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第三章

「南海に鳴りもの入りで入って」
「監督さんになったんだよな」
「最初は選手兼任でね」
「それから二十年以上か」
「今で言うゼネラルマネージャーみたいなこともして」
 即ちチームの全権を委ねられていたのだ、その為鶴岡は親分とも言われドンとも元帥とも呼ぶ人がいた。
「そっちでも凄かったらしいわね」
「よく知ってるな」
「だから呉の人だから」
 それでとだ、千佳は答えた。
「その縁で山本浩二さんとも関わってるし」
「へえ、そうなのか」
 寿は妹の話に目を丸くさせて応えた。
「それは知らなかったな」
「知らなかったの」
 千佳は豚汁野菜も多く入ったそれを飲みつつ兄に返した。
「有名でしょ」
「いや、鶴岡さん阪神にあまり縁がなかったからな」
「日本シリーズ位?」
「それ位だから」
 それ故にというのだ。
「僕はあの人あまり知らないんだよ」
「そうなのね」
「しかしお前も広島市には何度か行って」 
 寿も豚汁をすすった、そのうえでの言葉だ。
「毎年お正月は厳島行くけれどな」
「初詣にね」
「僕は西宮大社で。けれど」 
 それでもとだ、寿はさらに言った。
「お前呉は」
「一回だけね」
 千佳は兄に答えた。
「学校でね」
「うちの学校高等部は毎年江田島で合宿してな」
「そこで呉にも行くのよね」
「江田島に行く船あそこにあるからな」
 呉の港から出るからというのだ。
「それでな」
「高校に入ったらね」
「毎年呉も行くよ」
「高校まで進学して部活したら」
「そうなるよ、けれど」
 それでもとだ、兄は妹に言った。
「お前まだな」
「呉には一回だけよ」
「それでも知ってるんだな」
「だからネットでね」
 これのお陰でとだ、千佳は答えた。
「今はね」
「調べてか」
「わかるから。鶴岡さんのこともね」
 原のことはもう横に置いて話した。
「それでよ」
「調べてか」
「山本浩二さんが高校生の時にお家に来て」
 山本の実家にである。 
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