兄の家に居候した弟夫婦
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第二章
「どんなお仕事かしら」
「わからないな、ちょっと実家の親父とお袋に聞いてみるか」
「流石に実の親御さんだとご存知よね」
「ああ、だからな」
それでというのだ。
「聞いてみるな」
「そうしてね」
夫婦でこう話してだった。
慶喜は実家の両親に電話で聞いた、すると電話に出た母が言った。
「あの子漫画家よ」
「そうだったのか」
「ええ、恋愛水滸伝とか星海の覇皇描いてる」
「どっちも世界的にヒットしてる作品じゃないか」
「そうよ、アニメ化して単行本もそれぞれ千万部以上売れてるね」
「藤山家持さんって兄貴だったのか」
「というかあんた知らなかったの、同居して」
「兄貴何も言わないからな」
それでというのだ。
「知らなかったよ」
「全く、自分のお兄さんの仕事位わかっていなさい」
「今知ったよ」
こう母に返した、そして。
兄に電話の後で確認すると彼は何でもないといった口調で述べた。
「言ってなかったな、そういえば」
「ああ、だからこんな凄いところに住んでるんだな」
「部屋代とかもいいって言ったんだ」
「それだけの金あるからか」
「そうだよ、時々飲んだり風俗も行くけれど」
「その金もか」
「俺あるし貯金も充分にあるから」
こちらもというのだ。
「いいんだけれどな」
「だから部屋代は払うよ、居候だしな」
「同居人だろ」
「そこは違うよ、しかしな」
それでもと言うのだった。
「兄貴が藤山家持さんだったなんてな」
「隠してなかったけどな」
「知らなかったよ、びっくりだよ」
「プライベートだから周りには言うなよ」
「言わないよ、じゃあこれからもな」
「宜しくな」
兄弟でそうした話をした、そして三人で仲良く暮らしていった。やがて弟に子供が出来て一軒家を買って引っ越すまでそれは続いた。だが弟夫婦はずっと自分達の兄が売れっ子漫画家だったと知った時のショックを忘れなかった。
「まさかな」
「お義兄さんが超売れっ子漫画家さんなんて」
「俺達も知ってて読んでな」
「アニメ観る位のな」
「そんな人だったなんて」
「世の中何があるかわからないわ」
夫婦でこう話した、そして兄が原作のアニメを二人の間に生まれた息子の家康と共に観た。母親によく似た彼と共に。
兄の家に居候した弟夫婦 完
2023・5・26
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