幽雅
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第五章
ガラスに姿が映らない、それを見つつ柏木に話した。
「幽霊は影がなくて」
「鏡等に姿が映らないな」
「はい、あの通り」
まさにというのだ。
「そうなりますね、ですが」
「誰も気付いていないな、いや」
ここで柏木は気づいた。
「気付いていてもな」
「誰もですね」
「京都の人達はな」
「言わないのですね」
「あえてな」
「幽霊を見てもですね」
「そうだ、見てもだ」
それでもというのだ。
「それに気付いても」
「言わないですか」
「そうかもな」
「何かそれを言わないのが」
「京都らしいか」
「そう思いました」
緒方は真面目な顔で答えた。
「先生に言われて」
「京都独特のな」
「考えというか奥ゆかしさというか」
「そしてそこで言うとな」
幽霊と、というのだ。
「風情がないというかな」
「お里が知れるとですね」
「言われるのかもな」
柏木はこのことは笑って話した。
「そうかもな」
「京都ってそういうところですしね」
「ああ、まあそれでだ」
「はい、作品のネタはですね」
「入れた、京都を舞台にしてな」
「幽霊を出しますか」
「そうした作品にするか、しかしここで幽霊を見たことはな」
このことはとだ、柏木は話した。
「あえてな」
「言わないですね」
「そうしていくか」
「それがいいですね、では」
「ああ、他の取材も続けよう」
こう言ってだった。
柏木は緒方と共に京都を歩いていった、そうしてだった。
東京に帰ると京都を舞台にした幽霊が出る作品を書いた、その作品は評判になったがどうしてインスピレーションを受けたかは真実は言わなかった。ただいいものを見たと言うだけであった。
幽雅 完
2022・10・15
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