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第五章
「いいな」
「そうですね、確かに今この街は厳しいです」
暮らすにはとだ、前田は言った。
「物価が高くなり過ぎて」
「ああ、しかしな」
「それでもですね」
「そんな中でもな」
「こうしたですね」
「安いお店もな」
橋本は前田に応えた。
「あるな」
「ですね、そう思うとまだ捨てたものじゃないです」
「どんな辛い中でもだよな」
バーテンダーがここでまた言った。
「希望はある」
「はい、そうですね」
「そう言われていますね」
二人でバーテンダーに応えた。
「確かに」
「ギリシア神話でしたね」
「パンドラの箱だったな、それが道楽でもな」
所謂金持ちのというのだ。
「あってもいいだろ」
「そうですね、じゃあまた」
「こちらに来させてもらいます」
「そうしてくれよ」
笑顔で話してそうしてだった。
バーテンダーは二人を笑顔で送った、そして二人も笑顔でまた来ますと言ってそのうえで店を出た。すると。
前田は橋本に店の扉を見つつ話した。
「いや、本当にです」
「辛い中でもな」
「こうした場所があるとですね」
「まだ大丈夫って思えるな」
「そうですね、まあインフレも」
「ずっと続くインフレもないからな」
橋本は前田に話した。
「デフレだってな」
「ずっと続かないですね」
「ああ、何時かは落ち着いてな」
そうなってというのだ。
「終わるさ」
「そうですよね」
「だからな」
「物価も下がりますね」
「そうなるさ、それまでな」
「耐えることですね」
「今のややこしい情勢も終わる」
国際情勢の中のそれもというのだ。
「絶対にな」
「そうなればですね」
「インフレも終わってな」
「落ち着いてですね」
「物価も収まる、それまではな」
「このお店をですね」
「オアシスにするか」
心のそれにというのだ。
「また来て」
「そうですね、それじゃあ」
「今はな」
「帰りますか」
「そうしような」
これまでの物価のことを話す深刻で嫌そうなものは消えていた、そうしてだった。
二人で笑顔でそれぞれの部屋に戻った、そのうえでだった。
共に時々そのバーに行って飲んだ、それは情勢が変わりインフレが落ち着いてからもであった。何時しか二人にとってこのバーはすっかり憩いの場になっていた。そして二人はそれを心からよしとした。
古いバー 完
2022・10・18
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