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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第84話:副部隊長再復帰


アースラの艦内に入った俺とシンクレアは、
そのまま真っすぐ艦長室へと向かった。
艦長室の前につくと、扉の脇のパネルのボタンをシンクレアが押す。
しばらく間が合ってはやての声が響いた。

「はいはい。どちらさん?」

「シンクレアです。ゲオルグさんをお連れしました」

「ん!すぐ入って!」

プシュっという音とともに滑らかに開いたドアの向こうには、
難しい顔をして端末のキーを叩くはやてが見えた。
俺ははやての前で姿勢を正すと、挙手の礼をする。

「シュミット3等陸佐。本日より任務に復帰いたします」

俺が殊更固い口調でそう言うと、はやては俺の方をちらっと見る。

「判ってるっちゅうねん。ええからそっちに座って待っといて」

はやてはそう言ってソファの方を指さす。

「り、了解」

俺は少し肩を落としてソファに腰を下ろした。

「じゃあ、俺は仕事に戻りますので」

「はいはい。フェイトちゃんによろしく」

「了解です。はやてさんもあまり根を詰めないようにしてくださいね」

「ん?大丈夫。貴重な戦力が復帰してくれたから」

はやてはそう言って俺の方を見るとニヤッと笑う。

「そうですね。では」

シンクレアはそう言って艦長室から出て行った。
しばらくソファに座ってボケっとしていると、向かい側に端末を持った
はやてが腰を下ろした。

「退院おめでとう。さっそくやけど仕事の話をしてもええかな?」

俺が無言で首を縦に振るとはやては小脇に抱えていた端末を
テーブルの上に置く。

「ゲオルグくんにやってもらいたいんは、前からやってもらってた
 部隊の運営事務と隊舎の再建工事関係、あとはフォワードの子らの訓練やね」
 
「ん?他の2つはともかく、スバル達の訓練は俺でいいのか?
 なのははもう少し退院までかかるからしょうがないにしろ
 ヴィータとかフェイトとか・・・」

「ヴィータにはゲオルグくんのサポートをやってもらうわ。
 基本的に、訓練データの整理とかはヴィータにやらせて。
 フェイトちゃんは・・・そんな暇ないんよ」

「ああ、事件の処理か・・・」

俺がそう言うと、はやては真面目な顔で頷く。

「そういうこと。実際、捜査関係の仕事はアホみたいに多くて、
 私とフェイトちゃんで分担した上でも、シャーリーだけやととても
 じゃないけど手が足りんからシンクレアくんにもフェイトちゃんの
 サポートをやってもらってる。それでも遅くまでやってるよ」

「まあ、あれだけの大事件な上に、容疑者が大物ぞろいだからな」

「そうやねん。しかも過去の事件と複雑に絡み合ってるやろ。
 私も特別捜査官やったしこういう作業は慣れてんねんけど
 如何せん事件の裾野が広すぎてな・・・往生してるわ。
 ま、そんなわけでグリフィスくんも私のサポートで手いっぱいやし
 ゲオルグくんにも苦労をかけるけど頼むわ」

はやてはそう言って俺に向かって頭を下げた。

「指揮官がそう簡単に部下に頭を下げるなよ。
 部隊の運営関係は今までもやってきたことだし、隊舎の再建工事は
 業者との折衝がメインだろ。なのはももう少しで退院してくるだろうし」

「そうやね。捜査関係も捜査部と査察部に引き継げる状態まで持っていけば
 あとは私らの手を離れるから、もう少しの辛抱やわ」

「だな。まあ後1か月ってとこか」

「そうやね。あ、それと言い忘れてたんやけど、6課の来年3月での解散が
 正式に決まったから」

「そっか。ま、もともとその予定だったんだしな」

「ま、とはいえちょっとさみしいわな。これだけ実績を上げたのに
 解散っちゅうのも」

「まあそれは仕方ないよ。上には上の思惑があるだろうし」

俺がそう言うと、はやては少し前かがみになって俺の方に顔を寄せる。

「それなんやけど。どうも、管理局全体で大きな組織体系の変更が
 あるらしいんよ」

「・・・どういうことだ?」

「いや、私もクロノくんからちらっと聞いただけなんやけど、
 今回の事件の遠因に、上層部の人事の硬直化が挙げられてるらしくて、
 もうちょっと風通しのいい人事体系にしたいらしいんよ」

「いいことじゃん」

「まあそうやねんけど、どんな改革になるんか興味ない?」

「興味はあるよ。でも、俺も所詮管理局全体から見れば下っ端だからさ」

「それは私も一緒やけどね。ま、今からそんなこと気にしててもしゃあないか」

「そうだよ。そういうデカい話しは偉い人に任せとけばいいのさ」

「そらごもっともやね。それはともかく、またよろしくな」

「ああ、こちらこそ。じゃあな」

「うん」

そして俺ははやてと別れ、副長室へと向かった。



1カ月ぶり副長室に戻った俺は、まず端末を開いてメールを確認する。
そこにあったのは山のような未読メールの嵐だった。

(790通って・・・・やるしかないよな・・・はぁ・・・)

最初は1週間以上前のメールはすべて削除してしまおうかとも思ったのだが、
直近1週間の重要そうなメールを見ると、ほとんどがそれ以上前からの経緯を
把握していないと処理のしようがなさそうだったので、まずは明らかに
読む必要のないお知らせのようなメールをサクサクと削除していく。
1時間ほどその作業を続けると、残ったメールは350通。

(半分以上は読む必要のないメールってことかよ・・・ったく)

俺は舌打ちして次に、最近のメールの中で最も重要そうなものから順に
ピックアップして、必要ならその前に来た関連するメールを探すという
手間のかかる作業に取り掛かろうとした。
そのとき、来客を告げるブザーが鳴る。

「はいはい、どちらさん?」

「あたしだ」

聞こえてきたのはヴィータの声だった。

「ヴィータ?入っていいぞ」

俺はそう言ってドアを開けてやる。
部屋に入ってきたヴィータは俺の顔をじっと見つめると
不機嫌そうな表情を浮かべる。

「なんだよ。ずっと入院してたっつーからもっと顔色でも悪いかと思ったら
 ずいぶん元気そうじゃねーか」

「元気になるために入院してたんだよ。元気なのは当然」

「あ、そーか。ま、いいや。でよ、ゲオルグ」

ヴィータは俺の方を窺うように見る。

「なんだ?」

「なのはが復帰するまでおまえとあたしであいつらの訓練を見てやれって
 はやてに言われたんだけどさ、どんな訓練をしてやったらいいと思う?」

ヴィータの言葉に俺は考え込んでしまった。
これまでは、ガジェットや戦闘機人を想定した訓練をずっと続けてきた。
だが、これからはそれらと戦うことはない。
正直言ってどのような訓練を課すべきか悩む状況ではあった。
しばらく悩んで俺はあるアイデアを思いついた。

「決めた。一回あいつらを試してみることにしよう」

俺がそう言うと、ヴィータは怪訝な顔をする。

「試す・・・?どーゆーことだ?」

「この半年であいつらがどれだけ力をつけたかを試すんだよ。
 単純な戦闘力だけじゃなく、ここもな」
 
俺はそう言って自分の頭をトントンと指で叩く。

「そう言うからには何か案はあるんだろーな?」

「まあな。まあ、明日の朝のお楽しみだよ」

「わかった。じゃあゲオルグに任せる。じゃーな」

ヴィータはそう言って部屋を出て行った。
俺は再びいつ果てるとも知れないメールの山との戦いに戻った。

 
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