仮面ライダーAP
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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第15話
――その頃。
番場邸で独り夜空を仰ぎ、新世代ライダー達の勝利を信じ続けていた番場惣太の元に、一つの緊急連絡が入っていた。
『総監! 世界各国の人々からの連絡が相次いでいます! 仮面ライダー達は本当に、あの怪人達に勝てるのか……と!』
「……何も心配はない。彼らにはそう伝えてくれ」
この2年間、仮面ライダー達は世界各地でノバシェードと戦い、その支配から多くの人々を解放して来た。
彼らの活躍を間近で見て来た各国の人々も、テレビやネットを介してこの最終決戦の推移を見守っていたのだろう。ライダー達の奮闘に居ても立っても居られなくなり、彼らの「ボス」である番場に連絡して来たのだ。
中には大量の黒死兵が暴れている中継映像を目の当たりにして、体調不良を起こした者も居たようだが――彼らはそれでも、自分達のヒーローが命を賭して戦う姿に見入っているらしい。
僅か数人の黒死兵のために警察組織が壊滅し、都市が制圧されたケースもあったのだ。その黒死兵が大群となってライダー達を襲っているのだから、その脅威を肌で理解している現地民の精神的ショックは計り知れない。
だが――彼らはそれでも、目を離すことなく拳を握り締めて、ライダー達を応援しているのだという。
彼らが案じている通り、ライダー達はかなりの苦戦を強いられている。何せ相手は、世界最古の改造人間である始祖怪人達なのだ。
単純な戦闘能力はもちろん、その実戦経験の豊富さにおいても「最恐」であることは明白。
新世代ライダー達に故郷を救われ、彼らに少なからず好意を抱いている人々だからこそ、不安や心配も大きいのだろう。
だが番場は、その現実を踏まえた上で、ライダー達の勝利を確信していた。
「……お前もそう思うだろう? なぁ、遥花」
遠方の島で、新人ナースとしての研修を受けている愛娘――番場遥花。ライダーとしての力を失い、ただの少女となった彼女も、同じ気持ちなのだと番場は信じている。
命ある限り、仮面ライダーに敗北はない。それは2年前、ライダー達と共にノバシェードと戦った彼女の方がよく理解しているのだから。
◆
某テレビ局を占拠した始祖怪人達と、その打倒に動き出した新世代ライダー達。
彼らの激戦が始まってから数時間が経過した頃――若き戦士達は皆、熟練兵達の圧倒的な力の前に深く傷付き、片膝を着いていた。2年前から格段に強化されたはずの彼らの外骨格は、各部から火花を放っている。
「つ、強い……! 僕達だってパワーアップしているはずなのに……もう、改造人間にも引けを取らない域に達しているはずなのにッ……!」
「ハッ、当然だろうよ。基本性能だけが俺達に追い付いたところで、使い手同士の圧倒的な経験値の差はそのままだからな。天峯達のような民兵崩れ共と一緒にされちゃあ困る」
本気のミサイル連射を捌き切れず、弾頭の嵐を浴びてしまったZEGUN。その傷付いた姿を見遣りながら、ミサイルイナゴは不遜に鼻を鳴らしていた。
――明智天峯達も強力なポテンシャルを秘めた改造人間だったが、元々シェードの戦闘員だったわけではない彼らは、2年前の戦いで新世代ライダー達と対峙した時ですら、自身の能力を持て余していた。
だが、50年近くも戦い続けて来た始祖怪人達は違う。彼らはその絶大な経験値と、改造人間としての圧倒的な武力を兼ね備えた生粋の人間兵器なのだ。
始祖怪人達の一人一人の戦闘能力は、明智天峯が変身していた、あの仮面ライダーマティーニすらも超えている。
スーツが格段にパワーアップした程度では、決して埋まらない戦士としての「格」というものがあるのだ。その絶望的な壁を乗り越えない限り、新世代ライダー達に勝機はない。
「だが……天峯達も決して雑魚ではなかった。改造人間の力を持て余してはいたが、それでも光るものはあったはずだ。奴らを倒した点については、見事という他ない」
「……誇って良いよ。ボク達が生身の人間をこれほど買うことなんて、本来なら天地がひっくり返ってもあり得ないんだからね」
「ぐっ、う……!」
「あうっ……!」
サザエオニヒメとアルコサソは、新世代ライダー達にその可能性を見出したのか。改造人間としての慢心を見せず、素直にライダー達の潜在能力を評価している。
だが、サザエオニヒメのドリル攻撃を浴びたGNドライブと、アルコサソの馬上槍で鎧を穿たれたEXには、その称賛に耳を傾けていられる余裕もない。
「こんな戦いに……何の、意味があるというんだッ……!」
「意味なら在る。……仮面ライダーよ、今日は何日だ」
「10月7日……? それがどうした!」
意図が読めないトライヘキサの問い掛けに、倒れ伏したターボが声を上げる。その言葉を紡いだのは、近くに居た紅衛校だった。
「そう、10月7日。鳥海穹哉の誕生日、という意味だけではない。それが何の日か……お前達に分かるか?」
「……アフガニスタン侵攻が始まった日、ですか」
紅衛校の言葉が意味するものに勘づいたG-verⅥが、傷だらけの装甲服を震わせながら「答え」を口にする。それは2001年に起きた軍事侵攻に纏わる日付だったのだ。
「……そうだ。今から20年前の2001年10月7日。『対テロ戦争』の時代に突入した当時のアメリカ軍が、テロの撲滅を目指してアフガニスタンへの侵攻を開始した」
「だから……この日を選んだのか」
放送局の裏手で紅衛校と同じ話をしていたプラナリアンは、自分の前で膝を着いているtype-αに自分達の「意図」を告げていた。
彼のコンバットナイフを胸に突き立てられたtype-αは、掠れた声を絞り出している。装甲服を容易く貫通した刃先は心臓の手前にまで到達していた。
プラナリアンが使役する黒死兵達と相対した他のライダー達も。RCと対峙していたマス・ライダーも。その圧倒的な力と物量に完封され、力無く倒れ伏している。
それと同じ光景が、放送局内のニューススタジオにも広がっていた。外に居る仲間達と同じ内容を話していたDattyとブレイズキャサワリーは、自分達が打ち倒したボクサーとアルビオンを悠然と見下ろしている。
「俺達にとっちゃあ……最高の記念日なんだよ。人類としては、お辛い日かも知れないがな」
「その日こそが、テロリズムとの戦いという新時代の幕開けであり……世界が俺達を、改造人間を欲する真の契機でもあった。少なくともその時代においては……俺達は『必要』とされていた」
彼らの言葉を耳にしていたUSAは、火炎放射を浴びて装甲が黒焦げになった状態のまま、ケルノソウルを睨み上げている。そんな彼の視線を感じていたケルノソウルは、仲間達の言葉を静かに紡いでいた。
「……徳川清山のPMCが非公式に、当時の戦闘行為にも介入していたという情報は……父の手記にも残されていた。やはりあの頃も、あんた達は……」
「当然のこと、でしょうね。決して死なない鋼鉄の兵隊。何発撃たれようが、何を撃たれようが決して止まることのない不死身の突撃兵。テロリストという絶対悪を徹底的に屠る、絶対的正義を帯びた暴力の化身。私達はそのように望まれ、活かされたのだから」
彼女の言葉に頷くタパルドとハイドラ・レディも、同様にティガーとタキオンを一瞥している。
外骨格もろとも胸を爪で貫かれたティガーと、装甲を破られ体内に神経毒を注入されたタキオンが、彼女達の足元に倒れていた。
「公式の戦闘記録にこそ残らなかったが……あの日から世界中の軍隊が、私達に注目した」
「彼らは皆……水面下で清山様と交渉し、私達の力を欲したのです。テロに屈せぬ最強の歩兵を、全世界が求めたのです。あれは……そういう時代でした」
「その事業の収益から誕生したのが……あの対テロ組織としてのシェードだったと?」
「アフガンの戦地でテロとの戦いに従事していた貴様達が……今度はテロの象徴とはな。皮肉なものだ……!」
神経毒に全身を侵されながらも、震える手で立ち上がろうとしているタキオンと、タパルドの爪に倒されたティガーが、必死に声を絞り出す。
その頃――上階の廊下では、オルバスとΛ−ⅴを打ち倒したレッドホースマンとカマキリザードが、忌々しげに呟いていた。
「俺達の存在意義はそこから確立され、盤石なものとなるはずだった。……お前達のボス、番場惣太が余計な捜査などしなければな」
「奴はその捜査の功績を認められ、今の警視総監のポストに就いたのだ。……俺達を売った功績で、な。柳司郎の後輩に当たる男だからと、気を許すべきではなかった」
番場惣太への憎悪を語る彼らに対し、満身創痍のオルバスとΛ−ⅴは震える両足で立ち上がり、戦いを続けようとしている。
それと時を同じくして――他の階や、放送局の外で倒れていたライダー達も、懸命に立ち上がろうとしていた。
「……それが、総監の意志を継いだ俺達との決闘を望む理由か? 逆恨みも甚だしいな」
「番場総監が尊敬していたのは、警察を辞める前の……まだ人間としての誇りを捨てていなかった頃の羽柴柳司郎だ。貴様達の知る、『羽々斬』としての奴じゃあない……!」
番場惣太と羽柴柳司郎の関係と過去を知る彼らは、傷だらけになりながらも痛みに屈することなく、勇ましげに吼えていた。
そして、それと同じ旨の言葉を――屋上でエインヘリアルと戦っていたケージも、叫んでいたのである。彼の言葉を浴びた老兵は、不遜に鼻を鳴らしていた。
「……誤解を招いたようで済まないが、これでも奴には感謝しているのだよ。お行儀の良い公認組織のままでは、我々はこの能力の有効性を証明出来ずに朽ちて行くのを待つばかりだったのだからな」
「一体、それで……何が得られるんだ。何が望めると言うんだッ……!」
「得る物も望む物も、今さら必要あるまい。清山と柳司郎が斃れた日から……我々もすでに、死んでいるのだ」
滅びることを厭わぬ死兵の群れ。失うものを持たない怪物達。そんな始祖怪人の有り様を目の当たりにしたケージは、筆舌に尽くし難い怒りに拳を震わせている。
それは、エインヘリアルと同様の発言を他の始祖怪人達から聞かされていた、各地のライダー達も同じであった。
「その屍人が蘇ったことに意味があるとするならば……それは今一度、己の存在意義を示すためであることに他あるまい。我々の時代が始まった、この日にな」
「そんな悲し過ぎる理由で……こんなことを始めたのか!」
「悲し過ぎる? 面白い、この我々を……お前達人間風情が憐れむというのか? これほどの力の差を見せられてもなお……自分達を、憐れむ側と捉えるか」
ケージの慟哭を耳にしたエインヘリアルは高らかに嗤い、両手のブレードを静かに構える。今度こそ確実にとどめを刺す、と言わんばかりに。
そしてケージも次が最後だと覚悟を決め、拳を構えるのだった。各々の場所で始祖怪人達と対峙している他のライダー達も、同様の決意で攻撃体勢に入ろうとしている。
「……良かろう。決して退かぬその理由、『誇り』故か『慢心』故か……見定めてやろう」
「どちらだろうと関係ない……! 俺は……俺達は絶対に諦めんぞ、始祖怪人ッ!」
失うものなど無い、死兵の群れか。守るべきものを背負う、正義の使者か。
雌雄を決する最後の激突が、始まる――。
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