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イベリス

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第八十五話 夕食もその十一

「悪いこともね」
「していないの」
「そんな風なのよ」
「ただ兎を好きになっただけなの」
「それでね」
 そのうえでというのだ。
「そこまでされたのよ」
「そうなのね」
「だからね」
 それでというのだ。
「もう兎が滅茶苦茶怖いのよ」
「自分を好きになった人が気に入らなかったから殺したのね」
「そこまで酷くね」
「兎頭おかしいでしょ」
 同級生は眉を顰めさせてこう返した。
「流石に」
「殺すことはないわよね」
「ただ断わればね」
 そうすればというのだ。
「いいでしょ」
「それがなのよ」
「そこまでしたのね」
「ただ殺すんじゃなくて」
「念入りに嬲り殺しにしたのね」
「元のお話でもやり過ぎだったけれど」
 ただし原典では狸もかなり残虐なことをしている、お婆さんを殴り殺して鍋にしてお爺さんに騙して食べさせている。これが最近では逃げる時に殴って怪我をさせた位になっていて狸も最後は自分の非を認めて兎に助けられている。
「太宰版はね」
「ただ兎が酷いだけね」
「もう殺される時にね」
 泥船が沈んでだ。
「惚れたが悪いかって狸がね」
「言うのね」
「それで死ぬのよ」
「無茶苦茶可哀想ね」
「確かにださいおじさんだけれど」
 太宰版の狸はだ。
「けれどね」
「それでもよね」
「そう、それだけでね」
「兎を好きになって」
「兎に殺されたのよ」
「理不尽な話ね」
「もう兎がよ」
 狸を殺した彼女がというのだ。
「サイコパスみたいにね」
「怖いのね」
「そうなのよ、読んでいたら」
 それこそというのだ。
「物凄くね」
「怖いのね」
「殺した後額の汗拭いて」
 そうしてというのだ。
「汗かいちゃったでね」
「それで終わり?」
「そうなの」
「狸を嬲り殺しにして」
「惚れたが悪いかって言葉も聞いてね」
「それで終わりなの」
「何でも女の子の無垢さのね」
 本来素晴らしいとされているこのことのというのだ。
「怖さをね」
「書いたの」
「そう言われてるの」
「ただ兎がサイコパスにしか見えないけれどね」
 同級生から見ればだ。
「狸可哀想過ぎるでしょ」
「けれどこうした話実際にあるじゃない」
 咲は眉を顰めさせた同級生に話した。
「神戸の本校の」
「ああ、あの太ってるからって振られてね」
「告白する様にけしかけたお友達に裏切られたね」
「遠井さんね」
「そう、遠井希望さん」
 この人がというのだ。 
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