神々の塔
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第十四話 白波五人男その八
「やってるで」
「そやねんな」
「確かに盗賊やが」
芥川はそれでもと話した。
「非道はな」
「せんか」
「と言うてるわ」
五人男の言い回しの中でだ。
「まあよお見たらな」
「非道もか」
「少なくとも善人とはな」
五人男達はというのだ。
「言えんわ」
「盗賊らしからんでもやな」
「全然逃げも隠れもせんけどな」
その外見や振る舞いはというのだ。
「やけに堂々としてるし」
「ほんま堂々としてたわね」
アレンカールも笑って言ってきた。
「五人横並びでね」
「傘さしてやな」
「もう堂々と立っていて」
「背筋伸ばしてな」
「悪いことをしていても」
「悪は悪でもな」
盗賊がそれであってもというのだ、職業としてのそれではなく行いのことを言っているのだ。
「それでもな」
「疚しいことはなのね」
「なくてな」
「堂々となのね」
「その道を歩むな」
「そんな方々なのね」
「悪の美学というか」
芥川はさらに話した。
「アウトローに生きるや」
「その中での誇りね」
「それがあるからな」
「あの方々は胸を張っていて」
「見ていてもや」
それでもというのだ。
「恰好ええんや」
「そうなのね」
「ああ、河竹黙阿弥さんが書いた」
白波五人男の脚本を書いたのはこの人物である、尚この作品の正式な題名は青砥稿花紅彩画といい遠しで上演すると結構な長さになる。
「悪の美学の話や」
「そうなのね」
「まあヒロインはおってもな」
千寿姫という。
「前半出て死んでな」
「それで終わりか」
トウェインが突っ込みを入れた。
「ヒロインは」
「ああ、色々あって自害してな」
そこに弁天小僧が悪者として関わるのだ。
「それでや」
「出て来んか」
「通しで上演せんとな」
それが行われることが非常に少ないのだ。
「出て来ることは稀や」
「ああ、ヒロインでもな」
「そんなヒロイン珍しいな」
トウェインは首を傾げさせて述べた。
「滅多に出んとか」
「ろやろ、けどそんな作品もあるんや」
芥川はそのトウェインに話した。
「世の中にはな」
「そやねんな」
「まあ強いて言うなら弁天小僧がヒロインや」
実質的な主人公である彼がというのだ。
「女装するしな」
「それでか」
「ああ、それでな」
「そうか、男でもヒロインか」
「実際演じるのは男の人やしな」
日本の歌舞伎ではそうである、所謂野郎歌舞伎である。
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