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おっちょこちょいのかよちゃん

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277 吐き出された本音、そして絶望

 
前書き
《前回》
 笹山は藤木と再会するも連れ帰すのに失敗してしまった。しかし彼女が使用した道具から緑色の光が塔のように出現し、かよ子達はその光が藤木の居場所を示す光だとフローレンスから知らされる。また、その道具の能力(ちから)によって今まで藤木に好意を見せるように洗脳されていたりえが元の状態に戻る。そしてりえはまた今の状態から脱出したいという気持ちになり・・・!? 

 
 かよ子達は三河口達の元へ合流を急ぐ。その時、通信機が鳴った。
『藤木救出班の皆、こちらイマヌエルだ。レーニンや藤木茂君の行方も気になるとは思うが、夕食時だ。食事してから向かうといいよ』
「あ、はい、ありがとうございます・・・」
 イマヌエルによってその場に食事が瞬間移動で提供された。エビフライに白身魚、カキフライのミックスフライだった。
「おお~、今日はご馳走だねえ~、イマヌエルさんもたまには気が利くじゃん」
「おお、これからの戦いにはもってこいの御馳走じゃな」
 まる子と友蔵は早速よだれを垂らしそうになった。
(『たまには気が利く』ってちょっと失礼じゃないの・・・?)
 かよ子は心の中でまる子にツッコミを入れた。
「それにしてもお兄ちゃん達無事かな・・・?」
「そういえばあの三河口健はこの世界最上位の能力(ちから)を持つ剣を奪還した後は何をしているのか・・・」
「そういえばこちらは何も聞いとらん」
「そっか・・・。もしかしたらりえちゃんやりえちゃんの杯を探してるかもしれないね・・・」
 かよ子は知り合いの高校生がなぜか気になるのだった。思い切って通信機を出して連絡してみようと思った。
「もしもし。こちら山田かよ子」
『こちら三河口健。かよちゃんか、どうかしたのか?』
「お兄ちゃん、そっちに杉山君達が近づいてるってフローレンスさんが言ってたんだ!」
『杉山君が?解った、準備しておく』
「それでなんだけど、私達も近くにいるから応援しにいくよ」
『ありがたいが、藤木君の方はどうするんだ?折角杖を取り返したというのに寄り道してる余裕があるのか?』
「解ってるけど、お兄ちゃんの事も心配なんだよ・・・!」
『それでおっちょこちょいしても知らんよ』
「あ、うん・・・」
 通信を終了させた。

 三河口は食事を終えた後にかよ子と連絡していた。その連絡が終了すると、冬田が聞いてきた。
「ねえねえ、お兄さあん、山田さん達がこっちに来るって事は大野君達もこっちに来るって事お?」
「そうなるだろう。しかし、かよちゃん達に本来の使命を蔑ろにして貰っても困るんだがな・・・。だがかよちゃん達が近くにいるって事は藤木って少年も近くにいるって事か・・・。俺達がかよちゃん達の目的地に寄ってもいいかもしれんな」
「それで杯が見つかるのか?」
「それとも大野君達のお手伝いするのお?」
「いや、杯を奪った奴が藤木のいる所にあってりえちゃんもそこに囚われているとなると、そいつに杯の在処を吐かせてりえちゃんや藤木を見つけ次第かよちゃんやありちゃん達に報告するつもりだ」
 三河口が急に警戒を強めた顔に変わった。
「どうした?」
 湘木が聞いた。
「来ているようだな。その戦争主義の世界の長がな・・・!!冬田、羽根を東の方角へ動かせ」
「え?大野君達を待たなくていいのお?」
「逃げながら戦う。つっても俺達がそのりえちゃんを連れ去った奴の所へ行った方が向こうの思う壺かもしれんがな」
 三人は藤木救出班の目的地へ移動し始めた。

 食後、藤木は部屋に戻ろうとしたが、りえはそのまま椅子から立ち上がらなかった。
「りえちゃん、どうしたんだい?」
「あ、ううん・・・」
(今まで私は藤木君が好きになるように操られてたって言うのっ・・・!?)
 りえは黙って部屋に戻った。
「りえちゃん、明日は何して遊ぼうか」
「う、その・・・」
「どうしたんだい?もしかして疲れたのかい?」
「いや・・・。私、その・・・」
 りえは本音を言おうか迷った。そして部屋に戻る。
「僕はお風呂入って来るよ」
「行ってらっしゃい・・・」
 藤木は部屋から出た。そしてりえは考える。
(私はあの時・・・。眠くなって・・・。これも妲己って人の術っ!?)
 りえはそう思うと憎悪が心に籠る。
(早く、ここから出たいっ!それから私の杯は一体どこにあるのっ!?)
 暫くして藤木が入浴を済ませて戻って来た。
「只今、りえちゃん・・・」
 りえは窓際に離れていた。
「藤木君・・・。私・・・」
(ど、どうしたんだろう・・・?)
「私、本当はここにいたくないっ!」
「え?」
「私はここにいたくないのっ!私達がいるこの世界は戦争を正義としてるこの世界なのっ!この世界は今世界でテロ活動してる赤軍って人と組んで日本をまた戦争を起こす国にしようとしてるのよっ!私達はかよちゃんとか杉山君とかと一緒に平和を正義としてる世界の人と協力してそれを止めようとしてるのよっ!その為にこの世界に来てるのっ!確かに藤木君からしたら元の世界にいるよりもこの世界にいた方が楽かもしれないけど、私は嫌っ!」
「ど、どうしたんだい!?さっきまでは僕と一緒にいるの楽しんでたのに・・・」
「私、藤木君は友達だと思ってるけど、私は本当はっ、本当はっ・・・!!」
「え・・・?」
「私は夏休みの時に喧嘩してたけど、杉山君の事がなんか気になってっ、だから私、藤木君の事は友達とは思っても好きとまでは思ってないのよっ!!」
 りえは感情一杯にぶちまけた。
「そ、そんな・・・!!」
 藤木はりえの言葉で呆然としてしまった。
(そ、そんな・・・、りえちゃんは・・・)
 藤木は思い出した。思い出せば夏休みにりえと遊んだ時、杉山はりえと喧嘩してばかりいた。だから仲良くはないと思っていた。にも関わらずりえは杉山に好意を寄せている?藤木は信じられなかった。
「じゃあ、さっきまで僕に対して好きそうにしてたのは何だったんだい?あれは演技だったのかい?」
「さっきまで?」
「僕のスケートを見てカッコいいって、見惚れてたじゃないか。あれは一体なんだったんだい?」
「あ、あれは、本当の私じゃないわっ!何かの催眠術に掛かってたのよっ!」
「そ、そんな・・・」
 藤木は傷ついた。祝言が終わった後からりえが自分に好意的になったのはあれは彼女の本心ではなかったのだ。自分は儚い楽しい夢を見せられていただけだったのか。
(そんな・・・、そうなんだ。りえちゃんは僕にはちっとも気がないんだ・・・。僕は笹山さんの事も忘れたし、もうそうなると、僕は誰を、好きになれるんだ・・・。誰が僕と一緒にいてくれるんだ・・・?)
 藤木は今ここに好きなはずの女子といるのが急に辛くなった。
「そっか・・・。ごめんよ、りえちゃん・・・。僕は君が好きになったのに、君は好きじゃなかったんだね・・・。無理に連れて来てごめんよ・・・」
 藤木は二度目の好きな人から嫌われた絶望を味わった。前の世界で野良犬に遭遇した時、山田かよ子を見捨てて逃げた時も笹山から失望された。そして今はりえから拒絶されている。りえがこの屋敷に来たばかりの時もりえから驚かれて受け容れられなかった。祝言の後は自分に好意を持ってくれたのかと思ったが、そうでもなかったのかと思うとますます心が痛む。
(・・・、僕は、僕は・・・!!)
 だがりえから嫌われても笹山とよりを戻そうとは思わない。現に笹山が迎えに来た時と拒絶した。藤木はボロボロ涙が(こぼ)れ始めた。藤木は泣くのを我慢できず、部屋を出た。

 三河口、湘木、そして冬田の三人はは東の方角へと急ぐ。目的地は藤木救出班と同じ場所だった。三河口は見聞の能力(ちから)よりある事を察した。
「敵とは別の感触がする・・・。かよちゃん達が来たのか、それともありちゃん達が目的地に着いたのか、それともまた別の誰かがいる・・・」
「もしかして大野くうん?」
「そこまで解らん。だがレーニンも接近している」
 そして三河口は北の方角を振り向いた。
「・・・追いつかれたか」
「久しぶりだな、小僧」
「レーニン!!」
 三人は戦争主義の世界の長と遭遇した。 
 

 
後書き
次回は・・・
「敵の世界の長との再戦」
 レーニン・杉山と相対した冬田、湘木、そして三河口は戦いを開始させる。今のレーニンは三河口の異能の能力(ちから)を写し取っている為、苦戦を強いられる。そして藤木を拒絶したりえは彼を傷つけたという事で妲己に粛清される事に・・・!? 
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