モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜
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吉報編 旅の終わりを見届けた者達
前書き
お久しぶりです! 今回は霊峰編のラストシーンになる予定だった、ラオシャンロン戦から数ヶ月後の場面を描いたお話になります(*´ω`*)
ユベルブ公国の国境線付近に位置する大渓谷「リュドラキア」。
その地で繰り広げられたラオシャンロンとの死闘から、約数ヶ月の時が流れ――上位ハンターへの昇格を果たした「宝玉世代」の狩人達は皆、それぞれの道を往き、ハンターとしての高みを目指し続けていた。
公国の未来を賭けたリュドラキアの戦いに端を発する、25人の狩人達が紡ぐ25の英雄譚。それらは「伝説世代」の逸話に次ぐ新たな歴史となり、人々の営みの中で記憶されて行く。上位に昇格してからまだ数ヶ月だというのに、彼らの活躍はすでに現大陸全土にまで轟くようになっていた。
――だが、その中で2人だけ。いち早く、自らの英雄譚に終止符を打ってしまった者が居た。
かつて共にラオシャンロンと戦い、リュドラキアの砦を守り抜いた同期達が活躍を重ねて行く中。その2人は同期達にも劣らぬ稀有な才能を持ち合わせていながら、ハンターを「引退」してしまったのである。
その報せを綴った手紙が、現大陸や新大陸の各地に散らばっていた同期達の元に届いたのは、2人の「引退」が確定してからすぐのことだった。いずれは「伝説世代」すらも超えるであろう逸材達の電撃引退。それは本来、とてつもない悲報であるはず。
だが。実際にその手紙を受け取った者達にとって、それは悲報などではなく。むしろ、これ以上ない「吉報」だったのである。
引退を決意した2人の同期から届いた手紙を目にした「宝玉世代」の狩人達は皆、優しげな微笑すら浮かべていたのだ。
「全く……あのどうしようもないイノシシ姫を『捕まえちゃう』なんて、物好きな騎士様が居たのものね。……でも、良かったじゃない。こんなどうにもならないことだらけの世界で……それでも、大切な人と巡り会えたんだから」
「クサンテさん……! 良かったです、本当に……本当にっ……!」
新大陸の調査拠点アステラを中心に活動していた、ロエーチェとクゥオ・アルグリーズ。リュドラキア防衛戦以来、パーティーを組むことが多くなっていた彼女達は、郵便屋のアイルーから渡された手紙の内容に顔を見合わせ、頬を緩めている。
「へっ……そうかい、そうかい。あの猪突猛進の化身みたいなイノシシ姫が……ねぇ。今日ばっかりは、祝い酒ってことで飲むしかねーなァ……」
「わぁあ……! よ、良かったあ……! クサンテさん……死んだと思っていた人に、また会えたんですね……! こんな素敵な奇跡が、この世にあるなんてっ……!」
現大陸のユベルブ公国第3都市フィブル。その街を拠点とする専属ハンターとして活動しているアーギルは、口角を上げて酒瓶を手にしている。彼とパーティーを組んでいるリリア・ファインドールも、手紙の内容を目にして喜びを露わにしていた。
「……本当に、おめでとうございます。あなたの勇気と献身が……この未来を掴んだのですね。クサンテ姫」
「うーん……正直、ちょっぴりだけ寂しいけど……でも、幸せならオッケーですよねっ! おめでとうございます、クサンテさんっ!」
ラオシャンロン撃退後、武者修行を経て再びドンドルマに拠点を移していたフィレットとカヅキ・バビロンは、名残惜しさを滲ませながらも同期の「引退」を素直に祝福している。
「はぁ……ったく、こんなことでいちいち手紙なんて寄越して来るなっての。……でも、まぁ……おめでとう、くらいは言ってやってもいいわ。イノシシ姫さん」
「……そうか。きっとそれが、お前にとっての『高み』だったんだな。おめでとう、クサンテ」
一方。同期の人脈を通じて古龍観測隊の気球に便乗し、故郷の仇を探す旅を続けていたエヴァンジェリーナ・アレクセーエヴナ・ゲンナージエヴィチ・グツァロヴァは、届けられた手紙に目を通すと不遜に鼻を鳴らしていた。だが、その口元は微かに緩んでいる。
何かと危なっかしい彼女の「お目付役」として気球に同乗しているルドガーも、そんな彼女の表情と手紙の内容に穏やかな笑みを溢していた。
「良かったぁ……! 良かったねぇクサンテっ……! こんなの、こんなの感動するしかないよぉお〜っ!」
「あぁもう、ひっつくなエクサッ! ていうかくっ付きながらベソかくな! 鼻水擦り付けんなぁああッ!」
閑古鳥が鳴いている、ドンドルマの寂れた鍛冶屋。そこで手紙を受け取ったジュリィは、武器の修理に来ていたエクサ・バトラブルスと共に同期の「引退」を報されていた。手紙の内容に号泣するエクサに抱き付かれ、鼻水まで擦り付けられているジュリィの悲鳴が、街中に響き渡っている。
「そうか……クサンテ姫、あなたはついに己の幸せを見付けられたのですね。このエレオノール、心よりお祝い申し上げます」
大自然に包まれたカムラの里を中心に活動していた、エレオノール・アネッテ・ハーグルンド。彼女も郵便屋から受け取った手紙に目を通し、華やかな微笑を咲かせていた。そんな彼女の隣に立つガレリアス・マクドールも、戦友の様子に穏やかな表情を浮かべている。
「これほど喜ばしい『引退』、なかなかお目に掛かれるものではないな。……君の方はどうなのだ? エレオノール」
「……生憎だが、私はまだ剣を捨てるわけには行かんよ。私にはまだ……追いかけていたい背中がある」
ガレリアスの言葉に振り返るエレオノールは、心に決めた想い人に愛おしげな眼差しを向けている。「手紙の内容」に刺激された彼女の頬は、微かに紅潮していた。
「こりゃあめでてぇ引退宣言だなぁッ! 今日ばっかりは飲んで飲んで飲みまくるしかねぇ、そうだろヒスイッ!」
「ダメに決まってるでしょ! 今日は休肝日にするって前々から決めてたじゃないですかっ! 昨日も一昨日も、酒樽が空になるまで飲んでたのにっ!」
「そ、そんな固えこと言うなよぉ〜ッ!」
その頃。ユクモ村で活動していたヒスイ・ムラクモは、「手紙の内容」を口実にして酒樽に手を伸ばそうとしていたベン・イライワズを必死に制止していた。そんな2人の口論を、村長をはじめとする村の人々が生暖かく見守っている。
「うふ、うふふっ……! なんて素敵な『引退』でございましょう……! クウド様クウド様っ、早速クサンテ様にお届けするお祝いの品を見繕わなくてはっ……!」
「……それは俺がやろう。お前に任せてたら、どんなヤバいものを選んでくるか分かったもんじゃない」
この日の狩猟を終え、拠点であるタンジアの港に帰って来たところで、ヴェラ・ドーナとクウド・ウォーウも同期の「引退」を報せる手紙を受け取っていた。妖しい笑みを浮かべている相棒の表情から不穏な気配を感じていたクウドは、牽制するようにヴェラから手紙を取り上げている。
「ふむ。まさか、あのイノシシ姫が真っ先にこんな形で『引退』することになろうとは……世の中、分からないものだな」
「ねぇ……一応聞きたいんだけど、これって御祝儀とか送らないといけないヤツ?」
「リリィベル……あんたねぇ、こんな時にまでケチ臭いこと言ってるんじゃないわよ」
「う、うっさいわねっ! ちょっと言ってみただけよっ!」
船型の集会所を中心に形成されるキャラバンの市場、バルバレ。その移動型のコミュニティを活動拠点とし、各地を転々としているアルター・グラミリウス、リリィベル、ジェーン・バレッタの3人は、同期から報された突然の「引退宣言」に顔を見合わせていた。
アルターが感慨深げに何度も頷く一方、手紙の内容に眉を顰めるリリィベルの守銭奴振りに、ジェーンはため息混じりに苦言を呈している。彼女達の些細な言い争いは、周囲の商人達から奇異の視線を集めていた。
「そうか……君もようやく、自分の幸せを見付けられたんだね。おめでとう、クサンテ姫」
「ハンターの世界は常に、狩るか狩られるかのどちらかしかない。……そこに身を投じていながら、人としての幸せを掴める者など、ほんの一握りだ」
「その幸運に感謝して……あなたもしっかりと、サリア様を守り抜くのですよ。ソランお父様」
「あぁ……分かってるよ、2人とも」
ポッケ村を活動拠点としているソラン・ハーシャルも、同期の「引退」を報せる手紙の内容に穏やかな微笑を浮かべていた。元ハンターである最愛の妻・サリアの妊娠が発覚した直後ということもあり、彼の表情は幸福の色に染まり切っている。
そんな仲間の様子を見つめている、イヴ・オーマとブリュンヒルト・ユスティーナ・マルクスグラーフィン・フォン・ホーエンブルクの2人も、優しげな笑みを咲かせていた。共にパーティーを組んでいる彼女達の言葉に深く頷き、ソランは愛する妻と子を守り抜く決意を固めている。
「……へへっ。こりゃあ、こんなところでジッとしてるわけには行かなくなっちまったなぁ。よぉし、行こうぜリルスッ! クサンテへの御祝儀は、ユベルブ公国のお城まで直接届けてやろうッ!」
そして――砂漠の大都市ロックラックを中心に活動していたバンホーの元にも、同期の「引退」を報せる手紙が届けられていた。その内容を目にした竜人族の青年は「善は急げ」と言わんばかりに、相棒である漆黒のリオレイアの背に跨り、遥か彼方の大空へと飛び立って行く。
――彼ら「宝玉世代」のハンター達の元へと届けられた、クサンテ・ユベルブとデンホルム・ファルガムからの手紙。そこには、アダイト・クロスターことアダルバート・ルークルセイダーとの「御成婚」を報せる内容が綴られていたのである。
愛する人の敵討ちを目指していた「イノシシ姫」の英雄譚は、予期せぬ形でハッピーエンドを迎えていたのだった。
◇
「……ふっふーん」
そして、その終幕の裏側では――観測拠点エルガドを中心に活動していた1人の美少女ハンターが、単独での大連続狩猟に挑もうとしていた。
可憐な容姿とは裏腹な実力を持つ、小悪魔な双剣使い。そんな彼女は城塞高地の戦場へと足を踏み入れ――可愛らしい顔立ちに反した、妖艶な笑みを浮かべている。
彼女の素性を知らぬ者ならば、止めようとしていただろう。だが、彼女のことを知っている者ならば、そんな愚行は決して犯さない。そしてエルガドに居る者達の中に、彼女の正体と実力を知らない者など居ないのだ。
「さぁ……ここからが本当の始まりですよぉ。『伝説世代』でも『宝玉世代』でもない……そんな総称で括られたりなんかしない、唯一無二の英雄。ミーナ・クリードちゃんの英雄譚は、ここから始まるのですっ!」
「伝説世代」最強の狩人と恐れられた、ディノ・クリード。その羅刹と同じ血を引くミーナ・クリードは、鬼人と化して双剣を引き抜くと――「獲物」である大型モンスター達へと、容赦なく襲い掛かって行くのだった。
後書き
前書きにあった通り、今回は元々霊峰編のラストシーンにするつもりだった場面を、改めて短編として書き起こしたものになります。これよりは本編の序盤に繋がる場面で締めた方が綺麗だなーという判断で今の形になっていたのですが、やっぱりこの場面も一度書いておきたかったのですよ。クサンテとデンホルムは早々に引退となってしまいましたが、他の「宝玉世代」の面々やミーナについては、この先もハンターとして活躍して行くことになるのだと思います(*´꒳`*)
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