英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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第153話
3月1日、同日AM9:00―――――
最終決戦の日、”表”の最終決戦である帝都奪還戦の先鋒であるノルティア領邦軍とクレイグ将軍の指示によって旧帝国政府から離反した第四機甲師団が帝都へと進軍すると、帝都を阻むかのように帝都に残った第四機甲師団の機甲兵や戦車、そして結社製と思われる人形兵器の軍団が迎撃態勢に入っていた。
~帝都ヘイムダル近郊・南オスティア街道~
「閣下、ノルティア領邦軍並びに第四機甲師団の配備、完了しました。いつでも攻撃を始められます。」
「うむ…………――――――今も主なき帝都を守るエレボニアの兵達に告げる!メンフィル・クロスベル連合とエレボニア帝国の戦争は我が国が連合が要求した和解条約を呑む形にはなってしまったが、既に公的には三国それぞれ”和解”する形で終結した!この事実はメンフィル・クロスベル連合とエレボニアだけでなく、中立国家・勢力であるリベール、レミフェリア、そして七耀教会も把握し、また和解調印式の日程も既に決まっている!更に、お主達に戦争を強要し続けてたオズボーン宰相は皇太子殿下達を始めと知った各国のVIPの方々の総意によってS級テロリスト認定並びにエレボニア帝国宰相の地位の剥奪が決定し、手術を無事に終えられたユーゲント皇帝陛下も各国家のオズボーン元宰相に対する決定を追認している!よって、お主達がこれ以上オズボーン元宰相に従い、戦い続ける理由はない!直ちに帝都を奪還する我らに対する抵抗を止め、投降せよ!双方これ以上の犠牲者を出す事は陛下達は心から望んでいなく、投降すればお主達の身の安全を保証するとの事だ!我らも内戦と今回の戦争で疲弊したエレボニアを陛下達や我らと共に立て直す為にもお主達が投降する事を心から望む!」
通信で配下の報告を受け取った人物――――――ノルティア領邦軍と第四機甲師団の合同部隊の司令官を任されているシュライデン伯爵は頷いた後、自身が乗り込んでいる機甲兵――――――シュピーゲル越しに帝都を阻む敵軍に投降を促したが敵軍は何の反応もしなかった。
「敵軍、投降の動きはありません。」
「……皇太子殿下やアンゼリカ女将様の指示通り、後2度降伏を促しても動きがなければ攻撃を開始する。――――――もう一度告げる!降伏すればお主達の身の安全は保証する!直ちに我らに降伏せよ!」
シュライデン伯爵は再び敵軍に降伏を促したが敵軍には降伏の動きはなかった。
「これが最後だ!――――――直ちに我らに降伏せよ!」
そしてシュライデン伯爵は敵軍に3度目の降伏の促しをしたが、敵軍は降伏の動きをする所かなんとシュライデン伯爵達に向かって進軍し始めた。
「!敵軍、進軍を開始しました!」
「殿下達の御慈悲を無下にする馬鹿者共が………いや、それに関しては私達も奴等の事は言えんな。――――――これより帝都奪還戦を開始する!機甲兵部隊並びに戦車部隊は敵軍の機甲兵、戦車、大型人形兵器の制圧・撃破に専念せよ!白兵部隊は敵軍の白兵部隊並びに中型・小型人形兵器を迎撃せよ!戦友との連携を決して絶やさず、可能な限り敵軍の兵達を捕縛せよ!敵味方関係なく可能な限り死者を減らす……皇太子殿下達の御慈悲を決して無下にするな!」
「イエス・コマンダー!!」
自分達に向かって進軍し始めた敵軍を目にして苦々しい表情を浮かべて呟いて自嘲気味な笑みを浮かべたシュライデン伯爵は気を取り直して号令をかけ、シュライデン伯爵の号令に力強く答えたノルティア領邦軍と第四機甲師団による帝都奪還合同先鋒部隊は戦闘を開始した。地上で戦闘が始まると戦場の上空をかつてジンとエレインをオルディスまで送ったカプア特急便の山猫号二号機が横切った後ある場所へと向かい、更に山猫号二号機に続くように3機の帝国正規軍の戦闘用飛行艇が戦場の上空を横切って山猫号2号機について行き続けた。
~山猫号2号機~
「”表の最終決戦”が始まってしまったか………」
「くっ……戦争は既に終結した上、彼らの指揮権を持つオズボーン宰相の地位も既に陛下達によって剥奪された事を知ったのに、何で未だに頑なにオズボーン宰相に従って戦い続けているんだ……!?」
飛行艇の中から戦場の様子を見ていたガイウスは重々しい口調で呟き、マキアスは唇を噛み締めた後悔しそうな表情で呟いた。
「”軍人”って連中は融通が利かねぇからな。自分達の敗北が確定しているからと言って、そう簡単に降伏する事はできねぇんだろうな。」
「ましてや第四機甲師団は”焦土作戦”の件で軍人でありながら祖国の国民達を傷つけ、国民達の軍に対する信頼を損なわせた罪悪感もある事で、”後には引けない”思いで戦っているのでしょうね。」
「そんな彼らを止める為にはハーケン平原でのリィン君の時のように彼らの総大将であるオズボーン宰相の”死”を知るか、もしくは彼らの指揮官であるクレイグ将軍の命令がなければ、彼らは戦いを止めないのでしょうね……」
「………………………その”紅毛”だが、見た所あの戦場にはいないようだな。」
それぞれ複雑そうな表情で呟いたアガット、シェラザード、アネラスの話を聞いたユーシスは複雑そうな表情で黙り込んだ後本題を思い出してある疑問を口にした。
「うん……父さんの事だから帝都の市民達を戦闘に巻き込まない為にも市街戦は避けると思っていたんだけど…………まさかとは思うけどバルヘイム宮で待ち受けているのかな……?」
ユーシスの疑問に頷いたエリオットは不安そうな表情で考え込んだ。
「クレイグ将軍の居場所が帝都内、もしくはバルヘイム宮ならば私が帝都の門下生達に声をかければ、彼らも私の要請に応えてくれるだろうから戦力の増強は可能だ。」
「帝都の門下生達というと”ヴァンダール流”の門下生達か。」
「ハハ、帝国の”二大武門”と称されている”ヴァンダール流”の剣士達が加勢してくれるなんて、心強い話だな。」
「ええ。私達と一緒に行動をしているナイトハルト教官が率いる部隊の人数もナイトハルト教官を含めて9人と少数ですからね。クレイグ将軍の周りにどれだけの戦力が残っているかわかりませんが、戦力が多ければ多い程作戦の成功率が高まりますからね。」
するとその時ヴァンと共にエリオット達に同行しているある人物――――――ヴァンダール子爵家の当主であるマテウス・ヴァンダール子爵がある事をエリオット達に伝え、ヴァンダール子爵の話を聞いたユーシスは静かな表情で呟き、口元に笑みを浮かべて呟いたジンの言葉にアンゼリカは頷いた。
「その……改めてにはなりますが、父さん達を止める僕達B班に加勢してくださり、ありがとうございます、子爵閣下。代々アルノール皇家の守護職に就いている”ヴァンダール”の当主である子爵閣下は本来は皇太子殿下達の加勢すべきですのに……」
「私が其方達に加勢するのは殿下達の望みでもある。それに”裏の最終決戦の地”には妻と愚息達、そして”アルゼイド”の当主たるヴィクター殿がそれぞれ裏の最終決戦に挑む皇族の方々の護衛に就いている。――――――去年の内戦もそうだが、今回の戦争でも厳しい状況に陥っていた殿下達の御力になれなかった汚名を少しでも雪ぐ為にも、我が全身全霊を持って其方達の目的を叶えるつもり故、私の事は気にせず自分達の目的に集中するといい。」
申し訳なさそうな表情を浮かべたエリオットにお礼を言われたヴァンダール子爵は自分の事は気にしないように伝え
「は、はい!」
ヴァンダール子爵の指摘に対してエリオットが緊張した様子で答えた。
「ああ……ああ……わかった。そんじゃあ今から向かうから”例の場所”で待っててくれ。――――――帝都に潜り込ませた連中によるとクレイグ将軍は”ドライケルス広場”で少数精鋭部隊と小型の人形兵器の部隊と共に迎撃態勢を取っているとの事だ。元々外出禁止令が出ていた事に加えて予め市民達には”賊軍を迎え撃つ為ドライケルス広場には絶対に近づくな”と警告していた為か、”ドライケルス広場”にはクレイグ将軍達以外の人の姿は無かったとの事だ。」
「父さんは”ドライケルス広場”に……」
「そうなると問題は帝都への潜入方法だな。」
「ええ。このまま飛行艇で帝都の空港に着陸をすれば、さすがに戦場でシュライデン伯爵達と戦っている第四機甲師団も気づいてクレイグ将軍への援軍を送ってくるでしょうし。」
するとその時誰かとの通信を終えたヴァンが情報を口にし、ヴァンの情報を聞いたエリオットは呆け、ジンとエレインはそれぞれ真剣な表情で考え込んでいた。
「―――――”ヒンメル霊園”に向かってくれ。そこに帝都に通じる地下道がある。そこを使えば戦場にいる第四機甲師団の連中に気づかれずに帝都に潜入できる。」
「れ、”霊園”って事は”墓地”に!?えっと………」
ヴァンの指示を聞いて驚きの表情で声を上げたジョゼットは判断を委ねるかのようにエリオット達に視線を向け
「帝都の地下道か……確かに様々な場所に通じているあの地下道なら帝都の外に通じている道があってもおかしくないな……」
「……本当に信頼できる情報なんだろうな?」
「ま、情報の信頼性に関しては保証するぜ。何せあの”仔猫”に”貸し”を作ってまで手に入れた情報だからな。」
「”仔猫”って……レンちゃんの事ですよね?」
「レンが情報源となると、実際にその情報を手に入れたのはメンフィル帝国軍の諜報部隊でしょうから、確かにそれなら信頼できる情報ね。」
「ヴァンさんの指示通り、目的地は”ヒンメル霊園”でお願いするよ。」
「了解!こちら山猫号2号機―――」
ヴァンの情報を聞いたマキアスが考え込んでいる中警戒の表情を浮かべているアガットに睨まれたヴァンは肩をすくめて答え、ヴァンの話を聞いたアネラスは目を丸くし、シェラザードが静かな表情で呟いた後エリオット達はそれぞれ視線を交わして頷いた後アンゼリカがエリオット達の代わりにジョゼットに目的地を告げ、ジョゼットは返事をした後ナイトハルト中佐達が乗船している飛行艇への通信を開始した。
「………ヴァン。貴方の要求通り、私がクレイグ将軍達を止める班の担当になったのだからいい加減、貴方がレン皇女の件以外で今回の戦争に関わる原因となった”依頼内容”を吐いてもらうわよ。」
「エレイン………」
「そ、そういえばヴァンさんが最終決戦時の帝都の情報等を私達に提供する代わりにエレインさんをエリオット君達の班に担当させる事をトワちゃんに交渉したと聞いていますけど……」
真剣な表情を浮かべてヴァンを見つめてある事を要求するエレインの様子をジンが心配そうな表情を浮かべている中、アネラスは不安そうな表情で呟いてヴァンを見つめた。
「―――――いいぜ。と言っても、ハーケン平原での俺とのやり取りで、お前なら”依頼人”もそうだが”依頼内容”についても気づいているんじゃねぇのか、エレイン。」
「………”依頼人は私の両親”、そして”依頼内容”は大方………”今回の戦争に直接関わる事になった私を危険な目に遭わさず連れ戻す事かしら?”」
「何……ッ!?」
「依頼人が貴女の両親で、それも依頼内容が戦争に直接関わる事になった貴女を危険な目に遭わさず連れ戻す事って……まさかとは思うけど、貴女の両親は貴女が今回の戦争に関わる事に反対しているのかしら?」
「あー、その事なんだが……そもそもエレインの両親はエレインが”遊撃士”に就く事自体も反対していて、エレインは実家の反対を押し切って”遊撃士”に就いたから、”遊撃士”になってからは実家に戻っていないそうだ。」
ヴァンの指摘に対して静かな表情で答えたエレインの答えを聞いたアガットは驚き、シェラザードは困惑の表情で疑問を口にし、ジンは疲れた表情でエレインに関するある事実を口にした。
「なるほどね………可愛がっていた大切な娘が元々反対していた遊撃士に就いた上実家に帰って来ず、おまけに戦争に関わる事を知ったら、親としてエレインさんを連れ戻したくなるのも当然だね。」
「そ、それはそうなんですが……」
「親に逆らいまくって、挙句親の立場を奪ったアンゼリカ先輩だけはエレインさんの両親の意図に同意するのは色々とおかしいと思うのですが……」
納得した様子で呟いたアンゼリカの言葉を聞いたその場にいる多くの者達が冷や汗をかいている中エリオットは困った表情で答えを濁し、マキアスが呆れた表情で指摘した。
「ま、エレインは口で言っても説得に応じるような奴じゃないなのは百も承知しているから、エレインを五体無事に戦争を乗り越えさせて故郷――――――旧共和国領に戻らせる事で依頼人側に納得してもらったがな。」
「エレインさんを五体無事に戦争を乗り越えさせる……だから、貴方はリィン達――――――”灰獅子隊”に協力する形で”ハーケン平原”でオレ達―――――いや、エレインさんを激戦区であるリィン達の元へ向かわせない為に黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)の人達と共に阻んだのか。」
ヴァンの話を聞いたガイウスはハーケン平原でのヴァンの意図を悟り、ヴァンに確認した。
「そういうことだ。そして戦争が終われば、エレインもカルバードに戻るから、エレインが五体無事でこの戦争を乗り越える事ができれば”エレインを五体無事の状態で故郷であるカルバードに連れ戻す”という”依頼内容”は一応達成する事になるだろう?」
「それは……………」
「そもそもそいつの両親は何で遊撃士に就く事に反対してるんだ?」
ヴァンの説明を聞いたアネラスは複雑そうな表情で答えを濁し、アガットはある疑問をジンに訊ねた。
「そりゃ反対するに決まっているだろ。何せエレインの実家はカルバード旧貴族の流れを汲む家系の中でも名家の中の名家だからな。」
「”カルバード旧貴族”だと?」
「共和国って”貴族”は存在していないはずなんじゃ……」
「………確かカルバードは元々は”王国”で100年前の民主化革命によって王政が廃止されて”共和国”が建国されたとの事だ。その為、カルバードにも”カルバード貴族の子孫”が存在している事はおかしくはない。」
「そういえばキリカ師匠から聞いたことがあるな……共和国の三大都市――――――”旧都オラシオン”はかつて”王国”だったカルバードの王都で、そこには王国時代貴族の流れを汲む家系が未だ残っていて、そんな家系の一部は前カイエン公達程ではないにしても”選民思想”の為、その関係のトラブルもエレボニア程ではないにしても絶えていなく、共和国が抱える問題の一つと聞いているけど……」
肩をすくめて答えたヴァンの話を聞いたユーシスは眉を顰め、困惑の表情を浮かべているエリオットの疑問に答えたヴァンダール子爵に続くようにアンゼリカは考え込みながら自身が知る情報を思い出しながら呟いた。
「ついでに言えば、エレインの実家は”とある大企業”を経営している上エレインの親父さんはその”とある大企業のCEO”だ。」
「なっ!?エ、エレインさんの父親が大企業のCEO!?」
「その”とある大企業”とは一体どんな企業なんだ?」
ヴァンが口にした新たな情報を聞いたマキアスは驚き、ガイウスが興味ありげな表情で訊ねたその時
「”オークレール”……”CEO”……――――――あっ!思い出した!”クインシー社”のCEOの名前が確か”エドモン・オークレール”だったはずだよ!」
「ええっ!?”クインシー社”って大手のお菓子メーカーとして世界的に有名な企業じゃない!という事はエレインさんはユーシス君やラウラちゃんと同じ貴族であり、アリサちゃんと同じ社長令嬢でもあるんですか……」
「私の事を社長令嬢はともかく、”貴族”と呼ぶのは止めて下さい。子爵閣下も仰ったようにカルバードは民主革命時に王制に合わせて貴族制度も廃止されたのですから。――――――エレボニアの選民思想に染まっている貴族達のような父達と違って、私は私に流れている先祖の”尊き血”を”誇り”だなんて考えた事は一度もない――――――いえ、むしろ忌まわしいものだと今でも思っています。」
「エレイン………」
「…………………………」
ある事を思い出したジョゼットが声を上げてある情報を口にし、ジョゼットの情報を聞いたアネラスは驚きの表情でエレインに視線を向け、視線を向けられたエレインは静かな表情で答えて一瞬だけヴァンに視線を向けて辛そうな表情を浮かべた後複雑そうな表情で答え、エレインの様子をジンが心配そうな表情で見守っている中ヴァンは目を伏せて黙り込んでいた。
「なるほどね……上流階級出身で、それもクインシー社のような大企業を経営している上おまけに選民思想の両親にとっては遊撃士は見下している職業でしょうから、普通に考えたらそんな職業に娘が就く事は反対するでしょうね。」
「そんでもって自ら戦争にまで関わった家出娘をせめて危険な目に遭わせない為にそこの”裏解決屋”に依頼を出したって事かよ……」
全ての事情を察したシェラザードは疲れた表情で溜息を吐き、アガットは複雑そうな表情でヴァンを見つめながら呟いた。
「そういう事だ。別に俺は遊撃士相手に説教なんざするつもりは毛頭ないが……”不動”のジン。カルバードのベテラン遊撃士の中でも筆頭でもあるアンタならエレインの実家――――――未だ選民思想に染まっているオラシオンの旧貴族の厄介さも当然知っていただろうし、そんな家で育ったエレインが家出同然で遊撃士に就いた事も知っているんだから、エレインを戦争に関わらせればエレインの実家が黙っていない事くらいは簡単に予想できたにも関わらず、両親の許可も取らずにエレインをアンタと共に紅き翼に加勢させた結果俺が”灰色の騎士”達に協力する形でアンタ達を阻んだのはアンタの”落ち度”でもあるんだぜ。」
「ぐっ……返す言葉もないな。…………ま、そうは言っても例えエレインの両親を説得しようとしても、遊撃士でそれも”貴族”でもない俺の話なんざ絶対聞いてくれなかっただろうし、それ以前に門前払いになっただろうがな……」
「ジンさん………」
ヴァンの指摘によって図星を突かれたジンは唸り声を上げた後疲れた表情で呟き、ジンの様子をアネラスは辛そうな表情で見つめた。
「ジンさんがそこまで気に病む必要はありません。そもそもヴァンはレン皇女の依頼――――――”灰獅子隊の作戦に私が介入してきた際の対策としてヴァンに私の相手をさせる依頼”も請けていたのですから、例え両親がヴァンに依頼を出していなくてもどの道ヴァンは私達を阻んでいたでしょうし。それよりもヴァン――――――」
「”ヒンメル霊園”に到着したよ!霊園の入り口近くに着陸させるけど、それでいい?」
「ああ、それでお願いするよ!それと――――――」
「ま、”続き”は今回の件が終わって機会があったらな。」
「……ッ!…………どうして私にすら何も教えてくれないのよ………バカ…………」
ジト目でヴァンを見つめながらジンへのフォローの言葉をかけたエレインがヴァンに更なる追及をしようとしたその時タイミング悪く目的地に到着し、ジョゼットとアンゼリカが会話をしている中ヴァンは肩をすくめてエレインにこれ以上の詮索は無用である事を伝え、ヴァンの答えに唇を噛み締めたエレインはヴァンから視線を逸らして小声で呟いた。
~ヒンメル霊園~
ヒンメル霊園の近くに着陸した後山猫号2号機から降りたエリオット達はジョゼットに感謝の言葉を述べて山猫号2号機が離陸し、飛び去る様子を見守っているとある人物達がエリオット達に近づいて声をかけた。
「―――――ヴァン!」
「こ、子供……?」
「君達は一体……」
ある人物達――――――剣らしき武装を腰に纏っている落ち着いた少年とクマのぬいぐるみを片手に抱いている薄ピンク色の髪の少女の登場にマキアスは戸惑い、エリオットは困惑の表情で少年達を見つめた。
「お疲れさん。突然頼んで悪かったな。」
「別に気にしなくていい。この程度の仕事でアンタから受けた借りを少しでも返せるならお安い御用だ。」
「地下道の魔獣は面倒だったけど、帝都に潜入した後は楽だったからね~。情報局がいなくなった影響で防諜状態が丸裸の帝都での潜入活動なんて、なーちゃん達からすれば超楽なお仕事だったよ~。」
「て、”帝都での潜入活動”って………ま、まさか君達がさっきのヴァンさんの通信相手――――――帝都に潜入してクレイグ将軍達の居場所を掴んだヴァンさんの知り合いなの!?」
ヴァンの労いに対してそれぞれ答えた少年と少女の話を聞いたエリオット達がそれぞれ驚いている中アネラスは信じられない表情で二人に訊ねたがヴァンと少年達はエリオット達の反応を無視していた。
「今から送るデータが頼まれていた帝都内に繋がっている最短ルートだ。………送ったぞ。」
「……確かに受け取った。それでこれが”報酬”のミラとパスポートだ。一人50万ミラだから、100万ミラ入れてあるぜ。」
少年が操作したオーブメントから受け取ったデータを確認したヴァンはミラ札が入った封筒と二つのパスポートを少年に渡した。
「わお~、100万ミラもくれるなんて、太っ腹だね~♪裏解決屋は始めたばかりなのに、なーちゃん達にそんな大金を出せるって事はよっぽどもうかっているんだね~?」
「違うっつーの。”スポンサー”に金を出させただけだ。何せ”スポンサー”はエレボニアの皇家と”四大”の一角だからな。例え衰退しようと、さすがにそのくらいの金は簡単に出せるって事だ。」
「フン、一言余計だ。」
「フム、最終決戦時の帝都の情報と引き換えに私や殿下達に”情報代”として120万ミラを要求したけど、その大半はそちらの2人への報酬の為だったようだね。」
(つーか、オリビエ達に120万ミラ支払わせて100万ミラは今あの二人に支払ったって事は、残りの20万ミラは”仲介手数料”としてあの野郎の懐に納めたようだな。)
(それよりもあの二人は一体何者なのかしら……?会話の流れから察するにあの二人は魔獣が徘徊する地下道を通って帝都とここを行き来した上帝都での潜入活動をしていたんだから、間違いなく普通の子供ではないようだけど……)
報酬額を聞いて驚いた後からかいの表情で訊ねた少女の言葉に対して苦笑しながら答えたヴァンの話を聞いたユーシスは鼻を鳴らして呟き、アンゼリカは興味ありげな表情で少年と少女を見つめて呟き、アンゼリカの話を聞いたアガットは呆れた表情で溜息を吐いてヴァンを見つめ、シェラザードは探るような視線で少年と少女を見つめた。
「パスポートの俺達の出身国は………”メンフィル帝国”?」
「”メンフィル帝国”って今回のエレボニアの戦争相手の一国で、それも異世界の国として有名なあの国だよね~?エレボニアの皇家や大貴族に加えて、メンフィル帝国にまで伝手があるなんて、相変わらずの顔の広さだね~。」
「ま、色々あって結果的にはメンフィル方面の伝手もできちまったんだ。――――それで地下道の出入口はどこにあるんだ?」
パスポートを開いて自分達の出身国を確認した少年は眉を顰め、少女は興味ありげな様子でヴァンに指摘し、少女の指摘に対して肩をすくめて答えたヴァンは表情を引き締めてある事を訊ねた。
「―――――あそこだ。」
そしてヴァンの質問に答えた少年が視線を向けた方向――――――霊園の奥にある地下道への出入口にその場にいる多くの者達は視線を向けた。
「――――――連合側の先鋒軍と帝都郊外で展開している第四機甲師団は現在南オスティア街道でぶつかっている最中だから、撤退ルートで南オスティア街道を使うのは止めておいた方がいいぜ。」
「了解した。――――――ナーディア、行くぞ!」
「りょうか~い!それじゃ、後は頑張ってね~♪」
ヴァンの忠告に頷いた少年は少女に声をかけ、声をかけられた少女は返事をした後ヴァンやエリオット達に視線を向けて無邪気な笑顔を浮かべてヴァン達に手を振って応援の言葉をかけた後その場から走り去って行った。
「……今の二人は一体何者なの、ヴァン。あの二人、どう考えてもただの子供じゃないわよ。」
「しかもメンフィル方面の伝手―――恐らくレンでしょうけど、パスポートの用意の為にわざわざメンフィルの皇族を利用した事から察するにもしかしてあの二人、”公的機関による身分証明書を発行できない立場”なのじゃないかしら?」
「………あの二人は”裏解決屋”を始めた俺にとって初めての”依頼人”だ。」
エレインは去って行く少年と少女の後ろ姿を見た後真剣な表情でヴァンを見つめて訊ね、エレインに続くように少年達の事情をある程度察していたシェラザードは複雑そうな表情でヴァンに確認し、二人の問いかけに対してヴァンは少しの間考えた後答えた。
「い、”依頼人”って事は”裏解決屋”のヴァンさんに”依頼”をしたって事になるんですよね?あんな僕達よりも年下の子供達がヴァンさんに一体どんな”依頼”を……」
「ノーコメントだ。ただまあ、”嵐の銀閃”が察していたように国は当然として遊撃士にも頼れないから、裏解決屋に頼って来たって事で”察して”くれ。」
「それは一体どういう事なんだろうか?」
「シェラザードの推測や遊撃士達に頼る事ができないという話から察するに、間違いなく結社のような”犯罪組織”に関わっているか”猟兵”のような”裏”の連中だろうな。」
「は、”犯罪組織”や”裏”ってあの子達、どう見てもティータちゃんやレンちゃんくらいの子供達でしたよ……!?」
「ヨシュアもそうだが、フィーやミリアムという”前例”を俺達も知っているのだから、”子供だから”という”先入観”は持つべきではないな。」
マキアスの疑問に対して答えを誤魔化した後口にしたヴァンの言葉が気になったガイウスが新たな疑問を抱いている中ある程度察したアガットは複雑そうな表情で呟き、アガットの推測を聞いて信じられない表情をしているアネラスにジンが複雑そうな表情で指摘した。
「あ…………」
「………今はあの二人について気にすべき時ではないだろう。」
「そうですね。ナイトハルト教官達の方も準備が整ったようだし、そろそろ始めようか。」
ジンの指摘を聞いたアネラスがヨシュア達の過去を思い出して不安そうな表情を浮かべている中ヴァンダール子爵が静かな表情で指摘し、ヴァンダール子爵の指摘に頷いたアンゼリカは準備を整えて自分達の所に向かってきたナイトハルト中佐達を確認した後仲間達を見回して声をかけた。
「はいっ!Ⅶ組B班、作戦開始――――――!」
「おおっ!」
アンゼリカの言葉に仲間達を代表して頷いたエリオットは号令をかけ、号令に力強く答えた仲間達と共に地下道へと突入した――――――
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