跡継ぎの髪の毛
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第一章
跡継ぎの髪の毛
イングランドのリッチモンド公爵家は王家と血縁関係にありかつエウロパ中央政府にも代々要人を輩出しているエウロパでも名門として知られる家である。家の者達は気さくでユーモアがあり器の大きな人物が多いことでも知られている。
だがこの家には一つ特徴があり。
「男の方はな」
「ああ、代々薄毛の方が多いな」
「今は治療出来るが」
「何でもそうしたことはされない家訓らしいしな」
髪の毛の治療はしないというのだ。
「見栄えではなく中身」
「そうした家訓らしいからな」
「髪の毛はそのままだな」
「代々な」
「貴族の家訓は大きい」
エウロパの特徴の一つだ、貴族にとって家訓は絶対のものなのだ。
「だからな」
「服装は貴族らしく整えていて」
「身だしなみはな」
「だがご自身を飾られない」
「整形もされないしな」
「あくまでそのままだ」
「だから髪の毛もな」
「折角お顔は代々整っておられるのに」
それでもというのだ。
「薄毛が遺伝なのがな」
「残念だな」
「全くだ」
「本当にな」
エウロパの者達はリッチモンド家の男性達についてこんなことを話していた、だがその中でだった。
現当主チャールズ卿の長男であり次期当主であるウィリアム公子についてだ、人々は期待して話した。
「ご母堂によく似ておられる」
「全くだな」
「ブルーグレーの目にだ」
「細面できりっとしたお顔立ち」
「それにすらりとした長身だ」
「しかも髪の毛もな」
肝心のそれもという感じで話された。
「ご母堂譲りのブラウンの奇麗なものだ」
「直毛でさらさらだな」
「しかも量が多い」
「ご母堂は髪の毛多いしな」
「公子は大丈夫だな」
「あの方は薄くならないぞ」
「きっとずっとふさふさだ」
「間違いなくな」
「リッチモンド家の伝統が潰えるな」
そうなるというのだ。
「いよいよな」
「ウィリアム様は禿げない」
「薄くならない」
「絶対にな」
「安心出来るな」
こうしたことを話した、それも楽しそうに。
ウィリアム卿はそんな話を聞いてかいないかすくすくと成長していった、貴族の子弟として名門校に通い。
大学にも入った、だが。
ここでだ、人々は話した。
「あれっ、何かな」
「ああ、公子の髪の毛がな」
「薄くなったか?」
「そうなってきたか?」
「まだ二十一になられたばかりだが」
「そうなってきてないか?」
「いや、ないだろ」
すぐに否定する言葉が出た。
「それは流石に」
「ああ、ご母堂そっくりだしな」
「お母上の髪もな」
「色も質もそのままだ」
「だったらな」
それならというのだ。
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