リュカ伝の外伝
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やっぱり僕は歌が好き 第二十一楽章「マジカル・ミュージック」
(グランバニア王国:城前地区・プービル)
ピエッサSIDE
社長が所有されてる個人的利用目的のビル。通称「プービル」
2階に上がって重厚な二重扉の奥には、そこそこ高そうなブランドピアノや、その他楽器に音響装置が置いてあり、ソファーやテーブルなども配置されてて、音楽活動を行うには申し分ない状態になっている。
そんな豪華な部屋の中央付近に先程搬入されたと思われる楽器らしき物体……
社長はそれらに近付くと、ケースから特殊な形のギターらしき6本弦の楽器を徐に取り出して軽く弦を弾いた。
如何やらチューニングを行ってる様で、もう一つの4本弦の楽器も同じように音を合わせた。
「さて、これが新しい楽器なんだけど……」
「もしかして以前に仰っていた、マジカルギターとマジカルベースですか?」
社長が私達の方に視線を向け楽器の説明をしようとした時、アイリが嬉しそうに以前の事を思い出す。
そう言えばそんな事を言っていた様な……
「そう。よく憶えていたね。今回はこのMGとMBを一般に浸透させる事を手伝ってもらいたいんだよね」
“手伝う”?
いったい何をすればよいのだろうか?
「浸透させる第一段階として、芸高校の音楽を専攻している生徒らの中から、何人かを教える立場に育てたい。その課題曲が“コレ”!」
そう言うと社長は私とアイリに楽譜を手渡す。
「曲名が『夜に駆ける』ですか?」
「うん」
アイリの質問に笑顔で応えると、社長はピアノに向かって弾き語りを始めた。
・
・
・
名曲だ。
格好いいのに何だか切なく、そしてノリが良い。
この曲で新しい楽器を世に広めようというのね。
でも疑問が……
「社長……聴いた感じでは、この曲はピアノ伴奏がメインの曲に聞こえましたが、そんな曲でMGとMBを宣伝するんですか?」
勿論アレンジ次第で感じは変わるけど、社長ならもっと新しい楽器メインの曲を作れるんじゃ?
「うん、そうだね。もっとMGやMBが主体のロックな曲も用意できるんだけど、ピアノメインの曲でスタイリッシュに演奏してこそ、皆の興味を引くと思うんだよ。見た目って大事じゃん。『あんな風に演奏してぇ!』って思ってこそ、テクニックを憶えようと意欲を燃やしてくれると思うんだ」
「で、ですが……そうなると私に新しい楽器を完璧に弾き熟すテクニックが必要になります。正直……自信がありません」
情けない話だが、私はピアノ専攻。
今更ギターやベースを憶えるには時間がかかりすぎる。
「分かってる。僕も正直言うけど、ピエッサちゃんにその点は期待してない」
「そうね。私はもう既に曲を憶えちゃったから、直ぐにでもプロ並みに演奏できるけど、アンタには無理ね」
アイリの言う通りだが、アンタに言われると本当にムカつく。
「だからMGは僕が、MBはアイリーンちゃんが……そしてピエッサちゃんにはピアノとボーカルを担当してもらいたい」
「わ、私がメインのピアノとボーカルを!?」
「そう。でもそのメインを僕とアイリーンちゃんの演奏が喰っちゃう(笑) プロの卵な芸高校の生徒なら、メインよりも格好良くしゃしゃり出るMGやMBの存在に気付くだろう。だからピエッサちゃんには大きく失敗しない程度の演奏を期待している。小さい失敗程度なら、プロの卵にさえ気付かれないくらいの演奏で僕等がフォローする」
「アンタは今までの延長線……元よりポップスミュージックを学ぼうとしてる一環として、練習して披露すれば良いのよ。新楽器を目立たせる役目は私と社長が担うから……とは言え、社長は大丈夫なんですか? 私は練習を始めれば、10分後にはプロになってるでしょうけど、出来たての楽器ですよ。練習時間は足りてますか?」
「舐められたもんだ(笑) 僕の事は気にしないでよ……ギターの方を担当するつもりだけど、僕がこの世に生まれる前から練習してきてるから、10分程度の経歴しか無い俄プロには負けやしない」
「なるほど、私はMBを担当ですね。良いでしょう……勝負と行きましょう。どちらがよりスタイリッシュに格好良く演奏し客を惹き付ける事が出来るのかを(笑)」
何なの二人の自信は!?
『10分でプロ』とか『生まれる前から練習してた』とか、自信在りすぎでしょ!
もうプレッシャーで押し潰されそうだわ。
「あ、そうそう……アイリーンちゃんには耳の痛い話だけど、漏洩を避ける為にここ以外で練習しないでくれ。ピエッサちゃんにもこの建物の鍵を渡しておくから、自由に使って構わないからさ」
「私はもう盗作はしません……する方がリスクが大きい事を知りましたから。でも知らない者もまだまだ居るでしょうし、気を付けるに超した事は無いですわね」
「一ヶ月で新しい楽器を発表しようと思ってる。その発表で現芸高校生徒の中から、MGとMBを教える教師を育てる。育てた教師が未来の凄腕ギタリストとベーシストを育てていく。その入門となる練習曲にこの曲をしたいから、烏滸がましい事を承知で僕の名前でこの曲を発表する。だからたった一ヶ月だけど、絶対に盗まれたくない」
「うぅ……い、一ヶ月ですか……」
如何しよう。
思ってたよりも短期間だわ。
「一ヶ月という短期間な事に変わりありませんが、ピエッサさんの練習に役立つ物も開発してありますわ」
そう言うとこれまで静かに私達を見守ってきたリューナさんが、部屋の奥に置いてあった彼女でも簡単に持ち運べるくらいの箱状の物を、私達の近くにあるテーブルへと運んできた。
「あの……これは?」
「これはですね、音声を好きな時に聴ける装置?」
私の頭の出来が原因だろうけど、正直リューナさんが言ってる意味が解らない。
「ミュージックプレイヤーだよ」
「「ミュージックプレイヤー!?」」
社長の一言に私とアイリが声を揃えて反復する。
「この装置に、この小指の先程の魔道結晶を装着すると、その魔道結晶に記憶させた音声を再生してくれるんだ」
社長はそう言って本当に小さい七色の結晶をMPにセットして操作した。すると……
「これ……先刻の曲ですよね!?」
装置から先程社長が演奏してくれた曲が聞こえてくる!?
当然だが、今誰も演奏してない……音楽を発してるのは完全にこの装置からだ!
「ピエッサちゃんにも開発協力をしてもらった音響装置三点セット(マイク・アンプ・スピーカー)とアリアハンの王を脅して作らせたMHとかから技術を応用させて天才美少女が開発したMPだ。こっちの小さい装置は再生専用だけど、録音する装置も……ほら、その奥にある」
今目の前で音楽を奏でてる装置より遙かに大きいけど、この部屋の奥には何やら得体の知れない装置が置かれている。
社長が今嘘言うわけ無いのだから、アレが録音装置なんだろう。
「コレがあれば楽譜を目からだけじゃなく耳からも憶える事が出来るだろう」
「凄いですわ社長。ですが私は既に憶えてるので、最悪は私がピエに教えますわ」
確かにアイリに教わるのは最悪な屈辱だが、ここまで準備が整っているのだ……後は私のやる気次第だわ。
「び、微力ではありますが全力を尽くさせていただきます!」
「よろしくね」
爽やかに社長から握手を求められ応じる。
アイリはワクワクが止まらない顔をしてるが、私は事の重大さに押し潰されそうだ。
とは言え名誉な事ではあるし、この曲を弾き熟せる様になれるのは嬉しい。
今日から……いや、今から猛練習だわ!
時間が出来ればここに来て練習ね。
レッ君には悪いけど、当分の間はデートは無しね。
文句を言われたら社長の名前を出そう。
何も言えなくなるはずよ(笑)
でも……レッ君のシュンとした顔。
可愛いのよねぇ♥
ピエッサSIDE END
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