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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第73話:すべては勝つために


艦長室を出たところでフェイトやなのはと別れた俺は,
副長室に向かって歩いていた。
あと少しで副長室というところで,誰かに後ろから肩を叩かれた。
振り返って見ると,白衣を羽織ったステラさんが立っていた。

「何です?ステラさん」

「このアースラの装備増強について提案があるのだが聞くか?」

ステラさんは白衣のポケットに両手を突っ込んでそう言うと,
鋭い目つきで俺を見据えた。

「装備増強・・・ですか?武装強化とかそんな感じの?」

俺がそう聞くと,ステラさんは声を上げて笑った。

「そんな無粋なことを私がするわけがないだろう。
 私の提案は対ガジェット戦での魔導師の負担を減らせるものだ」
 
自慢げに胸を張りながら言うステラさんに,俺は心の中で小さくため息をつくと
ステラさんに向かって言葉をかけた。

「お聞きしましょう。が,アースラの装備に関わる以上部隊長であるはやてにも
 聞いてもらうべきでしょうね。艦長室に行きましょうか?」



ステラさんを伴って再び艦長室を訪れると,はやてが怪訝な顔を向けてきた。

「ゲオルグくんやないか。まだ何かあるんか・・・ってステラさんも一緒?」

「ステラさんがアースラの装備増強について提案があるって言うんで,
 はやてにも一緒に話を聞いてもらおうと思ってね。時間あるか?」
 
はやては俺の言葉に頷くと,ソファーに座るよう促した。
俺とはやてがステラさんと向かい合って座ると,ステラさんが口を開いた。

「私の提案は,隊舎に設置していたAMF/AMFC発生装置をこのアースラに移設する
 ことによって,アースラにAMF中和能力を与えるというものだ」
 
ステラさんの言葉を聞いて俺とはやては目を見合わせた。
すると,ステラさんはさらに話を続ける。

「これまでの戦闘記録を見ていると,ガジェットのAMFによって
 投入できる戦力が限られることで,戦術の選択肢が狭められているだろう。
 逆に言えばAMFさえなんとかなれば,多くの魔導師が戦闘に参加できることに
 なり,来るべき決戦においても多少は有利になろうと思ってな」

ステラさんはそう言うと,腕組みをしてソファの背にもたれかかった。

「確かに,AMFCが戦場全体に展開できれば戦術的に有利になるのは,
 この前の戦闘での交替部隊の働きぶりを見ても明らかですね。
 それにアースラに搭載できるのなら戦況の変化への対応もやりやすくなる。
 なので俺は賛成ですけど,いくつか聞いても構わないですか?」

少し考えてから俺がそう言うと,ステラさんは無言で頷いた。

「まずはエネルギー源ですね。隊舎に設置していたときは隊舎へ供給される
 電力によって装置が稼働してましたけど,アースラに搭載したら同じ方法では
 動かせませんよね。そこはどう解決を?」

「アースラの機関から直接エネルギーを供給して稼働できるように
 改造するつもりだ」

「機関に直結ってことは,アースラの機動力が損なわれるんじゃないですか?」

俺がそう聞くと,ステラさんはせせら笑う。

「お前は次元航行艦の機関がどれだけの出力を持っているのか判っているか?
 AMFCを前の戦闘での2倍の出力で展開したところで,定格出力の数%程度を
 使うに過ぎん。まして,アースラはミッドの上空を少々飛ぶ程度なのだろ?
 であれば,機動力の低下はおろか何ら影響はないだろうな」

「そうですか。であれば俺は反対しません。あとははやての判断だな」

俺はそう言ってはやての方を見た。
はやては腕組みをして目を閉じたままここまでの話を黙って聞いていた。
しばらくして,目を開け顔を上げると,はやては口を開いた。

「AMFCの有効距離はどれくらいになりますか?」

「装置の強化をしなければ半径1km圏内というところだな。
 時間があれば強化改造もできるが,残り時間は恐らくそう多くないだろう?」

「そうですね。あとは,搭載スペースがないと思うんですけど・・・」

「アルカンシェルを降ろしたのだろう?そこに置けばいい。
 ちょうど,エネルギー回路も来ているからな」
 
「なるほど。そんなら搭載に向けた課題は解決済みか簡単に解決するめどが
 すでに立っていると考えてええんですね?」

はやてが確認するように尋ねると,ステラさんは頷いた。
その様子を見て,はやては決意を込めたように小さくよしと呟くと,
ステラさんを見た。

「AMFC搭載の件は了承します。ステラさんはすぐに作業にかかってください。
 さっきステラさんも言われたように残された時間は決して多くないと
 考えられるので」

はやての言葉にステラさんは頷くと,ソファから立ち上がって艦長室を出た。
恐らく早速作業にかかるつもりなのだろう。
俺がステラさんを追っていた目を戻すと,はやてと目が合った。

「でや。ゲオルグくんはなのはちゃんとAMFCを前提とした作戦を考えといて。
 あと,なのはちゃんとかゲンヤさんのつながりで,航空隊と陸士部隊の一部
 部隊については力を借りられそうなんよ。でも,普通の魔導師やと
 AMFの対策ができてへんから前線に立たすんはキツいかなーと
 思ってたんやけど,AMFCが広範囲に展開できるめどが得られたからな」

「なるほどね。そのへんを生かした戦い方を考えろってことね」

そう尋ねると,はやては大きく頷くと,にっこりと笑った。

「理解が早くて助かるわ。頼むで!」



はやてとの話を終えて副長室に戻った俺は,なのは・シグナム・ヴィータの
3人を呼び集めて,ゆりかごへの対策を協議することにした。
フェイトにも声はかけたのだが,捜査が忙しく出席できないとのことだった。
3人が集まってきたところで,俺は話を始めた。

「忙しい時に集まってもらってすまないな。今日は,この先聖王のゆりかごが
 現れた場合の対応策について協議したい」
 
そう言うと,3人は神妙な顔つきで頷いた。
俺はそれを確認すると,俺の腹案から話すことにした。

「ゆりかごが動き出した場合だが,最大の目標はゆりかごを止めることになる。
 ユーノが調査してくれた結果によれば,ゆりかごの動力炉を破壊するか
 玉座の間のヴィヴィオを救出することでゆりかごの動きは止められるだろう
 ということだ。よって,戦術としてはゆりかご内部に2つ以上の部隊を
 侵入させて2つの目標を押えるのを基本とするべきだろうと考えてる」

俺は一旦そこで言葉を切ると,3人の方を見た。
3人はそれぞれの格好で考え込んでいたが,やがてシグナムが口を開いた。

「私としてはゲオルグの戦術方針に賛成だ。
 だが,目標とすべき動力炉と玉座の間の位置は把握できているのか?」
 
「これもユーノが見つけてくれた情報だが,ゆりかご建造時のものと思われる
 図面が見つかってる」
 
俺はそう言うと,モニターにゆりかごの図面を表示させる。

「これによれば,動力炉は最後部,玉座の間は前方だな」

俺がそう言うと,シグナムは顔をしかめる。

「真逆か・・・,厄介だな」

シグナムの言葉に俺は小さく頷く。

「ああ。だから,玉座の間を目指す部隊と,動力炉を目指す部隊の連携は
 不可能と考えた方がいい」
 
「侵入箇所も玉座組と動力炉組で分ける方がいいだろーな。
 中の状況がわかんねー以上,中を進む距離は短い方がいいだろ」

ヴィータはモニターに映るゆりかごの図面を睨みつけながら言った。

「そうだな。だが,そう都合のいい侵入口があるかっていう問題もある。
 図面によれば,なのはの砲撃でも外壁をぶち抜くのはちょっと難しそう
 だからな」

俺がそう言うと,なのはが俺の顔を見つめる。

「そうなの?じゃあ,どこから侵入するつもり?」

「ゆりかごの外壁各部には,搭載兵器の射出口がいくつかあるから,
 そこを侵入点に考えてる」

俺の言葉にヴィータがすぐさま反応する。

「ってーと,玉座組はこの辺で,動力炉組はこの辺か?」

ヴィータがモニターの図面を指差しながら尋ねて来るので俺は頷いた。

「ま,そんな感じだな。ただ,侵入点の候補はいくつか持っておきたい」

「理由は?」

シグナムが短く尋ねる。

「この図面には固定武装の配置が書かれてない。それに,侵入する時には
 敵側の苛烈な迎撃が予測されるからな。その場の状況に対応できるように,
 戦術選択の自由度はある程度確保しておきたいからだ」

そう言うとシグナムは理解したというように頷いた。

「じゃああとは,誰がどこに突入するかだね」

なのはがモニターを見つめながらそう言った。

「やっぱり,私たちとフォワードのみんなが突入かな?」

なのははそう言って俺の方を見た。
俺はなのはの言葉に対して首を横に振る。

「隊長・副隊長はともかく,フォワードの連中をゆりかごへの突入要員としては
 考えてないよ」
 
「え?なんで?」

なのはは俺の言葉に驚きながら首を傾げる。

「あいつらは飛べないからな。ヘリで輸送っていう手段も考えられるけど,
 飛行型ガジェットがブンブン飛び回る中をヘリでのんびり接近てのは
 どう考えても現実的じゃないからな。ゆりかごへの突入要員には
 飛行能力が絶対条件だよ」
 
「そっか,そうだね。でも,それだと隊長・副隊長の4人しか突入要員は
 確保できないよね。戦力不足じゃない?」

「それについては,さっきはやてから聞いたんだけど,他の航空部隊や
 陸士部隊の力を借りられるめどが立ったらしい。
 突入部隊については,空戦魔導師の中から選抜して,隊長・副隊長の誰かが
 指揮をとる形になる」
 
俺がそう言うと,なのはは大きく頷いた。

「そうなんだね・・・。さすがはやてちゃんだ。
 なら私は,玉座の間への突入部隊なの?」

なのはの言葉に俺は首を振る。

「いや,なのはには突入部隊に加わってもらうつもりはないよ」

俺がそう言うと,なのはが俺を鋭い目で睨みつけた。

「何で!?」

俺はなのはの方を見ると,小さく息を吐いた。

「それが原因だよ。なのは」

「それ・・・って,それじゃ判んないよ。わかるように説明して!」

なのははなおも俺に向かって食ってかかる。

「今からそんなに興奮してて,実際突入する時に冷静で居られるのか?」

俺の言葉になのはは少しひるんだようだった。

「・・・いられるよ」

「その言葉を信じろと?今も頭に血が上ってるのに?
 言っておくが,この作戦に次はないんだぞ。失敗は即世界の崩壊に
 つながるんだ。そこら辺をもうちょっと真剣に考えるべきだな」

「でも!」

なのはが俺に向かって反論しようとするのにシグナムが割って入った。

「2人ともそれくらいにしておけ。なのはは少し頭を冷やすべきだし,
 ゲオルグの言うことは正論だが,なのはの感情も考慮に入れるべきだ。
 いずれにせよ,拙速に結論を出すべきではないと思うが」

シグナムの言葉に俺もなのはも気勢を削がれてしまった。

「悪かったなのは。言い方が悪かったのは謝るよ」

「ううん。私の方こそ熱くなっちゃってごめん」

それからしばらく部屋の中を静寂が支配した。
気持ちを落ち着けた俺は,話題を先に進める。

「突入部隊の人選については,協力してくれる空戦魔導師の能力も見て
 決めることにしよう。それよりも,俺達の目標は,ゆりかごを
 止めることだけじゃないからな」

「どーゆーことだ?」

俺の言葉にヴィータが首を傾げる。

「敵の攻撃から市街地を防衛すること・・・だな」

シグナムの言葉に俺は首肯する。

「シグナムの言うとおりだよ。ゆりかごを止められたからと言って,
 それだけで俺達が守るべきものがすべて守れるわけじゃない。
 このミッドチルダに住むすべての人を守る責任が俺達には課せられてるんだ。
 それをおろそかにするわけにはいかない」
 
「ならばどうするのだ?」

「ガジェットとの地上戦については協力してくれる他の地上部隊に任せたい。
 あとは,戦闘機人が出張ってくる可能性が高いけど,これの迎撃については,
 うちのフォワードの連中をあてるつもりだ」

俺はそう言うと3人の顔を見た。それぞれに納得したようだった。

「じゃあ空は?」

「空も基本的には同じだ。ただし,空については突入部隊の道を開く
 仕事があるのと,戦闘機人への対応は突入部隊に加わらない隊長陣に
 やってもらう必要があるけどな」

なのはの問いに対してそう答えると,なのはは腕組みをして考え込んだ。

「空は突入部隊が突入した後はキツいかもね・・・」

なのはの言葉に俺は小さく頷く。

「俺もそう思うよ。だから,はやてに出てもらう必要があると思ってる」

「はやてちゃんに?」

なのははそう言って首を傾げる。

「そうだ。あいつの火力はガジェットを蹴散らすのには有効だからな。
 ガジェット戦が楽になれば,他の航空隊の連中を戦闘機人との戦闘に回せる
 からな」

「戦闘機人との戦闘をさせて大丈夫かな?」

「空戦魔導師には総じて能力が高い連中が多いからな。
 それでも1対1じゃキツいだろうけど,こっちには数の力もある。
 なんとかしてもらうさ」

俺がそう言うと,全員が頷いていた。

「じゃあ,今日のところはこんなもんだな。みんなお疲れさん」

 
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