鬼だからといっても
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第二章
国司は今度は山に入った、そして実際に山の中を隅から隅まで調べるとだった。
悪事の後はなかった、鬼の家と思われる庵の周りには田畑がありそこで葡萄や豆も育てていたが別に人の骨なぞなかった。
鬼には見付からなかったし会いもしなかったが庵の中に密かに入って調べてもごく普通の家と家具であった。
それでだ、国司は言った。
「山の周りの者達が言う様にな」
「はい、この山の鬼は悪くありませぬ」
「むしろ善良です」
「そう言っていいです」
「そうであるな」
こう言うのだった。
「かなり調べたが」
「そしてわかったことはです」
「この山の鬼は近くの者達が言う通りです」
「害はありませぬ」
「庵で平和に暮らし」
「民達とも仲良くしています」
「ならよい、もうこの山の鬼は征伐せぬ」
国司はこのことを決めた。
「鬼といえど何もせぬならな」
「成敗することはないですね」
「これといって」
「悪事を為さぬなら」
「悪者なら人でも成敗するが」
それでもというのだ。
「しかし鬼でもな」
「悪者でないのなら」
「成敗せぬ」
「そういうことですな」
「左様、では山を去ろう」
国司は供の者達に告げた。
「そして他の政にあたるとしよう」
「わかりました、ではです」
「この山を去りです」
「国全体を治めましょう」
「そうしようぞ」
こう言ってだった。
国司は山を後にして自分が朝廷より任されている国全体の統治にあたった、そしてこの山の鬼のことを朝廷に伝えたが。
都に帰った時にある学者に言われて唸った。
「何と、鬼と言っても色々でか」
「はい、中には山に住む民や波斯や大秦から流れ着いた者がです」
「いてか」
「悪い鬼もいますが」
「そうした者もいてか」
「いい鬼もいます」
「そうであるか」
「まさに鬼といっても色々で」
それでというのだ。
「そのことをです」
「頭に入れておくことだな」
「それがいいかと」
「わかった、そのことも天下に伝えよう」
こう学者に約束しその様にした、そして人々は鬼のことを知るのだった。鬼といっても様々でいい鬼もいてそれを見極めることが大事であると。
鬼だからといっても 完
2023・5・23
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