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尾長狼

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第一章

                尾長狼 
 大昔ある場所に胡桃の村という森がありました。
 この村には胡桃の大きな木がありましたがその木は村のあるお婆さんのものでした。
 お婆さんはこの木とそこに実る胡桃の実をとても大事にしていて人に実をあげて食べることは許していましたが。
「えっ、持ち帰ったら駄目なんだ」
「胡桃の実は」
「そうしたら駄目なの」
「種を蒔いたらあちこちに広まるだろ」
 お婆さんは皺だらけのお顔で言うのでした、色黒で輿はやや曲がっていて白髪ですが言葉ははきはきとしています。
「私はこの木を大事にしているからね」
「広まったら嫌なんだ」
「この実が」
「そうなんだ」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「実は持って帰ったら駄目だよ」
「仕方ないな」
「お婆さんがそう言うなら」
「それなら」 
 村の人達もそれならと頷くしかありませんでした、兎に角です。
 お婆さんは胡桃の実を持って帰ることは許しませんでした、食べることはいいと言うので皆それならとなりましたが。
 ある時村の畑の作物が不作で森の果物も少なく狩りや漁でもあまり獲れない状況になりました、ですがお婆さんの胡桃の木は実がたわわに実っていてです。
 村の人達はお婆さんにその実を食べさせて欲しいとお願いしましたが。
「いいよ、けれどね」
「実はだね」
「持って行ったら駄目だね」
「お婆さんのお家で食べないと駄目だね」
「そうだよ、沢山実ってるから皆好きなだけ食べていいけれど」
 それでもというのです。
「それは駄目だよ」
「わかったよ」
「じゃあここでいただくよ」
「そうさせてもらうよ」
「そういうことでね」
 こうしてでした。
 村の人達はお婆さんの胡桃の実を食べて餓えを凌げてお婆さんに感謝しました、お婆さんも食べるのはいいと応えました。
 ですがその後で村の人達は思いました。
「胡桃の木がもっとあったら」
「それならいいのにな」
「それだけ多くの実が実って」
「胡桃の実が食べられるのに」
「そうだというのに」 
 それでもというのです。
「胡桃の木が一本だと」
「それだけだと」
「いざという時困るな」
「今回は助かったけれど」
「次はどうなるか」
 こうお話するのでした、それでです。
 村の人達はお婆さんに提案しようと思いましたがあれだけ頑固に実を持って帰ることを断るお婆さんが頷くかといいますと。
 答えは一目瞭然でした、それで皆あらためて思いました。
「あのお婆さんだとな」
「とてもな」
「実を持って帰ることを許してくれないな」
「何を言っても」
「とても」
「どうしたものか」
 村の皆でこれは参ったと思いました、するとです。
 村の外の森で暮らしていた尾長狼がそのお話をたまたま聞いてそれで村人達のところに来て言ってきました。 
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