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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
  第三十二話 骸骨の刈リ手と魔王の正体

「偵察隊が、全滅っ!!」

ソレイユが出かけた翌日、二週間ぶりにクランザムにある血盟騎士団本部を訪れたルナ、アスナ、キリトの三人は思いもよらぬ言葉を耳にした。

「七十五層のマッピング自体は、時間はかかったが犠牲者を出さずに何とかなったのだが、ボス戦はかなりの苦戦が予想された・・・そこで、我々ギルドは合同パーティー二十人を偵察隊として送り込んだのだが・・・」

いつも通り表情に変化は見られないヒースクリフだが、その口から発せられる言葉には言い知れぬ重さがあった。

「偵察は慎重を期して行われた。十人が後衛として入り口で待機し、残り十人が前衛としてフロアの中心に到達したところで、扉が閉じられてしまったらしい・・・再び扉が開かれるまで五分間以上何をしても開かなかった。ようやく扉が開いた時には、そこには先に突入した十人も、ボスの姿すらなかったそうだ。念のため、生命の碑を確認しに行ったところ・・・」

それより先は聞かなくても三人は理解した。重い雰囲気が漂う中、ヒースクリフはある人物がいないことについてルナに問い掛けた。

「それより、ソレイユ君はどうしたのかね?」

「長期間のクエストに行くと言ってました。ただ、ダンジョンに潜っているのか、連絡は取れません・・・」

「そうか・・・彼も戦力の一人として数えていたのだが・・・致し方ないな・・・」

その後、集合時間と集合場所を聞いたルナたち三人は時間まで自由行動となった。キリトとアスナは部屋に留まり、ルナは散歩をするといって出て行った。



「ハァ・・・」

血盟騎士団本部から七十五層のコルニアに来たはいいが、正直な話あんまりやることがなかった。あのような話を聞いた後では気軽に散歩とは行けるわけがない。少しでも外を歩けば気分は変わるものだと考えたが、なかなか変わってくれない。そのため、ため息が漏れてしまうのは致し方ないだろう。

「おお、そこにいるのはルーちゃんじゃないカ!」

沈んだ気持ちで歩いていると、いきなり声をかけられた。独特の口調と自分のことをルーちゃんと呼ぶのは一人しかいないことから、声をかけてきた人物が誰であるかルナは簡単に検討が付いた。

「・・・こんにちは、アルゴ」

フードコートを羽織り、特徴的な両頬にヒゲを模した三本線のメイクと短めな金褐色の巻き毛、人を食ったような笑顔は間違いなく≪鼠のアルゴ≫その人だった。

「聞いたゾ!七十五層のボス攻略に参加するんだってナ?」

「さすが、鼠・・・情報が早い・・・」

「それがオレっちだからナ!」

呆れを含んだルナの言葉にどや顔で答えるアルゴ。

「暇なら、そこのカフェで少しどう?おごるよ?」

その言葉にニヤリと笑うとアルゴはルナの申し出を受けた。
カフェに入り、テラスで注文をして品物がテーブルに並べられると、不意にルナが疑問を投げかけた。

「そういえば、アルゴってソレイユと付き合いながいんだっけ?」

「百コルっと言いたいガ、今日は特別にサービスしとくヨ。ソー君とは、まァ、結構長いナ」

「じゃあ、ソレイユが今何してるか知ってる?」

ルナの言葉を聞いたアルゴは人を食ったような表情から一変して真面目な表情で口を開いた。

「知ってはいル。だけど、教えるワケにはいかないナ」

「そう・・・」

アルゴの返答に気を落とすルナ。そんなルナにアルゴは疑問を抱いた。

「ソー君のことが心配なのカ?」

「心配というか、なんというか・・・嫌な予感がしてね・・・」

「嫌な予感?」

「うん・・・まぁ、あくまで予感だからそんな深刻になる必要もないんだけどね」

しかし、言葉とは裏腹にソレイユの強さを知っているルナであるが、その悪い予感をぬぐい去ることはできないでいた。

「そういえば、もうひとつ聞きたいことがあるんだけど・・・ 」

「なんダ?オネーサンに答えられる範囲でいいなら答えるゾ?」

思い出したようにいうルナにアルゴはいつも通りの掴み所がない表情に戻し、相変わらずの口調で話していく。しかし、次にでたルナの言葉にアルゴは驚愕した。

「ジェネシアスって知ってる?」

ガタンッ

椅子が勢いよく倒れた音が周囲に響いた。発信源の方に目をやると、信じられないといった表情でアルゴは勢いよく立ち上がっていた。それがルナの聞いた質問の答えだった。

「知って、るんだ・・・」

ルナの呟き、アルゴは倒れた椅子を起こし座りなおす。

「ルーちゃん・・・そのこと、他のプレイヤーには言ったカ?」

「言ってないけど・・・」

「そうカ・・・なら、これはオネーサンからの忠告ダ。そのジェネシアスのことは誰にも公言しないほうがいイ」

先ほどよりも真面目な表情でそう忠告してくるアルゴにルナは疑問を禁じ得なかったが、長年(といっても二年くらい)お世話になった情報屋がこれほどまでに言ってくるのだからその忠告には従うことにするルナ。ただ、ただで従う気はなかった。

「わかった・・・その忠告は受けるよ・・・」

「そうカ、ルーちゃんがk「ただし」・・・なんダ?」

「そのジェネシアスがどういうところか教えて?」

その後、ジェネシアスのことを話すことで公言しないことを約束し、アルゴはルナにジェネシアスのことを知っているだけ話した。話し終えるころには集合時間がすぐそこまで迫っていた。

「さて、そろそろ集合時間だから行くね」

「あア、気を付けてナ」

その言葉に見送られ集合場所に足を進めようとしたとき、ルナはアルゴに一つの頼みごとをした。

「アルゴ、一つ頼みたいことがあるんだけど・・・」

前置きをして、ルナは改めて口を開く。

「ソレイユに連絡が付くようになったら、出来るだけ早くこのことを連絡してほしいんだけど・・・」

「このこととハ、ボス攻略のことカ?」

アルゴの疑問にルナは真剣な表情で頷く。少し考えた後、アルゴは頷いた。

「わかっタ。そのお願い、オネーサンが引き受けたヨ!」

その言葉を聞くとルナは一度だけ頷き、振り返ることなく集合場所に走っていった。遠ざかる背中を見ながら、アルゴはポツリと誰にも聞こえないように呟いた。

「相変わらず、どんな時でも自分を貫くんダナ・・・ソー君ハ・・・」



ルナが集合場所に行くと見知った顔がずらりと並んでいた。ここにいる全員が今の攻略組を支える主戦力メンバーであり、このアインクラッド脱出のための希望でもあった。ルナの姿を見た血盟騎士団団員たちは敬礼をし、ルナもそれに応えているとお世話になっている故買屋と最近知り合った野武士面の侍がいた。

「こんにちは、エギル、クラインさん」

「おう、久しぶりだな、ルナ」

「おうっす、ルナさん」

ルナのあいさつに応えるエギルとクライン。そんなとき、キリトとアスナがこの集合場所に現れた。二人が歩み寄ってくると、目礼を送るものやギルド式の敬礼を送ってくるものもいた。それに気ごちない仕草で敬礼を返しているキリト。そんな二人にルナ、エギル、クラインは近づき、クラインがにやにや笑いながらキリトの肩を叩いた。

「よう!」

「なんだ・・・お前らも参加するのか」

「なんだってことはないだろ!」

キリトの言葉に反応したのはエギルだった。憤慨したような声を上げるエギルだったが、その声を遮るようにクラインの疑問が割り込んできた。

「そういや、ソレイユの奴はどうしたンだよ?」

その質問に答えたのは当然のごとくルナだった。

「長期のクエスト中だって・・・」

肩を竦めながら答えるルナの言葉に少し重い雰囲気がのしかかる。いまや、攻略組の主戦力に数えられているソレイユ。何を考えてるかわからないし、気まぐれな性格ゆえに敬遠する者も多いが、その実力は誰もが認めるほどであり、ましてや、クラインやエギルといったソレイユと付き合いのあるプレイヤーからしてみれば、仲間して戦うにあたってとても頼もしい存在である。
そのソレイユが不在ということを聞き、若干雰囲気を落としたクラインたちだったが、転移ゲートからヒースクリフを含ま多数名が現れると、今までの雰囲気が一変して気を張った雰囲気へと変わった。
モーゼの十戒のごとく人ごみを割り、その中心を数名の部下を連れ威風堂々と歩いていくヒースクリフ。キリトたちのところまで来ると立ち止まり、アスナとルナは涼しい顔で敬礼、キリトとクラインは数歩下がった。一度おれたちに頷くと、集まった攻略組の面々に対して言葉を発した。

「欠員はないようだな。よく集まってくれた。状況はすでに知っていると思う。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。――――解放のために!」

次いで、ヒースクリフのカリスマ性に舌を巻いているキリトにふり向くと、かすかな笑みを浮かべながら口を開いた。

「キリト君、今日の戦いは頼りにしているよ。≪二刀流≫、存分に揮ってくれたまえ」

その言葉に無言でうなずくキリト。ヒースクリフは改めて攻略組の面々にふり向くと、回廊結晶を起動させ、

「では、出発しよう」

その言葉と共に開かれたコリドーへと足を進める。それに続きアスナ、ルナ、キリトといった攻略組の面々も潜っていく。次の瞬間には、広い回廊に出ていた太い柱が列をなし、その先には鏡のように磨かれた何とも言い難い嫌な雰囲気を醸し出している扉があった。

「皆、準備はいいかな。今回、ボスに関する情報は一切ない。我々KoBが攻撃を食い止めている間に可能な限りパターンを見切り、柔軟に対応してほしい」

参加者全員が無言でうなずく。

「では――――行こうか」

その言葉と共に扉は開かれた。ゆっくり扉が開く中、クラインの声が響いた。

「これに勝ったらよ、ソレイユに自慢してやろうぜ!」

「おもしろいな、それ」

「よし、俺も乗っかってやるよ!」

キリトが悪戯っ子のように笑い、エギルもその話に乗りかかる。アスナはもう・・・といったように呆れ、ルナに至っては苦笑いをしながら一言だけ口にした。

「じゃあ、生きて帰らないとね」

その言葉に頷く四人。そこにヒースクリフの声が届いた。

「―――戦闘、開始!」

その言葉が響き渡ると同時になだれ込むようにボス部屋に入る攻略組の面々。全員が入り終えると、扉は閉じ消失する。ボスの姿が見えず全員が緊張する中、周りを見渡していたルナは咄嗟に上を向いきながら叫んだ。

「上っ!!」

その叫びに従って全員が上を向くと、ドームの天頂部に骨で出来た鎌状の腕を持つ巨大なムカデが張り付いていた。

≪The Skullreaper≫

そう表示された名前と共に五つのHPゲージが表示される。攻略組の全員が度肝を抜かれた中、スカルリーパーは両足を天頂部から離し、真上に落下してきた。

「固まるな!距離を取れ!!」

度肝を抜かれ、凍り付いていた面々にヒースクリフが喝を飛ばすと、我に返った面々が散り散りに散っていく。逃げ遅れた数名がキリトの指示で避難しようとしたが、スカルリーパーが着地と同時にその数名に鎌で攻撃を仕掛けた。避けることもできず、攻撃を喰らってしまったプレイヤーのHPが勢いよく減ったと思ったら、止まることなく全損した。不快な音と共にポリゴン片となって消えていくプレイヤー。その光景をキリトたちは目を見開いて見ることしかできなかった。

「一、撃・・・っ!!」

「こんなの・・・無茶苦茶だわ・・・」

ルナとアスナのかすれた声が響く。一撃必殺をなしたスカルリーパーが雄叫びを上げると、新たな一団に向かって突進していった。

「う、うわあああ――――!!」

悲鳴を上げながら逃げ惑うプレイヤーたち。そんなプレイヤーたちを嘲笑うかのようにスカルリーパーは鎌状の腕を再度振り上げながら逃げ惑うプレイヤーたちに襲い掛かっていく。鎌が振り下しプレイヤーを刻み込もうとした瞬間、その間に人影が割って入った。

「・・・・・・・くっ!!」

スカルリーパーの攻撃をいなそうとするがなかなかうまくいかず、押し負けてしまう。そのまま、標的を変えたスカルリーパーはルナに向かって鎌を振り下すが、巨大な盾を掲げ、阻むものがいた。血盟騎士団団長、≪聖騎士≫ヒースクリフ、その人であった。

「どうかね、ルナ君?」

「無理、ですね・・・あれをいなすのは至難です」

「そうか・・・」

鎌を防ぎながら会話するヒースクリフとルナ。だが、自分の鎌が防がれたことなど気に留めず、他の逃げ惑うプレイヤーに向かって鎌状の腕を振り下していく。それを防いだのは黒衣の二刀流剣士だった。

「ぐっ!?」

しかし、受け止めたはいいがあまりの攻撃の重さに膝をついてしまう。そんな必死に鎌を受け止めるキリトを助けたのは純白の光芒を引いて空を引き裂いた細剣だった。細剣の攻撃を受け、勢いが緩んだすきにキリトは全身の力を振り絞って鎌を押し返した。

「二人同時に受ければ―――いける!私たちならできるよ!」

「―――よし、頼む!鎌はおれたちが食い止める!!みんなは側面から攻撃してくれ!」

キリトの声にようやく呪縛が解けたようで、各々雄叫びを上げ武器を構えながら突進していく。

「ルナ君、君は攻撃隊の指揮を頼む」

「わかりました」

団長の指示に一言だけ返事をすし、その場から素早く離脱し攻撃隊に加わるとすぐさま指揮をとり始める。ヒースクリフとキリト&アスナが攻撃を受け、ルナが指揮をするなかクラインたち攻略ギルドやソロプレイヤーたちがスカルリッパーの側面から攻撃を仕掛けていく。それでも、スカルリーパーのHPは少しづつしか減少しない。攻略組にとって長い長い戦闘が行われた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


戦いは一時間にも及んだ。激闘を果たした末、勝利を得たのは攻略組だが、それを喜べるものは誰もいなかった。一撃で死ぬかもしれない恐怖が合わさった状況で一時間にも及ぶ死闘を行ったため、疲弊して地面にへたり込むものがほとんどだった。

「何人―――やられた・・・?」

「十四人、死んだ」

「・・・うそだろ・・・」

聞いたのはクライン、答えたのはキリト、呆然と呟いたのはエギルだった。トップレベルのプレイヤーがこれだけの数を犠牲にしてやっと倒すことのできた七十五層。では、その先の層ではどれだけの犠牲が出るのか考えもつかない。

「これは、ソレイユにも協力してもらわないとだめかな・・・」

ルナは人知れずそう呟いた。剣の頂に立つと称される彼がいるならば、少なくともこれほどの被害はでないはずだ、ならば手を借りるしかない、と考えたところでルナは表情を曇らせる。

「いやだな、私・・・あの人の性格は私がよく知ってるのに・・・」

恋人となり、付き合っていくうちにでソレイユというプレイヤーの大体の性格は理解できた。自由気ままで束縛を嫌い、自分に反することは決してしない。その彼を利用しようと考えた自分を嫌悪するルナ。血盟騎士団参謀長という立場とソレイユの恋人という立場がルナを苦しめる。どうすれば良いのかわからず悩んでいると、キリトが突然ヒースクリフに向かって片手剣の基本突進技≪レイジスパイク≫を放ていた。唐突な展開に眼を見開いて驚くルナだったが、次に起こったことに更なる驚愕に襲われた。

「・・・不死、存在・・・っ!」

「キリト君、何を―――」

ルナが呟くのと同時にアスナがキリトの奇行に驚いて駆け寄り、ヒースクリフに表示されている文字を見て愕然をし足を止める。キリトもヒースクリフから距離をとり、アスナの隣に並ぶ。

「システム的不死って・・・どういうことですか・・・団長・・・?」

アスナの問いにヒースクリフは答えず、厳しい表情でキリトを見ていた。そこに響いたのはルナの震えた声だった。

「ヒースクリフ団長・・・まさか、あなたは・・・」

最悪の未来予想図を立てたルナの言葉にヒースクリフはかすかに唇をつり上げると相変わらずの口調でルナを褒め称えた。

「さすがは我が血盟騎士団の参謀長だ。君をその地位にしたのは間違いではなかったらしい」

そう言った後、ヒースクリフはボス戦に参加し生き残った攻略組のメンバーに向きなおり、自分の実名を名乗った。

「私の名は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君たちを待つはずだったこの城の最終ボスである」
 
 

 
後書き
話が原作に戻ってきました!
これからどうなっていくのか、次回が楽しみですね!!

ソレイユ「それより、なんでルナとアルゴがジェネシアスを知ってるんだ?」

それはおいおい書こうかナって思ってるんだが・・・
まぁ、その時までのお楽しみってことでどうかよろしくお願いします。

では、ご意見ご感想お待ちしております!!
 
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