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仮面ライダーAP

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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第21話


 仮面ライダーアルビオンとブレイズキャサワリー。彼らが繰り広げていた拳撃と蹴撃の応酬は熾烈を極めていたが――その勝敗は、ブレイズキャサワリーに軍配が上がろうとしていた。
 脚の爪はただ鋭いだけではなく、何度も射出することも可能なのだ。アルビオンの装甲服は何度もその刃先に穿たれており、見るも無惨な姿に変わり果てている。

「はぁ、はぁ、はぁッ……! どうした始祖怪人、私はまだ死んではいないぞ……!」
「……ふん。さっさと諦めてしまえば、悪戯に傷付かずに済んだものを」
「生憎……私は、往生際の悪さだけが取り柄のような女でな……!」
「そうまでして、SATの仲間達の元に逝きたいか? あの時は女だからと見逃してやったが……これ以上無駄な足掻きを続けるというのなら、もう俺も手加減は出来んぞ」
「……そうか、ならば今から後悔させてやる。数年前のあの日、私だけは殺しておくべきだったとなッ!」

 それでも彼女は屈することなく、最後の力を振り絞ろうとしていた。そんなアルビオンに引導を渡すべく、ブレイズキャサワリーも「とどめ」を刺そうと片足を振り上げる。

 ブレイズキャサワリーの爪は射出が可能であり、蹴りを入れたと同時にゼロ距離で射出することも出来る。パイルバンカーさながらのその一撃をもう一度(・・・・)まともに喰らえば、アルビオンは今度こそ立ち上がれなくなるだろう。

 ――だが。女性を殺すことを忌避し、アルビオンこと東方百合香を見逃したことがある彼には、僅かな躊躇いがあった。

 彼がまだ、生身の人間だった頃。1970年代、ベトナム戦争に参加していた当時のブリード・フラナガン伍長は、数多の密林で凄惨なゲリラ戦を経験していた。
 その渦中で殺めた女性ゲリラが、撃たれながらも怯むことなく自分に突進し、ナイフで突き殺そうとして来た瞬間が――まさに今、フラッシュバックしていたのだ。

 半壊したアルビオンの仮面から覗いている、東方百合香の眼光。その鋭さは、かつてベトナムの戦地で遭遇した女性ゲリラを想起させるものだった。
 彼女を殺害して以来、女兵士と対峙することを嫌って来たブリードは――ブレイズキャサワリーとして生まれ変わってからも、そのトラウマから逃れることは出来なかった。故に彼は数年前、SATを撃退した時も百合香だけは殺せなかった。

(忌々しい……! その眼、その眼だ! 死ぬと分かっていても銃を捨てられない、哀しい奴らと同じ眼……! お前がそんな眼をするから、俺はッ……!)

 今もなお、そのトラウマを抱えていた彼は――迷いながらも、片足の爪でアルビオンを貫こうと片脚を突き出した。
 だが、その微かな躊躇いが、蹴撃の「切れ」を鈍らせていたのである。

 アルビオンの巨大な機械腕から放たれる必殺の一撃は、ブレイズキャサワリーの蹴撃よりも、一瞬速く炸裂しようとしていた。
 機械腕内部のシリンダー状パーツ「インパクトパイル」が、吸引された空気を最大限にまで圧縮する。

「はぁあぁあーッ!」

 やがてパンチと共に、パイルバンカーの如く急速に打ち出された衝撃波――「ギガントインパクト」が唸りを上げる。
 ブレイズキャサワリーの爪がアルビオンに届くよりも、僅かに速く炸裂したその剛拳が、始祖怪人のボディを穿つ。

「ぐおあぁああッ!?」

 その一撃が、ヒクイドリ怪人の身体を紙切れのように吹き飛ばし――天井に叩き付けてしまうのだった。力無く床に墜落した彼の姿が、徐々にブリード・フラナガンのものに戻されて行く。

「……生き延びようと足掻く力は、お前の方が上だったというわけかッ……! ふっ、なるほど……確かに、往生際の悪い女、だッ……!」

 相手を殺してでも生き延びようとする意志が足りなかったがために、トラウマを払拭することが出来なかった。
 それが己の敗因であると分析したブリードは、アルビオンの勝利を認め、乾いた笑みを浮かべている。

「んっ……はぁあぁっ! はぁっ、はぁっ、んはぁあっ……!」

 そんな彼の前で、力尽きたように座り込むアルビオンも――エネルギー切れによって変身を強制解除され、東方百合香としての姿を露わにしていた。その弾みで安産型の桃尻がぷるんっと躍動し、汗ばんだ肉体から漂う芳醇な色香がむわりと溢れ出して来る。小麦色に焼けた柔肌を晒している扇情的な下着は、男勝りな彼女も1人の「女」であることを物語っていた。
 両手を着いた女座りの姿勢で、扇情的に息を荒げている黒髪の美女は、豊満な乳房をどたぷんっと揺らして憔悴しながらも――凛々しい表情を崩すことなくブリードを見据えていた。鍛え抜かれ、引き締まったウエストに反した爆乳の谷間に、甘い匂いの汗が滴り落ちて行く。

「あぁ……そうだとも。私は決して、こんなところで死にはせん。SATの仲間達(あいつら)に持っていく土産話が、全く足りていないのでな」

 彼女の凛とした眼に宿る、生き抜こうとする強い意志。その気高さは、かつてのブリード・フラナガンを大きく凌ぐものであった。
 ブリードのトラウマだけが勝因ではない。何度打ちのめされようとも決して屈しない彼女の気高さが、この勝利をもぎ取ったのである――。

 ◆

 仮面ライダータキオンやハイドラ・レディのような「CLOCK(クロック) UP(アップ)」の類ではない、より純粋な「速さ」を武器に競り合う2人の女傑。
 そんな仮面ライダーティガーとタパルドのデッドヒートも、間も無く決着を迎えようとしていた。タパルドの疾さに付いて行けず、何度も爪で切り裂かれたティガーの装甲服は、すでにボロボロとなっている。

「げほっ……! が、はぁっ……!」
「はぁ、はぁっ……! どうやらこのレース、私の勝ちで決まりのようだね! さっさとリタイアしたら? これ以上続けたら……あんた、本当に死んじまうよ!」
「……私は今まで、どんなレースでも最後まで投げたことがなくてね。勝負ってのは、決着が付く瞬間まで諦めちゃあいけないのさ」
「ハッ! 順位ならすでに歴然だと思うけど? 私が上、あんたは下。これ以外の事実が存在するとでも?」

 それでも、ティガーの仮面に隠された道導迅虎の眼には、微塵も曇りというものがない。最後には必ず自分が勝つ、そう信じている者の眼であった。
 その瞳の輝きを知らないタパルドは、そんな彼女の奥底に秘められた底力を察することが出来ないまま、彼女の言葉を虚勢に過ぎないと嗤っている。

「あるさ……! 私がこれから、貴様を超える! そして私が、このレースを制するッ!」
「口が減らない女だねぇ……! この期に及んで、まぁた『痛い目』を見る気かいッ!」

 そんなタパルドに、一泡吹かせるべく。ハンミョウを想起させる独特なスタートダッシュの姿勢に入ったティガーは、弾かれるように一気に飛び出して来た。
 彼女を迎え撃つべくタパルドも爪を振るうが、何度も装甲を削ぎ落とされたことでより軽量化されていたティガーは、タパルドの予測を超える疾さで爪をかわしてしまう。

 ――だがこれまで、タパルドの生体装甲にティガーの爪がまともに通用したことなど、ほとんどない。
 反応装甲(リアクティブアーマー)の機構を備えているタパルドの外皮は、限界値以内の衝撃をそのまま相手に跳ね返してしまうのだ。ティガーの爪はこれまで何度も、タパルドの防御機能に弾かれて来た。

「甘いよッ! 何度仕掛けても、あんたの爪じゃあ私のは反応装甲(リアクティブアーマー)は――!?」

 今度の攻撃もこれまで同様に弾かれて終わり、その隙が彼女の「最期」となる。そうほくそ笑んでいたタパルドだったが――その油断が、命取りとなるのだった。

 そこで繰り出されたティガーの爪による斬撃。
 それは、今までの攻撃とは桁違いのエネルギーを発揮していたのである。

「でぇえああああぁあーッ!」

 両腕の爪をクロスさせて一気に突撃し、懐まで入ったところを一気に叩き斬る。ただそれだけの、シンプルな一閃。

 その名も、「ティガーチャージ」。
 彼女の装甲服に残された全エネルギーを集中して解き放つ、唯一にして最大の「必殺技」なのだ。

 この技は予備動作も含めて隙が大きく、また大振りであるためかわされやすい。そこで彼女はタパルドの油断を誘うため、敢えてティガーチャージに頼らない通常攻撃を繰り返していたのだ。
 何度弾かれても諦めることなく、無駄な足掻きを続ける。それによって、ティガーの爪はその程度の威力しか出せないのだと誤認させる。それが、全てにおいて優っているタパルドを超える唯一の突破口となったのだ。

 そして、その狙い通り。ティガーの爪を侮っていたタパルドは回避しようとはせず、反応装甲(リアクティブアーマー)を利用したカウンターを狙おうとした。
 その結果、ティガーチャージをまともに喰らってしまったタパルドの装甲は、限界値を遥かに超える威力に破られ――そのまま斬り裂かれてしまったのである。

「ぐ、が、あぁッ……!?」
「……言っただろう? 私は必ず、貴様を超えるとッ……!」

 予想を遥かに凌ぐ斬撃を浴び、ふらふらと後退るタパルド。その威力に瞠目する彼女は、ティガーの言葉に耳を傾ける暇もなく、倒れ伏してしまうのだった。
 それから間も無く、彼女の姿は野戦服を纏う美女――速猟豹風に変異して行く。それに続いて、ティガーも変身を維持できなくなり――道導迅虎の姿に戻ってしまった。男の本能を狂わせる蠱惑的な下着姿と、その抜群のプロポーションがありのままに晒されている。

「……は、ははっ……最後に『痛い目』を見るのは、私の方だった、ってわけ、ねっ……!」

 レースは終わる瞬間まで分からない。
 ティガーこと迅虎が言い放った、その言葉が意味するものを身を以て体感した速猟は、完敗だと言わんばかりに朗らかな笑みを浮かべていた。

「これも……私は言ったぞ。勝負ってのは、決着が付く瞬間まで諦めちゃあいけない、となッ……!」

 そんな彼女を見下ろす迅虎も、誇らしげな笑みを零し――くびれた腰に両手を当てて背を反り、胸を張るように豊満な乳房をばるんっと突き出していた。その反動で後方に突き出された桃尻も、ぷりんっと躍動する。
 熾烈な「レース」に昂る肢体が、大量のアドレナリンを分泌していたのか。その蠱惑的なプロポーションを誇る肉体はしとどに汗ばみ、外骨格の内側に籠っていた甘美な女の芳香を、むわりと解き放っている。

 圧倒的な力と経験を誇る始祖怪人との、苛烈なデッドヒート。その激闘を制した勝者としての喜びを、扇情的な肉体全てで噛み締めるかのように。

 ◆

 激戦に次ぐ激戦により、見る影もなく荒れ果てたニューススタジオ。
 その渦中に立つ仮面ライダーUSAのボディも、ケルノソウルの火炎放射によって無惨な黒焦げと化していた。

「……もう装甲服も身体も限界のはず。それでもまだ屈しないなんて……強くなったわね、ジャック」
「あんたの前でだけは……そういう俺でいたいからな」

 だが、それでも。仮面の下に隠されたジャック・ハルパニアの貌に、諦めの色はない。
 付き合いの長さ故、顔は見えずともその瞳の輝きを察していたプリヘーリヤ・ソコロフも、この程度で彼が倒れることはないのだと理解していた。

「どんな状況でも、生き延びるための歩みを止めてはいけない。18年前のあの日、あんたに教わった言葉だ。あの言葉があったから、俺はあのイラク戦争からも生き残ることが出来た」
「……覚えていてくれたのね」

 イラク戦争の地獄を経験して来たジャックの言葉に、ケルノソウルは静かに微笑を溢す。その言葉は――幼き日のプリヘーリヤ・ソコロフに、亡き母が遺した最期の教えでもあった。
 ソビエト連邦からの亡命の途中、追撃の銃弾に斃れた母が娘に託した唯一の遺言。その教えは彼女を通じて、USAことジャックにも引き継がれていたのである。

「でも、今のあなたが進もうとしている道は、ただ生き延びるためだけのものではないわ。死への恐怖と向き合い、その先に在る活路を見出した者にだけ開かれる道」
「あぁ。俺はもう……自分が生き残ることだけで精一杯だった頃の俺じゃない。俺自身はもちろん、俺の仲間達も誰1人として死なせない。部隊全員で生き残り、全員で勝利を分かち合う。そしてそのためとあらば、火中にだろうと飛び込んで見せる」
「それを実現することで、私の教えを超えて行く。あなたにとってこの戦いは、そのためでもあるのね。……けれどそれは、あなたが思う以上に『茨の道』よ。あなた自身に、火中からも生き延びられるだけの素養が無ければ……そのまま業火に焼かれて終わる」
「全て覚悟の上さ。……行くぞ、ソコロフ。あんたの教えが育てた兵士が、どれほどのものになったか……とくと思い知れッ!」

 過去の思い出を名残惜しむような声色での、短い語らいを経て。全ての迷いを断ち切るように、USAは地を蹴ってケルノソウル目掛け突撃して行く。

 そんな彼を返り討ちにするべく、ケルノソウルも大顎を開き火炎放射を繰り出そうとしていた。無数の触手を全て床に突き刺し、姿勢制御に注力させている彼女は、次の放射で決着を付けようとしている。

 その大顎に充填されて行く灼熱の業火が、これまでとは比較にならない火力であることは、文字通り火を見るよりも明らかであった。
 この猛炎がニューススタジオ内で解き放たれれば、間違いなくこの屋内にいる全員が焼き尽くされることになる。仮に炎そのものに耐えられたとしても、一酸化炭素中毒は必至。

 USAは何としても、この火炎放射を食い止めなければならなくなっていた。その使命を理解していた彼は、発射の瞬間を迎えていたケルノソウルに向かって飛び掛かり――渾身の力を宿した右拳を振り上げる。

「――ッ!」
「ライッ……ダァァアッ! スマァアァアァッシュウゥウッ!」

 そして。最大火力の火炎放射が、ケルノソウルの大顎から爆ぜる瞬間。
 USAは微塵も躊躇うことなく、その大顎に向けて右拳を突き入れるのだった。刹那、大顎から解き放たれた猛炎が装甲もろとも、USAの右腕を焼き尽くして行く。

 それでも彼は、決してそこから手を離さない。彼はどれほど右腕を焼かれようとも、ケルノソウルの大顎に「栓」をし続けていた。

(発射口を拳で塞いで――!)

 そう――USAは自分の右腕を犠牲にケルノソウルの大顎を塞ぐことにより、最大火力の火炎をそのまま彼女の体内へと逆流させていたのである。

「あ、がぁあ、あッ……!」

 フグが自分の毒で死ぬことはないように、彼女も自分の火炎そのもので死ぬことはない。だが、最大火力の勢いが生む「衝撃」に対する耐性までは、彼女の体内には備わっていなかったのだ。

 かくして、「内側」から破壊されたケルノソウルは全ての火炎を自分で喰らいながら――轟音と共に倒れてしまうのだった。
 USAは宣言通り、自分も仲間も死なせることなく、彼女を超えて見せたのである。

「はぁ、はぁっ、はぁっ……!」

 だが、ケルノソウルがプリヘーリヤ・ソコロフの姿へと戻った瞬間を見届けた直後。彼も力尽きたように膝を着き、倒れ込んでしまう。無惨に黒ずんだ右腕が、彼の奮闘を物語っていた。

「……どうだい。少しは……立派になった、だろう……」
「そうね……もう、教えることなんて……ない、わ……」

 その決着を迎えた今となっては、敵も味方もないのだろう。かつての師弟関係に戻ったかのように、2人が交わす言葉の色は穏やかなものとなっていた――。
 
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