少しこけただけでも
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第一章
少しこけただけでも
道で躓いてこけてだ、時田美佐江はすぐに立ち上がったが。
夫で隣を歩いていた公平に顔を顰めさせて言われた。
「病院行かなくていいか」
「えっ、大袈裟でしょ」
美佐江は夫の言葉に驚いて言った、二人共還暦を過ぎている、それで髪の毛は白くなっていて顔には皺がある。
「こけただけよ」
「何言ってるんだ、こけてな」
夫は妻に怒った顔になって返した。
「死んだ人だっているんだぞ」
「まさか」
「そのまさかだ、足を折ってな」
そうしてというのだ。
「そこからだ」
「そんな人いるの」
「だからな」
それでというのだ。
「こけただけなんてな」
「言えないのね」
「尻餅をついただけでな」
夫はこうも言った。
「それで大怪我なんてのもな」
「あるの」
「特にわし等はな」
夫はさらに言った。
「歳を取るとな」
「骨が脆くなるから」
「骨だけじゃない」
問題はというのだ。
「血管だってな」
「脆くなるのね」
「身体も固くなるだろ」
「よく言われるわね」
「だからな」
それでというのだ。
「病院行かなくていいかと言ったんだ」
「そうなのね」
「それでどうするんだ」
妻にあらためて問うた。
「病院行くか」
「そうね」
少し考えてだった。
妻は夫の言葉に頷いた、それでこう答えた。
「行きましょう、今から」
「そうだ、それがいい」
夫もそれならと応えた。
「行くぞ」
「それじゃあね」
「近所の病院探すか」
自分のスマートフォンを出して言った。
「そうするか」
「それでその病院に行って」
「診察してもらうぞ」
こう話してだった。
夫婦で今自分達がいる場所の傍にある病院に行った、そして診察してもらったが医師は妻に笑顔で話した。
「ご安心ください、大丈夫です」
「怪我はしていないですか」
「はい」
そうだというのだ。
「何処も」
「それはよかったです」
付き添っている夫はほっとなって言った。
「何処も悪くなくて」
「こけられたんですね」
「そうでしたが」
「こけただけでも」
医師も言うことだった。
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