仮面ライダーAP
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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第2話
前書き
◆今話の登場怪人
◆コン・ザン/エイトヘッズ
某国国防軍の陸軍大佐であり、シェードと秘密裏に契約していた柳司郎達の雇い主。国内の治安を脅かす反政府ゲリラに対抗するため柳司郎達に各地の調査を依頼していたが、その裏では独自に改造人間の研究に着手しており、エイトヘッズと呼ばれる怪人に変身する。当時の年齢は45歳。
隊長格の男は、柳司郎が振り向きざまに放たれた鉄拳で頭部を消し飛ばされ、悲鳴を上げる暇もなく絶命。
AK-47を奪った柳司郎は、続けざまに歩兵達に向けて引き金を引き始めていた。薙ぎ払うような連射が、歩兵達に襲い掛かる。
当然ながら歩兵達も柳司郎を始末するべく一斉射撃を仕掛けるのだが、「人ならざる怪物」である彼の身体は、銃弾の豪雨に晒されても傷一つ付かない。
対して生身の人間である歩兵達は為す術もなく、1人ずつ眉間に弾丸を撃ち込まれて行った。銃が効かない人間が銃を持てば、そこから先は一方的な殺戮現場と化すのだ。
「ぐ、がぁあッ!?」
「ぎゃあぁッ!」
だが歩兵達に、その不条理を糾弾する資格はない。それは彼らがツジム村の住民達に対して行った無差別攻撃と、同じことなのだから。
――その「蹂躙」は、歩兵達の断末魔が絶えるまで続き。最後に柳司郎の前に現れたのは、ツジム村の疑惑を捏造して柳司郎達の始末を目論んだ、「元凶」の男であった。
「……ふっ。さすがは徳川清山特製の始祖怪人、と言ったところか? だが……単純な腕力と耐久性だけが取り柄とは、随分と芸のない改造人間だな」
日本人としては非常に大柄である柳司郎よりも、さらに優れた体格を持つスキンヘッドの巨漢――コン・ザン大佐。
柳司郎とその仲間達を擁する、徳川清山の傭兵会社と秘密裏に契約し、反政府ゲリラの駆逐に注力していた武闘派の陸軍将校だ。そして、柳司郎達に「ツジム村の殲滅」を依頼した張本人でもある。
「……念のため確認しておくぞ、ザン大佐。俺達にこの村の襲撃を命じた時から……全て、織り込み済みだったのだな?」
「これから1人残らず死に絶えることになる貴様らにとって、そんな確認が今さら何になるというのだ。金目当ての傭兵風情が、この期に及んで死ぬ理由を欲しがるのか?」
森という「可燃物」に囲まれた「いかにもな」場所に柳司郎達を誘き寄せ、民間人もろとも焼き尽くそうとした彼の計画は、結果として失敗に終わった。が、彼は凶悪な人型兵器を前にしていながら、不敵な笑みで口元を歪めている。
「まぁ良かろう、今日まで共に戦って来たよしみだ……御明察、と言っておいてやる。貴様らの働きで改造人間の有効性が実証された今……国籍を持たず、金次第で付く相手を変える改造人間の傭兵など脅威以外の何者でもないからな」
「実戦データだけ収集し、用が済めば危険だからと排除する……か」
「卑劣と糾弾するか?」
「……いや、自軍の強化を図る上では懸命な判断だ。脅威となり得る危険因子は消すに限る。だが、詰めが甘かったようだな。ここで俺達を屠るには、あまりにも弾が足りていない。貴様らのデータは杜撰の極みだ」
「ふん、運良く砲撃から逃れただけの分際でよく吠えるわ。……その悪運も、ここで尽きるというものよッ!」
研ぎ澄まされた殺意を纏う改造人間に睨み付けられても、ザンが全く怯まない理由。それは、柳司郎達と同様に人であることを捨てていた、彼の肉体にあった。
獰猛にして冷酷な巨漢が、全身の血管を浮立たせて吼える瞬間。その肉体を内側から突き破るように、八つの頭を持つ蛇の怪人が現れたのである。
「……清山のデータを基に、すでに己の肉体を改造していたか。それが貴様の『勝算』である、と?」
「その通りだ。そして貴様らが、用済みとなった理由でもあるッ! この『エイトヘッズ』がなァッ!」
「エイトヘッズ」という怪人としての名を明かしたザン。その八つの首が不規則な挙動で飛び出し、柳司郎の四肢に絡み付いて行く。
だが、戦車すらひしゃげるほどの力で締め上げられているというのに、柳司郎はうめき声一つ上げていない。彼は涼しい顔で、弾が尽きたAK-47を放り捨てている。
それほどまでに、双方の力量差が「隔絶」されているのだ。
徳川清山の科学力を以て開発された始祖怪人と、その見様見真似で生まれた贋作怪人とでは、あまりにも性能の地力が違い過ぎるのである。
「……こんなものか?」
「なにッ……うぉおおッ!?」
その現実を突き付けるように、四肢に絡み付く蛇頭を振り解いた柳司郎は――そのまま首を掴むと、一気に火の海目掛けて放り投げてしまう。自らが作り出した業火に焼かれながらも、蛇頭の怪人は怒りと屈辱に身を焦がし、その猛火から這い出て来ていた。
「この村を滅ぼしてまで得た『成果』が――こんなものかと訊いている」
「……化け物がァア……!」
自分達のアイデンティティを揺るがしかねない、精強なる人間兵器。その力を模倣し、己のものにしたのだと確信していたザンは、嫌悪感と殺意に満ちた表情で柳司郎を睨み付けていた。
対する柳司郎も、殺戮の対価としてはあまりに粗いエイトヘッズの性能を目の当たりにして、ますます殺意を漲らせている。こんな紛い物のために、この村は犠牲になったのかと。
柳司郎はその殺意に己の運命を委ね、黒コートを翻し――その下に隠されていた「ベルト」を露わにする。その外観は、木製と見紛うようなカラーリングとなっていた。
さらに柳司郎は懐から、「八塩折」としたためられた1本の酒瓶を取り出す。起動デバイスとなっているその酒瓶をベルトに装填した瞬間、怨嗟のような電子音声が流れ出していた。
『我、コレヨリ変身セリ。我、コレヨリ変身セリ』
野太く重苦しい音声が轟く中、柳司郎は剣を上段に構えるように両手の拳を天に掲げ、青眼の構えのように顔の正面へゆっくり下ろして行く。
「……変身」
そのコールと同時にベルトのレバーが倒されると、酒瓶型のデバイスの内側に秘められたエネルギーが解放され、柳司郎の全身に循環されて行く。
やがて、身体中に迸る金色のエネルギーを浴びた柳司郎は――黒コートを羽織ったまま、改造人間としての真の姿へと「変身」していた。
火の海の中でも眩い煌きを放つ、黄金の甲冑。黒をスーツの基調としつつ、その暗さと対比させるかのような輝きを持った装甲。
それらが全身の各関節部に装着されており、金色のマスクと禍々しく吊り上がった赤い複眼も、柳司郎の殺意をこれでもかと表現している。
そして、はち切れんばかりの筋肉で膨張しているその手には、一振りの日本刀が握られており――刀の鎺には、「改進刀」とう銘が彫られていた。
『雲起竜驤。羽々斬、推参』
やがて呪詛の囁きが変身シークエンスの完了を告げ。紛い物のエイトヘッズの眼前に、真の怪人――「羽々斬」が顕現する。
「み、認めん……俺は、俺達は絶対にッ! 貴様らなど、認めんぞぉぉおッ!」
「……貴様の認可など、求めた覚えは無い」
その荘厳な姿に、嫉妬と殺意を剥き出しにしながら。醜悪な蛇の怪人と化したザンは、己の敗北を認めまいと羽々斬目掛けて飛び掛かって行く。
『驍勇無双、旭日昇天、気剣体一致!』
「劒徳正世――桜花! 赤心斬ッ!」
そんな哀れな敗北者に引導を渡すべく、羽々斬が改進刀の刃を振るっていた――その頃。ツジム村を火の海に沈めた下手人達を狙う柳司郎の仲間達は、村の外に展開していた戦車隊を捕捉していた。
卑劣にして冷酷な、弱き人間達に。改造人間達による「裁き」が、実行されようとしていたのである。
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