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仮面ライダーAP

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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第17話


 サザエオニヒメの右腕に搭載されたドリル兵器。
 その高速回転を伴う刺突を浴びたGNドライブは、胸の装甲を抉られ一度はダウンしたのだが――上福沢幸路は装甲もろとも肉を斬られたのにも拘らず、鮮血を滴らせたまま立ち上がっていた。

「……装甲は確かに砕いたはずだが、まだ立ち上がれるとはな。財閥の御曹司がどれほど意気込んだところで、温室育ちの若造ではたかが知れていると思っていたが……少々みくびり過ぎていたようだ。この私に、ここまで食い下がって来るとは」
「ははっ……ようやく僕についての理解を深めてくれたようだね。ただ……少しばかり、認識のアップデートが足りていないと見える」
「ほう……?」

 その尋常ならざるタフネスに、サザエオニヒメが静かに感嘆する一方。GNドライブは傷の痛みなど意に介さず、仮面の下で気障な笑みを浮かべている。

「この僕が、食い下がる程度で満足するような庶民派ではない……ということさ。僕達は君達を超え、人間の力を証明するために来たんだ。もう、改造人間の力は要らないのだと!」
「……大きく出たものだな。改造人間を不要と断じれるほど、貴様達人間がご立派なものかどうか……試してみるかッ! 上福沢幸路ッ!」

 ドリルで装甲ごと切り裂かれてもなお、衰えない気迫と戦意。その強靭な精神力を糧に吼えるGNドライブに対し、彼の闘志を汲んだサザエオニヒメは容赦なくドリルを向け、GNドライブ目掛けて突進して行く。

「はぁあぁあッ!」
「ぬぅうッ!」

 その刺突を間一髪かわして跳び上がったGNドライブは、空中で身体を捻ると――ダイヤモンドの輝きを纏い、高速回転しながらドロップキックを放つのだった。

「ぐっ、お……!」

 必殺の「ブリリアントドロップ」を受けたサザエオニヒメは、想像を遥かに上回る衝撃に驚愕し、思わず数歩引き下がってしまう。

 だが、GNドライブが死力を尽くして放ったその一撃でさえ、彼女を仕留め切るには至らなかった。
 ブリリアントドロップが命中した肩部には、小さな「穴」を中心とする亀裂が広がっていた。起死回生を狙って放たれた必殺技でさえ、その程度の傷が関の山だったのである。

「はぁ、はぁ、はぁッ……!」
「……ふっ、確かに大口を叩くだけのことはある。だが、貴様の全身全霊を以てしても……私の鎧に穴一つ開けることが精一杯だったようだな」

 重傷を負ったままブリリアントドロップを放ったことで、限界を超えてしまったのか。GNドライブは立ち上がることも出来ず、片膝を着いたまま動けなくなっている。

 もはや、勝負は決まったも同然と言えるだろう。それでもサザエオニヒメは慢心することなく右腕のドリルを回転させ、GNドライブに「とどめ」を刺そうとしていた。

 ――かつて仮面ライダーGがサザエオニヒメと戦った際、彼は終ぞその装甲を破ることが出来ず、戦場となっていた溶鉱炉にライダーキックで突き落とすという力技でしか倒すことが出来なかった。彼でさえ破れなかった装甲を、僅かとは言えGNドライブが突破したのだ。油断など出来るはずがない。

「とは言え……この鎧をここまで傷付けたのは、貴様が初めてだ。せいぜいあの世で誇るが良い、上福沢幸路! これで最後だッ!」

 猛スピードで迫り来るドリルの刺突。その凄まじい回転音と共に、とどめの一撃がGNドライブを切り裂こうとしていた。

「……ッ!」

 だが、GNドライブはその状況下でも臆することなく――専用のエネルギー拳銃「ダイヤガンナー」を両手持ち(ツーハンドホールド)で構え、狙い澄ました一閃を撃ち放つ。

 そのエネルギー弾は今まで一度も、サザエオニヒメの外殻に通じたことはない。
 この期に及んで、これまで何度も弾かれて来たエネルギー弾に頼っている彼の姿は、サザエオニヒメの眼にはただの「悪足掻き」にしか映らなかった。

「無駄な足掻きをッ! そんなエネルギー銃など私には通じなッ――!?」

 その油断が、命取りになったのである。

 ブリリアントドロップによって開けられた「穴」に飛び込んだエネルギー弾は、そのまま外殻の内側(・・)に命中。
 そしてこれまで通りに弾き飛ばされたエネルギー弾は、絶え間なくサザエオニヒメの体内で「跳弾」を繰り返し始めたのだ。

(これは……ッ!? まさか奴はこのために、私の鎧に穴をッ……!?)

 ダイヤガンナーのエネルギー弾では、サザエオニヒメの装甲を破ることは出来ない。だが、その外殻に守られた福大園子という「本体」は別。
 それが、GNドライブがこの戦いに見出した唯一の勝機だったのである。そして彼の読み通り、エネルギー弾を外殻の内側に撃ち込まれたサザエオニヒメは、跳弾によって体内を連続で撃ち抜かれてしまうのだった。

「ぐわぁあぁああーッ!?」
「……穴一つで十分なのさ。君はまた、認識を誤ったようだね。福大園子」

 最後の1発だったエネルギー弾が起こした奇跡。その瞬間を見届けたGNドライブは、絶叫を上げるサザエオニヒメの眼前で、弾切れとなったダイヤガンナーを手放す。

 その銃身が地に落ち、ガチャリと音を立てた時。跳弾によって乱れ飛んでいるエネルギー弾を「外」に出すため、変身を解いて外殻を消失させた福大園子は――満身創痍となっていた。

 もはや戦闘を続行出来る状態ではないことは、誰の目にも明らかであった。
 全身全霊の必殺技(ブリリアントドロップ)すら凌いで見せた鋼鉄の牙城は、たった1発のエネルギー弾によって脆くも崩れ去ったのである。

 鎧に開いていた僅かな「穴」に、寸分の狂いもなくエネルギー弾を撃ち込んで見せた技量と度胸。それは紛れもなく、始祖怪人を超えた人間ならではの底力であった。

「ぐ、ふふっ……見事だ、上福沢幸路。これが私の……『ケジメ』、なのだなっ……!」
「あぁ……そういうことだ。落とし前は……付けさせてもらったよ、福大園子」

 自分達を超えるという言葉が虚勢の類ではなかったことを証明して見せたGNドライブに、最後の力を振り絞って賛辞を送った福大園子は。一片の悔いも残すことなく、倒れ伏したのだった。

 ◆

「ぐぅううッ……!」

 ただ両脚で立つのがやっとの状態だった仮面ライダーターボは、勢いを増して行くトライヘキサの猛攻に押されるがまま、防戦一方となっていた。
 精神が肉体を凌駕しようとも、やはり根本的な実力差は覆せないのか。両手の爪による斬撃と、10本の角による刺突の嵐を浴び続けた装甲服は傷だらけになっている。

「俺は……もう何も失わない。何も失いたくないッ! だからこそ奪い尽くすのだ、奪われる前にッ!」

 猛攻に次ぐ猛攻。その果てに両肩を掴んでターボを押し倒したトライヘキサは、ついに「とどめ」を刺そうとしていた。
 7つの頭が同時に大顎を開き、強靭な牙を剥き出しにしている。このままターボこと本田正信の肉体を、装甲服もろとも喰らい尽くすつもりなのだ。

 ――かつて彼の「先輩」を殺した時のように。

「……そうやって貴様達は、奪い続けて来たんだな。だが、それで貴様達は何を得た! 何か一つでも、失ったものを取り返せたのかッ!」
「……!」

 だが、その絶望的な状況下でもなお、ターボは諦めず手を伸ばし――7つある頭のうちの2つを掴み、抗い続けていた。残る5つの頭に両腕を噛まれ、鮮血が噴き上がっても、その力は全く緩んでいない。

 そんな彼の雄叫びに、トライヘキサは思わず怯んでいた。
 何も得られず、奪うことだけを繰り返してきた数十年間の人生。その虚しさを抉る彼の言葉が、牙の威力を落とし始めていた。

「俺も……貴様の手で、大切な人を喪った。それでも、貴様のようにはなるまいと……この連鎖に抗うと決めたんだ! 俺は貴様とは違う! 俺は……奪わせないために戦うッ!」
「そんなことが出来るものかッ! 人間如きに何が出来るッ! 貴様如きに、何がぁあぁあッ!」

 それでも、これまでの人生を無駄にするわけには行かない。それでは、何のために奪い続けてでも生きて来たのか、分からなくなる。
 その慟哭を殺意に変えて、トライヘキサはターボの両腕を食い尽くそうと牙を突き立てる。装甲を破り、肉に食い込んだ牙から噴き出して来る血潮が、彼の視界を覆い尽くしていた。

 それ故に彼は、見逃してしまったのである。
 ターボが足裏に備わるエンジンの出力を最大限に高め、必殺の蹴り(ライダーキック)を放とうとしていた瞬間を。

(先輩……!)

 大量の出血により意識が揺らぐ中、本田正信の精神を奮い立たせたのは――血の海に沈んだ先輩が、「最期」に残した言葉だった。

 ――お前なら、必ず出来る。俺は……信じてるぞ。

(先輩、俺は、俺はッ……!)

 ライダープロジェクトが始まる以前から警視庁で極秘裏に進められていた、強化外骨格開発計画。元白バイ隊員であり、初代テスト装着員でもあった「先輩」は、トライヘキサに喰い尽くされる最期の瞬間まで「後輩」の正信を信じ続けていた。
 彼の死後、「2代目」としてテスト装着員を引き継いだ正信は、開発計画の成果を後年のライダープロジェクトに引き継ぎ、「仮面ライダーターボ」として完成させたのである。

「出来る……! 俺になら出来るッ! それを……貴様にも証明して見せるッ!」
「ぐ、おぉッ……!?」

 いわばこのスーツは、亡き先輩の想いを受け継いだ正義の聖火。
 その灯火を、この瞬間に燃やし尽くすように――本田正信は、吼える。

「はぁあぁあ……ぁああぁーッ!」
「ぐぉぉおあぁああーッ!?」

 両腕を喰われながらも、怒号と共に放たれた必殺キック――「ストライクターボ」が、巴投げの要領でトライヘキサの腹部に炸裂する。
 足裏のエンジンによる超加速を得たキックが、異形の怪人を紙切れのように吹き飛ばして行く。その身体は放送局のコンクリート壁に叩き付けられ、深く減り込んでいた。

「……こ、これが……俺への『報い』かッ……!」

 奪い続けてきた数十年間への「報い」が、その一撃に込められていたのだろう。そう悟っていたトライヘキサの身体は放送局の壁から剥がれ落ち、力無く地面に墜落して行く。

 どしゃり、という鈍い音が聞こえた頃には――すでに「黙示録の獣」を想起させる異形の姿はなく。そこには、ジョン・ドゥの姿だけがあった。

「生憎、だが……俺の『ストライクターボ』は、どんな体勢からでも打てるのが売りでなッ……!」

 その光景を見届けたターボは、事前に用意していた軍用の止血剤で出血を抑えながら、仰向けに倒れている。度重なる負傷と大量の出血により、もはや立ち上がる力も残ってはいなかったのだ。
 通常のキックとは違って脚力や体重移動ではなく、足裏のエンジンが要となる「ストライクターボ」は、体勢を問わずあらゆる状況下で発動することが出来る。その切り札が無ければ、ターボがトライヘキサに打ち勝つ術などなかったのだろう。

(先輩……俺は、上手くやれたでしょうか。ターボの役目を……果たせたのでしょうか)

 トライヘキサを倒したことで、過去の雪辱を果たすことは出来た。
 しかし、これは私的な復讐に過ぎないのではないか。自分は本当に、「先輩」の遺志を継いだ「ターボ」としての正しい使命を果たせているのか。

 そう逡巡する正信の視界に――この世に居るはずのない人間が現れる。それが幻覚であることは、視た本人も理解していた。

 ――よくやった。お前は、俺の誇りだ。

 その言葉が、幻聴でしかないことも頭では理解していた。しかし本田正信にとっては、それで良かったのである。
 この死闘を制した彼の頬はようやく、憑き物が落ちたように綻んでいたのだから。
 
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