イベリス
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第九十二話 合宿を終えてその五
「それで、ですね」
「そうです、人生の経験を積み重ね」
「それで素晴らしくなった人のことですね」
「若い頃の苦労は金を払ってでも買えと言いますが」
「それもですか」
「私はそうは思いませんが」
若い頃の苦労は金を出してでも買え、という風なことはというのだ。
「ですが」
「それでもですか」
「苦労もまたです」
「経験の一つですか」
「貴重な」
そう呼ぶべきというのだ。
「ですから経験をされても」
「いいですか」
「その時辛い思いをされても」
「それでもですか」
「必ずです」
まさにというのだ。
「糧となります」
「そうですか」
「ですから」
それでというのだ。
「後でよかったと思うこともあります」
「苦労をしても」
「そうです、そしてその苦労と呼ぶべき経験も」
右目今その顔で見える目を優しいものにさせてだ、速水は咲に話した。左目は黒髪に隠れ咲からは見えない。
「私は来るものと思っているので」
「お金を出してもですか」
「買うものではないとです」
「お考えですか」
「苦労は自分から来るものです」
「お金を出さなくても」
「そうです、経験は全てそうしたものであり」
咲を見つつ話した。
「苦労と呼ばれる経験もです」
「自分から来るので」
「ですからお金を払ってです」
「買うものじゃないですか」
「ただ経験することを逃れてばかりなら」
そうすると、ともだ。速水は話した。
「その人は成長しません」
「経験しないとですね」
「はい、経験を経て人は大きくなりますから」
「その経験から逃れてばかりだと」
「成長しません、小山さんは八条学園ですね」
「東京校です」
そこに通っているとだ、咲は答えた。
「あそこに通っています」
「では神戸の方のお話は聞いていますね」
「本校のですか」
「はい、理事長さん達が信者さんの天理教の教会で」
そちらでというのだ。
「一人酷い人がおられたと」
「聞いてます、働かなくて何もしたことがない出来ないのにですね」
「尊大で自分はこの世で一番偉いと思い込み」
「図々しくて恩知らずで感謝もしなくて器も小さい」
「この人は何も経験してこなかったからです」
それ故にというのだ。
「成長せず」
「五十過ぎでそんな人だったそうですね」
「子供がそう勘違いしても所謂中二病と呼ばれるもので済みますが」
それでというのだ。
「まだ人生経験が浅いので」
「よく後で黒歴史になりますね」
「そうなりますが」
「大人、五十過ぎてそれは」
「五十過ぎで子供でいる様な」
その精神年齢がというのだ。
「人生の経験を碌にです」
「積んでこなかった人ですね」
「人間自分がこの世で一番偉いなぞ」
その様にはというのだ。
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