フィレンツェの蔦
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第一章
フィレンツェの蔦
その修道院を前にしてだった、教皇より直々に院長に任じられたベネディクト=マルケロ白髪の初老の修道僧である彼はまずはその荒れ様に眉を顰めさせた。
そうしてだ、共に来た者達に話した。
「これはいけません、すぐに手入れをしてです」
「そうしてですね」
「修道院を奇麗にしますね」
「まずは」
「はい、そうしてです」
そのうえでというのだ。
「教皇様に命じられた通りにです」
「この修道院をですね」
「復興しますね」
「そうしますね」
「そうしましょう」
こう言ってだった。
マルケロは自ら率先して修道院の清掃にあたり隅から隅まで奇麗にしてだった。
修道院に入りそこでの修行と神と人への奉仕をはじめた、だが。
街のある貴族が来てだ、こう言われたのだった。
「この修道院にはかつてですか」
「はい、アルヴィに覆われたです」
この蔦にとだ、見事な身なりをした立派な顔立ちの貴族は話した。
「一本の高い木がありまして」
「それで、ですか」
「そのアルヴィが修道院の壁も覆っていました」
「そうだったのですか」
「二百年程前は」
その頃はというのだ。
「そうでした、そしてです」
「そしてといいますと」
「その木が枯れ落ちればです」
そうなればというのだ。
「修道院も潰えると言われ」
「それで私が入るまで、ですか」
「はい、それまではです」
まさにというのだ。
「この修道院は廃墟となっていました」
「そうだったのですか」
「二百年程前にこの街で病が流行ったそうです」
貴族はマルケロにさらに話した。
「その時街の人達はこの修道院に助けを求めましたが」
「修道院は助けなかったのですね」
「修道院の決まりで修道僧達が俗界に入ることを禁じていたので」
「助けを断ったのですか」
「すると街の者達は怒りそれを受けてようやくです」
「人々を助けようとしたのですね」
「ですが時既に遅く」
それでというのだ。
「そのうえで、です」
「修道院は神の怒りを受けたのですね」
「はい」
まさにというのだ。
「そのアルヴィが枯れ落ちれば修道院もと言われましたが」
「枯れたのですね」
「そうしてです」
「修道院は廃れましたか」
「修道僧達が次々と死んでしまい」
「そうだったのですね」
「ですからこの修道院はこれまで廃墟で」
そうなっていてというのだ。
「そしてです」
「今私が来たのですね」
「そうです、若し貴方が神と人に奉仕されれば」
そうすればというのだ。
「かつての様にです」
「この修道院にですか」
「アルヴィがです」
それがというのだ。
「蘇るかも知れません」
「そうですか、ではです」
マルケロはここまで聞いて述べた。
「これから私達はです」
「神と人にですね」
「一心に奉仕します、そうすれば」
「アルヴィもですね」
「蘇るでしょう、では」
「いえ、神への人への奉仕は神に仕える者の当然の務めです」
マルケロは貴族にこう答えた。
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