英雄伝説~西風の絶剣~
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第82話 迷子の子供
前書き
原作と違いヘイワーズ一家がホテルに宿泊していた記録もなくなっていますのでお願いします。
side:??
リベールの空の上、そこに巨大な赤い飛行戦艦が静かにたたずんでいた。その戦艦のデッキにレオンハルトが立っており静かに空を見ている。
「戻ったぜ」
するとそこにヴァルターが現れてレオンハルトに声をかけた。彼は振り返ることもなくヴァルターと話をする。
「痩せ狼、実験の方はどうなった?」
「ノルマは達成したぜ、地震が発生したデータもゴスペル内に記録してある。後は教授に任せるさ」
「そうか。しかし油断したな、負傷するとは情けない」
レオンハルトはヴァルターを見ていないが彼が腕に怪我を負った事を知っておりそれを指摘する。
「まあ多少は手加減したが正直こんな傷を受けるつもりはなかった」
「それを油断と言うんだ」
「はっ、お前だって一撃貰っただろうが」
「あれはまぐれだ」
「なら俺だって同じだろう」
レオンハルトの皮肉をヴァルターは好戦的な笑みを浮かべて言い返した。
「まあいい、俺がお前に言いたいのはこんなくだらねえ言い合いじゃねえからな」
「なら何をしに来た」
「剣帝、あのガキに手を出すな。あいつは俺の獲物だ」
「なにかと思えばそんなことか。好きにしろ、あんな奴に興味など無い」
「駄目よ、痩せ狼さん。あいつはレンのターゲットなんだから」
話を続ける二人の前にレンとワイスマンが姿を現した。
「ヴァルター、彼と交戦したようだね。私は特異点に引き込めと命じたはずだが……」
「あー、そうだったか?」
「まあいいさ、結果的に彼を消耗させてくれた。だが殺そうとしたのはいただけないな、死んだらそれまでとは言ったが意識して殺そうとするのは止めてほしいものだ」
「はっ、あんたに俺の流儀を口出しされる筋合いはねえな」
ワイスマンの言葉にヴァルターは悪びれる様子もなくそう言い放った。
本来組織の最高幹部にこのような口をきくのはあり得ないが、結社という組織は変わっていた。執行者はある程度自身の意思で活動することを許されているのだ。
なのでこの場にいるレオンハルトもレンもワイスマンに忠誠を誓っている訳ではない。それぞれが持つ考えや目的、それらによってこの作戦に参加しているのだ。
「ねえ教授、そろそろレンも動いていいでしょう?他のメンバーはお仕事を貰っているのに私だけ待機だなんてつまらないわ」
「ふむ、なら王都に向かうと良い。そろそろ例の奴らが動き始めるようだ、彼らを利用して君の好きなストーリーを作るといいだろう」
「まあ素敵、なら最高のお茶会にしたいわね」
レンはそう言ってある写真を懐から出した。そこにはリィンが写っていた。
「貴方とももうじき会えそうね、リィン・クラウゼル……」
―――――――――
――――――
―――
side:リィン
休暇を終えた俺達はキリカさんから王都グランセルのギルド支部から王国軍から応援要請があったと聞いたのでそちらの方に向かう所だ。
「みんな、わたし達はこれ以上一緒には行けないけどどうか気を付けてね」
「皆さんの旅のご無事をお祈りします」
「ありがとう、アリサ、ティオ。もしこの旅が無事に済んだら今度はクロスベルやエレボニアにもお邪魔させてもらうわね」
「アリサさん、ティオさん、また帰ってきたらお話の続きをしましょうね」
「お二人共もお気を付けて、また会えるのを楽しみにしていますね」
「ティオちゃん、また会えたらハグさせてね!アリサちゃんも帝国の可愛い物いっぱい教えてくれてありがとうね!」
すっかり仲良くなったエステル達女子グループが見送りに来ていたアリサとティオに別れの挨拶をしていた。
「リィン達も気を付けてね、また会えたらおしゃべりしましょう」
「ああ、アリサもまたな」
「バイバイ、アリサ」
「そなたも気を付けてな」
「アリサさん、またお会いしましょう」
俺とフィー、ラウラ、エマはアリサに別れの挨拶を言った。なんだかこのメンバーはまた集まって会えるような気がするんだよな。
「リィンさん、フィーさん、もしクロスベルに来たらぜひ会いに来てください。セシル姉さんも喜びますので」
「そうだな、もしかしたらロイドも帰ってくるかもしれないしこの件が終わったら絶対に会いに行くよ」
「うん、また会おうね」
ティオにも別れの挨拶をして俺達は他にも見送りに来てくれたラッセル博士やキリカさん達に別れを告げて新たに仲間に加わったティータとジンさんを加えて王都グランセルに向かう飛行船に乗り込んだ。
「わぁ……空からの景色ってこんなにも綺麗なんですね」
エマが飛行船のデッキから地上を見下ろして歓喜の声を上げた、どうやら飛行船に乗るのは初めてのようだ。
「エマは飛行船は初めてなのか?」
「いえ、リィンさん達に会いにリベールに向かった際に乗ったのが初めてですね。帝国では鉄道で移動しましたし外の世界にこんなにも沢山の乗り物があるなんて思ってもいなかったです」
「じゃあエマは初めての旅を一人でしてるのか。いくら俺に会うためとはいえ凄いな」
「いえそんな……私にはセリーヌも付いていましたし」
エマがそう言うと何処からかセリーヌが現れて彼女の肩に乗った。神出鬼没だな。
「あはは、賢い子なんだな」
「はい、セリーヌはずっと昔から一緒にいる相棒ですから」
俺はセリーヌに触ろうとしたが手で弾かれてしまった。嫌われたのか?
「こ、こらセリーヌ……」
「いやいいよ。昔からあんまり動物には好かれないから」
俺は昔から動物には好かれないようで大体が怯えて逃げて行ってしまうんだ。
「多分動物はリィンさんの内部に眠る異能を恐れているんだと思います。動物はそういうのに敏感ですから」
「そうか……エマはこの力について何か知らないか?」
「ごめんなさい、私ではちょっと……でもお婆ちゃんならなにか知ってると思います」
俺は異能の力についてエマに確認してみたが彼女も分からないと言う。だが彼女の祖母なら何か知ってるかもしれないようだ。
「私のお婆ちゃんは魔女の長でもあり様々な事を知っています。もったいぶる悪癖がありますがその知識は本物です」
「それならこの件が片付いたらエマの里にお邪魔させてもらおうか、その祖母さんやイソラさんにも会いたいからね」
「はい、その時は里を上げて歓迎いたしますね」
このリベールでの旅が終わったらエマの祖母やイソラさんに会うために彼女の里を訪れると約束した。
「リィン、こんなところにいたんだ」
「フィー」
するとデッキにフィーが現れた。
「そろそろ着くっぽいから準備した方が良いよ」
「あっ、なら荷物を持ってきますね」
エマはそう言って船の中に戻っていった。
「リィン、早速浮気?」
「い、いやそんなんじゃ……!」
「ふふっ、嘘だよ。恋人になれたんだしそのくらいじゃ怒らないってば」
フィーはそう言ってクスクスと笑った。
「まったく……」
俺は溜息を吐きながらもそんなフィーを見て笑みを浮かべた。
―――――――――
――――――
―――
グランセルに到着した俺達は久しぶりにグランセルのギルド支部に顔を出した。そしてエルナンさんから軍から来た依頼の内容を確認する。
どうも通信では聞かせにくい内容のようで軍の関係者が出向いてソレを説明してくれるらしい。エルナンさんの予想では『不戦条約』が関係してるかもしれないと言っていた。
これはリベール、エレボニア、カルバートの3つの国の間で締結される条約で分かりやすく言うなら暴力や武力ではなく話し合いで物事を解決しようという条約だ。
(ただエレボニアとカルバートがそう簡単にその条約を守るとは思えないんだよな……)
ゼムリア大陸でも特に強い軍事力を持つこの二大国家は争いごとや厄介ごとも多く起こしてきた。特にエレボニア帝国は最近猟兵の出入りが多くなってきており、団長たちは戦争の前触れを予想していた。
戦場を生業としてきた団長たちがそう言うのだからなにかしらは起こるだろう、それはそう遠くない未来なのかもしれない。
まあただの猟兵でしかない俺がそんな事を考えても仕方ないんだけどな。
「おや、通信ですね」
そんな時だった、ギルド支部にある導力通信機が鳴ってそれをエルナンさんが出る。
「……なるほど、直ぐに向かわせますね」
「エルナンさん、どうしたの?」
「実は……」
エルナンさんの話によるとエルベ離宮に観光で来ていた子供が迷子になっていたらしく保護をしたそうだ。だがその子の保護者が見つからないようなので遊撃士に探してほしいとのことらしい。
唯でさえ今は忙しいから軍の関係者では動けないのだろう、その子の保護をエステルと姉弟子に任せて俺達は溜まっていた依頼をこなすことにした。
俺は現在エマとクローゼさんと行動を一緒にしている、彼女達と一緒にグランセルの地下水路にいる手配魔獣を探している所だ。
「でもクローゼさんはギルド支部で待機していてもよかったのに……」
「ごめんなさい、でも少しでもお役に立ちたかったんです」
「その気持ちは俺も分かりますよ、貴方の安全は俺が守りますから後ろにいてくださいね」
「はい、お願いしますね」
クローゼさんは割と行動力のある人なので俺達についてきた。こうなった以上彼女をしっかりと守らないとな。
「そういえばエマの戦いは俺は見た事が無かったな、基本はアーツで戦うんだっけ?」
「はい、アーツ以外にも魔法や棒術を多少使えます」
「棒術も使えるの?」
「はい、お母さんに教えてもらいました」
どうやらエマのお母さんであるイソラさんは棒術も使えるみたいだな、思い返してみればD∴G教団のアジトで初めて会った時見事な対さばきをしていたな。
エステルの様にメインではなく咄嗟の攻撃手段ぐらいにしか使わないらしいが……お手並み拝見だな。
「なら連携を取れるように君の戦い方を見せてくれ。前衛は俺が出るから後方からサポートを頼む」
「分かりました」
そして地下水路に出てくる魔獣と戦ってみたが……なるほど、エマも中々やるな。
彼女の戦い方は実に多芸だ。補助、攻撃、防御を状況に合わせて使いこなしている。
接近されたら棒術でいなしたり攻撃して距離を取る、余裕があるなら補助アーツ、いざという時は魔法で作った障壁でガードも出来る。俺が動かなくともクローゼさんのフォローをしてくれるので動きやすい。
正直西風にスカウトしたいくらい優秀だ、絶対にスカウトはしないけど。だってあんな血生臭い世界にエマを引き込みたくないからな。
でもそう思う程彼女は優秀だ。ちょっと実戦慣れしていないのか想定外の事が起こると一瞬動きが止まってしまうという欠点もあったがそれも直ぐに慣れていくだろう。
「エマのお蔭でスムーズに戦えたよ。魔女って凄いな」
「私もフォローしてもらいましたしエマさんってお強いのですね」
「そ、そんな……たまたま上手くいっただけですよ。リィンさんのフォローのお蔭でもあったしクローゼさんも私が動く前に行動していたりしていましたしやっぱり場慣れしている人たちは凄いですよ」
確かにエマの言う通りクローゼさんも状況を判断して的確に動いていたな、エマとは違いそれなりに場数を踏んできたからだろう。
本当にお姫様……?と思うくらいには場慣れしてると思う。
「でも予想より早く手配魔獣を倒してしまったな、まだ合流するまでに時間があるし……そうだ、二人とも、外に出てアイスでも食べないか?」
「アイスですか?」
「うん、東街区にお気に入りのアイス屋があるんだ。久しぶりに食べてみたい」
俺は前にフィーやラウラと食べたアイスを思い出してまた食べたくなってきた、二人を誘ったけどOKを貰えたよ。
ホテルに戻った俺達は各自の部屋でシャワーを浴びてから東街区に向かった。流石に地下水路に潜ったから衛生面が心配だったからね。
「これがアイス……噂には聞いていましたが初めて見ました。綺麗ですね」
エマはアイスを初めて見るらしく興味深そうに観察していた。エレボニアでも帝都ヘイムダルのような主要都市ぐらいにしかアイスは普及していないし里から出たばかりのエマにアイスは珍しいよな。
因みにこのアイス屋の店員さんは俺の事を覚えていたらしく「久しぶりですね」と挨拶してくれた。でも連れている女の子がフィーとラウラじゃなかったので「また違う女の子とデートですか?お兄さん本当にモテますね」とからかわれてしまった。
あくまで俺がアイスを食べたかったのでデートとかそんなつもりはないんだけどな……
「んっ、甘くて美味しい……しかもサラッと口の中で溶けてしまう触感が面白いですね」
「ははっ、気に入ってくれたなら誘った甲斐があったよ」
エマはアイスを気に入ってくれたようで笑みを浮かべて食べていた。
「リィンさんはこういった買い食いはよくされるのですか?」
「うん、フィーと一緒にね。一人の時でもやるけど……」
「ふふっ、それなら他国に旅行に行く場合はリィンさんもいれば美味しいお店を教えてもらえますね」
「あはは、それなりに自信はありますよ」
クローゼさんに買い食いは良くするのかと聞かれたのでそうだよと答えた。猟兵をやってるとやっぱりそれなりに色々な国に行くからその町の名物料理なども食べているんだ。
特にエレボニアとカルバートは頻繁に行き来するから食べ物限定なら観光の案内も出来るかもしれないな。
まあまさか猟兵の自分がリベール王国で食べ歩きが出来るとは思っていなかったけど……ある意味棚からぼた餅って奴かな?
「あら、リィンさん。早く食べないとアイスが溶けてしまいますよ」
「おっと……」
おしゃべりに夢中になっていてアイスの事をすっかり忘れていたよ。完全に溶けちゃう前に食べてしまわないと……
「……ってあれ?無くなってる?」
「ん~♡冷たくて美味しいねー♡」
俺の持っていた器からアイスが無くなっていた、そのすぐ近くにいた赤い髪の男の子が口にクリームを付けながらアイスを食べていた。
「君は確かエア=レッテンで出会ったコリン君?」
「お兄ちゃん、久しぶりだね!」
コリン君は笑みを浮かべて俺に抱き着いてきた。
「おっとっと……相変わらず元気な子だな。今日はグランセルの観光に来てたのかい?」
「うん、エルベ離宮の観光に行ってたんだー!」
「エルベ離宮?それってもしかして……」
「コリン君!待ってよー!」
俺はエルベ離宮で迷子を保護したというエルナンさんの話を思い出してそれについてコリン君に尋ねようとするとエステルと姉弟子が慌てた様子で走ってきた。
「エステル、姉弟子も……」
俺は二人と合流して事情を話してもらった。
「えっ、親御さんが見つからない?」
「そうなのよ……」
俺の予想通りエルベ離宮で保護された迷子の子供はコリン君だった。普通ならそのまま親を探して彼を引き渡すのだがコリン君の両親はエルベ離宮では見つからなかったらしい。
「街道とかにはいなかったんですか?」
「うん、必死に探したし人にも聞いたんだけどそれらしい人は見かけなかったって……」
エマの質問に姉弟子はそう答えた。警備をしている人がいるから人の出入りを見ているはずだけど……たまたま見てなかったのか?
「それでもしかしたらグランセルに戻ってるのかもしれないと思ったから戻ってきて探していたんだけど……」
「見つからなかったのか……」
コリン君の両親とはエア=レッテンで会ったが子供を置いて何処かに行ってしまうような無責任な人間には見えなかったけどな。
「ねえコリン君、お母さんとお父さんは何処に行ったの?」
「分かんない、気が付いたらいなくなってたの」
「そうですか……」
クローゼさんが優しくコリン君に尋ねると彼は急にいなくなったと答えた。
「益々わからないですね、コリン君のご両親は何故いなくなってしまったのでしょうか?」
「何か事件に巻き込まれたのかな?」
「とにかく一度ギルドに戻りませんか?他のメンバーが何か知ってるかもしれませんし……」
「そうね、まずは一旦戻りましょう」
エマと姉弟子は事件に巻き込まれたんじゃないかと話す、俺は情報を他のメンバーと共有しようと話してエステルも首を縦に振った。
俺達はコリン君を連れてギルドに戻るのだった。
―――――――――
――――――
―――
「待てー」
「わー!」
「きゃはは!こっちこっち!」
「前を見ないと危ないですよ」
フィーとクローゼさんが逃げるティータとコリン君と追いかけっこをしてるのを俺は微笑ましい気持ちで見ていた。
「ふふっ、愛らしいな」
「はい、子供が元気に遊ぶ姿を見てると微笑ましい気持ちになってしまいますね」
「あたし達もまだ子供だけどね」
「それは言っちゃ駄目だよー」
ラウラ、エマ、エステル、姉弟子はそんな姿を微笑ましそうに見ていた。
今俺達はグランセルの東街区の広場にいるんだけどあれから色んなことが起きたんだ。
ギルドに戻るとそこにレイストン要塞でエステル達が世話になったというシード中佐がいて俺達に依頼の内容を説明してくれた。
依頼の内容は情報収集だそうだ、なんでも不戦条約を妨害しようとする脅迫状が届いたみたいなんだ。
、最初は悪戯の可能性を考えたらしいがこの脅迫状はレイストン要塞を始めとしたリベール各地の施設に送られたらしい。
そんな多くの場所に脅迫所を送り込むのは個人では難しいだろう、つまり集団での犯行だと考えられる。軍としても万が一の事があってはならないと判断して遊撃士協会に応援を要請したんだと思う。
とはいえじゃあ誰が妨害しようとしてるのかは分からない、何せ容疑者が多すぎるからだ。エレボニア、カルバートを筆頭にそれとは違う多くの小国やリベール王国内でもそういう事をしようとする容疑者がいるんだ、絞れるわけがない。
しかも王国軍は警備などで動けない状態だ、だから俺達に脅迫状が届けられた各場所に向かい情報を集めてきてほしいらしい。
エルベ離宮、レイストン要塞を除いて7か所は回らないといけないので全員が分担して情報収集を行う事にした。
その際コリン君の両親の事もエルナンさんに話してとりあえず一旦ギルドで預かる事になった。彼の相手は年が近いティータに任せて俺達は別れて行動する。
それで情報収集が終わったので戻ってきたんだけどどうもコリン君が泣き出してしまったらしく俺達に遊んでほしいと言ってきたんだ。
まだ他に掲示板にある依頼もあったのでジンさんやアガットさん、オリビエさんに任せて俺達はコリン君の相手をすることにした。
本当は俺も依頼の方に行こうとしたんだけどコリン君は何故か俺に懐いていて俺が行こうとするとギャン泣きしたので残ったんだ。
でも子供の体力って凄いな、俺とも追いかけっこをしていたんだけど疲れてフィー達に交代したんだ。でもコリン君は元気に走り回っている。
「でもコリン君の両親は何処に行ったんだろうね?」
「確かクロスベル自治州に住んでいるヘイワーズ夫妻だったな、エルナンさんが軍と協力して情報を集めているようだが……」
姉弟子の問いかけにラウラがコリン君から聞いた両親の名前を呟いた。最初この名前を聞いたとき俺はクロスベルで最近やり手として名を上げている商人がそんな名前だった事を思い出した。
確かハロルド・ヘイワーズっていう名前だったはずだ。直接会ったことはないけど猟兵として有名な人物の名はある程度把握している。
俺達はホテルや飛行船の乗り付け場でヘイワーズ夫妻の情報を得ようとしたんだけどそういった人物が施設を利用した形式が無かったんだ。
「コリン君の話を信じるならヘイワーズ夫妻は急に姿を消したようだ。普通なら子供を置いていなくなったりはしないだろう」
「そうなると普通は旅行客を狙った誘拐を疑うんだけどまさか飛行船やホテルを利用したお客さんのリストにも名前が載ってなかったなんて思わなかったわ」
ラウラの言葉にエステルが複雑そうな表情で答えた。普通飛行船や宿泊施設を使う際に名前を記入するのだがヘイワーズ夫妻の名前は無かった、つまり単純に考えるとヘイワーズ一家は飛行船を使わないで街道を使って行き来しているか偽名を使ってるということだ。
だがどちらもヘイワーズ夫妻の姿を見た人はいなかった。
そうなると徒歩での移動しか考えられないが……あり得ないだろう、一般人が唯の旅行で魔獣も出る危険な街道を使うなんて命知らずもいい所だ。
「とにかく今はエルナンさんの情報待ちだな、流石に不法入国などしていないだろう」
ラウラの言う通り唯の一般人が不法入国など出来るはずもない、関所を超えようとすれば必ず個人情報が残るんだ。もしそれすら無かったら……
(……コリン君は間違いなく唯の子供だ。もし結社の関係者を考えるなら親の方だろう)
コリン君からは強さを微塵も感じない唯の子供にしか見えない。警戒心の強いフィーも何も言わないので彼は間違いなく唯の子供だ。
そうなると急に消えた両親の方を警戒しないといけないな。結社のやることは訳が分からない、俺達を欺くために関係の無い子供を誘拐して洗脳してその親に成りすましていた……なんてなっても驚かないぞ。
もちろん何も関係なくて事件に巻き込まれた、もしくはコリン君と同じで結社に操られているという可能性もある。とにかく今は情報を待つしかない。
「ねえねえお兄ちゃん、肩車して!」
「うん、いいよ」
俺はコリン君を肩車する。俺も幼いころは団長にやってもらったっけ。
「あはは!高い高ーい!」
無邪気にはしゃぐコリン君を見て俺はせめて親が見つかるまではお兄ちゃんとして接してあげようと思うのだった。
――――――――――
――――――
―――
「結局ヘイワーズ夫妻は見つからなかったか……」
夜になり全員が集めた情報をエルナンさんに報告して書類にまとめてもらった。
結果的に言えば脅迫状の犯人も絞れなかったしコリン君の両親も見つからなかった。見かけたとか実際に会ったという情報はいくつかあったのだが何処にいるのかまでは分からなかった。
その日はもう日も暮れたので夕食を外で食べた後オリビエさん、ジンさんはそれぞれの大使館に、クローゼさんはグランセル城に、そして俺達はホテルに向かった。
「リィンはどう思う?今回の二つの件について」
俺の部屋に遊びに来ていたフィーが脅迫状とコリン君の両親の失踪について尋ねてきた。因みに今コリン君はエステル達に任せている。
「そうだな、俺としては脅迫状については何とも言えないな。愉快犯の可能性もあるしそっちは警戒するしかないと思う」
「そうだね、皆の集めた情報を纏めても誰がやってもおかしくないからね」
皆が集めた情報では自分の国の人間がそんな事をするとは思えないという話が殆どだ。これで犯人を特定するのはまず不可能だ。
そもそも脅迫状からしておかしいんだよな、そもそも脅迫って犯人が望む内容、目的をさせるために相手を脅す事だ。
でもあの脅迫状には明確な目的は書かれておらず『不幸が訪れる』とだけ書いてあった。これじゃあ悪戯だと思っても仕方ない。
つまり現時点では何も分からないという事だ。これで犯人の目的でも書かれていれば絞れるんだけどな。
「コリン君の両親については……正直結社を疑ってる」
「だよね、唯の一般人が何の情報も残さないで国に入るなんて不可能だし怪しすぎる」
ヘイワーズ夫妻がホテルに泊まったり飛行船を使った記録が無かったのはおかしい、さっきも言ったけど唯の一般人、それも旅行客が魔獣が出る陸路を使うの何でまずあり得ない。
仮に目的があったとしても遊撃士を護衛にしたりするだろう。でもそういった依頼は無かったとエルナンさんの調べで分かった。
つまり現時点で俺とフィーはヘイワーズ夫妻を怪しんでいる。コリン君を置いていったのも俺達に何かを仕掛けるためかもしれない。
「ただ露骨過ぎない?如何にも怪しんでくれって感じだし」
「そうなんだよな……」
フィーはヘイワーズ夫妻が怪しいのは確かだけど露骨過ぎないかとも話す。
現状ヘイワーズ夫妻は調べれば調べる程怪しい所しか出てこない、だがこれは俺達を騙すための結社の罠なんじゃないかとも思うんだ。
だってあまりにも怪しすぎて狙ってやってるんじゃないかと思うくらいだ。
「まあクロスベルのギルドにも連絡をしてヘイワーズ一家がいるかどうかを確認してもらってるからそれ次第だな」
エルナンさんに頼んで現在クロスベルにヘイワーズ一家がいるのかどうか確認してもらっている。流石に直には連絡を取れないがそれも時間の問題だろう。
「後はその情報次第だな。ヘイワーズ一家がクロスベルにいればリベールにいた夫妻は偽物、いなければ事件に巻き込まれた、もしくは結社のメンバーなのを警戒する……これしかないか」
「まあそれしかないね。でもわたし、仮に結社がコリンを利用しているって分かったら流石に許せないよ」
「ああそうだな、俺も許せない」
もし結社の勝手な思惑で何の罪もないヘイワーズ一家が巻き込まれたのなら俺は奴らを許さない。
「とにかく今は情報を待つしかない。今日はもう寝てしまおう」
「ん、そうだね。それじゃ寝よっか」
フィーはそう言ってベットに潜り込んだ。
「おいおい、フィーの部屋はラウラとエマがいる部屋だろう?」
「別にいいじゃん、エステル達はコリンと寝てるしラウラもエマも寝ちゃってるよ。起こしちゃったら不味いし今日はここで寝る」
「仕方ないな……」
フィーはこう言い出し絶対に折れないので早々に諦めた。俺は隣のベットに入るがフィーが猫のような俊敏な動きでこっちのベットに入ってきた。
「一緒に寝よう、恋人なんだし」
「ラウラに悪いだろう……」
「いいじゃん、別に。一緒に恋人になったけど抜け駆けはしないなんて約束してないし」
「仕方ないな」
そう言うフィーに俺は早々に折れた、正直甘えるフィーが可愛すぎて断れない。
「リィン、お休みのちゅーしよ」
「はいはい」
俺はフィーの顎を指で上に軽く上げると優しく唇を重ねた。いつもは舌を絡めようとするフィーだけど今日は唇を重ね合うだけのソフトなものを選んだようだ。
フィーの唇の柔らかさを堪能しながら30秒ほどキスを続けた、そしてそっとフィーから離れる。
「……」
「……」
ジッと目を見つめ合ったが俺はちょっと物足りなかったのでフィーを抱き寄せてもう一回キスをした。
今度は俺の方から舌をフィーの口内に差し込んでディープなキスをする。そしてまた30秒ほどたっぷり舌を絡めあいキスを堪能した。
「リィンからべろちゅーしてくれるなんて……ハマっちゃった?」
「確かに物足りなく感じたな」
「ふふっ、今までいっぱいべろちゅーをしてよかった」
フィーはしたり顔をしてクスクスと笑みを浮かべる。
「なんならもっとしちゃう?リィンも満足できてなさそうだし」
「本当はフィーがしたいだけなんじゃないか?」
「うん、したい。リィンは違うの?」
「……俺の負けだな」
したり顔のまま挑発するようにそう言うフィーに俺は負けを認めてまたキスをした。
世界で一番大切で愛しいフィーとのキス、俺はいつの間にかどっぷりとハマってしまったらしい。
フィーをベットに押し倒して頬に手を添えてキスをした。片手は恋人つなぎに絡めあいお互いの温もりを感じ合っていく。
「愛してるよ、フィー……」
「わたしも愛してる、リィン……」
愛の言葉を交わして深く舌を絡めあう俺達、その後水音だけが部屋に響き俺達は唇や舌が疲れて動かせなくなるまで唇を重ね続けるのだった。
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