桐林の主
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第三章
「いいな」
「その時が特にか」
「気に入った、青い川にな」
桐林の中のというのだ。
「薄紫の桐の花の花びらが流れれば」
「尚いいか」
「全くだ、こんないい景色はない」
磐司は微笑んで話した。
「最高だ。本当にいいことをするとな」
「身重の山の神を助けてか」
「いいことがあるな」
「百足を倒せてか」
「こんな素晴らしい桐林を貰えたんだからな」
山の神に笑顔で話した。
「よかった」
「そう言うか」
「ああ、いいことをしたら本当にな」
こんなことがあるのだとだ、彼は山の神に話した。
彼は村人達も案内して一緒に桐林を見て楽しんだ、だが。
長老はその彼にだ、こう言った。
「そこまでの道がな」
「わかりにくいか」
「どうもな」
こう言うのだった。
「わかりにくいどころかな」
「わからないか」
「お前さんに案内してもらわないと」
それこそというのだ。
「もうな」
「そうなんだな」
「だからな」
「だから?」
「お前さんが死んだら」
そうなると、というのだ。
「もうな」
「それでか」
「ここを知る人はいなくなるな」
「そうなるか」
「きっとな」
こう磐司に言うのだった、そして山の神である老人も彼にそう言った。
「お前さんがいなくなれば」
「ここのことはか」
「人はな」
「誰も知らないか」
「お前さんの名前から磐司ヶ洞と名付けたが」
この場所はというのだ。
「お前さんがいなくなればな」
「誰か見付けないか」
「どうだろうな」
老人は彼に笑って応えた、そして実際にだった。
彼が死ぬと誰もそこに行けなくなった、こうしてこの場所はこの山の神の手に戻った。だがそれでもだった。
この神はかつて磐司が助けた女の山の神に話した。
「またな」
「ああした人が出て来れば」
「洞を譲る」
「そうするのね」
「ああ、誰か出て欲しいな」
こう言うのだった、そしてまた彼の様な人物が出て来ることを待つのだった。それは今も続いているという。
桐林の主 完
2022・12・13
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