イベリス
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第八十七話 純文学は娯楽かその一
第八十七話 純文学は娯楽か
咲は図書館から三島由紀夫全集のうちの一冊を借りた、そうしてその本を読むと。
部室で読んでいたが同級生に言われた。
「難しいの読んでるわね」
「そう?」
「いや、三島由紀夫なんてね」
「先輩に勧められて読んでるけれど」
「そうなの」
「大体私達位で読むんじゃない?」
咲はその同級生にこう返した。
「三島由紀夫って」
「そんなものかしら」
「他の作家さんもね、純文学の」
「それ言うと中学の図書館には純文学あまりないけれど」
「高校になったら増えてるわね」
「かなりね、全集もあるしね」
作家達のそれもとだ、同級生も言った。茶色の髪の毛を長く伸ばしそのうえでうっすらと化粧を下胸の大きな娘だ。この娘は軽音楽部である。
「芥川とか太宰とか」
「夏目漱石もあるでしょ」
「そうよね、その中でなのね」
「三島由紀夫もあるから」
「先輩に勧められたし」
「それでよ」
道休氏絵にあらためて話した。
「今読んでるの、気になった作品をね」
「どの作品なの?それで」
「潮騒ね」
この作品をとだ、咲は答えた。
「読んでるのは」
「その作品なの」
「そう、それを読んでるけれど」
「面白い?」
「これがかなりね」
咲は真顔で答えた。
「面白いわ」
「そうなの」
「熱い恋愛ものよ」
「三島っていうとね」
同級生は咲にやや眉を顰めさせて話した。
「自殺してるから」
「切腹してね」
「何か過激なイメージあるけれど」
「少なくとも潮騒にはないわよ」
咲はそれはと答えた。
「純愛ものよ」
「そうした作品なの」
「ハッピーエンドでね」」
「何か青春ね」
「ええ、それでね」
「面白いの」
「文章滅茶苦茶奇麗だし」
三島の作品の特徴であるそれもありというのだ。
「もうね」
「かなり面白いの」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「いいわよ」
「そうなのね」
「確かに自殺してるけれどね、三島も」
咲もこのことは否定しなかった、何しろ紛れもない事実だからだ。
「けれどその作品はね」
「自殺の雰囲気ないの」
「芥川や太宰と違って」
「私もその二人の作品幾つか読んでるけれどね」
「二人共最後の方がらしいわね」
「みたいね、私二人共その頃の作品読んでないけれど」
それでもとだ、同級生は話した。
「自殺する直前はね」
「滅茶苦茶暗くて」
「もう自殺がね」
「かなり出てるってね」
「有名だからね」
芥川にしても太宰にしてもというのだ。
「それは」
「そうよね」
「けれど三島もなのよね」
「自殺してるのは同じよね」
「自殺した太宰を嫌い抜いてたらしいけれど」
それでもというのだ。
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