名士の正体
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第一章
名士の正体
ヴィルヌーブ=シュル=ヨンヌの警官達はこの時ある人物を徹底的に怪しいと見て捜査をしようとしていた。
「やはりおかしいな」
「そうですよね」
「あいつ絶対に何かしていますよ」
「あまりにも胡散臭いですよ」
制服の警官達は初老の刑事に対して一斉に応えた。
「医者ですし」
「町長にもなっていますが」
「患者が変な死に方したり」
「愛人もおかしな死に方でしたね」
「ヘロインの違法処方で捕まったこともあったり」
「あの時は精神障害のカルテ出されて何も出来ませんでしたが」
「その町長も横領で失職してるしな」
刑事は苦い顔で話した。
「胡散臭い奴だ」
「はい、パリに逃げましたが」
「あっちでも何してるかわからないですね」
「証拠は掴ませないですが」
「あんな真っ黒な奴はいません」
「そうだ、あいつは絶対に何かしている」
刑事はその男マルセル=プシューについてこう言っていた。
パリはこの時連合軍がドイツ軍を追い出していた、フランスはこれで解放された。パリ市民達だけでなくフランス人達は皆それを喜んでいたが。
戦争は続いておりフランスはまだ落ち着いていなかった、その為警察も満足に動ける状態ではなかったが。
ある新聞記者が編集長に自分が書いた文章を見せて言っていた。
「是非このことはです」
「生地にしたいか」
「はい、ルシュール街二十一番地にいた医師ですが」
「マルセル=ブシューか」
「どうもゲシュタポと関係があったらしいので」
「君が調べるとだな」
「ゲシュタポのロベルト=ヨドクム親衛隊少佐が人を送ったそうです」
「そうなのか」
「しかもこれは記事には書いていないですが」
ここでだった。
「ブシューにはとんでもない話があります?」
「とんでもない話?」
「この男はユダヤ人の亡命の手助けをしていたそうですが」
ナチスに占領されていた頃だ、ナチスはユダヤ人を迫害していたのでそれから逃れる者が出るのは当然のことだ。
「誰もです」
「まさかと思うが」
「脱出した形跡がなく」
記者はさらに話した。
「彼等が着ていた服が市場に出ていたり」
「まさかと思うが」
「そのまさがかです」
「有り得るのか」
「他にも亡命しようとした知識人やギャングなんかもです」
「ナチスから逃れようとしてか」
「ナチスは裏社会にも厳しかったですからね」
自分達以外の権力は不要と考えるのがファシストだ、だから彼等は裏社会に対しても徹底的な攻撃を行うのだ。
「そして彼等もです」
「一人もか」
「亡命した形跡はないです」
「まさか彼等も」
「わかりません、しかしです」
「ナチスと関係があったことはだな」
「かなり怪しいので」
その為にというのだ。
「記事にしたいですが」
「わかった」
編集長は一言で答えた。
「ではな」
「はい、記事にします」
「今そいつは何処にいる」
「逃げました、警察も何か掴んだ様ですが」
「既にか」
「かなり悪賢い奴の様で」
その為にというのだ。
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