南国カクテル
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第一章
南国カクテル
スペインのマドリードに住むリカルド=グラシアはかつてバーテンダーをしていてマドリードの高級ホテルのバーテンダーに雇われてもいた。
今はプエルトリコのホテルで働いている、彼の生み出したココ=ロコが評判だった。
「いやあ、いいカクテルだな」
「そうだろ」
浅黒い肌で面長の顔でお洒落な口髭を生やした中年の男だ、黒髪をオールバックにしているのもバーテンダーの服に似合っている。
「俺の自信作だからな」
「そう言うだけはあるな」
カウンターの席で飲んでいる客もそれはと言った。
「本当にな」
「まず椰子の実をくり抜いてな」
グラシアはそのカクテルの話を客にした。
「それでだよ」
「その中にココナッツジュースとだな」
「ラムを入れてな」
そうしてというのだ。
「ココナッツミルクもだよ」
「入れるんだな」
「それで出来上がりだ」
「まさにこのプエルトリコのカクテルだな」
「そうだろ、ここはリゾート地だしな」
だからこそ彼が働いているホテルもあるのだ。
「それに相応しいカクテルっていうとな」
「こうしたのだな」
「そうだよ、あとな」
「あと?」
「ここにいる限りだと俺は困らないな」
グラシアは笑ってこうも言った。
「スペイン生まれだからな」
「言葉が通じるからか」
「ああ、アメリカ領でもな」
「それはな、アメリカは英語だけれどな」
「ここはスペイン語だな」
「元々スペインの領土だったしな」
「それでだよ、言葉が通じるからな」
それ故にというのだ。
「俺はここにいるとな」
「苦労しないか」
「言葉じゃな、いい場所だよ」
温かい目でこうも言った。
「奇麗だしな」
「そうだな、しかしな」
「それでもだな」
「ああ、ここはアメリカでもな」
「随分扱いが悪いな」
「英語が喋られないからな」
ここにいる人間はというのだ。
「元々スペインだったしな」
「そのせいでだな」
「本土に行ってもな」
アメリカのというのだ。
「辛いものさ」
「黒人やアジア系よりもだな」
「遥かにだよ、メキシカンとかも言われてるけれどね」
「ここの生まれだとな」
「もっときついさ、けれどまだ人間としてどうかでな」
「人間として酷く扱われるか」
「インディアン、こっちじゃインディオって呼ぶな」
言語の違いでだ、インディアンは英語でインディオはスペイン語だ。その意味するところは同じである。
「その連中の扱いなんてな」
「西部劇のままか」
「居留地に押し込めれてな」
「そのうえでか」
「そこで飼い殺しさ、プレルトリコ生まれでもアメリカ人だが」
「インディアンはアメリカ人じゃないか」
「そうさ、それを考えたらここはまだましかもな」
客は暗い顔でこんなことを言った、そうして今はグラシアが作ったそのココ=ロコを飲むのだった。
グラシアは美と差別が共にあるこの地でバーテンダーとして働いていった、だがそんな時にだった。
その客が彼のところに来て暗い顔で話した。
「えらいことだ、ココナッツを扱っている組合がストをはじめたぞ」
「おい、それは本当か?」
グラシアは店のカウンターでグラスを拭いていた、そうしつつ顔を顰めさせた。
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