハッキリと言わせてもらいます。彼は信用できません」
リアスさん、祐斗、朱乃もゼブラ兄を危険だと話す。
「私はゼブラさんと仲良くしたいですけど今は正直怖いです……今まで多くの傷を治してきたからなのか薄っすらと見えてしまいました。ゼブラさんを恨む獣さん達の怨念が……」
「ぼ、僕も怖いです……正直猛獣の方が話が分かるんじゃないかって思うくらいに……」
「あんなおっかない人間初めてよ……今まで沢山のグルメ犯罪者についてニュースで話したけどゼブラがダントツで恐ろしいわ……」
アーシア、ギャスパー、ティナは明確な恐怖を訴えた。
「うーん、私はイッセー君の義理のお兄さんだから悪く言いたくないけど良い印象が無いのも事実なのよねー。まあ出会ったばかりだし今から知っていこうと思うわ!」
「……私も彼は危険だと思うがイリナの言う通り出会ったばかりでよく知らないのも事実だ。まずは見極める事が大事だと思う」
イリナは前向きな発言を、ゼノヴィアは警戒はしているがそれでもゼブラ兄を見極めたいと言う。
「私も正直今は警戒してますね、まあゼノヴィアさんの言う通りまずは彼を知るべきだと思います」
「ワン」
ルフェイもゼノヴィアと同意見だと言いテリーは警戒の視線をゼブラ兄に向ける。
「俺も色々悪どい事をやってきたからとやかく言う気はねえが危険だと判断したら対応させてもらうぜ。一応引率なんでな」
アザゼル先生は大人の目線で俺達の安全を優先すると答えた。
「……ぷっ、あっはっは!」
「ゼブラ、ボロクソに言われ過ぎだし!」
それを聞いた俺とリン姉は思わず笑ってしまった。
「えっと……先輩?」
「ああごめん、皆を馬鹿にしてるつもりじゃないんだ。まさかゼブラ兄に向かってあんなハッキリとボロクソに言うとは俺も思っていなかったんだ。本当に皆と一緒にいると楽しいよ」
俺は困惑するみんなに謝った。いやだってほとんどの人間はゼブラ兄の前ではおべっかを使って影で悪口を言うんだ、そしてゼブラ兄にバレて俺やココ兄達が止める……ってのが昔からあった。
流石に皆も気を使ってしまうと思っていたがまさかゼブラ兄に聞こえるようにハッキリ言うとはな……やっぱ根性あるわ。
「まあ皆の言ってることは正しいよ、俺だってデザートラビリンスじゃなかったら誘う気なかったし実際に犯罪者だからな」
「なら……」
「ただゼブラ兄は命を簡単に奪っても殺した獲物は絶対に食うからな。たとえ不味くても文句言いながら喰う、そこがあるから嫌いになれねえ」
「……」
「それにゼブラ兄はなにも必ずこの世に悪影響しか与えていないわけじゃないんだ」
「26種類も生物を絶滅させておいてですか……?」
「ああ、そうだ」
俺はゼブラ兄に声をかける。
「ゼブラ兄、飯食いに行くんだろう?準備は俺がするから皆も連れて行ってくれよ」
「せ、先輩!?」
俺の発言に小猫ちゃんや皆は驚いた顔をする。
「はぁ?なんでこんなガキ共と……」
「出所したばかりで金無いだろ?カード貸すから頼むよ」
「チッ、勝手についてくりゃいいだろう」
俺からブラックカードを受け取ったゼブラ兄は脅した男性に砂料理の店に案内させた。
「イッセー、どういうつもりなの?」
「言葉でどうこう言うより実際にゼブラ兄と行動した方があの人の事を分かりやすいと思ったんですよ」
「それは……」
「まあ大丈夫ですよ、最悪ルフェイに頼んで何かあったらフロルの風で俺を呼べって言ってますので」
「まあそれならいいけど……」
ストッパーが出来る俺がいないことに不安そうな顔を浮かべるメンバーだが俺がそう言うと一応安心したようで承諾してくれた。
「あっゼノヴィア」
「なんだ、イッセー?」
「お前は残ってくれ、ちょっと話がある」
「えっ?……分かった」
ゼノヴィアは一瞬驚いたが納得して頷いた。
「イッセー君、ゼノヴィアをお願いね」
「分かった」
イリナは相棒の不調を見抜いていたようで俺にそう言ってきた、流石長年パートナーをしてきただけの事はあるな。
俺はイリナに頷くと皆もゼブラ兄を追いかけていく。残ったのはゼノヴィアとテリーだ。
「よし、俺達も行くか」
「そういえばイッセー、フロルの風をマーキングしてくれた協力者とはまだ会っていないがもうこの辺にはいないのか?」
「この町にいるぞ。今頃皆を驚かせる準備をしているだろうな」
「そうか、私も会ってみたかったな」
「心配しなくても直ぐに俺達も会えるさ。だからやることをさっさと終えて皆と合流しよう。後砂漠は日差しが強い、肌が焼けない様にこのフードを被っていくぞ」
「分かった」
そして俺達は町を離れて目的の場所に向かった。
「イッセー、私達は何処に向かっているんだ?」
「『貯水ラクダ』をレンタルしてる町だ」
「ラクダ?」
「ああ、砂漠の旅では必需品な存在だ。特に水は一応多めに用意しているがそれでも沢山あった方が安心だからな」
俺は貯水ラクダをレンタルすることが目的だとゼノヴィアに話す、貯水ラクダは蛇口のついたラクダで自由に水を出すことが出来る希少なラクダだ。
俺は砂漠を渡りながらそのレンタルラクダがある街を目指す。その道中で俺はゼノヴィアと二人っきりになった目的を果たすため彼女に声をかける。
「なあゼノヴィア、なにか悩みでもあるのか?」
「えっ……」
「ここ最近少しボーッとしてる事があるからな、何か悩んでるんじゃないか?」
「……」
「もしかして俺が原因か」
「ッ!」
俺の言葉にゼノヴィアはドキリとしたような顔になった。ゼノヴィアから視線を多く感じたからな、もしかしたらと思っていたが当たっていたようだ。
「済まないゼノヴィア、俺は知らない間にお前に不快な思いをさせていたみたいだ」
「い、いや違う!私が悪いんだ!いつまでもウジウジしている私が……」
ゼノヴィアはそう言って目を逸らした。
「ゼノヴィア?」
「……なあイッセー、男と女の間に友情は存在しないって本当か?」
「へっ?」
「前に見た雑誌に書いてあったんだ、男と女に友情など存在しないと……結局肉欲にまみれた爛れた関係になるんだって……」
「お、おう……」
「私をそれを見た時お前との友情を馬鹿にされたような気がしたんだ、だから私達の関係は決して爛れたモノじゃないと証明したかったんだ。でも……」
ゼノヴィアは顔を赤くしながら俺を見つめた。というかなんて雑誌を読んでんだよ……
「駄目だったんだ、お前と一緒にいるとどんどん胸が熱くなって……イリナ達が羨ましいって思うようになっていったんだ。どんなに美味しい物を食べてもこの感情は消せなかった」
「ゼノヴィア、お前……」
「すまない、イッセー……私は汚れた人間だ。お前との友情を穢してしまった」
「……」
えっと……つまりゼノヴィアは俺が好きなんだけど彼女は俺との友情を大事にしていて汚れたモノではないと証明したかったって事か?
「なあドライグ、どうすればいい?」
『しるか。お前はこんな展開ばかりだな』
「アウ」
ドライグに呆れられた声でそう言われテリーも「またか……」と言いたげな顔で呆れていた。
「……なあゼノヴィア、お前は俺の事が好きって事で良いのか?」
「ああ、私はお前の事が好きなんだと思う……」
「そうか……」
どうしよう……砂漠のど真ん中で親友だと思っていた女の子の好意を知ってしまったぞ。
いやゼノヴィアが俺の事を好きだって言ってくれたのは滅茶苦茶嬉しいし彼女が望むならそういう関係にだってなりたいと思ってる。アーシアやイリナもゼノヴィアなら喜んでくれそうだし。
『お得意の女を口説くスキルでさっさと堕とせばいいだろう』
「そんなもん得意にした覚えはねえよ!」
『そうか?小猫達にはペラペラ言ってるじゃないか』
「うるせぇ!」
俺はドライグにそんなスキルは持った覚えがないと怒る。
「とりあえずゼノヴィア、そんな雑誌は信用しなくていい。全部がそうだとは言わないけど雑誌なんて読んでもらう為に大げさな事を書くこともある、ああいうのは参考程度にするのが一番だ。結局はその人間がどうしたいかが大事だからな」
「そうなのか……」
「それに友達から始まる恋だってあるだろう、それが不純かどうかは当人が決めればいい。大事なのはゼノヴィアがどうしたいかじゃないのか?」
「私が……」
俺の言葉にゼノヴィアは下を向いて悩む表情を見せる。
「……こういう時にどうしたら分からないんだ。なにせ私は今まで戦いしか経験したことがない、異性を好きになったことなど一度もないんだ。それにお前はアーシアやイリナの恋人でもあるだろう?アーシアは人生をお前に救ってもらった、イリナも幼いころからお前の事を想い続けた……二人の愛は本物だろう。そこに私のような新参者が入り込んだら二人に悪いと思ってな……らしくないのは分かっているんだが……」
なるほど、ゼノヴィアはアーシアとイリナにも遠慮していたんだな。
「ゼノヴィア、お前は本当に優しい奴だな。二人を気遣っていたのか」
「……」
「でもなゼノヴィア、あの二人はそれと同じくらいお前の事が大事だと思うぞ。だからお前は素直に自分の気持ちを俺に言えばいい、二人だって同じ事を言うさ」
「イッセー……」
ゼノヴィアは何かを決意した顔になり話し始めた。
「……私もアーシアのようにお前に抱きしめてほしい、イリナのようにキスをしてほしい……私はイッセー、お前が好きだ!お前を愛してる!」
「ゼノヴィア……」
ハッキリとそう答えたゼノヴィアを俺は強く抱きしめた。
「ゼノヴィア、本当の気持ちを教えてくれたりありがとう。お前の気持ちは本当に嬉しいよ」
「そうなのか?」
「ああ、俺の心臓も鼓動が早くなってるだろう?お前を意識してるからだ」
「そうか、確かに私の耳にハッキリと聞こえるくらいに早く動いているな……」
ゼノヴィアは俺の胸板に頭を押し付けて鼓動を聞いていた。
「ゼノヴィア、俺もお前が好きだ。かっこよく戦うお前も美味しそうに食事をするお前も全部が愛しいんだ」
「そ、そんな……愛しいだなんて……恥ずかしいぞ……でもお世辞でも嬉しいよ」
「本心だよ、誰でもこんなこと言う気はない。小猫ちゃんやアーシア達のように本当に好きな子にしか言わない。ゼノヴィア、俺の女になってくれ。俺もお前が好きだ、愛してる。ずっと側にいてほしい」
「イッセー……」
ゼノヴィアは顔を赤くして俺の顔を見上げる、そして唇を突き出して目を閉じた。俺はそれに応えるように顔を寄せて唇を重ねた。
「ん……」
ただ唇を重ね合うだけのキスだったが凄く興奮した、でもがっつくのはカッコ悪いので我慢する。一分、二分……そして5分が過ぎた。
「ぷはっ……」
お互い鍛えているから常人よりは息が長続きしたがゼノヴィアが息切れしたんか彼女から離れた。
「フフッ、これで二度目だな」
「ああ、そうだな」
ライフで偶然キスしてしまった事を思い出してお互いに笑みを浮かべる、そしてまたキスをした。
「イッセー、ウジウジ悩むなんて私らしくもなかった。心配かけてすまなかったな」
「そうだな、お前は真っ直ぐなのが似合ってるよ」
「ああ、これからはもう悩んだりせずに直に行動するよ。こんな風にな」
再びキスをして俺達は強く抱きしめあった。
「ゼノヴィア、これからは恋人としてお互いの仲を深めて行こう」
「ああ、アーシアやイリナと共に愛してくれ」
こうして俺はゼノヴィアとも恋人関係になった。でもまさかゼノヴィアが俺の事を好きだったなんてな、全然分からなかったぜ。
『そんなのはお前くらいだろうがな』
「えっ、そうなのか?」
『少なくとも小猫達は時間の問題だと思っていたんじゃないか?』
「マジかよ……」
ドライグの言葉に俺は大層驚いた。皆ってそんなに鋭かったのか。
『コイツが恋愛に鈍感なだけだろう……』
「ん?ドライグ今何かつぶやいたか?」
『何も言っていないよ』
最後にドライグが何かつぶやいたように気がしたが気のせいか。
「さあイッセー、私達もやることをやって皆と合流しよう!私達の関係も言いたいし美味しい砂料理も食べたいぞ!」
「そうだな、じゃあ行こうぜ」
「ああ!」
俺はゼノヴィアに手を差し伸べて彼女は力強くそれを掴んだ。そしてレンタルラクダをしている町に向かって走り出した。
こっちはどうにかなったけど小猫ちゃん達は大丈夫かな?
―――――――――
――――――
―――
side:小猫
「おいこら……てめぇ、嘘ついたのか?」
「本当です!本当にここが俺の行きつけの砂料理屋なんです!」
イッセー先輩とゼノヴィアさんと別れてゼブラさんと砂料理を食べに来たのですが、店の全てが閉店していて何処もやっていない状況にかち合いました。
「ゼブラさん、たぶん貴方が来るって分かったから逃げたんじゃないでしょうか?」
「朝までは普通に営業していたんです!本当です!」
「……チッ」
私のフォローを聞いた青年が必死にそう言うとゼブラさんは彼を離しました。
「嘘はついていねぇみてえだな。見逃してやるからさっさと行け」
「ひいっ!」
青年はそう言って逃げていきました。
「クソが、腹が減ってイライラしてきたぜ」
「朝あんなに食べたのに……?」
「イリナさん、そんな事を言ったら……」
「おい女、言いたいことがあるならハッキリ言えよ」
「わーん!イッセー君助けてー!」
お腹が空いてイライラしているゼブラさんにイリナさんがボソッとそう呟きました。アーシアさんが止めますがゼブラさんには聞こえていたらしくイリナさんに詰め寄ります。
「あっゼブラさん!あそこを見て!屋台が出てるわ!」
「あん?」
リアス部長が指を刺した方には一軒だけ調味料などの良い匂いがする屋台がありました。
「あそこで食事にしましょう!ねっ!ねっ!」
「……」
部長の必死のお願いを無視してゼブラさんはその屋台に向かいました。どうやらあの屋台に意識を向けてくれたようですね。
(生きた心地がしなかったわ……)
部長は助かった……という表情を浮かべました。ここに来るまでに陰口を言った通行人にキレたり店が閉まってばかりでゼブラさんのイライラは凄かったので怖かったんです。
ギャーくんなんて怖すぎて気を失ってしまいました。今は祐斗先輩がおぶっています。
(あの屋台の食事が美味しいことを祈りましょう……)
私はこれ以上ゼブラさんの機嫌が悪くなりませんようにと祈りながら屋台に向かいました。
「すみません、このお店では何を……って姉さま!」
「いらっしゃいませ~♪」
なんとその屋台にいたのは姉さまでした!いつもの着物に割烹着を着た姉さまがカレーの入った大きな鍋をグルグルとかき混ぜています。
「姉さま、どうしてここに?」
「前に白音と一緒に冒険しようって約束したでしょ?節乃さんがお休みくれたから早めに現地に移動していたんだ、節乃さんがイッセーに電話指定場所も聞いたからね。因みに砂塵の谷は飛んで行ったにゃん」
「なるほど……」
ハニープリズンでイッセー先輩に節乃さんが連絡したのはそのことを伝えるためだったんですね。姉さまにもフロルの風をいくつか渡しているのでマーキングは出来ます。
「それで折角砂漠に来たし名物の砂料理を習っていたの。白音達に美味しい砂料理を食べさせてあげるにゃん」
「わあっ!楽しみです」
姉さまに会えただけでなくて砂料理まで食べさせてもらえるなんて嬉しすぎます!
「おい女、話は良いからさっさと料理を出せ」
「おや、君はもしかしてゼブラって人?」
「それがなんだ?」
「イッセーのお兄さんだよね?私は黒歌、よろしくね。あいさつ代わりにまずはコレをどうぞ!」
姉さまはカレーをお玉ですくいお皿に盛りました。
「『砂調味料』や『砂スパイス』で作った砂カレーだよ。米砂漠で取れたカレーに合うお米か『砂小麦』で作ったナンがあるからお好みで選んでね」
「両方よこせ」
「はーい!」
姉さまは両方ゼブラさんに渡して私達にもカレーを振る舞ってくれました。私はナンの方を貰ってカレーに付けて食べてみます。
「……んっ美味しい!いつも食べてるカレーのスパイスとは全く違う味ですね!辛みの中に豊かな風味とコク……それが口の中で一気に広がりました!」
「このナンも不思議な感触ね、モチモチした触感なのに噛んでいくと砂みたいにサラサラと溶けていくわ!カレーとの相性もバッチリね!」
「手で食べるなんて少し抵抗がありましたけど、なんだかスプーンで食べるのとはまた違った味わいがありますわね!」
私とリアス部長、朱乃先輩はそれぞれの感想を言いました。とにかくこのカレーは美味しいって事です!
「ゼブラはどう?美味しい?」
「……」
姉さまはゼブラさんに話しかけますがゼブラさんは黙々と食べ続けていました。
「にゃはは、次はこれもどうぞ!」
姉さまは細麺状の生地で出来たお菓子を出しました、
「これはクナーファっていうお菓子だよ。チーズやクリーム、ナッツやレーズンを入れて焼き上げたんだ。ゼブラは大人だから洋酒入りのを上げるね、ティナやリンもお酒入りで良い?」
「あたしはお酒入りで良いわ」
「ウチはお酒は苦手だから止めておくし、普通のを頂戴」
そして私達は姉さまの作ったクナーファを食べてみます……うん、美味しいです!細麺状の生地はよく知る洋菓子の触感とは違った触感で濃厚なチーズやクリーム、そこにナッツやレーズンの触感も加わって見事な一体感を出しています。
「ん~♡アツアツなのに美味しいわ!いくらでも食べれちゃいそう!」
「僕、こんなに美味しいお菓子食べたの初めてですぅ!」
イリナさんやいつの間にか目を覚ましていたギャーくんも美味しそうに食べていました。
「おい女、お前強いだろう。俺と喧嘩しろ」
「ちょ、ゼブラさん!?」
なんと料理を食べ終えたゼブラさんがいきなり姉さまにケンカを売りました。なにをやってるんですか!?
「あはは、噂にたがわず好戦的なんだね。でも今は止めておくよ、貴方とやり合ったら私も覚悟しないといけないからね」
「正直な奴だな。まあいい、今はコーラの方が先だ。腹も膨れた、イッセーと合流するぞ」
「あ、はい……」
そう言ってゼブラさんは一人で行ってしまいました。まあしっかりカードで支払っていましたが……
「姉さま!大丈夫ですか?」
「平気だよ。でもゼブラさんってマイペースな人だね、イッセーのお兄さんって癖のある人ばかりにゃ」
「姉さまはゼブラさんが怖くないのですか?」
「ん~、まあ私は『アレ』を知ってるからね。個人的な感想で言うと彼は善人でもないし悪人とも言いにくいかな?」
「どういう事ですか?」
「きっと今に分かるよ。それよりもイッセーはいないの?」
「先輩は別行動中です」
「そっか、ざんね~ん……久しぶりに頭を撫でて欲しかったにゃん」
姉さまの言葉の意味は分かりませんが私達は姉さまも加えて先輩のいる場所に向かいました。
「そうだ、姉さまに言っておかないといけないことがあります」
「なにかな?」
「実は……」
私は父様の形見の包丁を折ってしまった事を姉さまに伝えました。前に会った時はメルク包丁を扱えるように必死で修行していたので話す機会が無かったんです。
「そっか、お父さんの形見の包丁が折れちゃったんだ……」
「姉さま、ごめんなさい……父様の大切な形見の包丁を折ってしまって本当にごめんなさい……」
私は思わず泣いてしまいました。姉さまだって父様や母様が死んで悲しかったのに形見の包丁を私に預けてくれたんです。でも私は凡ミスで包丁を折ってしまいました。
「……白音、怪我はしなかった?手は大丈夫?折れた刃が刺さったりしなかった?」
「姉さま?どうして怒らないんですか?」
「怒る?どうしてそんなことする必要があるの?白音があの包丁を大切にしていたのは知ってるしミスは誰にでもあるにゃん。お父さんだってまず白音の体を心配したよ、あの人はそういう人でしょ?」
「姉さま……」
姉さまの優しい言葉に私はまた泣いてしまいそうになってしまいました。
「あの包丁はきっと寿命が来ちゃったんだよ。お父さんが言ってたでしょ?心を込めて道具を大切に扱えば必ず答えてくれる、もしその道具が折れたり壊れちゃったら心から感謝して見送ってあげなさいって……」
「はい、昔父様にそう教わりました」
「白音はいっぱいあの包丁に感謝したんでしょ?なら泣くのはお終いにゃ、お父さんだって泣いてる白音を見ていたら安心できないよ」
「……はい!」
姉さまにそう言われた私は力強くそう答えました。それからは今ルキさんに新しい包丁を作ってもらっているなど色んなことをお喋りしました。
前は修行で姉さまとゆっくり話す時間はそうなかったのでこういう時間は嬉しいです。
姉さまと会話をしながら歩いていると、イッセー先輩のいる町に到着しちゃいました。意外と距離があったのに姉さまと話していたらあっという間でしたね。
「なんだか寂れた街ね」
「まるで何者かに襲われたみたいですわね……」
リアス部長と朱乃先輩の言う通りこの町はなんだか争いに巻き込まれたかのようにボロボロでした。一体何があったのでしょうか?
「イッセーは何処にゃ~?仙術で探しちゃおっと」」
「先輩の匂いは……あっちですね」
私達はイッセー先輩を探します、意外とすぐ側にいました。イッセー先輩やゼノヴィアさん、そして町の住民が集まって何かを食べていました。
「イッセー先輩、ここにいたんですね」
「おお小猫ちゃん、皆も来たんだな。ゼブラ兄との食事はどうだった?」
「大変でしたよ……先輩達は何を食べているんですか?」
「『砂氷』だよ。今町の人に旅の準備をしてもらってるんだがその間暇だったんで途中で見つけた地下洞窟にあった砂氷を町の人たちに振る舞っていたんだ」
「砂氷?……わっ、冷たいですね」
「その砂は氷みたいに冷たいし温度で溶けたりしないんだ。その代わり力を加えると崩れるから噛めば冷たい氷菓子になるんだ」
私達は先輩から砂氷を頂いてシロップをかけて食べてみます……ん、美味しいです!氷のように冷たくて暑い日差しに晒されてきた体が喜んでいますね!
「イッセー!会いたかったにゃー!」
「おわっ!」
そこに姉さまが先輩に飛びついて抱き着きました、姉さまは先輩の胸板に顔を埋めて頬ずりしています。あれイリナさんもやっていましたけど流行っているのでしょうか?
「黒歌、無事に皆と合流できたみたいだな」
「うん!久しぶりにイッセーとも会えて嬉しいにゃん!もっとぎゅーってして?」
「おう、そのくらいお安い御用だ」
「にゃ~ん♡」
先輩は姉さまの背中に両手を出して力いっぱい抱きしめました。常人なら骨が折れるんですが姉さまは幸せそうに喜んでいました。
「ズルいぞイッセー、私にも同じことをしろ」
するとイッセー先輩の隣にいたゼノヴィアさんが先輩の背中に抱き着きました。あれ?ゼノヴィアさんってあんなことをする人でしたっけ?もしかして……
「小猫、挨拶が遅れたな。この度私もイッセーの彼女になったんだ、これからはイッセーの正妻であるお前に愛人として色々教えてもらえるとありがたい」
「ああ漸くその気になったんですね、これからよろしくお願いします」
私はそう言ってゼノヴィアさんと握手をしました。こうなるのは時間の問題だと思っていましたしなにも驚きません。
「ゼノヴィア、等々認めたのね!」
「ゼノヴィアさんもイッセーさんの恋人になってくれて嬉しいです!」
「イリナ、アーシア、遅くなってしまって済まなかった。これからは3人でイッセーに愛されていこう」
「勿論だよ!」
「はい!」
三人はそう言って神に祈りを捧げました、本当に仲がいいんですね。
「へえイッセーってばまた女の子堕としたんだ~、私には甘い言葉は言ってくれないの?」
「今でいいなら黒歌が満足するまで言うが……」
「えへへ、嘘だよ。もっとムードのある時に言ってほしいにゃん。キスもその時に……ねっ♪」
「お、おう……」
姉さまのウインクを見て先輩は顔を赤くしました。今度二人っきりの時間を作ってあげないといけませんね。
「お客様、準備が終わりました……おや、そちらの方々がお仲間様ですか?」
「ああ、この子達が俺の仲間だ」
するとそこに背の小さいお婆さんが現れました。この人が砂漠での旅の準備をしてくださった方でしょうか?
「こんな寂れた街に来てくださり誠にありがとうございます。最近は観光客も紛争のせいでめっきりと減ってしまって……賑やかで嬉しい限りです」
「えっ紛争があったの?」
お婆さんの歓迎の言葉に物騒な単語があったのでリアス部長が反応しました。
「はい、しかしもう終わったんです。あるお方のお蔭で……」
「それは良かったですわ」
お婆さんは安堵の表情を浮かべて朱乃先輩が安心したように言いました。きっと今まで凄く辛い目に合ってきたんでしょうね……
「所でお客様方はどの砂漠に向かわれるのですか?今は紛争も終わったばかりで砂漠も荒れていますし何より連れ込まれた生物兵器が暴れている状態です。正直砂漠の旅はお勧めできませんが……」
「生物兵器?そんなのがいるの?」
「はい、紛争中に連れ込まれた危険生物が今も砂漠の資源を貪り食っているんです。この町も何度も襲われました、私の息子や孫も……」
「あっ……」
ティナさんが生物兵器について聞くとお婆さんは悲しそうに説明してくれました。そして最後の呟きを聞いて私は言葉を失ってしまいました。
「酷いわ!自分達で連れ込んでおいて紛争が終わったら放置して帰るなんて!……ねえイッセー、その生物兵器を何とかしてあげましょうよ。このまま無視していくなんて後味が悪いわ!」
「まあ確かにな。問題はそいつがどこにいるかなんだが……」
リアス部長の発言にイッセー先輩も同意しました。確かに知ってしまった以上このままにはしておけませんよね。
「おいイッセー、いつまでお喋りしてんだ。メロウコーラはまだか?」
「ゼブラ兄、ちょっと待ってくれ。今話をしてるんだから」
「えっ……」
ゼブラさんがイラついた顔で先輩にそう言います。しかしゼブラさんの名前を聞いたお婆さんは驚いた表情を見せました。
「今そちらの方をゼブラとおっしゃいましたか……?」
「あっ大丈夫ですよ、今はなんとか暴れていないので……最悪イッセーもいるし怖がらなくても……」
「まさか……救世主ゼブラ様がこの町に来てくださるなんて……!」
ティナさんはお婆さんが怖がってると思いフォローしようとしましたが、救世主という言葉に目を丸くしてしまいました。
「皆!この方はゼブラ様!私達の救いの主ですよ!」
お婆さんがそう言うと辺りにいた町の住民の方達が一斉にゼブラさんに駆け寄ってきました。
「救世主ゼブラ様!貴方のお蔭でこの町は救われました!」
「本当にありがとうございます!ゼブラ様!」
「あの地獄がようやく終わった……どれだけ感謝してもしたりません……ありがとう……ありがとう……!」
「なんだ、てめーら……!?」
町の住民の方達はゼブラさんを怖がるどころか皆涙を流して感謝の言葉を言っていました。ゼブラさんもこんな反応をされるとは思っていなかったのか珍しくうろたえていました。
「どういうことなの?なんでこの町の人たちはゼブラさんを恐れないの!?」
「恐れるどころか感謝をしていますね。もしかしてゼブラさんがこの辺りにあった紛争を止めたのかな?」
「でも今まで刑務所にいたんですよ?そんなことできなくないですか?」
リアス部長は何故ゼブラさんを恐れないのかと驚き祐斗先輩はゼブラさんが紛争を止めたのかと言います。しかしルフェイさんの指摘通りゼブラさんは数日前まで刑務所に入っていたからそんなことが出来るとは思えません。
「ゼブラ兄が直接紛争を止めたわけじゃない、ただその存在が間接的に紛争を終わらせたんだ」
「どういうことだ、イッセー?」
先輩の説明にゼノヴィアさんが首を傾げました。
「いま世界中がゼブラ兄に対して最大級の警戒をしています。中には戦争中だった国が自国に軍を呼び戻したり敵対していた国同士が同盟を結んだりするケースもあるんですよ。まさに『呉越同舟』って奴だな」
「はぁ?たった一人の人間に対して国が動くのかよ!?」
「それがゼブラ兄の恐ろしさなんです。しかし皮肉にもそれだけ恐れられているから結果的に紛争を止めてしまったんです」
「だからこの町みたいに紛争のあった地域に住んでいた人達にとってゼブラはマジの救世主なんだし」
先輩の説明にアザゼル先生が驚きますが確かに26種類もの生物を絶滅させた実績があるゼブラさんならそこまで警戒してもおかしくないですね。
そしてリンさんの捕捉でこの町の人たちがなぜあそこまでゼブラさんを慕うのかが分かりました。
「……先輩や姉さまはこのことを知っていたんですか?」
「ああ、知っていた。実際にこうして感謝されているのを見るのは初めてだけどな」
「私は節乃さんから聞いていたにゃん。人間って不思議だよねー、平和な国で生きてる人にとってはゼブラは災害だけど紛争に苦しんでいた人達からすれば救世主なんだから」
「そうですね……」
イッセー先輩や姉さまがどうして口でこのことを教えてくれなかったのか何となく分かりました。こうやって感謝している人たちを直接見なければとてもじゃないけど信じられませんよね。
「てめーら鬱陶しいんだよ!さっさと離れ……ん?」
動揺していたゼブラさんが砂漠の方に視線を向けました。すると砂の中から巨大な8本の尻尾を持った蠍が現れたんです。
「うわあああぁぁぁぁぁぁっ!!生物兵器だぁっ!?」
それを見た瞬間町の人たちは一斉に逃げ出しました。
「あいつは『ヤマタノサソリ』!!捕獲レベル28の第2級の危険生物だ!」
「アレが生物兵器ですか!?」
「ああ、奴の8本の尻尾はそれぞれ全く違う種類の毒があってそれによって様々な生物を殺戮して生態系を滅茶苦茶にしちまうんだ!その危険さから隔離指定生物としてIGOに登録されている!」
先輩はあの蠍について説明してくれました。そんな危険生物を送り込み挙句放置して帰るなんて……紛争をしていた両国は最低ですね。
「あいっ!?」
その時でした、まだ小さな子供が逃げようとして転んでしまったんです。ヤマタノサソリがその子供を見逃すはずもなく尻尾を刺そうとしました。
「助けないと!」
私たちは直ぐにその子供を助けようとしました。
「ボイスカッター!!」
しかしその前にいつの間にかヤマタノサソリの前に立っていたゼブラさんが声で作った斬撃を放ちヤマタノサソリを文字通りバラバラに斬り裂いてしまったんです。
私達はそれを見て大層驚き先輩だけが笑っていました。
「下等生物がチョーシにのっちゃいけねーぜ」
ゼブラさんがそう言うと町の人たちは歓喜の声を上げて再びゼブラさんに駆け寄っていきました。助けられた子供も泣いてゼブラさんにお礼を言っています。
私達が唖然としてその光景を見ていると、先輩が声をかけてきました。
「そう言えば皆にはまだ言っていなかったな。ゼブラ兄が絶滅させた26種類の生物はヤマタノサソリのように生態系を狂わせる危険生物なんだ」
「えっ……?」
「まあ危険だからって絶滅させて良い訳じゃないんだけどな」
先輩の言葉に私は驚きまたゼブラさんの方を見ました。
「てめーらぁ!ちゃんと俺に適応しろよ?」
私はそう言うゼブラさんを見てようやく彼がどういう人間なのか理解しました。
決して善人ではありません、どっちかというと悪に近い人なのかもしれません。しかしそれでも先輩やココさん達のように自分なりの信念を持った人なんだと……
後書き
イッセーだ、どうやら皆もゼブラ兄っていう人がどんな人間なのか分かってくれたみたいだな。これで安心して砂漠の旅に出られそうだぜ。
しかし油断は禁物だ、これから過酷な砂漠の旅が始まるんだからな!
次回第112話『突入、デザートラビリンス!連れ去られた小猫とアーシア!』で会おうな。
次回も美味しくいただき……あれ、リアスさん?どうしたんですか、何だか顔色が悪いような……?
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