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展覧会の絵

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最終話 幸せな絵その四

「そんなことはとてもね」
「そうよね。けれどね」
「思うようになったよ。確かにね」
「そこが変わったわね」
 雅は微笑んでいた。恋人を見るもう一方の恋人の微笑みだった。
「本当に」
「そう。変わったんだ」
「ええ。けれど安心して」
「水着のことは?」
「猛の前でだけ見せるから」
「そんなことできるの?」
「プールの中じゃあまり見えないし」
 水の中に入りそれだけ隠れるからだ。もっとも水は透けるものなので限度はあるがそれでもだ。それこそ水の中に入らないと見られないからだ。
 それでだ。雅は言うのだった。
「それこそ水泳の眼鏡でもないとね」
「だからなんだ」
「プールサイドじゃ上からジャージ着るから」
 このことも猛に話す。
「安心していいよ」
「そう。じゃあね」
「大丈夫だから。だからね」
「うん。雅がそこまで言うのならね」
 猛もだと。考えが変わった。
 そのうえでだ。彼もまた恋人がもう一方の恋人を見る顔で雅を見てそのうえで答えた。
「僕もいいよ」
「一緒にプール来てくれるのね」
「そうさせてもらうよ」 
 こう話してだった。二人はデートで共にプールに行くことを約束した。十字はそんな二人を見ていた。一言も喋らず表情もないが確かに見ていた。
 そして昼。あの教室の前に行くと。
 望が春香と向かい合わせに机をくっつけて座ってだ。そのうえでいつもの様に弁当を食べていた。 
 その望にだ。春香はこう言った。
「トマト食べるようになってくれたのね」
「ああ」
 望は実際にトマトを食べていた。弁当、春香が作ったそれの中にあるトマトを。
「折角作ってくれたんだしな」
「トマトは切っただけよ」
「それでもちゃんと弁当に入れてくれただろ」
 だからだとだ。望は言うのだった。
「それじゃあこうしてな」
「食べてくれるのね」
「食わせてもらうよ」
 むしろそうだとだ。望は春香に返した。
 春香の手首にはまだ傷がある。だが、だった。
 その傷はもう二人は一瞥もしない。そのうえでだった。
 今度は望からだ。こう春香に言ってきた。
「またやるんだろ、あれ」
「望のお家に行ってよね」
「ああ。料理作ってくれるんだよな」
「今度は何を作ってくれるんだよ」
「イタリア料理よ」
 それだとだ。春香はにこりとした笑みで望に答えた。
「それにするわ」
「トマトかよ」
「望前からイタリア料理のトマトは食べてくれたけれどね」
 それでもだというのだ。春香は。
「今回は念入りにね。トマトをふんだんに使ってね」
「食わせてくれるんだな」
「だって嬉しいから」
 恋人そのものの笑みでの言葉だった。
「望がこうしてトマト食べてくれるようになったからね」
「そんなに嬉しいんだな」
「嬉しいわよ。私のお料理だって食べてくれるのよね」
「どんどんな。そうさせてもらうな」
「じゃあ私もどんどん作るから」
 春香は明らかに乗ってきていた。その心が。 
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