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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第2部
ダーマ
  賢者☆誕生

 ダーマの神殿でシーラ、ナギと再会し、再び魔王討伐に向けて再出発した私たち。
 次の目的地は、パープルオーブがあるという、ジパングだ。だが、ジパングという国がどこにあるか、誰も知らなかった。
 唯一のヒントである、『島国』または『行ったことのない大陸』を探すため、私たちは再びヒックスさんたちの船を借りることとなり、ポルトガに向かおうとしたのだが……。
「一度、アッサラームに戻ってみるか」
 寄り道など不要だと考えているユウリが、突然そんなことを言いだしたのだ。
「え? ポルトガじゃないの?」
 私はてっきりそのままポルトガに向かうのだと思っていた。バハラタで一泊した後、私はナギと一緒にポルトガに行く準備をせっせと始めていたのだが、勇者の意外な言葉に、鞄に詰めていた数本の薬草をぽろぽろと落としてしまった。
「これからしばらくはずっと船旅だ。行けるうちに行っておいた方がいいだろう」
 確かに、どこにあるかもわからないジパングを探すには、長期間の船旅になることは間違いない。だけど、なんで今更アッサラームに行くのだろう?
「ドリスに、ルカのことを一度話しておいた方がいいかと思ってな」
「!!」
 私が口を出すより先に、ユウリが答える。ドリスさんのもとを離れ、今はスー族の人とともに、町づくりの手伝いをしているルカ。ユウリはそんなルカのことを、気にかけてくれていたのだ。
「……そうだね。きっとドリスさんも気になっているだろうし」
 けど、ルカが未開の地にいるってことを知ったら、ドリスさんはますます心配するんじゃないだろうか? そんな一抹の不安が私の頭をよぎる。
「なになに? るーくんがどうしたの?」
 支度を終えたシーラが、横からひょっこりと顔を出してきた。そう言えば二人には、ルカのことは話してなかったっけ。
 私は手短に、ルカのことを二人に話した。
「へえ!! あのチビが一人で町なんか作るなんて、すげーじゃん!」
「かっこいいね、るーくん! そんなの、大の大人でもできないよ?」
 二人にルカのことを褒められて、本人でもないのに私は照れてしまう。
「ねえ、ジパングに寄る前に、一度ルカの所にも行っていいかな?」
「お前に言われなくても、そうするつもりだ」
 どうやらユウリにとっても、ルカは私たちと同じように仲間として考えているようだ。最初にルカと出会った時に比べると、態度が全然違うと改めて感じる。
 各々が宿屋で旅支度を済ませると、外に出た私たちは、ユウリの呪文でアッサラームに向かった。
「やっぱりユウリちゃんのルーラは便利だねえ。あたしもいつか使えるようになるといいな」
 あっという間にアッサラームに到着すると、開口一番シーラが感嘆の声を上げる。
 ダーマで遊び人から賢者となったシーラは、自分がどんな呪文を覚えるかよくわかっていない。というか、賢者なんて今までの歴史の中で三人しかいなかったと言われてるんだから、知らないのが当然だ。
「移動呪文は魔力を大量に消費するからな。使い手が一人でも増えれば俺の負担も少なくて済む」
 まだ起きて間もないというのに、疲れの色をにじませるユウリがそう呟く。
 アッサラームも、まだ日が昇ったばかりの時間帯らしく、この町で一番の繁華街でも人通りは少ない。朝のアッサラームは夜とは違い、静寂に満ちていた。
「この時間じゃ、ドリスさんのお店も閉まってるよね」
 私が嘆くと、シーラが思いついたように目を輝かせた。
「じゃあさ、一度アルヴィスの家に行ってもいい? 賢者の姿になったあたしを、アルヴィスに見せたいんだ!」
「あっ、それいいね!! 行こう!!」
 そういえばアルヴィスたちと別れた時、シーラも一緒にまた会おうって約束してたんだった。きっとアルヴィスやビビアンが今のシーラの姿を見たら驚くし、喜ぶだろう。
「おいおい、そんな寄り道してる場合かよ?」
 面倒くさそうにナギが口を挟むが、私は二人にシーラを会わせたくてうずうずしていた。
「実は二人がいない間、ビビアンとも仲良くなったんだよ! あとで劇場に行ってビビアンにも会いに行こう!」
「何っ!? もしかして、あのビビアンちゃんか!?」
 ビビアン、という言葉に、ナギの目の色がすぐさま変わる。
「やーねぇ、男子って。憧れの女の子の名前を出すだけで下心丸出しなんだから」
 シーラが、半分冗談、半分本気の目でナギを見下す。
「オレも一緒に連れてってくれ!! 頼む!!」
「え~……。別にいいけど、興奮しすぎてビビアンたちに迷惑かけちゃだめだよ?」
「何だよミオ!! お前オレをなんだと思ってんだよ!!」
 いや、本気で迷惑をかけそうだから言ってるんだけど。
「あいつらに会うなら、俺は別行動を取らせてもらう」
「あっ、ユウリ!!」
「時間がかかるようなら、俺からドリスに伝えておく。昼過ぎにはここに戻って来い。いいな」
「えっ、ちょっと待って、行くなら一緒に……」
 私の言葉を待たず、ユウリはアルヴィスたちには会おうとせず、一人でどこかへと行ってしまった。
「……なんかあったの? ユウリちゃん」
「ううん。別に何もないはずだよ? あの二人とはむしろ仲良くなったのかと思ったけど……」
 いまいちつかめない彼の行動に首を傾げるも、早く二人を会わせたい気持ちが強くなった私は、シーラたちとともにアルヴィスの店へと先を急ぐことにしたのだった。



「まあ、シーラじゃない!! 元気だった!?」
 店を訪れた私たちを出迎えてくれたアルヴィスは、賢者となったシーラの姿を見るなり彼女に抱きついてきた。
「あ、アル……。苦しい……」
 アルヴィスに力強く抱きしめられ、息も絶え絶えのシーラは、なんとか空気を吸おうとアルヴィスの腕から逃れる。
「あら、ゴメンなさい。つい感極まっちゃって」
喉元を押さえて咳き込むシーラだったが、アルヴィスの顔を見るなり破顔する。
「ううん、あたしもアルにまた会えて、すっごく嬉しい!! アルも、相変わらず元気だね☆」
「あったり前じゃない! こんな世の中だもの、せめて自分だけでも楽しまなくちゃ♪」
 アルヴィスは相変わらず元気で明るい。シーラが明るくなったのも、きっとアルヴィスと一緒に生活していた影響があるのだろう。ダーマであんな目に遭っていたシーラを初めて救ったのは、他でもないアルヴィスなのかもしれない。
「聞いて聞いて!! あたしねぇ、賢者になったんだよ!!」
「え、賢者!? 賢者って、あの三賢者で有名な人と一緒の職業ってこと?」
「う、うん!!」
 さすがのアルヴィスも、シーラが賢者になったなんて信じられないんじゃ……と思ってしまったが、
「やっだあ!! 何それすごいじゃない!!」
 どうやら取り越し苦労だったようである。その素直な反応に、アルヴィスがシーラのことを心から信頼しているのがはっきりと見てとれた。
「へへ……。アルには伝えておきたかったんだよね」
 照れながらそう言うシーラに、アルヴィスは柄にもなく顔を赤らめる。そして、シーラの艶やかな金髪をわしわしと撫でた。
「もうっ!! かわいいんだからっ!! シーラのそう言うところがスキよ★」
 そう言って恥ずかしがるアルヴィスも、普段と違ってなんだか可愛らしく見える。
「アルヴィス。ビビアンにも会いたいんだけど、劇場に行っても大丈夫?」
「ええ。今の時間帯ならまだ稽古前じゃないかしら。アタシもまだ開店前だし、一緒に行ってあげるワ」
 アルヴィスの厚意に甘え、私たちはすぐにビビアンのもとへと足を運んだ。しんと静まり返る劇場の裏へと案内されると、今回は稽古場ではなく寮の方へと向かった。
「え、マジで……? 本当にこんな間近でビビアンちゃんに会えるのかよ……」
 後ろで何やらぶつぶつと独り言をつぶやいているナギのことはとりあえず放っておくとして、私たちはアルヴィスに案内された寮の一室に足を止める。
「ビビー!! 起きてる~!? 超ビッグゲストが来てるわよ~!!」
 コンコン、とノックする音とアルヴィスの声に反応したのか、ガタガタっとあわただしい物音が聞こえてきた。
「もうっ!! アルヴィスったら、こんな朝っぱらからビッグゲストって……」
 扉を開けると同時に現れた、寝ぼけ眼のビビアンの目が、ぱっちりと見開いた。
「やっほ~、ビビ♪ 久しぶり☆」
「え、待って……、まさか、シーラ!?」
 寝起きなのか、彼女のキャミソールの肩ひもがずるりと落ちる。
「ビビアンちゃんの寝間着姿……、ぐはあっ!!」
 ナギはナギでビビアンの姿を見た途端、鼻血を出して倒れてしまった。
「お、おはよう、ビビアン。ごめんね、お休みのところ突然お邪魔しちゃって。元気だった?」
 場を取りなすように私が間に立つと、はっと我に返ったのか、目の焦点を私に合わせるビビアン。
「みっ、ミオまでどうしてここに!? いやでもそれより、一体全体どーしたのよシーラ!! その姿!!」
 彼女が疑問を抱くのも無理はない。今までバニーガール姿だったシーラが、イシスのピラミッドで見つけたマジカルスカートを身にまとい、三賢者イグノーの杖を手にして戻ってきたのだから。おまけに今は巻き毛ではなく、ストレートヘアなので、ことさら以前とは印象が違っていた。
「えっと、あのね。あたし、遊び人から賢者に転職したの」
「けん……じゃ?」
 どうやら賢者という職業を知らないようだ。かくいう私もユウリに聞くまで知らなかったのだが。
「要するに、すっごい職業にジョブチェンジしたってことよ★」
 横からアルヴィスがウインクしながらビビアンに説明してくれたことで、ようやく彼女は納得してくれた。
「何だかわかんないけど、それがシーラの望んだことなのよね? それが叶ったってことでいいのかしら?」
「うん、そうだよ☆」
 シーラがにっこりと笑顔を見せると、ビビアンはアルヴィスと同じようにシーラに抱きついた。
「そう、それならよかった!! だってあなた、旅に出る前まで、ずっと何か思い悩んでたじゃない。でも、今はもう大丈夫みたいね」
「あたし……、ビビに言ってたっけ?」
「ううん。何も言ってなかったわ。でも、そういう風にしか見えなかったもの。何か隠してるなあって思ってたけど、シーラが言わなかったから、私も黙ってた」
「ビビ……」
 ビビアンもアルヴィスも、シーラが何かを抱えこんでいたことに気づいていた。それでも二人はあえて尋ねようとはせず、ずっと彼女のことを見守り続けていた。きっと三人それぞれに葛藤があったのかもしれない。でも今こうして本当の気持ちをわかりあえることが出来たからか、三人ともどこか晴れ晴れとした表情に変わっていた。
「二人とも、シーラのことが大好きなんだね」
 私がなんとなしに言うと、ビビアンは急に驚いたように目を瞠った。
「もう、ミオったら、はっきり言いすぎ! まあ、事実だけどさ」
「まあまあ、ビビ。ミオくらい素直な方が男のコにモテるわよ」
 苦笑しながらもビビアンに話すアルヴィスの顔も、ほんの少し赤くなっている。私はそんな三人の関係をうらやましいと思いながら、一人眺めていたのだった。



 それから私たちはビビアンを誘い、アルヴィスの家に集まることにした。
 二人と別れてからの旅の話、シーラの実家のこと、賢者になった経緯、ビビアンの初舞台、アルヴィスの店の客層など、数えればきりがないくらい私たちは会話を楽しんだ。そして気が付けば、ユウリが約束していたお昼をとっくに回っていたのだった。
「シーラ!! 大変、早く戻らないとユウリに怒られちゃう!!」
 アルヴィスの家のソファに座っていた私は、跳ねるように立ち上がる。
「あら、ユウリくんも来てるの? 知らなかったわ」
 なぜならユウリの話題すら出ないくらい、自分たちの話で盛り上がっていたからである。
「きっと私たちにひやかされるのが嫌で逃げたんでしょうね」
「ひやかされる? ユウリが?」
 何のことかと尋ねただけだったのだが、なぜか三人とも無言で私の方を見返してきた。
「……もしかして二人とも、気づいてる?」
 真剣な表情でシーラが二人の方に視線を投げかける。そんな彼女の視線を受け取った二人は、静かに頷いた。
「いや、あんなのバレバレでしょ。気づかないのは本人くらいなものよ」
「ダメよビビ。こういうのは温かい目で見守るのがマナーなんだから、下手なこと言わないの」
 ひそひそと、声を落として話し合う三人。……なんだか私には関係のない話をしている気がする。三人にしかわからないやり取りに、私は口を尖らせた。
「あー、えーと、違うのミオちん、別にミオちんを仲間外れにしてるわけじゃないの。ただ、なんというか……」
 それきり、言葉に詰まるシーラ。そんなに言いにくいことなのだろうか?
 バァン!!!
 すると、アルヴィスの店の扉が勢いよく開かれる音が響いた。と同時に、乱暴に床を踏みしめる足音が近づいてくる。
「ミオ、シーラ!! お前らよくもオレをほったらかして行きやがったな!?」
 怒りの形相でやってきたのは、ナギだった。
 そう言えば、ビビアンの寝間着姿に鼻血を出して倒れていたまま、すっかり忘れていた。
「えーと、どちら様ですか?」
 ぽつりとそうナギに尋ねたのは、彼の想い人であるビビアンである。
「び、ビビアンちゃん!?」
 好きだった人に気づかれなかったどころか、名前すら憶えてもらえなかったショックで、ナギの身体は石のように動かなくなった。
「ビビアン!! さすがにそれは言っちゃダメな奴!!」
 私はたまらず彼女に注意するが、すでにナギは再起不能に陥っている。
「そんなこと言ったって……。えーと、なんかごめん。ミオたちの仲間なの?」
 するとシーラが、満面の笑みでビビアンの視界を覆った。
「大丈夫!! いつものことだから、気にしないで!! ていうか気にも留めないでいいから!!」
 そう言って、シーラはナギの首根っこを掴むと、ずるずると彼を引きずりながら店の方に向かった。
「それじゃあ、ビビ、アル!! 元気でね!!」
「え、あ、うん! シーラもね!!」
 戸惑いながらも、ビビアンはシーラに別れの挨拶を交わす。アルヴィスもかと思いきや、なぜかアルヴィスは店の方に走って行ってしまった。
「? どうしたんだろう、アルヴィス」
 ほどなく、何やら小箱を抱えて戻ってきた。
「待ってシーラ!! これを渡しておくわ!!」
 アルヴィスは切羽詰まったような表情で、一抱えほどの小箱をシーラに手渡した。
「何これ? 化粧道具?」
「ふふ。それは以前、ユウリくんをメイクアップさせたときに使った女装セットよ♪」
「は!?」 
 想定外の代物に、私は思わず間の抜けた声を上げる。
「できることならもう一度この手でユウリくんをミラクルチェンジさせてあげたかった……。アタシの意志はシーラ、アナタが継いで頂戴」
「……わかった。アルの意志は、あたしが確かに受け取ったよ。必ずユウリちゃんを、立派な女のコに仕上げて見せる!!」
 お互い真剣な表情で、顔を見合わせる二人。いやそれ、ユウリを女装させる話だよね?
「シーラ……。きっとその意志を果たすには、相当苦労すると思うよ……」
 ぼそりと忠告した私だったが、気持ちが高ぶっているシーラの耳には届かなかったようである。



「遅い。相変わらずだなお前らは」
 案の定、約束の時間に遅れてしまった私たちを待っていたユウリは、これでもかというほど眉間にしわを寄せていた。
「ごめんなさい! すっかり話し込んじゃって……」
「想定内だ。お前らがいない間、ドリスの店に行っておいた」
「あ、ありがとう……」
 私たちが遅れてくるのを見越してドリスさんの店に行っていたユウリには、頭が下がる思いだ。
「あの……、ドリスさん、なんか言ってた?」
 恐る恐る尋ねると、ユウリは視線を変えずに答えた。
「別に。いつかこうなることを予想していたようだったな。むしろ予想よりも随分早かったとぼやいていたが」
 ドリスさんは、ルカの師匠として一緒にいたからこそ、彼がそう行動することがわかっていたのだろうか。やっぱり私なんかとは、考え方も経験も全然違う。
 私はつい無意識に、ため息をついた。そんな私の様子を、ユウリは呆れたように眺める。
「お前らは姉弟そろって、世話の焼ける弟子だったんだな」
「う……、そうなのかな」
 皮肉ともとれる言葉にうろたえる私だったが、彼の口調に刺々しさは感じられなかった。

 
 

 
後書き
これで第二部終了です。
このあと何話か寄り道します。 
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