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展覧会の絵

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第十六話 最後の審判その二

 その校舎の屋上には彼等以外誰もいない。そこに彼等がいることも知られていない。その場で密かに顔を見合わせながらだ。山岡が言った。
「なあ、あの二人な」
「あんた達が壊した筈よね」
「ああ、そうしてやったんだけれどな」
 山岡は二人を忌々しげに見下ろしながら雪子に言う。彼等は屋上のフェンスのところに立ってそこから二人を見下ろしているのである。
「ヤク使って遊んでるところな。江崎に見せてな」
「理事長さんと一緒になって見せつけてやったよ」
「あいつのよがり狂うところな」
「それでなのね」
 雪子もだ。忌々しげな顔だった。
 そしてその顔でだ。こう四人に言った。
「私もね。神崎と元木の二人ね」
「あいつ等滅茶苦茶にしてやったってか?」
「御前はそっちに仕掛けてたのかよ」
「そうよ。けれどね」
「で、あっちもだよな」
「元の鞘、じゃねえよな」
「マジで付き合う様になったよな」
 絆が壊れるどころかだ。深まったというのだ。
「何かな。本当にな」
「訳わからねえことになってるな」
 こう話すのだった。そしてだ。
 菅がだ。忌々しげに雪子に言った。
「で、どうするよ」
「どうするって?」
「だからよ。このままあの連中を好き勝手にさせるのかよ」
「そんな筈ないでしょ」
 どす黒い、歪んだ顔でだ。雪子は言い返した。
「私はね。そういうのが一番嫌いなのよ」
「おいおい、そういう純愛とか嫌いかよ」
「幼馴染みとかな」
「御前そういうの嫌いだったのかよ」
「そう。そういうのが一番嫌いなのよ」
 四人に対してだ。雪子はさらに言った。その本性を見せながら。
「幼馴染みの純愛とかね。清らかな愛とかね」
「じゃあやるんだな」
「あの二人の絆壊すんだな」
「勿論よ。仕掛けるわよ」
 悪魔そのものの顔でだ。雪子はまた答える。
「無茶苦茶に潰してやるわよ」
「じゃあ俺達もやるか」
「あの二人の中潰すか」
「ああ、そうしてやるか」
 こう話してだ。そのうえでだった。
 四人も雪子も彼等の絆を壊すことを決めた。しかしだ。
 十字はその彼等を見ていた。実はこの屋上にいたのは彼等だけではなかったのだ。彼は無言でそれを見ながらだ。そのうえで今は気配を消していたのだ。
 その彼が向かう先は部室だった。そこには一枚の絵があった。
 その絵を見ていると部室に誰かが入って来た。それは顧問の先生だった。先生は十字が前にしているその絵を見てだ。感心する顔で言った。
「いや、君が描いた絵の中でね」
「この絵はですね」
「特に凄いよ。ミケンランジェロなんてね」
 あのルネサンス時の最大の芸術家の一人の作品だった。その絵は。
 中央にはキリストがいる。そのキリストに裁かれた悪人は悪魔がいる地獄に落ち赦された善人は天使がいる天界にあがる。彼の代表作だ。
 その主、髭を生やした彼の顔を見ながらだ。先生は言った。
「この絵のキリストはね」
「主ですね」
「うん、かなり人間的に見えるね」
「先生もそう思われますか」
「少しね。ただね」
「ただ?」
「このキリスト好きなんだよね」
 先生はここでこうも言うのだった。
「躍動感があってね」
「絵にですか」
「そう。そうした意味でもいい絵だね」
「僕も描いていて思いました」
「躍動感があるってことがだね」
「最後の審判ですが」
 この絵の名前でもある。この言葉は。 
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