タイムエスケープ
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第一章
タイムエスケープ
イギリスでそれこそ薔薇戦争以前から続く侯爵家の主ジェームス=ランカシャー卿はこの時自身の屋敷の書斎でぼやいていた、グレーの髪の毛をオールバックにしやや面長の顔で気品のある彫の深い相である。唇は薄く一文字であり目の色は黒だ。背は一七八程で引き締まった体格をしていて着ている服はシックだがよく見ればどれもブランドものだ。
その彼がだ、傍にいる家の執事であるグリーン=ローズ二十代位で茶色の癖のある丸顔で太った背の高い自分と同じ目の色の彼に話した。
「別にわしはだ」
「お嬢様の恋愛をですね」
「反対していない、ただな」
ローズに雲った顔で話した。
「三年だ」
「それだけですね」
「待てと言ったのだ」
「それだけですね」
「妻とも話してな」
「三年ですね」
「その三年の間にだ」
設けた基幹の間にというのだ。
「何があるかわからないしな」
「様子見ですね」
「まして相手はな」
「はい、学者ですが」
「三年の間にな、あの能力ならな」
娘の想い人のというのだ。
「今以上の実績と地位をな」
「挙げてですね」
「よりよくなっている筈だ」
「イギリスの工学の分野でホープとです」
「言われているそうだな」
「そうです」
「わしは経済学を学んでいたから詳しくないが」
それでもとだ、ランカシャーはローズに話した。
「しかしそうした話は聞いている、しかも二人共まだだ」
「お若いですね」
「若気の至りということもある」
ランカシャーは自身のこれまでの人生経験からも話した。
「現に娘の兄であるな」
「若旦那様はですね」
「ハイスクールの頃におかしな女に入れあげてな」
「手酷く振られたそうで」
「暫く落ち込んで見ていられなかった」
「左様でしたね」
「そうしたこともある、恋愛というものはな」
これはというのだ。
「入れあげるよりもな」
「冷静になることですね」
「結婚は特にだ」
まさにというのだ。
「慎重にだ」
「するものですね」
「貴族の家は普通に婚約者がいるものだが」
それでもというのだ。
「昔の話でだ」
「今はですね」
「そんなものにこだわることはな」
「ないですね」
「当家もな、だが」
貴族のその家のことを話すのだった。
「結婚は人生の重大事だけあってな」
「慎重になるべきですね」
「相手をお互いによく知って」
そうしてというのだ。
「それからでもいい」
「だから三年ですね」
「待つことだと言ったが」
「駆け落ちされましたね」
「そうだ、しかも相手の勤め先の大学もな」
「お二人を庇って」
「相手を休暇にして何処に行ったかわからない様にしている」
苦い顔での言葉だった。
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