FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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羽根
前書き
この一話で単行本7巻をほぼ消化するという暴挙に出てしまった件について
第三者side
「待たせたな、帰るぞ」
ヨザイネの元へと戻ってきた天海は静かにそう言う。すると、そんな彼を見て少女は驚きに包まれていた。
「なんでシリルを助けないのよ!!」
色々と言いたいことはあった彼女だったが、真っ先に出たのはそれだった。彼女は地面に引き込まれていった息子に手を差し出そうとすらしなかった彼に憤りを感じていた。
「必要ないからな」
「必要ない?」
「あぁ。この程度の相手を倒せないようでは話にならない」
大きな声で少年の名前を呼んでいる青年の方を見てタメ息を漏らしている彼を見て少女は言葉を失っている。彼は少年の実力を信じてやまないのか、心配している気配はない。
「勝てるの?シリルは」
「さぁ」
「さぁって・・・」
息子のことが心配でならないヨザイネだったが、そんな少女を天海は冷たい瞳で見下ろしている。
「ただ、あいつはもっと強くなる。そうじゃなければ俺の願いは叶わない」
「あの子がティオスになるとでも思ってるの?」
その問いに意味深な笑みを浮かべる天海。それ以上答えようとはしない彼を見て諦めた少女は男の肩へ手を乗せる。
「あんたを信じるわよ、今はね」
「あぁ。それより早く帰らせてくれ、食事がまだなんだ」
不安そうな少女とすでにこの場への関心が一切ない男は魔法にてその場から立ち去る。後に残されたナツはいまだに状況を把握していないためか、周辺を走り回っていたのだった。
シリルside
「うわああああああ!!」
突如腕に走った激痛に声を上げる。そんな俺の様子をアルドロンは腕組みをして見ている。
「アルドロンはこの時を待っていた、再び目覚めるこの時を。ギルティナの地を踏み潰し、全てを我が大地とするこの時を」
得意気な表情を見せながら話しているアルドロン。彼はなおも言葉を紡いでいる。
「数百年前、アクノロギアとの戦いで傷を負ったアルドロンはこの地で休んだ。初めはこれほどの巨体ではなかった、それでも街一つ分の巨体を持ってはいたがな。
アルドロンは力を蓄えるために自らの上に街を築かせそこに暮らす人間から養分を吸いとって生きていた。
やがて身体はさらに成長を続け、その大きさは山と雲を越えるほどになった。そしてアルドロンは自らの力が抑えきれぬほど強力になっていることに気が付いた。その時、自らの力を抑えるために五つのオーブと五つの守護神を生んだ」
「そうとも知らずに白魔導士はオーブを壊しちゃったってことか」
オーブを壊すことでアルドロンは力を失うのではなく、逆に本来の力を取り戻してしまう。これは完全に読み違いといっていいだろう。
「このまま眠っているのにも飽きた頃だ。アルドロンが目覚めたからにはこの大地は崩れ去るだろう」
「そんなことはさせない」
五神竜はアクノロギアと同格の力を持つってエレフセリアさんが言ってた。そんな奴が暴れまわったら一年前の再来になってもおかしくない。
「うぬにできることはない」
その言葉の直後、足に抉られるような痛みが走る。それは先程受けたものと同じ、魔力の弾丸がかすったようだった。
「そんなバカな・・・俺が見えないなんて・・・」
そもそも相手は動いている気配すらないのに攻撃を放っている。そんなことがありえるのか?
「ここは本気で・・・」
さっきの天海の動きを見た時に目が使えるのはわかった。彼の言う通り精神的なもので使う度に痛みを感じているような気になっていたんだと思うけど、それが解消されてしまえばどうってことないはず。
「無駄なことを」
その瞬間、アルドロンの中の魔力の動きがわずかに見えた。それによって攻撃が来るとわかった俺はすぐに回避行動に出る。
「よし!!避けれた!!」
思い切り横っ飛びしたことによりなんとか攻撃が当たらずに済んだ。でも、それじゃあいけないことはわかってる。
「あいつをどうやって倒せばいいのか・・・」
魔力が練り上がるまでの速度もそれが放たれてからこちらに到達するまでの時間も全てが規格外。こちらが先に動いても相手の攻撃の方が先に俺へと当たるのは目に見えている。
「!!」
どう行動していけばよいのか考えていると、アルドロンの顔色が変わったことに気が付く。そしてその直後、彼の身体がわなわなと揺れていた。
「死の運命がやられただと・・・?こうしてはおれぬ」
そう言って再度攻撃を仕掛けてくるアルドロン。だが、その攻撃は先程よりも明らかに遅い。
「なんだ?魔力が少し下がった?」
なぜかわからないけどアルドロンの魔力が少し下がったように感じる。これなら攻撃に出ることもできるはず!!
「水竜の・・・咆哮!!」
そうと決まれば早速攻撃を仕掛けてみる。しかし、俺の放ったブレスをアルドロンは平然と受け止めていた。
「木に水など効くと思うかね?」
「!!」
そう言われて納得した。こいつは俺のことを力を得るために吸収すると言っていた。つまり俺の攻撃は無意味なもの。
「このままならね」
左腕から魔力を上げて黒い模様を肥大化させる。水だけでダメなら今度は風も合わせてやる。
「竜魔の翼撃!!」
「!?」
風と水が合わさった魔力の翼。これをアルドロンは先程と同様に受けようとしたが、今度はそれを受け止めきれずに体勢を崩している。
「風・・・いや、天空魔法か・・・ぐぬ!!」
どうやら水単体でなければ吸収することはできないようでダメージを与えることに成功した。すると、またしても彼の表情が歪む。
「メトロまでやられただと!?」
どうやらゴッドシードという守護神が破れているらしく、それによって力が落ちているのだと推測できた。
「!!ギアーズまでもが・・・」
またしても最初に聞いたような名前が出てくる。確かゴッドシードは五人で最初に天海が倒した奴とその他にこいつを除いて三人。つまり・・・
「残るはこいつ一人ってことか」
たぶん外にいる皆さんがゴッドシードを倒してくれたのかもしれない。もしそれを信じるのなら、残るはこいつただ一人。
「この数百年でここまで力をつけたというのか、人間は・・・」
木であるためか表情が分かりにくいが、アルドロンは歯軋りをしているように見える。まるでプライドを傷つけられたような、そんな印象だ。
「あなたは人間を嫌うドラゴンなんですか?」
「養分ごときに何の感情も持ってはおらぬ。力をつけた養分ごときにはな」
「養分・・・だと?」
先ほどの俺へ対してもそうだが、こいつは水神竜さんとは明らかに違う。人を同列とは考えていないのがよくわかる。
「我が身体の上に街を築かせ、そこに暮らす人間の精気を吸収する。何世代もそれを繰り返し、我は甦った」
「今、その養分がなくなろうとしてますけど?」
街が壊滅的な被害を受けていることで住民たちの姿はなかった。アルドロンが動き始めた今、この街で生活することなんてできないだろうし、彼はこれ以上の力を得られないのではないのだろうか?
「もう必要ない」
しかし返ってきたのはそんな意外な返答だった。
「我はこの力をもって他の五神竜を喰う。そのためには貴様を喰らい、更なる力を手に入れる」
「そうはさせるか」
魔力が下がったからなのか攻撃を仕掛けるための間合いと動きが出てきたアルドロン。それがあればこちらも立ち回りがやりやすい。
「これなら十分戦える!!」
アルドロンの攻撃を回避しながら距離を詰めていく。そんな俺を見ても彼は余裕を崩さない。
「ゴッドシードがやられ多少魔力が落ちたが、まだ貴様を捉えるには十分な魔力がある。そしてアルドロンが司るのは生命の力。いずれゴッドシードも甦り、我が力は再び完全となる」
「その前に倒してやるだけだ!!」
さっきまでの力がウソのようにあっさりと間合いに入ることができた。そこから攻撃に移ろうとした俺だったが、アルドロンの方が先に動いた。
「人間ごときには不可能だ。リーフテンペスト!!」
突如目の前に巻き起こる竜巻。それは葉っぱが纏わりついているようだが、俺の目があればすぐに反応できる。
「そんなので止められると思うなよ!!」
すぐにブレーキをかけてその攻撃を回避し再度突進する。しかし、避けたはずの竜巻が巨大化してきたではないか。
「うわあああああ!!」
予想外の動きに対処できずに飲み込まれる。しかし所詮は葉っぱ。天空魔法で吹き飛ばせばなんてことはない。
そう思い風を起こしてそれを吹き飛ばすと、そのタイミングをアルドロンは狙っていたのか距離を詰めてきており、腹部へと強烈な拳を受ける。
「がはっ・・・」
思わず咳き込みそうになったがそれをグッと堪えて敵の姿を確認する。アルドロンはこちらの反応を伺っているようで次の攻撃を仕掛けてきていない。それならばと彼を飛び越え背後へと回り、足に魔力を纏わせる。
「竜魔の鉤爪!!」
魔力を纏った蹴りを放つがそれをアルドロンはガードする。そのまま左フックや右ストレートを連続で繰り出すが、その全てが防がれてしまう。
「体術なら我に勝てるとでも思ったか?貴様の攻撃など我には当たーーー」
相当下に見られているようでアルドロンは悠長にそんなことを口走っていたが、それは突然訪れた。ガードをしていたはずのアルドロンの右腕が下がり、拳が顔面へとヒットした。
「当たるじゃん!!」
俺の力を吸収しようとして、別属性が混じっていたからダメージを受けた最初とは違う。確実にアルドロンへ俺の一撃が入った。しかもただでさえ遅くなっている動きがここにきてさらに遅くなっている。
「これは・・・外で何かが起きている!?」
アルドロンすら何か異常が事態になっていることはわかっているようで動きを止め、外の様子を見ているみたい。その無防備な姿を見逃さずにいこうと動こうとしたところ、立っていられないほどの震動が訪れる。
「なんだ!?」
その場に膝をつき動くに動けない。まさか外でこのアルドロンの本体に攻撃をしている人がいるのか?誰が一体そんなことを・・・
「なるほど、人間よ・・・神の怒りを所望か。ならば"剣戟森森"を見せてやろう」
ニヤリと不敵な笑みを見せるアルドロン。彼は身体の前で腕を構えると、魔力を次第に高めていく。
「剣戟森森」
そう言った途端、俺たちを囲っている周囲の木々から槍のようなものが生え出てくる。
「なんだ!?これ!?」
四方八方から出てくる木の槍。それは俺の方へと向けられているのは火を見るよりも明らかだ。
「ヤバい!!」
目を全開にしてその動きに注視する。俺目掛けて一斉に放たれたそれを後方へとジャンプして避けるが・・・
「いっ!!」
着地した先にも槍が生え出ており痛みでバランスを崩す。ただ、すでに攻撃は放たれているためすぐに起き上がり水の壁を周囲へと形成する。
「水竜の球体!!」
全方向からの攻撃を防ぐために球体にしてみたが、槍の雨はそれすらも打ち破ってくる。
「マジか!?」
防御が破られたことでいくつかは食らってしまったがすぐに後ろへ下がって回避する。しかし、槍の雨は止めどなく降り注いでくるため何ともしようがない。
「終わりなき剣の舞を味わうがよい」
なおも降り注ぐ槍はどうやら剣だったらしい。が、いずれにしても殺傷能力が高いため回避するしか選択肢はない。
「この剣舞に終わりはない。うぬの命が尽きるまで降り続ける」
アルドロンの魔力が落ちていく気配がない。つまりこの状況を打破しなければこいつに勝つことはできないってことか。
「それなら・・・」
ドラゴンフォースを解放して全身に魔力を纏わせる。そのまま降り注ぐ槍を打ち砕こうと拳を放った。
ズッ
しかしその一撃はむなしく打ち砕かれる。
「うわぁ!!」
強度も威力も想像を越えてきたそれによって激痛を受けた俺は動きが止まる。それにより迫ってきていた槍の雨に反応することができなかった。
「しまっ・・・」
気付いた時にはもう遅い。俺は降り注ぐ槍を一身に受けることしかできなかった。
第三者side
「ただいまぁ・・・って、カミューニはもういないのね」
元の部屋へと戻ってきたヨザイネは人気のないその空間を見てそんな言葉を漏らす。その横にいた黒装束の男はすぐに先程まで自身が座っていた椅子へと歩いていき、腰を掛ける。
「あいつもすぐに戻ってきそうだが、待つか?」
「それは無理。これ以上は残ってる魔力もないからね」
本来ならすでに死んでいる彼女は地上にいることはできない。現在は特例により時折やってきているが、その時間には限界がある。
「ならあいつには俺が伝えておく。とっとと帰るんだな」
「ホント冷たいわよねぇ、あんた」
すでに手をつけていた食事を再度口へと運んでいる男。見送る様子もない彼を見て少女はタメ息を漏らしたが、それに男は気が付かない。
「じゃあ私は戻るわ。あと処理はお願いね」
「・・・前から思ってたんだが」
その場から消えようとしたところで声をかけられ首をかしげるヨザイネ。男はそちらには目も向けず、問いを続ける。
「シリルは人間なのか、天使なのか。どちらに分類されるんだ?」
「一応は人間になるわ。私のような堕天使は一応人間扱いになるからね」
男の素朴な疑問に笑顔で答えるヨザイネ。その表情をチラリと見た彼はさらに続ける。
「なら、あの時のティオスはどちらの分類になるんだ?」
続けての問いかけ。それを受けたヨザイネは頭をしばし悩ませる。
「レオンが死んでるから人間とは言いにくいけど、蘇ってるからなぁ。人間扱いでいいのかな?」
それが何なのかと今度はヨザイネが問いかける。しかし、その質問を受けるよりも先に男の表情が緩んでいたことで彼女は困惑していた。
「何?何か気になったことがあるの?」
「あぁ。あいつはティオスの一部。もしそれが事実なら、まだまだあいつは強くなれると思ってな」
「そりゃそうでしょ。シリルはまだ育ち盛りなのよ」
年齢的にもまだまだ伸び代のあるシリルのことをそんな風に話している彼に不思議さを感じていたヨザイネだったが、男は首を横に振る。
「お前も見てたんだろ?あいつの次の状態を」
「次の状態?」
彼が何を言いたいのかわからず首をかしげる。それを見て呆れたように息を漏らした男だったが、彼はすぐに説明してくれた。
「天使たちは本気になった時翼が生える。そしてあいつも一度・・・天使としてではないがそれをやれている。もしティオス同様にそれを自在に操れるようになれば、一気に伸びる」
期待を述べる男を見て頭を抱えるヨザイネ。その姿が目に入った男は目を細めた。
「何か問題でもあるのか?」
「あのねぇ、普通あれは純粋な天使じゃなきゃできないの。ティオスとあの時のシリルが異常だっただけ」
残念そうにそう言った少女。それに男も肩を落とすかと思われたが、彼はむしろ笑顔になっていた。
「あくまで仮説だが、あいつらがそれができる理由が予想できるぞ」
「え?どういうこと?」
彼が一体何を考えており、それがどうやったら理由に繋がるのかわからず次の言葉を待つしかない。
「いくつか気になる点はあった。もしそれが俺の考えの通りだと仮定するなら、あの二人はあの魔法のおかげで限りなく天使に近付くことができたんだ」
「ん?あの魔法?」
シリルとティオスはほぼ同一人物であるため共通する魔法はいくつもある。ただ、それが何なのか少女は予想がつかない。しかし男の中ではすでに答えが出ているからなのか、笑いが止まらない様子。
「先入観で勘違いしていたが、よく考えれば当たり前のことだったんだな、あれは」
「ちょっと!!その魔法って何よ!!」
「あぁ、それはーーー」
少女の問いに答えようとそちらに視線を向けた彼だったが、時間が来てしまったのか少女の姿がいなくなっている。それと時を同じくして、部屋の扉が開くと中に赤髪の青年が入ってきた。
「あれ?戻ってきてたのか」
「あぁ。そっちは?」
「これから会議だからねぇ、食休みだよ」
食事を終えて戻ってきたカミューニはベッドに横になる。そのまま特に会話をすることもなく青年は目を閉じ、スヤスヤと寝息を立てていた。
「偶発でもいい、一度でも感覚を掴めれば・・・な」
話の途中でいなくなった少女のことを思い出すこともせず残りの食事へと手を伸ばす。彼の頭の中には少年の成長した姿とそれを倒すために自身が取るべき行動のことでいっぱいになっていた。
シリルside
「これが神に背いた人間の末路」
耳にわずかに聞こえるアルドロンの声。それはまるで何かに遮られているかのように籠って聞こえる。
「負けた・・・のか・・・」
意識が遠退いているからそのように聞こえるのかと思った。降り注ぐ剣舞が収まっていることから、アルドロンがそれをやめたことがわかる。俺の記憶通りなら、先の攻撃に対応することができず槍の雨を受けてーーー
「あれ?痛みがない・・・」
なぜか痛みがない身体を見るとそこには先ほど自身が放った拳に突き刺さった槍の傷痕しかない。全身に降り注いでいたはずの槍を身体が受けた形跡がない。
「てか暗すぎ・・・何ここ・・・」
さっきまで広い空間にいたはずなのに今俺のすぐ近くに壁があり、手が届く。が、その手が届いたそれを触って俺は目を見開いた。
「なんだ?柔らか・・・」
壁とは言いがたいほどの柔らかな感触。なおもそれを触っていくと、それが羽毛であることに気が付いた。
「え?まさか・・・」
真っ白な羽根・・・すぐ近くにあるそれは視界全てを覆っているが、背中側だけ明らかに距離が近い。そこから推測されたことを確かめるために俺はその羽根を動かそうとする。すると、次第に視界が開けていき、目の前にこちらに見て驚いているアルドロンの姿が入ってくる。
「なんだ?それは」
目の前の敵も俺自身も何が起きているのかわからない状況。ただ、一つだけ言えることがあった。
「さっきまでより・・・力が漲ってる」
全身に溢れ出る魔力を感じた俺はそんなことを呟いていた。純白の翼を手にした俺はこちらを見据えているアルドロンを睨み付けるのだった。
後書き
いかがだったでしょうか。
シリルもついに天使の羽根を手に入れました。
厳密にはまだ完璧にものにしたわけではないですが、まぁいいでしょう。
天海の気付きはいずれ出ると思います。本当はアルバレス編で出る予定だったので、今後出せるタイミングがあるかは謎ですが(-_-;)
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