展覧会の絵
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第十七話 死の島その八
「だからいいんだよ」
「そうですね。では」
「そう。後はね」
それに加えてだった。
「ローマ帝国の様に」
「大型の獣に食べさせることも」
「あれもいいよ。ローマ帝国は偉大だった」
この場合は残虐さという意味で、である。欧州は日本に比べて残虐性が極めて強いと言われることが多い。それはキリスト教だけが原因ではないのだ。
ローマ帝国の頃からそれがあった。十字もそれについて話すのである。
「キリスト教徒をそうしたことは許せないこと。だけれど」
「それでもですね」
「処刑としてはいいね」
「そうして惨たらしい裁きの代行を与えることについては」
「ローマ帝国は大いに参考になるよ」
そうだというのだ。
「実にね」
「そうですね。獅子や熊を使うことも」
「それもしたことがあるよ」
「イタリアにおいてですか」
「マフィアのメンバー、いや殺人鬼だったかな」
そうした相手にだ。そうしたというのだ。
「全裸にさせてそのうえで獅子をけしかけたよ」
「そしてかつての殉教者の様に」
「そう、生きたまま餌にしたよ」
まさにだ。そうしたというのだ。
「彼は殺される恐怖を自分も味わって死んだよ」
「食われてですね」
「そうなったよ。素晴しいことにね」
「そして今回も」
「面白い様にしよう」
裁きの代行をだ。そうするというのだった。
「あの場所でね。さて」
「何でしょうか」
「絵のことだけれど」
話題をそれに変えてきた。彼がいつも描いているものに対して。
「また新しいものを描いたよ」
「その絵ですか」
「うん」
まるで門が開いたかの如く、手を思わせる形の建物が描かれている。その建物全体が島になっており周りは水だ。海であろうか。そしてその建物の入り口に。
白い服を着た人が小舟で入っていく。背景は灰色の重い空だ。その絵を見て神父はこう十字に言った。
「ベックリンでしたね」
「死の島だよ」
「死、ですか」
「そう。もう一つあるよ」
見れば同じ様な絵がもう一つあった。それは人がやや大きくなり建物の中央が割れた様になっている。そしてそこから黒い、塔が幾つかある建物が出ている。先の絵の建物は無気味な白と黒がベースだが今度は明るさもある。だがその明るさが余計に無気味さを対比的に醸し出していた。
見れば小舟には漕ぐ人もいる。オールでそうしている。その人も見て神父は言った。
「さながらカロンですね」
「ギリシア神話における冥界の川の渡し守だね」
「はい、それを思わせますね」
「イメージとしてはそうだろうね」
実際にそうだろうと言う十字だった。
「これはね」
「死、ですか」
「そう。この建物は冥界であり」
そしてだというのだ。
「この小舟の中の人はその中に入っていくんだ」
「冥界の中に」
「そう。入ろうとしているんだ」
こう言うのだった。
「今からね」
「死は無気味なものですね」
「人には必ず訪れる。ただ」
「それがどうして訪れるかが問題ですね」
「僕はカロンじゃない」
その渡し守ではないというのだ。
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