ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル
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第103話 メルクの語る真実!メルクの星屑をゲットだぜ!
side:イッセー
「おらぁっ!」
俺は空間に入った亀裂を透過の力でこじ開けて何とかヘビーホールに戻ってきた、アーサーめ、今度会ったら絶対にぶっ飛ばしてやる……!
「皆は何処だ?」
『さあな、それなりに時間は立ったようだが……』
「心配はしていないが腹が減ったな。この腕もアーシアにくっつけてもらわないといけないしな」
俺はアーサーに切り落とされた腕を担ぎながらそうぼやいた。
「匂いは……うん、あっちだな。ただ知らない匂いもあるな」
『もしやメルクじゃないか?リアス達が先に会っていてもおかしくは無いだろう』
「確かに敵意は感じないな。よし、行ってみよう」
俺はリアスさん達の位置を匂いで追うとそこに知らない匂いがあるのを感じ取った。アーサーやエレインとは違う匂いだが敵意は感じない為俺はそこに向かった。
「あっ、リアスさん!」
「イッセー!無事だったのね!」
「イッセー先輩!」
俺は皆の元に向かうとリアスさんは嬉しそうに駆け寄ってくる。それを筆頭に小猫ちゃんやアーシア達が抱き着いてきた。
「アーシア、さっそくで悪いんだけどこの腕をくっつけてくれないか?」
「わ、分かりました!」
アーシアは斬り落とされた腕を見てもそんなには動じずに聖女の微笑で腕をくっつけてくれた。
「よし、完璧だな!こういう時にアーシアがいてくれると本当に安心だぜ」
「お役に立てたのなら良かったです」
俺がアーシアにお礼を言うと彼女は嬉しそうにほほ笑んだ。
「イッセー君、その腕はアーサーにやられたのかい?」
「ああ、あの男は強かったぜ。今回は直に引いてくれたから良かったが本気だったらどちらかが死んでいたな。多分俺の方が……」
「君にそこまで言わせるなんて……くっ、僕もまだまだだな」
「仕方ないさ、何せグルメ界に入れる奴だ。この中じゃ俺くらいしか太刀打ちできなかった」
「それでも同じ剣士として剣すら抜けなかったのは屈辱だよ。体が戦う前に負けを認めてしまっていたんだ……」
「祐斗……」
祐斗は悔しそうに歯を食いしばっていた、手から血が出るくらいに強く握りしめている。
祐斗も剣士としてプライドがある、だから戦う前から負けを認めてしまったのが悔しいのだろう。
「祐斗、私もその気持ちは分かるぞ。デュランダルに選ばれたと言うのにそれを抜くことすらできなかった、剣士として戦う前から負けていたんだ。こんな事ではデュランダルに愛想をつかされてしまう」
「ゼノヴィアさん……」
「何よりイッセーがいるなら何とかしてくれると他力本願な考えをしてしまった。こんなことではイッセーの友として失格だ……」
同じ剣士であるゼノヴィアもショックを受けているようだ。
「なら強くなれ」
「えっ?」
「悔しいなら強くなるしかない。敵は待ってくれないし自分の弱さに嘆くくらいならグルメ界に行くのは諦めた方が良い。二人はそれでいいのか?」
俺は敢えて厳しい言葉を二人に浴びせた。出来れば皆でグルメ界に行きたいと言うのは本音だが無理強いは出来ない、二人がここで諦めるのならそれでもいい。だが……
「……良くないよ!悔しいしこのままじゃ情けないしなにより美味しい物を諦めるなんて嫌だ!」
「ああ、そうだ!私だってG×Gを知って食の素晴らしさを理解できたんだ!もっと美味しい物を食べたいんだ!」
ははっ、やっぱりこの二人も俺が見込んだ食いしん坊だ。この世界で一番大事な『食べたい』という想い、それがあるのなら二人は折れないよな。
「ならこれからも美味いもんを食って頑張っていけばいいさ。大丈夫、二人は強くなってるよ。一緒にいる俺が保証する」
「イッセー君……うん、君がそう言ってくれるなら勇気が出るよ!」
「弱音などらしくなかったな。相手が圧倒的強者ならそれに追いつけるくらい鍛えて食べまくればいい!」
祐斗とゼノヴィアはやる気を出したみたいだな、二人ならいつかアーサーに追いつけるさ。
「そういえばルフェイはどこだ?」
「ああ、あの子なら……」
「はい、これでいつでも喋って大丈夫ですよ」
リアスさんが指を刺した方を見ると巨大な大男の首に石のような物に紐を通した不格好なネックレスをかけていた。
「ルフェイ、もしかしてその人は……」
「あっ!師匠!」
俺はルフェイに話しかけると彼女は嬉しそうに駆け寄ってきて俺に抱き着いた。
「師匠!無事で良かったですー!」
「おおっと……」
俺はルフェイを優しく抱きとめる。
「怒ってないのか?お前のお兄ちゃんと戦ったんだぞ?」
「怒ってませんよ、寧ろ師匠が無事であるか気になってたくらいです」
「そうか……」
実の兄より俺の方を心配してくれたのか、まあルフェイも俺よりアーサーが強いって感じ取ったからだと思うが……へへっ、それでも嬉しいな。
「師匠、私答えは見つかりませんでした、それでも自分の意志で皆といたいんです。美味しい物も食べたいしアイテムも作りたいです、そんな曖昧な考えでもいいですか?」
「ああ、100点満点の答えだ」
「えっ?」
「やりたいようになればいいんだよ、食べたいものを食べればいい、他人を理由にするんじゃなくて自分で決めればいいんだ。それが自由、それが自然だ」
「えへへ、ならこれからも師匠のお側にいても良いですか?」
「ああ、好きなだけいればいいさ」
「嬉しい……師匠、大好きです」
ルフェイはぎゅーと俺に強くしがみ付いてきた。俺は彼女の頭を撫でながらまた甘えん坊が強くなったなと苦笑した。
「ふふっ、良い師弟関係だな。お前がイッセーか?」
「はい、俺がイッセーです。貴方はメルクさんであっていますか?」
「ああ、私が研ぎ師メルクだ」
やはりこの人物がメルクか、それにしても強そうだな。職人と言うより美食屋みたいに見えるぜ。
「ところでその石は何ですか?その石から声が聞こえてくるような気がするんですが……」
「これは『拡音石』といってな、『ガンセキコンドル』の声帯から採取できる不思議な石じゃ、周りの音を数倍に拡大して反響してくれる」
「へぇ、そんな石があったのか……でもどうしてその石を?」
「コレを使わんとその子達に声が届かんようでな、恐らく6年間人と会話しなかったせいか声が小さくなってしまったようじゃ」
「なるほど……その石無しで喋ってもらっても良いですか?」
「構わんよ」
メルクさんはそう言うと拡音石を外して話し始めた。
「……」
「……えっ?なんて?」
「……」
「ぼそぼそしか聞こえねぇ!?」
なんじゃこりゃ!?強力なグルメ細胞を持ってる俺ですらボッソボソとしか聞こえないぞ!?
「こりゃ酷いな……俺でさえちょっとしか聞こえないぞ……」
「私達も最初は苦労したわ。悪魔である私達や魔法を使えるアーシアやルフェイ、鍛えているゼノヴィア達、皆がまともに会話が成り立たなかったんだもの」
リアスさん達も苦労したようだ。この声が普通に聞こえるのはゼブラ兄くらいじゃないか?
「やっぱり石を使って貰っても良いですか?」
「……あーあー、聞こえるか?」
「はい、大丈夫です」
拡音石を使わないとマジで会話が成り立たないな。まあ6年間もこんなところに一人でいたら声も小さくなるよな……
「所でそこの猛獣はメルクさんのペットですか?」
「コイツは『蠍魔牛』といってな、この辺りを縄張りにしておったんで家来にして見張りをしてもらっとる。まだ子供じゃがヘビーホールでは敵無しの強さじゃ」
「これで子供なのかよ、俺達かなり苦戦したんだぞ?大人になったらどんだけ強くなるんだよ……」
蠍魔牛はびしっと敬礼して俺に挨拶をした。よく手懐けられているなぁ、まあこの人なら納得だけど。
アザゼル先生たちはコイツと戦ったようでその強さにまだ次の段階があると知ってげんなりしていた。逆に言うと子供で良かったな……大人だったらマズかったかもしれない。
「でもメルクさん、貴方はこんなところで6年間も一体何をしていたんですか?弟子のルキがずっと心配していたんですよ?」
「なに、ルキだと?」
メルクさんにルキが心配していたと言うと彼は目の色を変えて俺に詰め寄ってきた。
「おぬしら、ルキに会ったのか?どうじゃ、元気にしておったか?ここにいると手紙も送れんからなぁ、ずっと心配じゃったんじゃ。体調は崩していないか?仕事は頑張っとるか?もしや彼氏は出来たりしておらんか?」
「ちょちょちょ……!近い近い!そんな詰め寄らないでください!」
「おお、すまんな。久しぶりにあの子の事を聞いてつい興奮してしまったわい」
俺より巨体の大男に詰め寄られたら流石に怖いわ!
「意外ね、メルクさんってルキの話だと凄く寡黙で滅多に喋らないって聞いていたのに……」
「滅茶苦茶お喋りよね」
リアスさんとティナの言う通り予想よりかなりお喋りな人だな、メルクさんって。
「こんな場所じゃなんだ、私の作業場に行こう。そこでルキの事を教えてくれ」
「作業場ですか?」
「うむ、今私はそこで包丁を作っておる」
「包丁を?」
なんでこんな場所で包丁を作っているのかは分からないが、取り合えず彼についていくことにした。
―――――――――
――――――
―――
「うおおおぉぉぉぉぉっ!?なんだこりゃっ!?」
「す、すっごおおおぉぉぉぉぉぉいいいっ!!」
アザゼル先生とルフェイの叫び声が作業場に響いた。うるさっ!?
「二人とも煩いですよ……拡音石使ってないのにそんな声出るもんか?」
「なに言ってるんだイッセー!これが叫ばずにはいられるかよ!ルキの所で見た包丁も凄かったがここにあるのはアレ以上の素材で作られた超一流のモンばかりだぜ!そこらにある名刀が霞むくらいのすげぇ代物だ!」
「うはぁっ!この包丁もあの包丁も私の知らない超レアな素材で作られていますよ!やっばい!たまんない!」
「ルフェイ、お前女の子がしちゃいけない顔してるぞ……後キャラも崩壊してるじゃねえか……」
俺は二人のハイテンションについていけずにため息を吐いた。
「でも料理人や二人みたいに素材を扱う訳じゃない僕でも凄いって思う包丁だよ」
「ああ、下手をすればデュランダルに匹敵するほどの一刀もあるかもしれないな。これが包丁だとは……一体どんな食材を斬るのだ?」
剣士である祐斗とゼノヴィアもここにある包丁は凄まじい物だと感じ取ったようだ。確かに見た目は大剣にしか見えないよな。
「すっごーい!研ぎ師メルクの作った市場にも出回っていない新型の包丁!特大スクープよ!」
「あっ、そんなにカメラを振り回したら……」
「えっ?」
テンションを上げてビデオカメラを振り回していたティナは頭上にあった包丁の刃にカメラを当ててしまいカメラがすっぱり切れてしまった。
「あー!あたしのカメラがー!?」
「そもそも許可を得てないのに撮るなよ」
「うえーん!祐斗くーん!」
「ティナさん、大丈夫ですか?」
俺はそうツッコんだらティナは泣いてしまい祐斗に抱き着いた。
「すみません、騒がしくて……」
「構わんよ。久しぶりに賑やかで楽しい気分だ」
リアスさんがメルクさんに謝るが彼は気にしていない、寧ろ賑やかでいいと返した。マジでイメージと違って気さくな人だな。
「……」
「小猫ちゃんもやっぱりここは魅力的な場所に見えるのか?」
「あっ、はい!やっぱり研ぎ師メルクの包丁は素晴らしいです!」
「その割にはルキの時よりテンション低い気がするけど?」
「えっと……実を言うとルキさんの包丁の方が好きかなって……」
「いやハッキリ言ったな!?」
まさかメルクさんの前で弟子のルキの作品の方が好きと言うとは思っていなかったぞ!?そもそも小猫ちゃんは節乃お婆ちゃんにも意見を言うくらいだし結構図太いよな……
「はっはっは、正直なお嬢さんだ。娘の作品の方が好きとは……ルキも腕を上げたようだな」
「えっ!?ルキってメルクさんの娘なの!?」
ポロっとメルクさんが零した言葉にリアスさんだけでなくこの場の全員が驚いた。まさかルキがメルクさんの娘だったとは……!どおりであんなに凄く心配してたわけだ。
「なんじゃ、知らんかったのか?てっきりルキから話を聞いているもんかと思っておったぞ。ルキは私の娘だ、もっとも血は繋がっていないがな」
「どういうことですか?」
「あの子は赤ん坊の時に偶然立ち寄った森で私が拾ったんじゃよ」
「えっ、じゃあルキさんって捨て子だったの?」
「何だか親近感が湧くな……」
メルクさんの血がつながっていないと言う発言にアーシアはどういうことかと尋ねると、ルキは赤ちゃんの時にメルクさんが拾ったらしい。
それを聞いたリアスさんは驚き俺は親近感を感じていた。
俺の場合は捨てられたわけじゃないけどこの世界の強者に拾われて義理の子供になったって部分が似てると思ったんだ。
「私も最初は人里に預けようと思ったんじゃが私に懐いてしまってな、離れようとしなかったので私が育てることにしたんじゃ。子育てなど初めてじゃったがあの子はとてもいい子で身内のいなかった私に温もりを与えてくれたんじゃ」
メルクさんはその怖い顔からは想像もできない優しい眼差しでそう話す。
「ルキさんの事が大好きなんですね」
「フフッ、私にとって大切な娘じゃよ。それにあの子は研ぎ師としての才能にも溢れていてのう、幼いころに私の作業場に忍び込んでうっかり飾ってあった包丁に触れてしまい顔を斬ってしまったんじゃ」
「えっ!?大丈夫だったんですか!?」
「幸い顔に傷がつく程度で済んだ」
「ルキさん可哀想……女の子が顔に傷を作っちゃうなんて……」
ルキが怪我をしたと聞いて小猫ちゃんが安否を確認してティナは女性が顔に傷が出来てしまう事にショックを受けていた。
「私もすぐに治療をしようとしたのだがルキは痛みで泣くのをすぐにやめて自身を傷つけた包丁を目を輝かせて見ていたんじゃ。それを見た私は確信したよ、ルキは私を超える研ぎ師になるとな」
なるほど、その頃からルキは研ぎ師としての才能を発揮していたのか。
「そして私はその日からルキを弟子にして持てる技術を教えた。丁寧に教えたのもあったんじゃろうがあの子はまるでスポンジが水を吸うような速度で私の技術を覚えていった。フフッ、あの娘は天才じゃよ。私がここに来る6年前の時点で研ぎ師としての技術は私となんら変わらんほどの腕を持っておったからのう」
「ベ、ベタ褒めですぅ……親馬鹿って奴ですかぁ?」
「ギャスパー、お前も最近図太くなってきたな……」
俺はルキを褒めまくるメルクさんに親馬鹿だと言うギャスパーに軽くげんこつをした。でも確かに褒めまくってるな。
でもルキの話だと彼女は何も教えてくれなかったから見て覚えたって言っていたがメルクさんは丁寧に教えたと言っている。コレはどういうことだ?
「メルクさん、貴方はルキに研ぎ師としての技術を教えていたんですか?」
「うむ、なにせ一番期待していた弟子じゃったからな。丁寧に教えたつもりじゃぞ」
「?」
俺はそれを聞いて首を傾げた。メルクさんの様子だと間違いなく本当の事を言ってるようだ。
どっちも嘘をついてるようには思えないんだけど、なんで二人の話が噛み合わないんだ?
「メルクさんはこんなところで6年間も何をしていたんですの?」
「私はここである包丁を作っておる。その包丁は美食神アカシアのフルコースの一つ、サラダ『エア』をさばくための包丁じゃ」
「び、美食神アカシアの!?」
朱乃がこんなところで何をしているのかと聞くと、まさかの美食神アカシアのフルコースが出てきて俺は驚いた。
「うむ。そもそもその依頼をしてきたのはイッセー、お主の義父である龍さんじゃ」
「親父が?」
「他ならぬ龍さんの依頼じゃ、直ぐに包丁作りに取り掛かろうとしたがその時点で私は引退を決意した。なにせそれほどの包丁を作るには莫大な年月と大量のメルクの星屑が必要になる、仕事などしとる暇はない。だから私はルキに二代目を託したのじゃ」
「ルキさんを二代目に!?」
メルクさんは親父から依頼を受けた事、それを作るために引退を決意してる気に二代目を託したと話す。それを聞いたリアスさんは心底驚いていた。
俺だって驚いている、だってルキは一言も自身を二代目など言わなかったからだ。
「ルキが二代目?本当ですか?」
「本当じゃよ、ルキから話を聞いとらんのか?」
「ルキは一言もそんな事を言っていませんでしたよ。そもそも俺達がここに来たのはメルクの星屑をゲットするためと行方不明になった貴方を探す為に来たんですよ」
「何故私が行方不明になっておるんじゃ?ルキには全てを話したんじゃぞ」
俺は一応確認を取ると彼はしっかり説明したと話す。
(……まさか)
俺はこの時点である考えに至った。だがまさかな……そんなおかしな話があるわけ無いと思うが……
「メルクさん、貴方は昔からあの拡音石を使っていたんですか?」
「あの石は最近見つけたんじゃよ、あの石を使うと蠍魔牛が直ぐに行動してくれるので助かっとる」
「マ、マジか……」
俺は確信した。このすれ違いの原因を……
「イッセー君、どうしたの?なんだか顔色が悪くなってきたけどどこか痛むの?」
「違うんだイリナ、俺はあることに気が付いてしまったんだよ」
「あること?それってなんですか?」
俺の顔を見て心配そうに声をかけてきたイリナ、だが俺は体調を崩したのではなくある事に気が付いたと彼女に話す。それを聞いていた小猫ちゃんが俺にそれは何なのかと聞いてきた。
「メルクさん、貴方の言ってたことはルキには伝わっていません」
「……えっ?」
「聞こえないんですよ、貴方の声は。小さすぎてまったく……」
「えええぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――ッ!!?」
俺の発言にメルクさんは今までで一番大きな声で驚いていた。本人に自覚無かったのか……
「イッセー!どういうことなの!?」
「メルクさんは6年間ヘビーホールにいたから声が小さくなったんじゃない。多分最初からあの声の小ささだったんだよ」
「う、嘘でしょ……!?」
リアスさんは信じられないという表情を浮かべるがそうとしか考えられないんだ。俺だって嘘だと思いたいよ、ルキの6年間の心配が声が聞こえなかったからなんて思える訳ないだろう。
「で、でもおかしくない?いくら声が小さくても一緒に住んでいたら気づくものだと思うけど……」
「普通はな、でもルキが天才だったのもあったんだろう。なにせ見て技術を覚えたくらいだ、メルクさんからしたら覚えが早過ぎるから特に指摘する事をしなかったんだろう」
「確かに間違っていたらそれを指摘しようとするだろうけど、指摘することがないくらいルキさんが凄かったんだね……」
これでルキが凡人の腕前しか無かったら何処かで気が付いていたかもしれないが天才だったので特に注意することが無かったのだろう。
「イ、イッセー!それは本当か!?」
「本当ですよ、俺達だって最初聞き取りにくそうにしてたでしょう?」
「てっきり顔をこわがっとるものかと……」
「なんでですか!?」
いやまあ確かにいかつい顔してるけど!?
「いつも他人に話しかけてどんな反応されていたんですか?」
「皆反応しなかったのでな、私の顔が怖いのかと思っておったわ……そういえば龍さんもお主らのような反応をしておったな」
「なんでそこで気が付かないんですか……」
お茶目なのか天然なのか……仕事以外にそこまで関心を向けないのか?
「し、しかしまさかルキが何も聞こえていなかったとは……思い返せば小さい頃はよく私の顔に頭を寄せてくれていたから甘えてくれていると思っていたが、今思えばあれは声を聞き取ろうとしていたのかもしれないな……」
「成程、ルキも昔は喋ってないかと聞き取ろうとしていたんだな」
見た感じルキはグルメ細胞を持っていなさそうだったしそうなれば身体能力は普通の人間と変わらないはずだ。ましてや子供の時なら余計に聞こえなかっただろう、なにせグルメ細胞を持つ俺や悪魔の皆ですら微かに聞き取れたくらいだからな。
今なら鍛えているから普通の人間よりは耳もよくなっていそうだが、多分ルキの中でメルクさんは寡黙で滅多に喋らないというイメージが出来上がってしまったから諦めてしまったのだろう。
もしくは思春期の女性でもあるので無意識に顔を寄せるのを避けてしまったのかもしれないな。
色んな要因が重なってこんなすれ違いが起きてしまったのだろうがそれにしてもなぁ……
「なんてことだ……私は安心して6年間仕事をしていたがルキはその間ずっと私の帰りを待っていたと言うのか……こうしてはおれん、早く帰ってルキを安心させてやらねば……!」
メルクさんは立ち上がると外に出ようとするがふと足を止めた。
「し、しまった……!今作っている包丁は少しの時間でも手入れをしないで放置すると切れ味が劣化する素材で作っているんだった!だ、だがルキをこのままにしておくわけには……!」
どうやらこの場から離れることが出来ないみたいだな。アカシアのフルコースのサラダ『エア』をさばく包丁は親父が必要としている物……親父の様子を見るに多分そこまで時間は残されていないはずだ。
「メルクさん、俺達が貴方の無事を伝えておきますよ。だから安心してください」
「ほ、本当か……!?」
「はい。それにルキは立派に仕事をしていますよ、なにせこの6年間メルク包丁は相変わらずの人気を持っていますからね。みんな満足していますよ」
「そうか、ルキは立派にやってるんだな……それなら安心した」
取り合えずこの場はこう言っておくしかないな。メルクさんが集中できなくて包丁が出来ないのだけは避けないといけない。
「お主らには迷惑をかけるな、ルキにも済まなかったと言っておいてほしい」
「ええ、必ず伝えます」
「なら礼代わりという訳ではないがメルクの星屑の場所に案内しよう。それも目的なのだろう?」
「本当ですか!?」
俺達はメルクさんにメルクの星屑の場所に案内してもらった。
「おお、メルクの星屑がこんなに……!」
「すっごく綺麗です……!」
アザゼル先生とルフェイは目を輝かせてメルクの星屑を見ていた。でもこれどうやって食べるんだ?
「メルクさん、このメルクの星屑ってどうやって食べるんですか?」
「メルクの星屑はこのままでは食べられん、レベルの高い素材をこの石で削ると粉が出てくるのだ」
「粉ですか?」
「ああ、このメルクの星屑は新種のアミノ酸で構成されていてな、それが絶品の調味料になるんだ」
「なるほど、調味料か……!」
確かにそれなら親父が修行のメニューに入れたのも納得だぜ!
「ルキに頼んで包丁を作ってもらいなさい。そうすれば調味料も手に入る」
「ええ、当然そのつもりです。なにせその為に来たわけでもありますから」
「ほう、娘に包丁を作ってもらいに来たのか。お主が使うのか、イッセー?」
「いえ、俺の相棒の包丁です」
俺はそう言うと彼に小猫ちゃんを紹介した。
「この子が俺の相棒です」
「イッセー先輩の相棒の小猫です!」
「ふむ……お主包丁を持っておるな?」
「えっ、折れた包丁を持っていますが……」
「見せてくれんか?」
俺がメルクさんに小猫ちゃんを紹介すると彼は小猫ちゃんに包丁を持っていないかと聞いた。小猫ちゃんは折れてしまった包丁を見せるとメルクさんは興味深そうにそれを見つめていた。
「うむ、なにか強い想いのこもった包丁を感じたがコレだったか……良い包丁だ。使用していた者の優しさや丁寧さ、そして食材への敬意と感謝を込められている。お主の包丁か?」
「はい、元々は父様の包丁ですが……」
「そうか、どおりでお主を見守っているはずじゃ。父から娘に受け継がれたのじゃな。折れていてもここまでの存在感を放つとは……よほどお主が大事だったんじゃな」
メルクさんはそう言うと小猫ちゃんに包丁を返した。
「この手紙をルキに渡してほしい。これまでの事情や謝罪などが書いてある」
「分かりました、任せてください」
俺はメルクさんからルキへの手紙を受け取った。そしてその後俺の修行メニューを見て次に向かった方が良い場所を教えてもらい俺達は地上へと戻る事になった。
「メルクさん、色々ありがとうございました」
「私も久しぶりに話が出来て楽しかったよ。ルキの事をよろしく頼む」
そして俺達はメルクさんと蠍魔牛に見送られて地上に向かうのだった。
後書き
小猫です。ようやくメルクの星屑も手に入りましたね。後はルキさんにメルクさんのことを話して二代目になってもらえばいいのですが……先輩、どうかしましたか?
……ええっ!?メルクさんの話はまだ言わない!?どうしてですか!?
次回第104話『超一流の研ぎ師への道、美食連合の褒めまくり作戦!』で会いましょう。
ルキさん、貴方は間違いなく凄い職人なんですよ……?
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