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阿古邪の松

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第四章

 橋に用いられた、阿古邪はそれを見届けて父に事情を話して申し出た。
「世のことに深く思う様になりましたので」
「だからか」
「出家したいのですが」
 こう申し出たのだった。
「宜しいでしょうか、そして」
「そして?」
「私が今生を終えましたら」
 阿古邪はそれからのことを話した。
「あの方の場所にです」
「太郎殿がおられたか」
「その松の切り株のところにです」
「そなたの亡骸をか」
「葬って欲しいとです」
 その様にというのだ。
「今からです」
「告げておくか」
「はい、そして」
「実際にか」
「今生を終えましたら」
 その時はというのだ。
「その様にとです」
「して欲しいのだな、ではな」
「父上もですね」
「その様に伝えておこう」
 自分達が今いる陸奥の者達にというのだ。
「是非な」
「お願いします」
「それではな」
「これまで有り難うございました」
 最後にこの言葉を告げてだった。
 阿古邪は出家した、そしてだった。
 その生涯を御仏に仕えて過ごし今生を終えるとだった。
 遺していた言葉通り太郎であった松の切り株の傍に埋められた、すろとだった。
「新しい松が生えたな」
「そうだな」
「これは阿古邪殿だな」
「間違いないな」
 陸奥の人々はその松を見て口々に話した。
「それ以外に考えられない」
「間違いなくな」
「ではこの松はな」
「阿古邪殿にちなみだ」
「あの方の名をつけよう」
「そうしよう」
 こう話してだった。
 人々はその松をアコヤマツと名付けた、そしてこの辺りの松全てがそう呼ばれる様になった。陸奥今の山形県に伝わる古い話である。


阿古邪の松   完


                  2022・12・15 
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